November 26, 2014

道路の役割と価値を増やす道

オランダと言えば、自転車の国です。


風車やチューリップ、運河やチーズを連想する人も多いと思いますが、世界に名だたる自転車先進国でもあります。オランダでは、1970年代以降、政府が自転車による移動を強力に奨励してきました。いたる所に自転車レーンや駐輪ステーションが設置され、自転車インフラの整備に力を入れてきたのです。

多くの道路に自転車レーンがあり、また自転車の専用道も整備され、普通の道路と分けられています。自転車専用の信号があり、交通量が多い場所には、自転車専用の橋やトンネルなども設置され、渋滞するクルマをよそに、スピーディで安全な移動が確保されています。



国土が平坦で、自転車での移動に適していることもあって、オランダ人は近所に出かける時も、長期の旅行に行くときも自転車を使います。オランダの全人口1千6百万人に対して1千8百万台の自転車を所有し、1万8千マイルもの自転車道があります。

もちろんクルマも走っていますが、クルマのドライバーのほとんどがサイクリストでもあります。お互い様なので、ドライバーはサイクリストを保護し、尊重します。オランダには、クルマと自転車の事故の場合、クルマに大きな責任を負わせる厳しい法律があるのですが、それだけが自転車に優しい理由ではないのです。

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クルマと自転車の事故なら、その責任は常にクルマにあるという考え方が根底にあります。人命を第一とするなら当然のことです。たとえ自転車にも非があったとしても、何トンもある金属の塊に乗っている人のほうが悪い、無防備な自転車に乗る人間は守られるべきというコンセンサスがあるのです。

オランダ政府は70年代に熟慮の末、自転車の活用という方針を明確に打ち出しました。今や政府が好ましい移動方法として、サイクリングを強く推奨する国なので、自転車天国なのも当然と言えば当然です。未だに自転車は車道か歩道か、などと議論をしている国から見れば、うらやましいくらいの自転車先進国です。

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さて、その自転車先進国・オランダが、さらに先へ行こうとしています。以前にも何度か、その構想については取り上げましたが、未来の自転車道とも言うべき、“SolaRoad”が、とうとう実現にこぎつけました。その第一号が今月完成し、12日に開通しています。

自転車道の舗装部分をソーラーパネルにしてしまおうという画期的な事業です。世界初の太陽光発電“道路”です。自転車は環境に優しい乗り物ですが、そのインフラも、いわゆる持続可能な社会を支えるためのクリーンエネルギーを生み出すエコなものにしてしまおうというわけです。

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どうせなら、ソーラーパネルの上を走らせてしまおうというアイディア、誰でも考えつきそうに思えます。でも、その実現は、見た目のように簡単ではありません。その実用化は、政府や研究機関、企業が共同で技術開発に取り組んできた成果なのです。

ソーラーロードは、プレハブのように工場で製造され、道路に敷き詰めていきます。構造としては、厚さ約1センチの半透明のガラス材の下に、結晶シリコン太陽電池が埋め込まれています。しかし、このガラスは普通のものではありません。

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まず、滑ってしまっては、自転車が走れません。ホコリや土などで太陽光を遮られても困ります。そのため、なるべく汚れをはじくことが求められます。ごくわずかに傾斜しており、雨で表面を洗い流す構造も必要です。さらに、強度や耐久性も要求されます。暑さや寒さ、塩害にも対応する必要があります。

ソーラーパネルは、それぞれ連結されます。置くだけでは段差が出来て、自転車での走行が不快なものになるからです。温度の変化で伸縮することで、パネルがずれたり、パネルの下の地面から損傷を受けないような仕組みも取り入れられています。走っていて、太陽光が反射してまぶしいこともないと言います。

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大きな加重や、落下物に対する衝撃にも強くなくてはなりません。ガラス材料なので、割れることもありえますが、割れてもケガをさせたり、自転車のタイヤをパンクさせるようなものであってはならないのです。太陽光パネルを敷くだけのように見えて、実は技術的な挑戦がいろいろありました。

万一ガラスが割れても、表面がコーティングされており、ガラスが飛び散らないようになっています。仮に破片が露出したとしても、クルマのフロントガラスのような、いわゆる安全ガラスで、サイコロ状に割れるので、その破片でケガをしたりパンクをしたりすることはありません。

