まだ、新知事誕生から10日ほどしか経っていませんが、舛添知事への期待と不安が交錯しているようです。当然ながら、都政にはさまざまな課題があり、舛添知事に対する見方もいろいろあるでしょう。でも、こと自転車レーンの整備については、期待が持てる発言をおこなっています。
都内に自転車レーン、計120キロ整備へ 舛添知事方針
東京都の舛添要一知事は18日、都心の自転車レーン整備を加速させる方針を示した。2020年東京五輪で選手や観客の移動手段としても活用する考えで、新年度予算案に新たに調査費など2千万円を計上した。
自転車レーンは車道に専用区域をつくるほか、歩道を歩行者用と区分けする。都は都道2155キロのうち20年までに109キロ区間で整備する計画があるが、都心部を中心に120キロに増やす。総事業費は約60億円の見込み。15年度も改めて予算を確保し、レーンの距離をさらに伸ばす考えだ。
都によると、都道のうち3月までに整備される自転車レーンは12キロ。舛添知事は「自転車は排ガスを出さず、震災時は帰宅困難者対策にもなる」と語った。(2014年2月19日 朝日新聞)
舛添新知事が就任会見 自転車利用拡大目指す 政党助成金での借金返済は否定
東京都知事選で初当選した舛添要一知事(65)が12日初登庁した。就任会見で東京の問題点の一つを「交通体系」と指摘。「私がやりたいのは欧州の先進都市のように、歩道と自転車専用道と自動車専用道の3車線を併設」と、自転車の利用拡大に取り組む考えを明らかにした。
産経新聞のインタビューで、6年後の東京五輪までに首都高の大規模改修を終える考えを示した舛添知事。会見でも「改修に8年、10年かかるということであれば努力して2020年(まで)にそういう形でやりたい」と述べた。(後略 2014.2.12 毎日新聞)
何度か取り上げた、NPO自転車活用推進研究会による、
自転車環境の整備を求める署名キャンペーンへの回答では、「整備を公約またはマニフェストにする」と明言した候補がいた一方、舛添氏は、「公約はしないが趣旨に賛同し、当選したら実現に向けて努力する」という、やや距離をとるかのような回答でした。
ところが就任早々、たびたび自転車の活用、自転車レーンの整備に言及しており、むしろ前から公約の一つだったかのような扱いぶりです。看板政策の一つようにも聞こえます。自転車乗りとしては喜ばしい傾向であり、新知事の言動には期待を持たせるものがあります。
ただ、上の報道で気になるのは、「車道に専用区域をつくるほか、歩道を歩行者用と区分けする。都は都道2155キロのうち20年までに109キロ区間で整備する計画がある」という部分です。今後も、今までのような歩道上に色を塗った自転車横断帯の整備が続けられる可能性が否めません。
ここ数年の経緯を覚えておられる方もあると思いますが、警察庁や国土交通省など、国がこれまでの歩道走行から車道走行へと、180度舵を切ったにもかかわらず、東京都の担当部局だけは頑迷な抵抗をしてきた経緯があります。意地になっているようにも見える、頑なな態度です。
どれだけ批判されても、自転車の通行を前提とした幅広の歩道「自転車歩行者道(自歩道)」を第一に整備していくと明言し、その態度を崩しませんでした。役所特有の悪弊なのでしょう、長年にわたって歩道への整備を行ってきたため、行政の無謬性の罠にはまり、凝り固まっています。
クルマの交通量や路上停車の需要、沿道商店街の意向などを理由にしていますが、自転車レーンの必要性の本質を理解していません。傲慢にすら見える態度を続け、有識者がさんざん指摘しているにもかかわらず、頭が固いというか、聞く耳を持たない態度には呆れるしかありませんでした。
これが、都知事が変わったことで、変わるかどうかが注目されます。現状でも、歩道上の通行帯は無視されています。相変わらず歩道上に設置していこうとするならば、せっかくの自転車レーンも意味をなしません。舛添さんはサイクリストではないようなので、役人に丸め込まれないか不安があります。
これまで都は、歩道上に自転車通行帯と呼ばれる色分けをしてきました。相変わらず自転車を歩道走行させようという考え方が基本にあるからです。これにより、依然として歩道走行が容認され、人々は当たり前のように歩道を走行します。そこにはルールもなく、歩行者優先の意識もありません。
自転車なのに、歩きの延長のような感覚で走行します。歩行者を縫うように走り、スピードを出し、歩行者を危険にさらします。左側通行の感覚もないので、何も考えることなく車道に下りて右側通行、逆走につながっています。商店街のアーケードだろうが駅前広場だろうが平気で侵入し、駐輪します。
これまで何度も指摘してきたように、自転車の歩道走行の習慣が、今のような自転車のマナーの悪さを招いたと言っても過言ではないでしょう。歩行の延長の感覚で、歩道でスピードを出そうが、車道を逆走しようが、悪いと思っていないのですから、一向にマナーは改善しません。
