いろいろな原因、場面があると思いますが、クルマを運転していてイライラする機会も多いのではないでしょうか。郊外の空いている見通しのいい広い道路ならともかく、都市部や交通量の多い幹線道路などでは、ストレスになるような要因がたくさんあります。
渋滞している、急いでいるのに追い越し車線を遅いクルマが走っている、交通の流れを乱す傍若無人なドライバーがいる、無理な割り込みをする、こちらに危害が及びかねない乱暴で危険な運転をしているなど、頭に来たり、イライラの原因となるような要因はたくさんあります。
しかし、それほどイライラしたり怒るような場面でないのに、怒りっぽくなったり、運転が乱暴になったり、マナーが悪かったり、攻撃的になる人も少なくないのではないでしょうか。ふだんは理性的で、紳士的なのに、ハンドルを握ると性格が変わったようになる人がいます。
自分では気づいていない人もいますが、周囲から見ると、ハンドルを握ると攻撃的で乱暴で、怒りっぽくなる人は、かなりの割合で存在するようです。その人が運転するクルマに乗らない限りわからないことですが、ふだんの振る舞いからは想像つかないような悪態をついたりする人もいます。
世間的には温和で人格者と見られているような人が、ハンドルを握った途端、別人のようになるという話を聞くこともあります。決して珍しいことではなく、おそらく多くの人の身近に、そのような人の一人や二人、思い当たる人がいるのではないでしょうか。
歩いている時は、普通に親切でマナーのいい人なのに、クルマに乗ると、道を譲ろうとしなかったり、他車より先に行こうとしたり、心に余裕のない運転になる人がいます。徒歩で、顔が周囲に見える時と違い、クルマが仮面のような効果をもたらすことで、その人の本性が現れてしまうのかも知れません。
中には歩行者や自転車などの交通弱者に対しても、乱暴な運転で危害を加えかねない人もいます。細い住宅街の道路なのにスピードを出したり、横断者がいる交差点を強引に曲がったり、車道走行の自転車を煽ったり、無理に追い抜いたり、クラクションを鳴らしたり、わざと幅寄せするなど意地悪な行動をとる人もいます。
実際に、そのような運転が事故に結びついています。イライラしたり、怒ったり、心に余裕のない状態で、歩行者の安全を脅かすような運転をすれば、事故の危険性が高まるのは自明です。そのため、道路交通法では、交通弱者を保護するための規定がいろいろ設けられています。
例えば、横断歩道や自転車横断帯を横断し、または横断しようとする歩行者等があるときは、横断歩道や自転車横断帯の前で一時停止し、かつ、その歩行者等の通行を妨げないようにしなければならないと決まっています。クルマの一時停止が明確に義務付けられています。
そのため、横断歩道の手前では減速し、停止線で停止できるような速度で進行しなければなりません。横断歩道の手前で停止しているクルマの横を通過する時は、必ず一時停止が義務付けられていますし、横断歩道の手前では追い抜きは禁止されています。
クルマの免許を持っている人なら知っている法律です。違反者には懲役まであります。しかし、実際に横断歩道に歩行者や自転車がいた時、一時停止するドライバーがどれだけいるでしょうか。「止まってあげる」のではなく、「止まるのが義務」なのにもかかわらず、少ないのが現実です。
横断歩道の手前で減速し、一時停止できるように、前方に横断歩道がある場合、上の写真のように、道路に菱形の路面標示が設けられています。「横断歩道又は自転車横断帯あり」の標示ですが、この道路標示を意識している人がどれだけいるでしょうか。意味さえ忘れてしまっている人が多いのではないでしょうか。
ところで、カナダはモントリオールに住む、
Peter Gibson さんというアーティストが2001年、あるゲリラ活動をはじめました。サイクリストでもある彼は、モントリオール市に、もっと多くの自転車レーンを敷設させたいと考え、そのため路面にペイントを施すというゲリラ的なアート活動です。
夜間の人通りの少ない時間帯に、ステンシルの要領で型紙を路面に当て、スプレーなどのペンキで絵を描きます。クルマを優先する風潮や、クルマ文化への疑問を提起し、もっと自転車レーンの設置を促すために、路面のアートで世間に訴えようとしたわけです。