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もし割れたら、その部分は修理・交換しなければなりませんが、修理までの間も、その上を自転車が通行するのに何ら問題ないようになっています。自転車道の舗装として、当たり前の要件を満たしながら、なおかつソーラーパネルとして機能するようになっているのです。

ソーラーパネルとしても、地面に水平に置くため、発電効率的には不利です。太陽のほうに向けることが出来ませんし、太陽の動きを追って向きを変えていくことも出来ません。太陽光発電装置としても、実用的な発電量が確保できるよう、いろいろ工夫がなされているようです。



わざわざ道路に敷かなくても、建物の屋根や遊休地に置けばいいことではないかという意見もあるでしょう。しかし、道路か、道路以外かの二者択一ではないと考えています。道路に太陽光パネルを設置しても、そのまま道路として使えるならば、道路をもっと有効活用することになります。

畑や牧草地の遊休地などを活用することを否定するものではありませんが、構造的に農業生産などの土地利用と背反することもあります。すでに自転車道として利用されている土地を、発電にも使えれば一石二鳥です。無駄になっている道路に当たる太陽光を利用しようという考え方なのです。

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発生したエネルギーは当面、道路の照明や交通システムなどの電力として使われます。天気に左右されるのは仕方のないところですが、条件によっては、100メートルの道路で、一般の家庭、2〜3軒分の使用電力をまかなうことが出来ると言います。

太陽光発電所と比べれば、大きな出力ではありませんが、沿道の家や施設などに供給できれば、なんと言っても送電のロスが圧倒的に少ないですから、電力を効率的に使うことも出来ます。電力を売って、その代金を次の道路の整備費用にするようなことも考えられるでしょう。



今回開通した部分で、今後の開発に向けた実証実験が行なわれます。今後もテストが続けられますが、試算では、20年ほどの寿命の間に発電した収益で、十分に投資が回収できる見込みだと言います。単なる舗装とは違って、事業費が回収できるところも魅力であり、導入の追い風になるでしょう。

このソーラーロードの製造や施工、保守、サービスなどを担当する企業のコンソーシアムは、今後も研究開発を進め、EV、電気自動車に直接電力を供給するようなシステムの開発が夢だと語っています。必要な場所で発電する、電力版の地産地消が出来れば効率的なのは間違いありません。

SolaRoad道路の役割は、人や車輌の通行だけにとどまりません。都市の採光や緑化に役立ったり、都市に風を通す役割もあります。地下に鉄道やライフラインなどを収容することもあれば、火事の延焼防止の緩衝帯になったり、避難や消火活動に使ったり、祭りに使ったり、歩行者天国になったり、空間を提供することもあります。

それに加えて新しく、エネルギーを供給するという役割を持たせることになります。今後、クルマの道路への設置も模索されていくことでしょう。オランダの道路の面積を合わせれば、オランダの全ての適切な屋根の面積より、かなり多いと見積もられています。

もちろん、道路だけで全てのエネルギーをまかなうことは出来ません、それでも屋上や屋根に加え、オランダの大部分の道路が発電所になれば、エネルギーの自給や化石燃料の使用減に大きく貢献するに違いありません。すでにドイツやデンマークなどが、この発電道路に大きな関心を示しています。

クルマの車線にまで整備されるようになるかは、今後の開発にもよります。渋滞もあるでしょうし、太陽光を遮る面積が大きいので、効率的にも不利かも知れません。しかし、少なくとも自転車道については、十分に投資が回収できる見込みです。今後、自転車道への整備は広がる可能性があります。

このソーラーロード、次世代の自転車道、自転車レーンのモデルとなる可能性があります。自転車道がエネルギーも生むとなれば、他の国でも、自転車レーンの整備が促進されることになるかも知れません。ソーラーロードのサイトで主張されているように、これは、「未来の道」であり、「未来への道」でもあるのです。




もう紅白の話題ですか。師走の選挙もありますし、あわただしくなりそうですね。

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この記事へのコメント
ソーラーパネル自体が発熱して
凍結防止や雪が積もらない機構が付いていれば…とか
夢の広がる未来の道路ですね

夏に売った分を冬に買えば出来るかも
Posted by まやん at November 27, 2014 16:53
雨が多く夏の日差しの厳しい日本の場合は、太陽光パネルを路面に敷き詰めるよりも自転車道の上にかぶせるほうが利用者にとって助かるのではないですかね。