車道の自転車レーンには、このマナーの悪さ、自転車の通行の混沌状態を正すという役割も期待されます。最初は混乱もあるでしょうが、やがて自転車レーンを左側通行し、歩道走行の禁止が徹底されていくと思います。歩道走行するよりラクで快適ですし、あえて逆行するのは大変なので、左側通行に収束していくでしょう。
自転車の通行が出来る自歩道が残り、自転車レーンと混在するのでは、自転車の通行の秩序の確立も期待できません。舛添氏は、ヨーロッパの都市を見て、自転車レーンの整備不足については、よくわかっているようですが、歩道上に設置したのでは意味がないことを、実感しているかが気になります。
実際にオランダなどでは、歩道を自転車が走行しないのは当然として、自転車レーンを人が歩くこともありません。一方、都内の車道に自転車レーンがある場所では、自転車レーンをジョギングしている人も見かけます。そのほうが走りやすいからでしょう。
せっかく自転車レーンが出来ても歩行者が歩き、相変わらず歩道を自転車が走行し、クルマが歩道に乗り上げたり、自転車レーンに駐車しているのでは意味がありません。自歩道上の通行帯がナンセンスなのも含め、3者がきちんと分離されるようにしなければなりません。
自歩道を推進するため広げられてきた歩道は、場合によっては削ってでも車道にレーンを設置する必要があります。また、自転車を含めた都内の交通に秩序をもたらし、マナーを向上させるためには、自転車レーンを部分的に設置するのでは効果がありません。
現実問題として、出来る場所から整備を進めることになるでしょう。しかし最終的に、細切れで設置できる場所だけ設置するのではなく、全てつながったネットワークとしての自転車レーンにすることが重要です。何キロという距離を目標とするのではなく、1つのネットワークを目指すべきです。
【寄稿】舛添新都知事、交通体系見直しへ自転車の活用を!
都知事として、初登庁したのが12日。実は、9日の開票速報で当選確実が出てすぐに、知事としての勉強を始めていた。だから、都政の全体像は掴んでいたが、難問山積である。厚生労働大臣のときもそうであるが、前任者たちの負の遺産を受け継いで、その精算をするのが、私の役割のようである。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを史上最高のものにするというのが、私の公約である。そのためには、インフラの整備、防災・治安対策などが不可欠であるが、交通体系の抜本的見直しもまた、最重要課題の一つである。
問題は、鉄道、車、バス、地下鉄、モノレール、飛行機などが有機的に連関されていないことである。パーク&ライドなども検討されてよいし、これ以上のモータリゼーションが東京で必要なのか、よく考えてみるべきである。おそらくは、方向を逆転し、都心に不要不急の車をできるだけ入れないことが、これからの政策であるべきだと考えている。
そのような観点から、自転車の活用を推進するために、様々な手を打ちたいと思っている。東京は、他の先進国の大都市に比べて、自転車専用レーンの整備が遅れている。スウェーデンのストックホルムは、私の好きな都会の一つであるが、歩道、自転車道、自動車道と、しっかりと分けられており、それぞれが交通ルールに則って、整然と通行している。日本のように、自転車が逆走したり、信号を無視したりすることはない。東京でも、少しずつ自転車レーンが開設されつつあるが、幅も狭いし、距離的にも短い。是非とも、2020年までにはストックホルム並にしたいと思っている。
自転車には、大きなメリットがある。個人にとっては、初期投資として自転車購入代金はかかるが、人力なのでガソリンは不要であり、通勤費用が節約できる。また、排気ガスが出ないので環境保全にも役立つ。それは、2020年大会で、ヒートアイランド現象になるのを防ぎ、最高の競技コンディションを保つのに貢献する。また、大地震などの災害のときに、自転車は、自宅に帰るための足の役割を担ってくれる。3・11の直後、帰宅困難者が続出したのは、公共交通機関の運転停止もあるが、車で道路が大渋滞になったからである。
また、自転車は個人の健康にもよく、生活習慣病の予防にもなる。是非とも、自転車がもっと活用されるための環境整備を進めていきたい。
舛添要一(ますぞえ・よういち、2014.2.18 産経新聞への寄稿)
舛添氏は、基本的に自転車レーンの必要性をよく理解されているようです。ただ、距離を比べるのは意味がありません。面積や道路の総延長も違います。自転車レーンのネットワークが出来るか、出来ないかという観点で考えてほしいと思います。
距離だけ増えても、細切れであっては、道路交通としての自転車本来のポテンシャルが十分に発揮されず、自転車レーンの効果は半減です。極端に言えば、全てつながって初めて、自転車レーン整備の効果が最大化するはずです。整備の効果は、完成部分の距離の比例にならないことも留意すべきでしょう。
舛添氏は、「これ以上のモータリゼーションが東京で必要なのか、よく考えてみるべきである。おそらくは、方向を逆転し、都心に不要不急の車をできるだけ入れないことが、これからの政策であるべきだと考えている。」と述べており、クルマ優先を見直し、都心の交通インフラを大胆に変えていく可能性を感じさせます。
