ECB(ヨーロッパ中央銀行)は、過去最低となっている政策金利の水準を据え置いています。ユーロ圏では、ディスインフレどころかデフレに陥いるのではないかとの見方が強まり、来年の早い時期にも、国債などの幅広い資産を買い取る量的緩和を含む追加の金融緩和に踏み切る可能性が取り沙汰されています。
ユーロ圏の10月の失業率は11.5%と依然高い水準にあり、景気の低迷でその改善ペースは非常に遅いものとなっています。特に南欧諸国の若年失業率は40%から50%を超える厳しい状況となり、移民排斥運動の激化などの社会不安にもつながっています。

さて、そんな中、イギリスの大手新聞、“
The Guardian”に、興味深い記事が載りました。それによれば、ヨーロッパのサイクリング経済が、65万人の雇用を生んでおり、2020年までに100万人の雇用が生まれると最新の研究が示しているというのです。
これは、鉱業や採石業で働く人口に匹敵し、鉄鋼業セクターで雇用されている人の2倍近いという、決して少なくない人数です。さらに、現在ヨーロッパでの移動手段に占める自転車の割合、3%が2倍の6%に増えただけで、その数は100万人を超える規模にまで拡大するとのサイクリングの雇用創出調査が示されています。
このことは、各国政府や地方自治体に対して、非常に明快な示唆を与えることになると調査では指摘しています。いま現在でも、ヨーロッパ各国における自転車インフラの整備予算は、市民の安全や利便性、気候変動や環境負荷、健康の増進などの観点から正当なものと見なされています。
多くの市民もそれを支持していますが、自転車インフラの整備と、それに伴う自転車人口の増加は、それらだけに留まらず、雇用の増加と経済の拡大、つまり経済対策にもつながると言うのです。この調査では、他のどの交通手段に投資するよりも、効率の高いことは明らかだとしています。

規模が違うので、他との単純比較は難しいですが、投資額のわりに高効率なのは、サイクリング客の増加がもたらす経済効果が、これまでにない新たな需要の創出であったり、より多くの人手を必要とする分野だったり、より広い波及効果があったりすることによるものなのでしょう。
当然ながら、それは自転車そのものの需要の拡大による、自転車の製造や、関連商品の販売といった分野だけではありません。自転車利用の拡大による周辺サービスの需要増加もあるでしょうし、なかでも人々が自転車で出かけることによる観光関連の雇用創出効果が大きいと言います。
ヨーロッパでは、鉄道や高速道路といったインフラの、これ以上のニーズは限られるでしょう。多少鉄道や高速道路が増えても、そのまま旅行需要が増えるとは限りません。一方、魅力的なサイクリングコースが出来れば、ヨーロッパ中からのサイクリング客の来訪が見込めます。
一般的に言って、サイクリングする人が増えることによって生み出される仕事は、他のセクターと比べて、地理的に安定しており、必ずしも熟練を必要としない仕事を多く生み出すとの研究結果が示されています。宿泊やレストランなどサービス関連を考えれば、確かに労働集約型の仕事が多くなるでしょう。

せっかく用地を整備し、苦労して工場を誘致しても、工場は人件費の安い海外へ移転することがあります。一方、サイクリングコースが一旦出来れば、ずっと地元のために働いてくれるでしょう。地理的に安定した効果が見込めることは、地方自治体にも魅力に違いありません。
この調査研究では、自転車インフラ等に投資し、サイクリング客を呼び込むことは、地元企業や住民にとって、思った以上の連鎖的な利益が生まれると強調しています。環境負荷の軽減や渋滞解消、安全の向上や健康といった多くのメリットに加え、経済面、雇用面でもプラスになるならば、これに注目しない手はないでしょう。
近年、ヨーロッパではサイクリング人気が高まり、オランダやデンマーク、ドイツといった伝統的な自転車活用国ばかりでなく、フランスやスペイン、ベルギー、イギリスといった国にまで、自転車の活用気運が広がっています。国境を越えた自転車道のネットワークが整備され、自転車で旅行する人も増えています。