もちろんアートと言っても、依頼されたものは別として、勝手に公道にペイントするのは違法です。“
Roadsworth”と称して活動してきたギブソンさんは、2004年逮捕されてしまいました。単なるいたずらにも見えますが、公道への落書きですから、器物損壊などの罪で重い罰金と前科になる可能性がありました。
しかし、市民の支持もあり、比較的寛大な判決を受けました。行動の背景にある訴えが、ある程度理解され、共感された部分があったようです。道路行政に対して一石を投じたということなのでしょう。自転車レーン以外にも、さまざまなアートを描いています。
あくまでも違法行為ですから、勝手にペイントすることを賞賛するつもりはありません。しかし、単なる落書きではなく、人々の関心を集め、注目されたのも確かです。こうした道路標示へのアートペイントに、何か示唆するものはないでしょうか。
例えば、日本の「横断歩道又は自転車横断帯あり」の標示の代わりに、アートペイントをすることは考えられないでしょうか。単なる菱形より注目を集め、横断歩道の存在をアピールするのではないでしょうか。何かと思って、自然と減速、徐行させる効果が見込める可能性があります。
全国一律のペイントにするのではなく、それぞれの地域で何を描くか工夫し、地域によって違うペイントが描けたら、より効果が高まるかも知れません。横断歩道の手前に、いきなり鳥の巣と卵が描いてあったら、多くの人が減速するのではないでしょうか。
もちろん、ペイントに注意が向いて脇見になってしまい、歩行者への注意がおろそかになってしまうのでは問題です。横断歩道の手前ならば、減速効果が見込める気はしますが、検証が必要でしょう。場合によっては、法令の改正が必要になるのかも知れません。
ただ実際には、現在でも似た試みが行われています。上の写真、騙し絵のような仕組みを使い、立体的なハンプやブロックがあるかのように見せる道路ペイントです。横断歩道が段差になっているように見え、徐行させることを狙った立体に見えるペイントもあります。目的は一緒でしょう。
地域によってバラバラでは、混乱を招くという考え方もありますが、全国共通では、いずれ菱形マークと同じで、その存在が意識されなくなる恐れがあります。ある程度規格を決めて、自由度を持たせるのも面白いと思います。経年劣化で描き直すときは、また違う図柄にすることも出来るでしょう。
また、その図柄がユニークでユーモアにあふれるものであれば、イライラしたドライバーの気持ちを和ませるものになるのではないでしょうか。思わずフッと笑ってしまうようなものであれば、肩の力が抜け、心に余裕が出来て、歩行者や自転車など交通弱者を優先するゆとりが取り戻せるかもしれません。
道路面への標示ではなく、沿道の看板や標識に、ユーモアあふれる標語や絵を表示している例も見かけます。路面標示にも、もっとユーモアがあってもいいでしょう。通過すると音が鳴るメロディーロードがありますが、音だけでなくビジュアルでも遊びがあっていいのではないでしょうか。
視線を捉え、脇見につながりそうにも思えます。でも、それを言うなら、路面に「この先カーブ、事故多し危険」といった文字が書かれているのと、さして変わらないような気がします。もちろん、程度の問題はあります。何でもというわけにはいきません。でも、横断歩道ありのように、絵で置き換えても問題ない標示もあるはずです。
公道にそんな遊びやふざけた絵はいらないと言われそうですが、菱形などの何の面白みもない図柄は、既に効果を失っているのも確かです。道路標示は、決められた形でないといけないという先入観、固定観念を疑ってみるのも必要ではないでしょうか。
道路交通法では、歩行者や自転車などの相対的な交通弱者を優先し、保護するという理念が貫かれています。海外では、横断歩道の手前で当たり前のように止まることが徹底されている国もあります。本来は、取り締まりを厳しくするなどして、停止を徹底させるべきです。
ただ、違反でなくても、心に余裕のある運転が出来ないことで、交通弱者が危険にさらされることがあります。混雑した道路上では、ただでさえ、イライラしたり、ギスギスしたりしがちです。面白みのない線や記号ばかりでなく、代わりにアートを採用して、ドライバーの気持ちを和ませるのも有効ではないでしょうか。
いやー、2週連続での記録的な大雪、参りました..。