October 12, 2014

自転車道のルートが結ぶ国々

ウクライナ情勢が混迷を深めています。


マレーシア航空機の撃墜を機に、欧米によるロシアに対する経済制裁が強化され、反発するロシアがこれに対抗してアメリカやEUなどからの食料品禁輸措置を打ち出しています。これから冬のエネルギー需要が高まる季節ですが、ロシアとウクライナのガス協議の行方にも注目が集まります。

ロシアからパイプラインで供給されている天然ガスは、ウクライナを経由してヨーロッパにも輸出されています。ロシアは、いつでもバルブを閉められる上、ヨーロッパに対して強気の姿勢を崩していません。ウクライナ国内でも、親ロシアの東側と親欧米の西側との軋轢が高まる恐れがあります。

当然ながらシリアの問題でも、アメリカはロシアの協力を得られず、今後も国連による決議は見込めない状況です。シリア領のイスラム国への空爆も、アメリカは国連決議でなく自衛権を理由にせざるを得ません。ロシアはクリミア併合やウクライナ東部侵攻を棚に上げ、国連決議を経ない戦争を批難しています。

Iron Curtain Final, Photo by VEO15,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.すでにロシア経済には影響が出始めていますが、強硬な姿勢を崩さないロシア・プーチン大統領の態度に、新たな冷戦の始まりを危惧する声もあります。ソビエト連邦が崩壊し、東西対立の象徴だったベルリンの壁が撤去され、終わったはずの冷戦に逆戻りしかねない様相です。

ウクライナを東西に隔てる、ベルリンの壁ならぬ、キエフの壁が出来ないことを望みますが、プーチン大統領の姿勢はロシア国内で大きな支持を得ています。併合したクリミアや、親ロシア国民の多い東部地域から簡単に撤退するのは政治的にも困難で、対立の解決の糸口は見えない状況です。

かつて鉄のカーテンと表現されていた、冷戦時代のヨーロッパの東西両陣営を隔てていた国境線は、今よりかなり西です。当時東側諸国だったポーランド、東ドイツ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、チェコスロバキアや、占領されていたバルト三国などの国々は、今やEU加盟国です。

Photo by Kolja21,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.東側諸国のみならず、旧ソビエト連邦の構成国であったウクライナにまで親欧米政府が樹立され、EUに飲み込まれかねない状況は、ロシアにとっては、ずいぶん押し込まれてしまっている観があるのでしょう。仮に新冷戦となるにしても、両陣営を隔てる国境線は、大きく東へ移動することになります。

ところで、いわゆる鉄のカーテンといわれた、東西両陣営の国々を隔てていた国境線は、今どうなっているのでしょう。EU内の移動は原則自由に出来るので、パスポートを提示したり、税関を通過する必要もありません。だとすれば、往来を遮る国境線の必要もないわけです。

東西両陣営を隔てる国境線は、ヨーロッパ大陸を縦に7千キロも走っていました。まだ、かつての国境線の名残として鉄条網などが残っている場所もあると思いますが、今、多くはEU域内の国の国境なので、鉄条網などは無用の長物です。とは言え、単なる境界線なので、土地としての利用価値も見込めません。

そこで、この境界線をサイクリングロードにしようという動きがEU域内で広がっています。国境線は道路ではないので、舗装されていない場所も多いと思われますが、トレイルロードとして、観光用に整備しようというのです。名づけて、鉄のカーテン・トレイルです。

The Iron Curtain Trail

The Iron Curtain Trail

中には国境線の移動用に管理道路のあった場所もあるでしょう。鉄条網を撤去すれば、とりあえずトレイル出来るような場所もありそうです。必ずしも走りやすい場所ばかりではないと思いますが、歴史的な知名度は抜群ですし、それをたどるのも意義深いものがあります。

The Iron Curtain TrailThe Iron Curtain TrailThe Iron Curtain Trail

第2次世界大戦や、その結果生じた東西両陣営の対立、いわゆる冷戦時代を象徴する国境線です。これを越えるために命を落した人も大勢いました。その国境線が観光用トレイルロードになるのは、平和を実感するものでもあるでしょう。冷戦が終わったのは25年前ですから、感慨深い世代も多いはずです。

The Iron Curtain Trail

The Iron Curtain Trail

かつてのNATO、北大西洋条約機構とワルシャワ条約機構の対立の最前線であり、OEEC、欧州経済協力機構とコメコン、経済相互援助会議の勢力を分ける線でもありました。世界史の教科書を思い出しても、なかなか興味深いものがあります。

The Iron Curtain Trail

The Iron Curtain Trail

ちなみに、ベルリンは完全に東側にあったため、ベルリンの壁があった境界線と、この鉄のカーテン・トレイルとはつながっていません。ただ、すでに「ベルリンの壁トレイル」としてコースになっています。東ドイツと西ドイツの国境線も、今はドイツ国内ですが、同じように、両ドイツ国境トレイルコースになっています。

The Iron Curtain TrailThe Iron Curtain Trail

日本は海に囲まれているため、一部米軍基地などを除けば、国境線のイメージがわきませんが、かつての鉄のカーテンを自転車で走れるというのは、隔世の感があるだろうと想像します。歴史の教訓として、平和のありがたさを後世に伝える史跡としても意味があります。

The Iron Curtain Trail

The Iron Curtain Trail

さらに、それを観光用として整備すれば、EU内外からの観光客、サイクリング客も見込めるでしょう。ヨーロッパでは、自転車の活用が見直され、他にもEU域内を網羅する大規模サイクリングロードが多数整備されています。EU内の自転車での旅行も人気です。

The Iron Curtain Trail

The Iron Curtain Trail

それらのサイクリングロード網の拡張にもなるわけで、旅行客の一定の利用も見込めるでしょう。一部のコースは、既にヨーロッパのサイクリング・ルート・ネットワークに登録されています。いろいろな面で、有意義な整備と言えるのではないでしょうか。

The Iron Curtain Trail

ウクライナ情勢は、ただでさえ減速が懸念される欧州経済やロシア経済を直撃し、世界経済の不安要因となっています。アメリカとロシアの軋轢は、各地の地域紛争にも影響を及ぼすでしょう。かといって、クリミア併合のような事実を認めて経済制裁を解いては、武力で現状変更しようとする国々を認めることになります。

複雑な利害の絡まる国際関係やパワーバランスがあって、なかなか解決は見通せません。政治的に引き下がれないプーチン大統領を、経済的な窮地に追い込むリスクも懸念されます。今後も予断を許しませんが、願わくば将来、冷戦ではなく、ロシアとEUがたくさんの自転車道でつながっていく時代の到来を期待したいものです。




平和賞のマララ・ユスフザイさん、若いのにしっかり世界にメッセージを発していて、たいしたものです。彼女のスピーチは多くの人の心を動かします。早すぎるとの声もあるようですが、そんなことはありません。アメリカ人ですら半数以上が受賞に値しないとしている、2009年の人より立派です。

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この記事へのコメント
 どこまでも続く一本道をひたすら地平線の向こう目指してペダルをこぎ続ける。ふとふりかえると、朝居た所はもう見えない、、、そんな旅に出たくなりました。日本にもあったらいいですね。本州縦断自転車道路、とか。
Posted by タニグチ at October 18, 2014 12:38
タニグチさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
たしかに、思い切りペダルをこぎ続けられる場所というのは、そうそうないですからね。
日本に馴染みのない国境という響きにも、なんとなく惹かれるものがあるような気がします。
Posted by cycleroad at October 19, 2014 23:34
 
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