クルマや家電、スマホなどにしても、企業は次々と新製品を発表し、消費者の関心を引き寄せ、購入や買い替えを促そうとします。新しい機能を盛り込んだり、目先を変えるためにデザインを一新したり、場合によっては新たな派生商品を生み出そうと努力しています。
自転車も、特にスポーツバイクのメーカーは毎年新しいモデルを発表し、消費者の購買意欲を刺激します。でも、自転車のような成熟した商品の場合、デザインや素材の改良はあっても、機能や役割が大きく変わるわけではありません。少なくとも、その基本的な部分は長い間変わっていません。
ただ、そんな中でも、新しい種類の自転車や、自転車から派生した新しいスタイルの乗り物を開発しようという試みは後を絶ちません。これまでにも、いろいろな変り種自転車とか、新機軸を取り上げてきましたが、最近見かけたものをピックアップしてみたいと思います。
これを自転車と呼ぶべきか、インラインスケートに分類すべきか迷うところですが、“
Aeyo”という新しいタイプの乗り物です。ハンドルと前輪までは自転車にも見えますが、サドルはなく、後輪の代わりにインラインスケートがついており、これが推進力になります。
むしろ、キックボードとローラーブレードの融合と見るべきなのかも知れません。いずれにせよ、ふだん乗っている自転車とは違う種類の運動、違うタイプの身体の動かし方が出来るのは間違いないでしょう。駐輪や保管するにも、自転車より場所をとりませんし、持ち運びにも優れます。
前カゴを取り付けることが出来、買い物にも便利なインラインスケートと言うべきでしょうか。実際に使ったことがないので、想像でしかありませんが、つかまるところがあるぶん、いきなりインラインスケートをするより入りやすいというメリットがあるのかも知れません。
インラインスケートのような動きを求めるなら、普通にインラインスケートでいいような気がしないでもありません。でもブレーキがあるぶん、慣れなくても止まりやすいということもあるのでしょう。従来の製品の組み合わせから生まれた、また新しい製品の一つです。
こちらもサドルがありません。立って乗る自転車、その名も“
Halfbike”です。これまでの自転車に代わるものとして考えられたものではなく、新しい自転車文化として、都市での移動を楽しくし、通勤を退屈から楽しいものに変えることを意図してデザインされた乗り物だと言います。
遠目には、ランニングしているようにも見えます。スラロームのように走行することも出来ます。1輪車に補助輪をつけたように見えなくもありません。やはり持つところがあったほうが乗りやすそうです。3点で支えるので、より安定しているのも確かでしょう。
ランニングするのに比べ、直接ショックが伝わらないので、ヒザに負担がかかりにくいというメリットはあるでしょう、やはり自転車より場所をとりませんし、ちょっとした移動をするにも小回りがききそうです。自転車から引き算をしていった新しい乗り物と言えそうです。
海外だけに限りません。日本でも東京・大田区の町工場の人が集まって、新しい乗り物の構想を立ち上げています。その名は“
nbike”、自転車と徒歩の隙間を埋める移動手段というコンセプトです。徒歩では遠いが、駐輪事情が悪いといった時に、小さく折りたためる自転車です。
見た目は普通のキックボードのように見えますが、よく見るとペダルがついています。自転車の要件を満たしており、公道で乗ることも出来るそうです。「町工場が生み出した機械式時計のようなモビリティ」という下町プロジェクトとして進められています。
形からすると、普通にキックボードのように蹴って進んだほうが速く、重量も軽くて済むのではないかと思ってしまいますが、あくまでペダル駆動にこだわっているようです。タイヤが小径になればなるほど、走行性能的には厳しくなりますので、現実的な乗り物とするには、よりシビアな技術力が問われることになりそうです。
どんな地形であっても、またどんな身体能力であっても対応できる乗り物を目指している人たちもいます。こちら、“
Horizon”は、基本的にトライク、3輪のリカンベントです。舗装路から悪路まで自在に走破できる、冒険に出かけるための自転車です。
その駆動系は、さまざまな身体能力の人に対応します。普通の電動アシストも選べますし、ハンドサイクルに電動アシストを組み合わせることも出来ます。そして完全な電動自転車としての駆動も選べます。このことによって、手や足が不自由な方でも同じように走行することが出来ます。
ハンドサイクルとは、手でペダルを回す自転車のことです。3輪のリカンベントのスタイルなので、サドルにまたがってハンドルを握れない人、足でペダルをこげない人でも安定した姿勢を保てます。そして必要な駆動方法を選ぶことで、自由に冒険に出かけられるというコンセプトです。
実際に障害を持つ冒険家、研究者が開発に加わっています。駆動力をペダルのみにも出来ますし、電動アシストを加えることも出来るので、健常者でも、その年齢や体力の差を越えて、一緒に出かけられます。これは今まで諦めていた人にも希望を与える自転車と言えるのではないでしょうか。
方向性はいろいろですが、どれも今までの自転車とは違う機能や動き、役割や対象、コンセプトを追求しています。こうした試行錯誤の中から、真に新しい価値が認められた時、新製品は消費者に受け入れられることになるでしょう。成熟商品に見える自転車の中にも、まだまだ新たな価値が眠っているのかも知れません。
韓国のフェリー沈没事故、陸地から近いので救助も早いかと思えば、そう簡単ではないのでしょう。何とか助かってほしいものです。