では、日本には当てはまらないかと言えば、そうとも限りません。日本でも最近、自転車都市をアピールしたり、観光客を呼び込もうとする自治体が増えています。もちろん、一方では高速道路や新幹線を誘致することが地域の発展につながるのも確かでしょうし、それを否定するものではありません。
でも、高速道路や鉄道か、自転車環境かの二者択一にする必要もないわけで、これだけ自転車が注目され、サイクリング客が見込めるならば、それを呼び込まない手はないということでしょう。高速や鉄道などのインフラに比べてコストが安いですし、費用対効果は低くないはずです。
高度経済成長時代と違って、今決まっている以上に新幹線や高速道路を誘致するのが困難なのは明らかです。多少、交通の便が良くなったからと言って、すぐに観光客が増えるとも限りません。でも、魅力的なサイクリングコースや自転車環境が、海外からの観光客までひきつける例が各地に出てきています。
日本でも、サイクリング客が注目されるようになり、その誘致に力を入れる自治体が増えているのは、上記のような調査・研究はなくても、自転車客を呼び込むことが、意外に高い経済効果、広い波及効果が見込めるということを実感として感じている自治体が多いからなのでしょう。

バブル時代、観光客を呼び込むために、テーマパークやレジャーランド、その他いろいろなハコモノを作って破綻した自治体がありました。全国に似た例はありましたが、今そのような投資は出来ません。だから世界遺産登録に力を入れたり、ゆるキャラを使ってアピールするなど、知恵を絞っているのでしょう。
自転車道は、それがあるだけで、特に有名な観光名所がなくても、サイクリング客が来てくれる可能性があります。何も無いけれど、豊かな自然があるのが都会の人には魅力的だったりしますし、サイクリング客は、途中のサイクリングが目当てなのですから、極端に言えば、自転車インフラだけでも集客出来る可能性があります。
人が来るようになれば、宿泊や食事の需要も出てきます。地元の特産品が売れたり、地元に雇用を生み出すことにつながるでしょう。そう考えると、今さかんに言われている地方創生という点でも、自転車インフラへの投資は、一つの選択肢になりえると思います。
最近、消滅可能性都市という考え方が示され、多くの自治体が危機感を強めています。やはり地方に雇用が少ないのが問題でしょう。もちろん、サイクリング経済だけで地域を救えるとは言いませんが、日本でも、もっと自転車インフラの経済効果に注目してもいいのではないでしょうか。
徳島では雪で孤立した状態が長引いているようです。オール電化で停電は厳しいでしょうね。
記事の写真などを見ますと、自転車道は車道と併設するのが欧米でも一般的ですね。歩道内を柵で分離するべきという案もありますが、コストの面から考えると全く現実的ではありません。
まず現地の入念な測量・図面の作成は不可欠。設置箇所の土質が劣悪でないか試験する必要があるかもしれませんし、地下埋設物を破損させれば賠償問題のため自治体などとの連携も必要でしょう。土中にそのまま設置できずコンクリート基礎が必要となれば手間は一気に増大します。舗装を削孔するなら産業廃棄物として適切に処理する費用もかかりますし、周辺環境を汚染しないよう配慮も必要です。支柱の設置には支柱打込車を交通規制を強いて(警察から許可が必要)配置しますが、不可能ならば人力で行うしかありません。材料費は膨大なものになりますし、施工状況をビデオカメラで録画したり非破壊試験を行ったりします。施工後も経年劣化によって歪み・沈下が発生したらそのつど補修が必要。まだまだ考慮する箇所はあります。傍目からは柵ってただ地面に挿しているだけに見えますが、実際はものすごく手間がかかるんです。
これを全国の主要な歩道でやるとなったらどれほどの労力となるのか・・・正直考えたくありません。路上駐車などの問題があるとはいえ、やはり現実的なのは欧米のように車道をペイントで分離することでしょう。