中にはワンサイズしかなく、各部を調整するしかないものもありますが、基本的にはいくつかのサイズから自分の身体にあったものを選ぶことになります。服のサイズを選ぶのと同じで、人によって体格は大きく違うのですから、当然と言えば当然です。
服なら、わざと大きめのものを着るなどしても個人の好みで問題ありませんが、自転車の場合、サイズが合わないと大幅なパワーのロスになったり、身体のどこかに痛みが出たり、危険な場合すらあります。動力を使う乗り物と違って、サイズの適合はシビアになります。
しかし、実際には自分に合ったサイズの自転車に乗っていない人が大勢いて、そのことが自転車に乗ること自体をネガティブなものにしていると考えたメーカーがあります。ニューヨークを拠点とする“
Brooklyness”です。小さなメーカーですが、自転車のフレームのあり方を根本的に変えたいと考えています。
ある時、このメーカーの人たちは思いつきました。例えばオフィス用の椅子は、年月と共にユーザーにとって、より快適なものへと進化しているのに、自転車は進化しているだろうかという疑問です。自転車のフレームは長年にわたって革新がないが、オフィスチェアと同じように、もっと変わるべきだというのです。
彼らの研究によれば、積極的に自転車に乗ろうとしない人にとって、快適さに欠けることがその主要な理由の一つになっているというのです。快適でない一番の理由は、自転車が身体にフィットしていないことであり、それを解決すれば、もっと自転車に日常的に乗ってもいいと考える人が増えるだろうと考えました。

そこで、素材にカーボンファイバーを使い、人間工学に基づいた、この“
Universal Bike”を設計しました。この自転車は、全体の99%の人の身体にフィットさせることが出来ると言います。誰もが快適に乗れる自転車は、よりマーケットを広げることが期待できるはずです。
市販の一般的な自転車は、最大で6つほどの異なるサイズを揃えています。しかし、これは製造や販売に携わる人にとっては悪夢だと主張します。モデルごとに複数のサイズがあることによって、製造単価が上がり、流通を複雑にしてコストを増大させるというのです。
でも、この“Universal Bike”ならば、1つのサイズで99%の人の身体にフィットさせられます。レディーメイドでもオーダーメイドの自転車と同じ利点を提供できることになります。製造や流通コストの削減により、1千ドル未満でもカーボンファイバーのフレームの利点を楽しむことが出来るとアピールしています。
フレームとシートチューブ、フォークに可変部をつくることで、長さや角度が変えられるようになっています。この組み合わせで最適なサイズを実現します。サイズは一つにしても、より多くの体型の人に対応できるならば理想的です。従来のスタイルとは一線を画す考え方と言えるでしょう。
最近増えている、自転車シェアリング用の自転車なんかには、もってこいのシステムかも知れません。乗るときに調整して自分の身体に合わせることで、より快適に利用出来ます。レンタサイクル店などでも、サイズの用意はどうしても限られるので、これであれば、より多くの人に対応できます。
たしかに、一つのサイズのフレームで、ほとんどの人にフィットするならば合理的です。このメーカーが考えるように、よりフィットする自転車を、より安く購入出来るなら、市場原理で、みなこのフレームになってもおかしくありません。自転車のフレームの考え方が根本的に変わる可能性があります。
しかし実際には、自転車がみなこのフレームになっていくとは思えません。服だって、フリーサイズの一種類に統一すればコストは下がるでしょうが、そうはなりません。共産主義の専制国家ならいざ知らず、学校の制服にだって個性が求められ、学生を集めるために、より魅力的なデザインが求められる時代です。
過去にも似たようなコンセプトの自転車はありましたが、普及することはありませんでした。自転車シェアリング用など、単一のカテゴリーに限れば、市場を席巻して、かなりの割合を占める可能性がないとは言いませんが、全体では、相変わらずいろいろなデザインのものが出回るでしょう。