千代田区'14予算案 レンタサイクル事業開始 自転車専用道も整備
千代田区は十七日、総額四百七十一億円(前年度比0・9%増)の新年度一般会計予算案を発表した。都心の魅力を高めようと、コミュニティーサイクル事業を新たに開始。区初となる歩行者、自動車の道と分離した自転車道も整備する。
コミュニティーサイクルは、貸し出し用自転車を常備した「サイクルポート」を複数設け、どこでも借りられ、返却できるレンタサイクル。世田谷区などで展開されている。千代田区では、民間の事業者を募集し、今年秋にも事業を始める方針。当初は駅近くなどにポート三十カ所を設置し、自転車計三百台を置く。最終的には五十〜六十カ所のポートを目指す。
予算発表会見で石川雅己区長は「(二〇二〇年の)東京五輪を目指して整備を進めたい」と語った。自転車道は一ツ橋〜JR神田駅周辺までの神田警察通り(区道)に一六年度までに整備。約千三百五十メートルにわたり、歩道と車道の間に、水色で舗装したコースを設ける予定だ。新年度からの一期工事は一ツ橋二丁目から神田錦町三丁目までの約四百メートル分。(2014年2月18日 東京新聞)
千代田区も、新都知事の政策に呼応するかのような動きを見せています。姿勢は評価できますが、コミュニティーサイクルは、区ごとに進めたのでは使いにくいものになります。すでに先行している世田谷区などを意識しているのでしょうが、区ごとの縦割り、縄張り意識は弊害をもたらします。
もっと広域で使えなければ意味がありません。区単位の狭い見方、考え方ではなく、利用者の利便性を考え、連携していくべきです。このあたりも、都がイニシアチブをとって調整し、本当に使えるコミュニティーサイクルにしてもらいたいものです。
銀座・新宿「365日ホコ天」構想…舛添知事
東京都知事選で初当選を果たした舛添要一知事(65)が12日、読売新聞の単独インタビューに応じた。
舛添知事は、2020年東京五輪・パラリンピックに向けて多数の通訳ボランティアを養成することや、銀座や新宿といった繁華街の主要道路を車両通行止めにして「365日24時間歩行者天国」とするなどの構想を明かし、「五輪を、東京の都市構造などを抜本的に見直す機会にしたい」と語った。
舛添知事は選挙期間中から、東京五輪について「史上最高の五輪にする」と訴えてきた。インタビューでは、競技が真夏に行われることを指摘し、「都市部のヒートアイランド対策が必要だ」と主張。銀座や新宿などのメーンストリートを終日歩行者天国にして都心部への大規模な車両進入規制を実施したり、車道の一部を自転車専用レーンにしたりするプランを示し、「交通事故の心配もなくなるし、排ガスも減る」と効果を強調した。(2014年2月13日07時01分 読売新聞)
おそらく、「365日24時間歩行者天国」というのは、ニューヨーク市の例を意識していると思われます。このブログでも何度か取り上げましたが、ニューヨーク市の交通局長、
Janette Sadik-KhanさんのTED Conference での講演は、とても説得力があります。
「五輪を、東京の都市構造などを抜本的に見直す機会にしたい」という言葉を素直にとるならば、相当大胆な改造が期待できます。ただ、自転車レーンの整備を進めることの意義、そのメリットについて、都民の多くは、まだまだ理解していない面がありそうです。たかが自転車レーンと、関心のない人も少なくありません。
五輪に向けてだけでなく、これまでクルマ優先だった東京を人間本位に改め、人々が過ごしやすい街にするものであることを、もっと打ち出してもいいと思います。自転車レーンは駅までの道のりが安全になるだけではなく、都市の交通手段として大きく利便性が増すこともアピールすべきでしょう。、
ヨーロッパの自転車先進都市だけでなく、ロンドンやニューヨーク、パリのような世界を代表するような都市で、なぜ今自転車なのか、理解している人はまだ多くありません。自転車本来のポテンシャルや、なぜロンドンっ子やニューヨーカーが自転車に乗るのか、実感としてわかっている人は一部に過ぎません。
単に交通事故を減らすだけでなく、環境負荷を減らし、渋滞や大気汚染を減らして都市の生活環境を向上させ、運動不足の解消に貢献して医療費や介護費用を減らすなど、広範に好影響を及ぼします。そのことを多くの人に知ってもらい、もっと関心を高めていくことも必要だと思います。
ロンドンやニューヨークでは、ボリス・ジョンソン市長やマイケル・ブルームバーグ市長に首長が変わったことで自転車環境が大きく改善されました。東京でも、都知事がかわったことで、自転車走行空間の整備が進むことが期待されます。少なくとも現時点で、大きく雰囲気が変わりました。
ただ、まだスタート地点に立っただけです。せっかくのチャンス、旧態依然とした役人の固執による中途半端で意味の無いものではなく、舛添都知事の言葉にある、抜本的な見直しとなるよう、見守っていく必要があります。世界の事例のように、本当に東京が変わることを期待したいものです。
ソチ五輪の日程も、残り少なくなってきました。連日、興奮に歓喜に感動にありがとうという感じですね。