トライク、またはトライシクルと呼ばれる3輪自転車です。日本ではトライクというと3輪のオートバイを指すのが一般的のようですが、3輪自転車もトライクです。バイクも日本ではオートバイのことを指す場合が多いですが、英語でバイクはバイシクルの略で、自転車のことを指すのが普通です。
この3輪自転車、日本ではあまり普及していません。後ろが2輪のデルタタイプと前2輪のタドポール(おたまじゃくし)タイプがありますが、昔から日本で見るのは後ろ2輪のもので、業務用のものを別とすれば、中高年用とイメージされることが多いようです。
日本でも、前2輪のタドポールタイプが売られていないわけではないですが、あまり見ることはありません。3輪ならではのメリットもあると思いますが、おそらく日本の街中では使い勝手が悪いため、普及しないのでしょう。やはり2輪と比べて場所をとります。
最近よく見る機械式の駐輪機には駐輪出来ませんし、集合住宅の駐輪場などでも場所をとってしまうので、敬遠されることが多いかも知れません。どうしても重くなるので、2輪では上れる坂なのに、3輪だと上れないというようなことも起きます。
3輪だと歩道を通行しにくいことも影響しているのでしょう。ちなみに、3輪であっても、普通自転車の要件を満たせば歩道の通行は出来ます。1978年の道路交通法改正によって、サイズなどの条件に適合していれば、3輪でも普通自転車に含まれることになりました。
3輪の大きなメリットは、その多くがカーゴバイクとして荷物がたくさん運べることでしょう。しかし、海外で見るような荷台の大きなカーゴバイクは、日本の普通自転車のサイズにおさまらず、車道走行するしかありません。まだまだ自転車の走行空間が少ない日本では、使いにくいのが実際のところだと思います。
ただ、中には日本でも使えるのではないかと思う3輪自転車もあります。こちらは、都市型のトライシクルとして開発された、“
Kiffy”です。18インチという小径のタイヤを採用した、コンパクトなトライクです。サイズ的にも幅57センチなので、日本の普通自転車の要件を満たします。
最大の特徴は、前2輪が分離できて、独立した買い物カートのように使えることです。そのままフレームと後輪部は駐輪し、ハンドルと前輪部を、いわゆるキャリーカートのように押したり、引っ張って持ち歩けるのです。これは、自転車を買い物に使う人にとって便利な機構でしょう。
自転車で買い物に行く主婦の中には、自転車そのものを買い物カートのように使う人がいます。商店街で買った品物を、自転車の前カゴや荷台のカゴに載せ、次の店へと移動するわけです。人で混みあう商店街の中を自転車で走り抜けるような人も少なくありません。
駐輪場に自転車をとめて買い物するより、自転車に乗ったままのほうが便利だからです。実際に、商店街のアーケードの中で徒歩の買い物客と交錯して、事故も起きています。例えば、日本一長い商店街とされる大阪の天神橋筋商店街では、今年からほぼ全域での自転車の通行規制が始まりました。
アーケードの総延長で日本一の高松中央商店街でも、市民の要望を受け、昨年から商店街への自転車の乗り入れが禁止になっています。アーケード内通路上への迷惑駐輪も含め、おそらく各地で、多かれ少なかれ直面している問題でしょう。事故の回避のため、各地の商店街で自転車通行禁止が広がっているようです。
そんな場所でも、この“Kiffy”なら、前輪部だけカートのように使って、歩いて買い物が出来ます。駐輪場にとめておくのは、後輪とフレーム部分ですから、幅をとることなく駐輪できます。自転車全部をキャリーカートのように使わずにすむ機構は、日本にも向いていると言えそうです。
前輪部を分離した上で、その上に後輪とフレーム部を載せることも出来ます。自転車自体をコンパクトにたためる上、それを車輪付きで移動できるわけです。そのまま電車に載せて移動するようなスタイルも考えられます。これも使いようによっては便利な機能でしょう。
荷物を載せる部分は大きく、普通のママチャリの前カゴよりたくさん、あるいは大きな荷物が積めます。重心が低いので、より安定した状態で運べるのもメリットでしょう。人の多い中を移動するような場合でも、3輪なので、ゆっくり徐行してもフラつかず、安定しているのも長所と言えます。
ふらつかずにゆっくり走れるのは、高齢者にも優しい点と言えるでしょう。今後急速に高齢化が進むとされる日本では、需要が期待できる自転車かも知れません。18インチとタイヤが小さく、ホイールベースも短いので、小柄な女性でも乗りやすいはずです。
カフェなどで、たたんで脇に置いておいても、キャリーカートに近いスペースで済みます。駐輪する場合でも、前輪部を外しておくならば、そのまま盗んで乗っていくことは出来ません。少なくとも、アシ代わりに盗む意味はなくなるので、盗難に遭いにくいというのも利点かも知れません。
もちろん、歩道を通行する場合、2輪より幅のあるぶん、通りにくいということはあるでしょう。ただ、デルタ型と比べてタドポール型のほうが、車幅がつかみやすいですし、自分の後ろで後輪が人にぶつかるようなことがないぶん、安全と言えるかも知れません。
3輪独特のスイング機構や内装2段変速、油圧式ディスクブレーキも備えていますし、女性でもまたぎやすい低いフレーム、別にベルトドライブ仕様も用意されています。コンパクトになるので、自宅やオフィスでの室内保管にも向いています。
似たようなアイディアは、これまでにもありましたが、動画で見る限り使い勝手も良さそうですし、なかなかユニークな自転車と言えるのではないでしょうか。日本で3輪自転車は流行らないと思っていましたが、今後高齢化社会が進展することも考えあわせれば、案外面白い存在となるかも知れません。
エボラ出血熱がアメリカにも飛び火しました。日本でも可能性ゼロではないと思うと不気味です。