それにしてもオランダではクルマ対自転車の事故ではいかなる場合でもクルマ側の責任ですか。ってことは自転車側がどんなむちゃくちゃな運転をしても一切法的責任を問えないというわけでドライバーにしてはたまったもんじゃない、不公平な制度ですよね。これではクルマはまともに走ることさえできませんね。
Posted by ほのおちゃん at November 27, 2014 20:43
記事のどこを読んでも「オランダの法律ではいかなる場合でも事故は自動車側の責任となり、むちゃくちゃな自転車にすら責任を一切問えない」などという意味の文章は見当たりません。これは私の読解力の問題ではないと確信します。自動車側がより大きな責任を負うべしというのはあくまで社会的認識の度合いであって、法律とは無関係の話でしょう。私はオランダの刑法など知りませんが、まともに走れないも何も記事の写真には普通に自動車が走っていますし、ストリートビューを眺めれば自動車・自転車双方が秩序を守って道路をシェアしている様子が読み取れます。そもそも自動車対自転車の事故において、多くの場合で自動車の過失割合が高くなることは日本でも常識です。

ただ難癖を付けたいがために内容を故意に曲解し、さらに事実無根の解釈で他国を貶める発言までするとは悪質極まりない。
Posted by 銀河眼 at November 28, 2014 02:01
オランダのいわゆる厳格責任は道路法(WVW 1994)第185条が根拠のようです。
http://wetten.overheid.nl/BWBR0006622/HoofdstukXII/Artikel185/geldigheidsdatum_27-11-2014

このルールに於いて、ドライバーが「いかなる場合でも」全ての損害賠償責任を負う、というのは誤解だと、次のページに書かれています。
https://bicycledutch.wordpress.com/2013/02/21/strict-liability-in-the-netherlands/
Posted by ろぜつ at November 28, 2014 05:43
まやんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
融雪装置を同時に設置するのは考えられるでしょう。
ただ、ハーラーパネルの発熱は、発電効率が悪くなるということですし、雪が邪魔したり、冬の太陽では発電能力も限られると思います。
夏のぶんを冬にというのは考えられそうですね。
Posted by cycleroad at November 28, 2014 23:19
ほのおちゃんさん、こんにちは。
もちろん、そのほうがベターでしょう。構築物になるので、コストや他の問題が出てくるとは思いますが。

『自転車にも』非があったとしてもクルマの責任が重いといっているだけです。
『どんなむちゃくちゃな運転をしても一切法的責任を問えない』なんて一言も言っていません。
オランダ人が民主的に決めた法律であり、不公平と思われてもいません。クルマも普通に走っています。

Posted by cycleroad at November 28, 2014 23:23
銀河眼さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
まことにおっしゃる通りで、難クセをつけているだけですが、それが自分の偏見や極端な考え方から来ていることに気がつかず、他の人の失笑をかうような、愚かな発言ということに気づかないのでしょう。
以前から、何かにつけ難クセをつけたり、揚げ足をとったり、誹謗中傷するような発言ばかりですが、こういう偏執的な人は、それが軽蔑されていることが自分ではわからないのでしょう。
わざわざフォローいただき、ありがとうございます。
Posted by cycleroad at November 28, 2014 23:31
ろぜつさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
URLまで教えていただき恐縮です。もちろん、私は「ドライバーが『いかなる場合でも』全ての損害賠償責任を負う」なんて思っていませんし、そう書いてもいません。
何か難クセをつけている人がいますが、普通の人は、日本より厳格というだけで、そんな極端な理解をしている人はいないと思います。
Posted by cycleroad at November 28, 2014 23:37
凄いソーラーパネルを開発しましたね。日本のメーカーは負けますね。
Posted by なななな at November 29, 2014 07:54
交通の鉄則は弱者保護弱者優先。日本でもオランダでも、もっともっと自動車のほうを抑制することが交通の安全につながることは間違いないでしょう。自動車が減れば街も人も健康になり、重大事故も減るのですから。自動車を抑制すれば、渋滞による緊急車両到着遅延による人命損害も起こりにくくなる。渋滞のために道路を増やそうとすると、道路維持費がかさんで破綻が見えてくる。『自滅する地方』でネット検索するとその筋のサイトが見つかりますね。

