2020年代とか2050年代と区切って、今後実現するであろうイノベーションを予測する記事をよく見ます。専門家でも技術者でもない一素人が将来の予測をするのは困難ですが、ネット上に散見されるアイディアから、自転車について、どんな変化が起こりうるか考えてみたいと思います。
最近は素材やその加工技術の向上に著しいものがあります。昔は金属のパイプを切断したり溶接してフレームをつくるしかありませんでしたが、最近はカーボンなどの素材を一体成型して自在な形状に作り上げることも可能になってきました。
3Dプリンタの普及によって、いちいち金型を作らなくてもサンプルを作ったり、デザインを試行錯誤することも出来ます。加工技術も進歩し、各パーツやその結合部に必要な強度を持たせることも出来ます。その強度や耐久性を試験する技術も向上しました。
だとするならば、このように自転車を簡単に組み立てることの出来るキットが登場しても不思議ではありません。これはコンセプトモデルですが、理論的には十分に可能と思われます。必要な部材をわずか21個にまで削ぎ落としているのが、これまでと違うポイントと言えるでしょう。
これだけのパーツで十分実用的な走行性能が実現でき、なおかつ実用的な強度や耐久性が実現できるのであれば、さらに、誰にも簡単にワンタッチで組み立てられるのであれば、フォールディングバイクの新しい形、折りたたみならぬ、組み立て自転車として普及する可能性があります。
これまでにも優れたフォールディングバイクはありました。また、ロードバイクなども分解して輪行することが出来ます。ただ、その形状や制約から、小さくなる度合いには限度があり、それなりの大きさで、ある程度かさばるのは仕方がありません。
ところが、フレームやパーツをここまで分解でき、なおかつ簡単に組み立て出来るなら、よりコンパクトで持ち運びやすくなるでしょう。パーツをこれだけ減らし、極力無駄を削ってシンプルにしていることは、軽量化にも大きく貢献することが期待できます。
このスタイル、場合によっては、単にフォールディングバイクや輪行のイノベーションにとどまらず、多方面に影響を及ぼすかも知れません。だれでも気軽に、簡単に自転車を持ち運べるようになれば、公共交通機関と自転車を組み合わせて移動する人が増えることも期待できるでしょう。
室内保管も容易になりますし、自転車シェアリングに利用すれば、ステーションの設置余地のない都心部でも、例えばコンビニなどで貸し出しするようなことが考えられるかも知れません。このキット型自転車は、今までと違った自転車の使い方を広げる可能性を秘めています。
シンプルでスタイリッシュですし、バッグに入れて持ち運ぶというスタイルも、これまで輪行に縁の無かった人には新鮮に映るのではないでしょうか。この“
LUCID KIT BIKE”、なんと欧米ではなく、インドのデザイン会社、“Lucid Design”によるものです。
このままでは、いわゆるピストバイクと同じでブレーキなどの問題もありますが、部品を少なくしてシンプルにすること、フレームまで分解・組み立てできるようにすること、今までよりコンパクトで持ち運びやすくなるといった点が新しい自転車の使い方をもたらし、イノベーションを起こす可能性があります。
こちらは、電動アシスト自転車の未来を占うモデルです。Offer Canfi 氏による“
Flux Bike”は、無線給電方式による電動アシスト自転車です。道路のほうに電力を供給する装置があり、そこを通るだけで非接触で電力が供給されます。電動アシスト自転車の航続距離の短さの問題が解決されます。
クルマの分野でも電気で走るEVが開発されていますが、その充電にどうしても時間がかかることが課題とされています。使用しない時に充電する場合はいいとしても、スタンドなどで電力を補充するには、普通の充電器で数時間、急速充電器でも30分以上かかると言います。
これでは使い勝手が悪いという事で、構想としてはクルマへの非接触給電装置も考えられています。その電動アシスト自転車版と言えるかも知れません。電動アシスト自転車も、バッテリーがなくなると、ただの重い自転車となり、アシストするどころか足を引っ張る形になってしまうのが問題です。
これが道路から無線給電されれば、バッテリー切れの心配はなくなり、ナビなどの機器にも給電できて便利です。もちろん、インフラとして給電装置を整備しなければなりませんが、自転車レーンを整備するなら、単なるレーンでなく、電源付きのレーンを整備したらどうかという提案でもあります。
仮に自転車レーンに給電機能が備われば、レーンを走行するぶんには、今までのようなバッテリーは不要だとしています。電動アシストレーンのネットワークが出来るとしたら、それは新しい都市交通、電車やバスと同じ公共交通の一つになる可能性があります。
もちろん、普通の自転車レーンも都市交通として十分機能します。でも電動アシストが常に利用できるレーンであれば、汗をかきたくない、疲れたくないという人にも利用が広がるかも知れません。クルマと違って、無駄な重量、車体を動かす電力が不要なぶん、省電力でリーズナブルな交通手段になります。
非接触、無線給電の技術は確立されていますし、理論的には可能です。後は費用ということになるでしょうか。日本では自転車レーンも難しいのに、無線充電レーンなんて現実的でないと考える人が多いと思います。しかし、欧米では、決してナンセンスな話ではありません。
都市部では都市交通として自転車の活用が広がっていますし、自転車レーンの整備も進んでいます。さらには、実際に自転車レーンの舗装面に太陽電池を埋め込み、太陽光発電に使おうという構想などもあります。無線給電レーンも決して実現の可能性の無い構想ではありません。
都市部であれば、インフラへの電力供給も容易でしょうし、既に自転車レーンが設置されているか、設置余地があるのであれば、物理的にも不可能ではありません。もし需要が見込めて、技術的な問題がクリアされ、採算があうのであれば、自転車シェアリングなどと併せて設置される可能性は十分考えられるでしょう。
場合によっては、坂道だけ設置する手も考えられます。あまりアシストの必要のない平地は省き、坂だけでもアシスト出来るようになれば、それはそれで有効なのではないでしょうか。いずれにせよ、新しい自転車の使い方が広がる可能性があります。
ここに挙げたのは一例に過ぎません。ほかにもいろいろ考えられるでしょう。技術的な基盤は十分にあります。自転車に新しいコンセプト、今までにないアイディアが持ち込まれただけで、自転車の活用の仕方が変わり、社会的にも大きな変化、イノベーションが起こる可能性は十分ありそうです。
ティム・クックやビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスも水をかぶりましたか。この時期ならむしろ涼めますね。