CSR、いわゆる企業の社会的責任です。企業は営利を追求する組織ですが、利益追求にのみ邁進し、その社会に与える影響に対して無責任な企業に対しては、社会的に厳しい目が向けられます。社会からの信頼が損なわれた企業は消費者からそっぽを向かれ、結果として退場を余儀なくされることもあります。
CSRは、適切な企業統治やコンプライアンス、法令遵守にとどまりません。いわゆる持続可能な社会を実現するために、環境などの面における自主的な活動、社会的貢献といった面もあります。ただ日本において、その部分は誤解されることも多いと言います。
CSRは、企業がイメージアップを図るために行なうPR活動、寄付、ボランティア、慈善活動などとは違います。あくまで企業として期待される社会的責任を果たし、社会の一員として、社会に貢献していく活動です。企業イメージをアップさせるのが目的の企業戦略とは分けて考えなければなりません。
ヨーロッパなどでは、消費者に対してイメージアップを図るために行なわれる行動はCSRとして評価されないと言われています。単なるプロモーション、あるいはマーケティング活動と見なされます。目先の利益のための活動は見透かされ、企業に対する信頼につながらないわけです。
日本では、企業自身がCSRを誤解しており、企業の成長のためのイメージアップが目的と勘違いされています。そのために寄付やボランティア活動、慈善活動をするケースがあり、あくまで利益追求のためとの意識があって、消費者の視線を意識した、とってつけたような活動も少なくないとされています。
こうした傾向は、消費者の意識にも現れています。
「社会貢献で商品選ぶ」 比、消費者の79%
東南アジアの消費者は価格よりも社会貢献を重視――。米調査会社ニールセンが実施した「企業の社会的責任(CSR)についてのグローバル調査」で、こんな傾向がわかった。高くてもCSRに配慮した企業の製品を買うと答えた人の割合は、フィリピンが79%と最多で、日本(33%)の2.4倍だった。
調査は今年2〜3月、世界60カ国3万人を対象に実施した。価格よりもCSRを重視する人の割合はベトナム、タイも7割を超えた。調査対象の東南アジア諸国の中では、域内で経済的に最も豊かなシンガポールが48%と唯一、全世界平均(55%)を下回った。
花王やイオンが生態系に配慮した原料調達を始めるなど、日本企業にもCSR重視の動きは広がる。取り組みを分かりやすく伝えれば、大きな販促効果が見込めるかもしれない。(2014年7月19日 日本経済新聞)
日本人がCSRを気にしないのは、身近な日本企業が行なうCSR活動に対し、単なるPR活動に見えている面があるのではないでしょうか。新聞記事を書いた記者も、CSR活動をわかりやすく伝えれば販促効果が見込めるかもしれないと書いています。
自社の売り上げを上げるための方策、イメージアップのため、あるいは仕方なくCSR活動をしていれば見透かされるでしょう。そうでなく、企業活動を通して、本当に社会に貢献しようという企業が日本に多ければ、日本人もそれを好感し、多少の価格の違いでなく、その企業を選ぶ人が増えるのではないでしょうか。
企業のCSRが、利潤追求の一端かそうでないかの違いは微妙かも知れません。しかし、それがイメージ戦略でないと感じ、企業の姿勢に共感するからこそ、その企業の製品を選ぶ人が増えるのでしょう。日本では、企業のPRの意図が見えることが多いので、選択の基準にしない人が多いのではないでしょうか。
海外では、CSRの一つとして環境負荷を低減し、持続可能な社会を目指すため、さまざまな配慮をする企業が増えています。社会にとって良いこと、正しいこと、企業の社会的責任を果たすことにつながると思えば、それが取り入れられています。
特にヨーロッパには、そうした企業がたくさんありますが、スウェーデンの
イケアもCSRとして環境負荷に配慮する企業として知られています。日本には比較的最近進出したため、それほど知られているとは言えませんが、世界的には、家具と言えばイケアと言われるほど、高い知名度を誇っています。
家具のデザイン・製造から販売まで自社で全ておこなうことで低価格を実現し、デザインが良いことで人気があります。クルマのトランクに入るほど小さく梱包された家具を、お客が自分で持ち帰って組み立てるスタイルが、DIYの浸透する欧米などの市場では人気となっています。
家具メーカーとして木材が重要な原材料なため、森林伐採への対策やリサイクルなどに対する意識が高く、早い時期から環境対策に力を入れています。熱帯雨林を伐採した木材は使わず、植林によって栽培された木材を原料とするなど、自主的な取り組みを進めています。
梱包材や家具そのもののリサイクルに取り組むだけでなく、鉄道会社まで設立しています。このイケア鉄道は、貨物列車を運行し、自社製品を運びます。もちろん、輸送コストの節減につながる部分もありますが、トラック輸送による環境への負荷を低減しようという取り組みでもあります。
一部の店舗にはソーラーパネルを設置し、店舗の電力として使っています。2020年までに店舗で使用するエネルギーを100%再生エネルギーでまかなうという計画も発表しています。環境保護に対する意識の高い企業であることがよくわかります。
配送に自転車を利用することで、クルマを減らそうとする企業もありますが、イケアは、基本的にお客が自分で購入した製品を持ち帰り、組み立てるという販売スタイルです。そこで、お客が自転車で来店できるよう、自転車に連結するトレイラーを貸し出すサービスを行なう店舗もあります。
