東京での自転車レーンの整備に、否定的な見方があります。
例えば、東京の道路に今さら自転車レーンを設置する余地は無いのではと考える人がいます。でも、そんなことはありません。車道の路肩部分を青くペイントして、すぐ自転車レーンに出来る道路だけでも相当な距離になります。国土交通省の試算によれば、主要道の8割で設置が容易なことが確認されています。
舛添東京都知事は、交通体系の抜本的な見直しを表明しています。道路については、圏央道、外環道、中央環状線などのオリンピックに合わせた完成が期待されます。これまで放射状の路線に比べて環状道路の不備が問題になってきましたが、この3環状道路が完成すれば、東京都心の迂回が容易になります。
周囲の県から流入する車輌がすべて都心部に集まる構造は、慢性的な渋滞を発生させ、この渋滞による時間のロスが大きな経済損失になっています。長年の課題であった環状道路の整備が進めば、東京都心を迂回するルートが確立し、都心を通過する車輌が減って、渋滞の減少が見込めます。
現在、都心の交通量の相当な割合が東京を通過するだけの車輌と言われています。3環状完成は、高速道路の渋滞で一般道へ流出するクルマを減らし、一般道の交通量も減少させるでしょう。環状道路の完成に合わせ、都市部へのクルマの流入を抑制するような方策も考えられます。都市部の通行量は相当減るせるはずです。
舛添都知事は、「これ以上のモータリゼーションが東京で必要なのか、よく考えてみるべきである。おそらくは、方向を逆転し、都心に不要不急の車をできるだけ入れないことが、これからの政策であるべきだと考えている。」と発言しています。これは世界的にみても妥当で、多数を占める考え方になってきています。
このような方向は、日本経済を支えるクルマ産業に悪影響をもたらすのではないかと心配する人もあるでしょう。しかし、東京都心を迂回させる考え方は、必ずしもクルマを不要とする議論ではありません。相変わらずクルマは必要ですし、ドライバーは渋滞を回避できます。交通量を分散させることはマイナスではありません。
クルマメーカーなどでつくる日本自動車工業会は、自転車レーンの整備についても賛同しています。今から6年前には、はっきりと車道上での自転車との共存という考え方を打ち出しています。クルマと自転車の事故が減ることは、当然ながらドライバーにとっての利益であり、クルマ産業にとってもプラスと考えているのです。
都市部へのクルマの流入が減るならば、今より渋滞を増やすことなく、都市部の道路に自転車レーンを整備する余地が十分に生まれてきます。たんに路肩部分をペイントするレーンでなく、車道を一車線つぶして自転車レーンにするようなことも十分に視野に入ってくるでしょう。
東京の大きな目抜き通り、例えば内堀通り、青山通り、新宿通り、昭和通りといった片側何車線もあるような幹線道路は、一番外側の一車線ずつを自転車レーンに出来るはずです。自転車レーン内を2車線にして追い越し車線をつくることも考えられます。
もちろん、道路の路肩部分に加え、車線を引きなおして中央分離帯の余裕を振り向けるなどすれば、車線を減らさずに自転車レーンを設置できる道路もあるでしょう。設置可能な道路だけを使っても、東京には、かなりの密度の自転車レーンのネットワークが整備可能になるはずです。
東京の中心部に縦横無尽、網の目のように自転車レーンが設置されれば、自転車での移動の利便性が大きく向上します。もちろん、現状でも車道を走行すれば、十分に速くて便利ですが、誰でも安全・快適に移動出来るようになれば、東京での人々の移動は大きく変わる可能性があります。
例えば、四谷三丁目から竹橋とか、本郷三丁目から桜田門といった移動は、地下鉄を使うと何度も乗り換えが必要で、時間もかかります。都内を自転車で移動したことのない人なら、これを自転車で移動した時の、その近さ、速さに驚くのではないでしょうか。
ある地点から最寄り駅まで自転車で移動し、地下鉄などを使って別の駅から目的地まで歩くといった移動をしている人は多いと思います。これが東京の道路を縦横無尽に走れるようになれば、自転車だけでドアツードアの移動が出来るようになり、速くて便利になるはずです。駐輪需要も分散するでしょう。
現状でも、渋滞するクルマより自転車のほうが速いことはよくあります。自転車レーンが出来て、誰でも安全・快適に自転車移動が出来るようになれば、自転車の利便性に気づき、優れた都市交通であることを、多くの人が実感するようになるに違いありません。自転車への乗り換えが進み、さらに渋滞の減少も見込めます。
歩行者をよけながらの歩道走行では、スピードは出せません。これが車道に設置された自転車レーンであれば、無理にスピードを出さなくても、自転車本来の速度でラクに移動出来ます。自転車は最寄り駅までのアシだという日本人の常識は大きく変わるに違いありません。
道路に設置の余地はあるとしても、自転車レーンが出来るとクルマが駐停車できない、商品の搬出入などに支障がでると心配する人もあるでしょう。沿道の商店主などの中には、自転車レーンの設置に反対する人もいます。利害関係が絡んでくる部分もあると思います。
実際に、沿道の商店主が、買い物客の駐車の利便を理由に反対している例もあるようですが、都心の道路のほとんどは駐車禁止であり、店先とは言え、公共の道路の整備に異を唱えることには疑問もあります。また、単純に比較出来ないにしても、欧米では、自転車レーンの設置で沿道の売り上げが増えた例が多数報告されています。