便利であるはずの自動車が不便と危険を蔓延させ、地方の自滅をもたらす皮肉 http://goo.gl/C0aDsB
自動車依存の危険 国交省 http://www.mlit.go.jp/crd/index/pamphlet/01/
脱車社会 ドイツの取組 高齢化も見据え交通網 http://fanblogs.jp/sakurabunama/archive/253/0
自動車とドラッグのどちらが有害か http://goo.gl/wIkcxT
自転車側が第一当事者の割合はたった15.4% 自転車評論家 疋田
http://goo.gl/HJMmlt

それと、日本のマスコミは今すぐ、自動車や道路行政側の問題点を棚上げしての自転車だけを差別的に攻撃する恥ずべき偏向報道をやめるべきですね。

全然割合の少ない自転車加害事故を大仰に取り上げ、抑圧につなげるマスコミ、行政
http://d.hatena.ne.jp/delalte/20111025/1319554054
Posted by greentoptube at November 29, 2014 09:12
話は変わりますが、青少年における『キレる若者論』でさんざん現代の若者はどうかしてる〜だなんだと攻撃しながら、過去と現在の犯罪率を示した統計を正しく出さない手法を取っていた時代と、なんらやり口が変わっていません。

『反社会学講座 第2回 キレやすいのは誰だ』
『少年犯罪は急増しているか』
でそれぞれネット検索をかけてみると詳しい情報が載っています。

『ゲーム脳』というレッテル貼りによるゲーム作品への差別助長報道についてもマスコミの罪や過ちとして有名なところですね。

ゲームをされるとテレビが見られなくなるからゲームを攻撃したり
自転車に乗られると、自動車という乗り物が売れなくなるからといって自転車へ差別的で不公正な報道をして国民を騙したり
そんな歪んだ行為は国民のために正しい情報を供給すべき報道機関として許されるものではありません。
自動車から自転車へ乗り換える人々が増えれば、街は騒音や排ガスから大幅に解放され、自動車という重く危険な車両が減れば重大事故も減り、人々は自転車で健康になるといういいことづくめで、更に街のコンパクトシティ化も進み持続可能性も高まる。地域を思えばこそ自転車なのですよね。
Posted by greentoptube at November 29, 2014 09:26
マスコミの自分勝手な歪んだ情報に踊らされないようになりたいものです。
自転車事故を減らすため、自転車に乗る人を減らそう、などという本末転倒な考えに至らしめる刷り込みをしている機関や団体の襟を正すため、国民はもっと声をあげていきましょう。地域としての尊厳、国としての尊厳に関わります。
自動車が減り、自転車が増えれば

サイクルロード 〜自転車への道/自転車シティで良くなる部分| 自転車都市: ネットワーク: 東京: 自転車レーン: +1LANEPROJECT: http://blog.cycleroad.com/archives/52013931.html

でサイクルロード氏が書き起こして下さったとおり、真に人にやさしい街ができあがるのですから。
日本社会は、自動車を優先させてしまった過ちのすえに、子供や高齢者、ハンディキャップを持つ人から若い歩行者自転車という本来優先されるべき交通優先弱者が、虐げられている構造にあります。クルマではなく、ヒトを優先し活かせる環境づくりのためにも、自転車を安全安心快適に使えるインフラ整備が今後ますます命題化していくことは確実でしょう。
Posted by greentoptube at November 29, 2014 09:26
ななななさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ソーラーパネル自体では、日本の企業もがんばっていると思いますが、ソーラーロードとなると、今のところ日本では需要も見込めませんし、発想、あるいは開発が遅れるのは仕方がないかも知れません。
Posted by cycleroad at November 29, 2014 23:12
greentoptubeさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
オランダの場合は、地域ということだけでなく、国が主導して、全国的に自転車を交通として使うことを強力に推奨しているのがすごいところでしょうね。
日本の地形やもろもろの違いを考えれば、平坦なオランダと単純に比較することは出来ないにしても、自転車ですむ部分は、もっと自転車にしてもいいと思います。
それを、都市の中心部や住宅街の中などまで、クルマが当たり前のようになっているところに問題があると思います。
おっしゃるようなクルマのデメリットも多々あるのに、それを感じなくなってしまい、正しい判断、正しい方向性が見えなくなっている状態と言えるでしょうか。
クルマ優先が当たり前になってしまっていることによる弊害、不幸、不条理をもっと考える必要があると思いますね。
いろいろな参考URLをありがとうございます。
Posted by cycleroad at November 29, 2014 23:30
 
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