ソースコードが公開され、誰でも無料で利用できるソフトウェアです。このオープンソースという考え方、コンピュータの世界では広く知られていますが、ソフトウェア以外にもこの精神、原則を広げる動きがあります。ハードウェアや技術、出版、ウィキペディアのようなサイトもその一例でしょう。
このオープンソースの考え方を自転車に応用している例があります。“XYZ Cargo”というカーゴバイクです。日本ではカーゴバイク自体が普及しておらず、目にすることは、まずありませんが、ヨーロッパなどでは、普通の市民がカーゴバイクを使って大きな荷物を運んだり、子どもを乗せて送り迎えしたりしています。
<カーゴバイクの例>
大きな荷台を持つカーゴバイクをビジネスに使う例も増えています。宅配便をはじめ、各種の荷物の輸送、飲食物などの販売、看板を載せて広告宣伝に使う企業もあります。意外に大きな荷物、重い荷物も運べるうえ、燃料費や維持コスト、小回りが効くことなど、多くの利点があります。
EUの研究によると、都市部の商品輸送のうち51%は自転車で行うことが可能と言います。電動アシスト自転車の場合は配送距離が7km、普通の自転車の場合は5kmを超えず、商品の重量が200kgを上回らないならば、自転車での代替は十分可能であり、商品輸送の51%が自転車で可能になる計算です。
普通の市民が日常の運搬や子どもの送迎に使うぶんには、市販のカーゴバイクで十分でしょう。しかし、個人でも特定の用途がある場合、また仕事で使う場合には、汎用品だと荷台の大きさや形状などが合わない場合も出てきます。ただ、カーゴバイクは、そう簡単にカスタマイズ出来るものではありません。
そこで、この“
XYZ Cargo”です。汎用のアルミの角パイプなどで設計されており、その仕様やデザイン、組み立て方法やノウハウなどが公開され、オープンソースとして誰でも利用して製作することが可能になっています。コピーしたものに独自に加えた設計を再頒布することも出来ます。
それぞれの経験に基づいて、使う部材などのレシピ、各部分の形状や組み合わせなどのアイディア、耐久性をあげる工夫、使い勝手を良くするノウハウなど、このカーゴバイクを使う上での情報や知的財産をを利用者で共有しようという考え方です。まさにオープンソースの精神なのです。
決まったフレームではなく、一から組み立てるため、市販のメーカー製のカーゴバイクと比べて自由度が高いのが特徴です。基本的なパイプなどの部材がベースなので、資材が手に入れやすいことも利点でしょう。オープンソースならではの利用者同士の協力によって、課題の克服も期待できます。
これは、20年近い歴史を持つ、N55というコペンハーゲンを中心に活動する、より上位のオープンソースプロジェクトの一環です。狭い範囲にとどまらないコミュニティーがあり、カーゴバイク以外の分野でも過去のノウハウの蓄積があるようです。
基本的な部材を組み合わせて車体を組み上げます。見た目は角ばった形になりますが、安定性、操作性は良好です。パイプを曲げるなどの特殊な加工をする必要がないので、利用者が自分で製作するのに向いています。基本的な部材がセットで販売されており、そこからカスタマイズすることも出来ます。
もちろん、タイヤやペダルなどのパーツを自作する必要はありません。コンポもシマノが使われています。荷物を運ぶための荷台部分やフレーム部分を自分が使いやすいようデザインするわけです。もし、自分で製作するのが苦手だという場合は、希望する形状や寸法を決めて、製造を委託することもできます。
荷台の大きさ、形状などを自由に設計できるだけでなく、必要に応じてサイズを変更して再構築することも容易です。荷台だけでなく、フレームも自由です。例えば、足の力を、より効率よく使いたいと思えば、それに適しているリカンベントにすることも出来ます。
載せる商売道具、例えばアイスクリームの冷蔵庫とか、コーヒーメーカーと水や燃料のタンクといったものの形状・大きさなど合わせカスタマイズすることになるでしょう。将来、何かの都合で、その大きさが変更になったり、余分に積むものが増えたとしても、部分的に改修するなどの融通が利くわけです。
このプロジェクト、社会的に公明正大で、いわゆる持続可能で環境に優しい輸送手段の普及を目指しています。受託製作も過大な利潤を追求することなく、公正でリーズナブルな料金にしています。“XYZ Cargo”の販売による利益は、このプロジェクトを含むN55のオープンソースプロジェクトの発展のために使われます。
カーゴバイク普及のため、より多くの人に自由にアクセスしてもらうことを目標にしています。オープンソースの考え方に基づいて情報を公開し、誰でも自分用の一台を一から作り上げてもらうのが目的です。自分で組み上げたい人のために、ワークショップを開くなどの支援もしています。
オープンソース・ソフトウェアと同じように、これを使ってカーゴバイク販売の商売をするのは認められません。でも、自分用として使う分には、設計図面やマニュアルなどをダウンロードしたりコピーしたりして、さまざまなモデルの図面やマニュアルを自由に使うことが出来るのです。
これは、なかなかユニークで興味深いプロジェクトではないでしょうか。日本では、カーゴバイクを使って荷物を運ぶスタイル自体が普及していないので、多くの人にはピンと来ない話だと思いますが、この“XYZ Cargo”は、自転車を運搬に使うという選択肢を、より多くの人に広げることに貢献します。
自転車の世界にオープンソースと聞くと驚きますが、環境負荷の小さいカーゴバイクの利用を世の中に広げる目的に、オープンソースという方法は相応しいものと言えるでしょう。もしかしたら、未来の自転車のカスタマイズや流通のスタイルを示唆する注目すべきプロジェクトなのかも知れません。
ビットコインで覚せい剤、3Dプリンタで拳銃製造、悪いのは技術や道具でなく、いつも人間ということですね。
日本でカーゴバイクがまったく普及しないのは、歩道走行が許されておらず、積載重量ゆえにママチャリ以上にスピードがろくに出せない、つまり、使えない輸送手段だからですね。その程度の積載量であれば、歩道もビル内も通行できる手押し台車と比べて優位性がありませんしね。
カーゴバイクを広めるのであれば、歩道走行の解禁は必須。どのみち台車押して駆け足で走る程度の速さと運動エネルギーしかないので歩行者に対する脅威にもなるわけがない。
日本特有の問題として、「普通自転車」の規定があります。これがあるがゆえに、十分な幅を待つ自転車が作られない。現在の三輪自転車の幅(60センチ未満)を90センチ程度に広げれば、安定性が増し、かなり実用的になるのに、現状では、ほんの少しの左右の傾斜で、容易に倒れてしまう。
歩道には、車を横断させるための「切り下げ」が有り、ここを三輪自転車で通ろうとすると、傾斜で転倒の危険があります(話は違いますが、車椅子にとっても切り下げの部分は危険です)。歩道を車道より高くすることは、車両の侵入を防ぐために必要ですから、切り下げをなくすことは出来ない相談です。
交差点の縁石の段差も、問題です。二輪の自転車では気にならない程度の段差でも、現在の三輪自転車では、斜めに吹っ飛んでしまうことがあります。
これら全て、自転車が歩道を通行することの付けです。重量物を積載した自転車は、ちょっとした下り坂でも危険な破壊力を待つ速度まで簡単に達してしまいます。
自転車を車両として扱い、車道を通行させる事こそ、日本で自転車による輸送を実用化するためにまず必要だと思います。
自転車と自動車が互いに相手を尊重しながら車道を通行するようになることを希望します。