例えば、クルマ大国アメリカでも、都市部の道路整備を考え直す動きが広がっています。郊外は別ですが、都市の中心部においては、クルマが通りやすい道路と自転車に優しい道路を比べると、後者のほうが沿道の商業施設の売り上げが高くなり、経済的にも有効という調査が相次いでいます。
以前にも取り上げましたが、自転車インフラ、自転車利用環境の充実が若くて優秀な人材を引き寄せ、都市の経済発展に重要なポイントとなりつつあるという認識が、企業や自治体にも広がっています。クルマ文化の国アメリカでも、都市部においては、自転車の効用が見直されています。(→
企業に選んでもらう為の条件)
全米の各都市が競うように自転車インフラの整備を進め、自転車にフレンドリーな都市を目指しています。それは、ミネアポリス、ポートランド、ボルダーといった有名な自転車都市だけでなく、ニューヨークやサンフランシスコ、シカゴ、シアトル、デンバー、ワシントンDCといった大都市も例外ではありません。
こうした都市と比べると、これまで対応が、やや遅れ気味だった西海岸の大都市ロサンジェルスでも、自転車環境を見直す動きが進んでいます。全体の整備を進める一方、パイロット事業として、ロサンジェルスの北東地区を
自転車にフレンドリーな商業地区として再構築するという構想があります。
これまで、ロサンジェルスは必ずしも自転車に優しい都市ではありませんでした。しかし、ロサンジェルス都市圏ということで言えば、ロングビーチやサンタモニカなど、自転車利用か盛んな地域もあります。ロス全体の整備を進める一方、北東地域を自転車のモデル地区にという考え方のようです。
この地域で、自転車レーンや駐輪場、駐輪ラック、自転車シェアリングなどのインフラを充実させます。自転車レーン・ネットワークの地図を作成したり、街角の自転車用案内看板など、利用者の利便性も向上させます。自転車の修理ステーションなどの施設も設置する予定です。
この構想では自治体と地元企業、地元住民に加え、NPOなどの各種団体とも協力し、多くの人を引き寄せる魅力的な商業地区を目指しています。自転車にフレンドリーなインフラを整備することは、クルマの渋滞を減らし、地域の住環境や安全性を向上させることにもつながります。
自転車環境が充実すれば、買い物客や観光客も便利になります。一方そのことは、地区を周遊しやすくし、滞留時間が延びることによって、地域の商業に一定の経済効果が見込めることになります。自転車で便利という評判が広がれば、さらに人々を引き寄せる誘因になるでしょう。
クルマ文化の国、アメリカですら、都市部では自転車の活用を推進しようとしているわけですが、ひるがえって日本ではどうでしょうか。自転車の街を目指すと宣言する自治体もありますが、その内容はと言えば、旧態依然とした自歩道の整備一辺倒の似て非なるものだったりします。
都市全体について自転車インフラの整備を進める一方で、特定の地域に、パイロット事業として集中的に自転車インフラの整備を進めるというのも有効な手法と言えるのではないでしょうか。有効な自転車インフラの形態を探る検証にもなりますし、市民が自転車インフラ充実の効果を実感する場所にもなります。
例えば、東京の整備においても、地区を決めて集中整備をしてみてはどうでしょうか。この場合、多くの人が候補として思い浮かぶのは湾岸地区ということになるでしょう。2020年の東京五輪のメイン会場に予定されていますし、いずれにせよ今後インフラ整備が進められる地区なので、その意味でも最適な場所です。
ちなみに、このロサンジェルスの北東部の地図にある範囲と重ねてみると、台場から豊洲、有明、辰巳あたりまで含めた地域と同じような大きさになります。このあたりの地区全体を、自転車に優しい商業地区として、集中的に自転車インフラを充実させるという手は考えられないでしょうか。
東京には、たくさんの商業地区があります。銀座、日本橋、原宿、六本木、秋葉原など、それぞれ個性のあるエリアです。これらの地区一つひとつは、どこもそれほど広さのあるエリアでなく、周遊するのは徒歩でも可能です。一方、台場、豊洲、有明、辰巳を含む湾岸エリアは相当な広さがあります。
湾岸地域の端から端まで徒歩で移動するのは困難です。もちろん、ゆりかもめや地下鉄などで移動できますが、沿道の商業施設を見ながら周遊することは出来ません。自転車ならば、このエリアを周遊しながら、どこでも気になった商業施設を利用することが出来ます。
湾岸地区へ出かけたことのある方なら実感としてわかると思いますが、台場地区だけ、豊洲地区だけなら徒歩でも十分です。でも、台場から有明に移動するだけでも相当の距離があります。湾岸地区といっても一体ではなく、列車やバスで移動する別の地区のようになっています。
今は空き地が多いので歩く人は少ないでしょう。でも、今後お店がたくさん出来た場合、歩けないことはないにしても、徒歩では大変です。自転車ならば、このくらいの距離を周遊するのにもってこいです。人々が周遊すれば、湾岸地区は一体の商業地区として活性化することになるのではないでしょうか。
もちろん、オリンピック開催時は競技会場を行き来するのに便利で速い交通インフラとなります。渋滞を緩和する効果も大きいに違いありません。現状で、休日の台場などの駐車場待ち渋滞に辟易している人は多いと思いますが、クルマでなくても周遊できるようになれば、渋滞も減るはずです。
湾岸地区へクルマで行きたいという人もあるでしょう。そういう方でも、地区の外周部に設置された駐車場にクルマをとめ、そこから自転車で移動するようにすれば、いちいち駐車場への入場待ちをする必要がなくなり、便利になると思います。いわゆるパーク・アンド・ライドです。
湾岸地区に直接自転車でアクセスしてもいいですし、地下鉄やゆりかもめを利用して、現地でシェアサイクルを利用するようなスタイルも想定されます。遠方からの買い物客、観光客にも便利です。お台場、豊洲、有明、辰巳など各地域へのお客が相互に行き来することで一定の経済効果が見込めるに違いありません。
湾岸地区には、オリンピックのMTBのコースも出来るようですし、自転車に優しい街という評判も加わって、地区の魅力を増すことになるでしょう。東京は、意外に坂が多い都市ですが、もともと埋立地である湾岸地区は、高低差が少ないぶん自転車に向いています。
立地や環境にもよりますが、東京以外でも、この方式が採用できる地区はあると思います。既存の街区にインフラ整備するとなると、スペース的な制約もあると思いますが、再開発を計画する地域などなら、検討の余地があるのではないでしょうか。
今のところ、日本に本当の意味での自転車インフラが充実した地区というのはありません。自転車地区が出来れば話題にもなるでしょう。具体的なモデル地区として、その利便性が体感されれば、その後の都市全体へのインフラ整備にも市民のコンセンサスが得られやすくなるでしょう。
クルマ大国アメリカですら、各都市は自転車インフラの整備に向かっています。それも、仕方なく迫られてやるのではなく、経済効果や人を集める効果を狙った前向きなものです。日本でも、従来の発想を転換し、自転車を使った街づくりを考えてみてもいいのではないでしょうか。
ずいぶん気温が上がってきました。桜前線も北上してますし、外に出かけたくなる陽気になってきましたね。