一見、自転車レーンが邪魔になって、クルマで通りかかるお客が止まってくれなくなるように思いますが、むしろ逆だったという事例が少なくありません。歩道を走行する危険な自転車が無くなることは、店先の買い物客の滞留につながりますし、自転車レーンで多くの見込み客が通るようになることも考えられます。
もちろん、道路の機能として駐停車の必要性は否定しません。でも、都心の車道に違法駐車し、クルマの中で寝ているドライバーと、自転車レーンのどちらの公共性が高いかという議論はあるでしょう。先進国の常識的な考え方からすれば、本来あってしかるべき自転車レーンが整備されていなかったと言うことも出来ます。
国もパーキングメーターを廃止していく方針と言います。そもそも都心の道路は駐車禁止です。乗用車は路上ではなく駐車場にとめるよう促すことも必要でしょう。もちろん、必要に応じて、一車線を停車帯と自転車レーンに分けて使うようなことも考えられます。
トラックなどの荷降ろしの必要性はあるでしょう。ただ、実際の荷降ろしは一部に過ぎず、荷待ちや集荷までの待機で駐車しているトラックも少なくありません。幹線道路から一本折れた道に停めて荷降ろしするとか、早朝や夜間など、時間で区切って荷降ろし停車を認めるなど、工夫は可能だろうと思います。
自転車レーンのネットワークが整備されれば、トラックによる都市部の物流も変わってくる可能性があります。すでに都市部の宅配便などの中には、電動アシスト自転車にリヤカーを連結して、集配に使っているところがあります。こうした動きが加速する可能性があります。
EUの研究によれば、都市における商品輸送の51%は自転車で行うことができると言います。配送距離が電動アシスト自転車の場合は7km、普通の自転車の場合は5kmを超えず、商品の重量が200kgを上回らないならば、自転車での代替は十分可能であり、商品輸送の51%は自転車で可能になる計算です。
日本の都市と単純に比較することは出来ませんが、東京でも、都心の物流の相当程度は自転車に置き換えられる可能性があります。トラックの荷台の箱の中は、意外に荷物の量が少なかったりします。自転車による集配のほうが効率よく、コストが抑えられる面もあるに違いありません。
ある程度の幅の自転車レーンが出来れば、日本であまり見かけないカーゴバイクなども増えてくる可能性があります。基本的にカーゴバイクは、日本の法律で定める「普通自転車」の範疇に入らない場合がほとんどであり、歩道走行は一切認められていません。
さすがにカーゴバイクを歩道走行させるのは無謀です。そのため、日本ではほとんど普及してきませんでした。これが車道の自転車レーンが標準となり、ある程度のレーン幅が確保されるのであれば、業務用以外に個人で使うようになる人が増えるかも知れません。
自転車レーンは、人々の移動だけでなく、ものを運ぶ面でも生活を変える可能性があります。子どもを乗せるにしても、3輪のカーゴバイク型のほうが、より安定します。クルマの免許を返上した高齢者の買い物にも大いに重宝するに違いありません。
また都市部では、企業の営業マンやサービスマン、外回りの職員などが、これまでのクルマから自転車に乗り換える動きがあります。自転車の業務利用を考える企業に、リースの自転車を提供し、そのメンテナンスや管理を受託する業者も生まれています。こうした動きも広がっていく可能性があるでしょう。
日本では、まだまだ「たかが自転車」という意識を持っている人が多く、「最寄り駅までのアシ」としか思っていない人が多いのが実情です。自転車レーンにピンと来ていない人も多いでしょう。しかし、これまで日本にほとんど無かったからといって、日本に整備できないわけではありません。
たかが自転車レーンですが、都市での移動や人々の生活を大きく変えていく可能性があります。そして、いったん東京に整備され、その潜在能力が理解されるならば、日本各地の都市にも広がっていくでしょう。ぜひ、その可能性、有用性に注目し、多くの人に現実的な選択肢として考えてほしいと思います。
浅田選手にレジェンド葛西選手、そのほか、今回のソチオリンピックには、たくさんの感動がありましたね。
”オリンピックに向けて”ということであれば、まず行うべきなのは、”自転車の歩道走行禁止”でしょう。世界標準からみて最もクレージーなこの状況を第一に正すべきでしょう。
まず、自転車は歩道を走れない、事故を起こせば車と同じ責任を負うというコンセンサスが重要だと思います。
最終的には、すべての幹線に自転車レーンが理想ですが、過程において、歩道があって自転車レーンのない道路(=主要道路)は、当面、自転車通行禁止になってもよいと考えます(都市部なら一本裏道を自転車優先にし、どうしても必要なら歩道を歩行すればよい)。このようにすると、どこから手を付けるべきか見えてくるように思います。
ネットワークができればよいのですから、裏道、旧道を主に構成し、幹線においては、まずは必要な部分のみ、自転車レーン、あるいは、自転車・バス共有レーンでもよいのでは?
現状、大幹線はただ通り抜けるだけの道になっていますし、沿道の商店も幹線からアクセスするようにはなっていません。自転車が増え、これを取り込みたいとなれば、自転車レーンを増やす要望が出てくるかもしれませんね。