汎用性が高いのは合理的ですが、だからと言って、それ一つに集約していくとは限りません。1種類でも支障がなさそうな日用品ですら、いろいろなデザインがあります。まして趣味の部分があるものは、多様化しこそすれ、画一化していくことはないと思います。
仮に画一化するとしたら、それは一つの会社が市場の大部分を占めるような製品でしょう。圧倒的なシェアで、競合する会社が撤退していけば、場合によっては一つのモデルに集約することも考えられます。ただ、自転車は、世界中にたくさんのメーカーのありますから、そうはならないでしょう。
ただ、自転車は身体にフィットしないと快適でないのは間違いありません。身体に合っていない自転車に乗っているため、快適に感じず、積極的に自転車に乗る気にならない人が多いというのは、正鵠を得ていると思います。潜在的には相当の数の人があてはまるのではないでしょうか。
日本の市場で大きな割合を占めるママチャリも、サイズは少ないと思います。多くはワンサイズなのではないでしょうか。いろいろな体格の人が同じフレームに乗るのですから、身体に合わないのも無理ありません。ハンドルやサドルの高さは変えられても、調整の範囲は限られます。
やろうと思えば、パーツを変えることで、調整の幅は広がりますが、わざわざママチャリのパーツを変えてまで乗る人は多くないでしょう。その意味では、ママチャリにこそ、このシステムを採用すべきような気もします。しかし、問題はそこではありません。
問題は、多くの人が自転車に乗る時の理想的な姿勢を知らないことです。サドルを低くして、止まった時ベッタリ足の裏がつく状態で乗っている人が大多数でしょう。フレームの形もあって仕方がない部分もありますが、ハンドルは高く、いわゆる前傾姿勢で体重が分散するようなスタイルにはなっていません。
スポーツバイクに乗っている人なら、このママチャリのアップライトな姿勢が、いかに力が入りにくく、非効率な姿勢か実感としてわかると思います。あのスタイルで一時間も乗ろうものなら、ほぼ全体重がかかるお尻が痛くなり、ヒザや太腿にくるのは容易に想像がつきます。

ママチャリのサドルを下げてアップライトな姿勢で乗っている人は、それが普通だと思っていますが、実はとても効率が悪く、ヒザなどを痛めやすい姿勢なのです。試しにサドルを、やっとつま先がつくくらいの高さに上げるだけで、ペダルがこぎやすく、スピードが出ることを実感できると思います。
あまりママチャリで遠くへ行かない人が多いと思いますが、ハンドルを下げ、いわゆる前傾姿勢になって、体重が分散されると、長い距離でもお尻が痛くならず、風の抵抗も減ります。最初は違和感があると思いますが、慣れれば、いかに合理的でない姿勢で乗っていたかわかってくるはずです。
ちなみに、タイヤの空気圧が足りない人も多く見かけます。タイヤを適正な空気圧にして乗れば、ころがり抵抗が減り、ペダルの重さが全然違ってきます。ひとこぎでスッーと進みますし、自転車に乗る楽しさが大きく違ってくるはずです。これだけでも、乗り心地は大きく変わり、自転車に対する印象が変わるでしょう。
日本のママチャリは、日本独特の歩道走行という環境に最適化してきた歴史があります。歩道を走行して、すぐ足がつけるよう、いわゆる足つき性が重視されているため、上半身が直立した姿勢で乗ることになります。これはママチャリの特性からくるわけですが、理想的な乗車姿勢とは言えません。
サドルが低いのでヒザが常に曲がり、パワーのロスであるばかりか、ヒザやふとももの痛みにつながります。坂も辛く、乗るのが憂鬱になりかねません。どんな姿勢で乗ろうが本人の勝手で、余計なお世話ですが、姿勢は重要です。これを、サドルを目いっぱいまで上げるだけでも、かなり変わってくると思います。
自転車に乗って疲れる、ペダルが重い、スピードが出ない、少しの坂も上れない、ヒザやふとももが痛い、そして結果として楽しくないと感じるのは乗車姿勢の要因も大きいはずです。快適にするため身体にフィットという前に、フィットしてないことに気づかない、フィットのさせ方、必要性を理解していないことになります。