日本人には馴染みが薄いですが、トレイラーを使えば、家具の梱包でも十分に持ち帰れます。さすがに家具を運べるトレイラーを所有する人は少ないので、専用のトレイラーを利用料無料で貸し出しているのです。お客へのサービスというだけでなく、クルマの利用を減らし、環境負荷も減らせることになります。
ちなみに、このトレイラーには大きくイケアのロゴが入れられ、街を行き交う広告媒体にもなっています。つまり利用料無料にしても、広告料として元がとれるわけです。お客にもイケアにも環境にもメリットがあるという意味で、なかなか上手いやり方と言えるでしょう。
自転車の活用を進めることで、環境負荷に配慮しようという企業、欧米にはたくさんあります。その意味で、このあたりまでなら、言わば想定内です。企業の社会的責任として環境への配慮に意識の高い企業なら、自転車の活用を進めるのは当然の手段と言ってもいいでしょう。
ところが、イケアの場合、それだけにとどまりません。なんと、商品として電動アシスト自転車まで販売を始めました(日本では未発売)。“FOLKVANLIG”、スウェーデン語で「人に優しい」という意味の名前がつけられています。この自転車、世界で最も権威のあるデザイン賞を含めた3つの賞に輝いています。
バッテリーがダウンチューブに組み込まれ、一見して電動に見えないスッキリとしたデザインになっています。重量も11キロ程度と、電動アシスト自転車としては軽量です。どこにでもある電動アシスト自転車を持ってきて売っているのとは違います。
値段は、749ユーロ、イケアの入会費・年会費無料の会員であれば、649ユーロになります。日本の電動アシスト自転車の市場とは相場が違うと思いますが、8万9千円弱とリーズナブルな価格です。デザインの良い高品質な自転車を低価格で、お客に魅力的な製品を提供しようとしているのです。
これを普通に見れば、イケアが電動アシスト自転車市場に参入ということになるでしょう。もちろん、イケアとしても慈善活動ではありません。商品として売って、利潤を得ようということだと思います。しかし、よくよく考えると、異例のことのような気がしてきます。
家電メーカーが参入するとか、オートバイメーカーが参入するというのではありません。家具メーカーが電動アシスト自転車を発売しようというのです。イケアという環境に優しい企業イメージからすると違和感がないようにも感じますが、普通に考えれば、家具店が売り出すような商品ではないでしょう。
単に、電動アシスト自転車を仕入れて売り始めたというものではありません。特に販売優位性もないでしょうし、家具店が電動アシスト自転車を売るメリットは思い浮かびません。普通であれば、あまりセンスのある事業の多角化とも言えないと思います。
そこを敢えて売るところに、この企業の環境に対する考え方が見え隠れするように思えるのは私だけでしょうか。欧米では自転車に環境負荷を減らすシンボル的な、いいイメージがあります。それを利用しようとする企業もありますが、そんな見え透いた戦略にも見えません。
イケアは、「より快適な毎日を、より多くの方々に」提供しようと考えてきたと言います。これまでも、人々の食べる方法を変えたり、買い物の方法を変えたり、家の中を照らす方法を変えたりしてきました。その延長として、人々の移動方法を変えようということなのかも知れません。
これまでにも環境を守るための活動を行ってきました。製品パッケージから出るゴミを減らしたり、リサイクルを進めたり、鉄道会社を設立したりしてきました。自社が成長する一方で、環境と社会に全面的にポジティブな影響を与えることを目指してきた延長、そのうちの一つと言えばそうなのでしょう。
ただ、環境にいいからと言って、家具店なのに自転車を売るというのは、なかなか出来ないことのような気がします。自転車の販売が営利事業でないとは言いませんが、家具店がわざわざ参入するメリットのある事業には思えません。イメージアップのために、わざわざ参入して効果が高いとも思えません。
家具店でありながら、もっと人々が乗りやすい、デザインがいいと感じる、価格のリーズナブルな電動アシスト自転車を提供するのは、持続可能な社会を実現する、CSRに沿った行動と考えているのでしょう。人々が利用したいと考える電動アシスト自転車がまだまだ足りないと考えたのかも知れません。
私は別にイケアが好きなわけでも、推奨したいわけでもありません。イケアの家具を買ったこともありません。ただ、こうした企業の姿勢を知ると、好感が持て、どうせならそこで買おうか、となる気持ちは理解できます。企業の姿勢としても、なかなか興味深いものがあります。
CSRは環境面の社会貢献に限った話ではありません。ステークホルダーに対する説明責任や適切な企業ガバナンス、コンプライアンスやリスクマネジメントの面で企業の社会的責任がクローズアップされる場合もあります。特に最近は企業の不祥事が報じられる例が目立ちます。
日本では、どちらかと言うと、そうしたネガティブな面でCSRが話題になることが多いのが残念なところです。偽装問題など不祥事を起こして、その社会的責任が問われるような企業などはもってのほかですが、市民から信頼され、多少価格が高くても選ばれるような企業が、日本でも増えてほしいものです。
期限切れ肉、日本に6千トンですか..。例え仕入先の問題であっても、そんな会社を選んだ責任は免れないでしょう。責任を果たしていない会社には、買わないという意思を示すことも重要でしょうね。