この“Universal Bike”のフレームを導入したとしても、自分の身体にフィットさせるのために使うのではなく、サドルを低く、ハンドルを高く、ハンドルとサドルの間隔を必要以上に近くするなど、間違った姿勢に調整するならば、まるで意味がありません。
どうしても最初は、足が容易につき、前が見やすいようにアップライトなポジション、ラクに椅子に座るような姿勢で乗ってしまう人が多いのは間違いありません。サドルを上げたり、ハンドルを低く遠くしたりしたら、乗りにくいとか、危なく感じてしまう人も多いでしょう。
しかし、どの自転車の本を見ても書いてあるように、この前傾姿勢が一番効率的でラクで理想的なのです。最初は乗りにくくても、後で必ず納得します。そして、自転車という乗り物が、こんなにも軽快で速く、乗っていて楽しいか実感できるでしょう。大きく印象が変わると思います。
もちろん、印象が悪い原因は、ほかにも、格安ママチャリだったりするため、チェーンが錆びて、タイヤの空気が少なく、異音がしてスムースにペダルが回らないなど、問題点は多々あると思います。それらも含め、一度、よく整備されたスポーツバイクに乗ってみることをお薦めしたいと思います。
ママチャリは歩道走行という日本の現状に特化した自転車であり、そのことが悪いとは言いません。しかし、ママチャリしか乗ったことのない人がスポーツバイクに乗ると一様に驚きます。遅い、疲れる、痛い、憂鬱といった自転車の印象がガラリと変わって、それ以後、日常的に乗るようになる人も少なくありません。
自転車が身体にフィットすることは重要です。快適さが全く違います。そのことを知らずに乗っている人が多いのは残念であり、自転車への誤解にもつながっています。そこを改善するのは重要ですが、日本では、その前にまず正しい乗車姿勢が理解されることが必要だと思います。
連日暑いわ、急な激しい雨は振るわで自転車で出かけるのも、いろいろ注意が必要ですね。
確かに、前傾姿勢は走り続けるには良いものの、駐車車両や割り込み自動車を避けるために止まったりするには不向きですね。昔日本の何処かで、自転車競技の練習中に駐車車両にぶつかって死亡した事故が有りました。
画像の自転車のコンセプトは大変良いと思いますが、日本での使われ方(適切なメンテナンスが行われない)を考えると、一番大切なフロントフォークが、ねじが緩むと動いてしまうというのはちょっと怖いです。クイックですら正しい使い方ができていなかったり、チェックを怠って事故になる場合がある(そのためにロイヤーズタブなとというものができた)のですから。
取手で起きた事故は、暗い時間帯に前方を注視せずに走行(いわゆる もがいて いた)のが原因だったはずです。いつもの練習コースに車が停車しているかもしれないことを考えなかったことが原因だったのでは。
スポーツ自転車は、正しくフィッティングされていれば、たとえドロップハンドルの下側を握っていたとしても、前方はよく見えます。というか、見えなければレースに勝てないので、無理なく前が見えるように調整します。
また、ブレーキは、一般の自転車よりも強力です。ちょっと練習すれば、時速30キロから4m程度で停車することは容易ですから、止まりにくいとは言えないと思います。同じ速度のバイクと同じか、より短い距離で止まれますので、自動車が、自転車の速度を見誤らなければ問題ありません。
ちなみに、一般車、シティーサイクルは、子供乗せをハンドルにつけて(重心が前に寄り前転しやすくなる)いても、前転しないようにわざと弱く作られています。自転車競技では、車のレースと同じく、カーブなどのぎりぎり手前までスピードを維持しないと勝てませんから、スポーツ自転車のブレーキは、微妙なコントロールができる範囲で、できる限り強力に作られています。
結局、自転車側の、「歩行者感覚」、自動車側の「自転車は遅いという思い込み」が事故の根底にあります。自転車は、車両の仲間という認識を、自転車も自動車も持つことが大切だと思います。