January 22, 2015

講習義務が違反を抑止するか

20日、一つの施行令が閣議決定されました。


悪質な自転車運転者に対し、安全講習の義務化を盛り込んだ改正道交法の施行令です。このニュースは各紙が揃って伝えています。それぞれ文章は違いますが、同じ発表を受けての記事です。その中から、東京新聞と日本経済新聞のものを引用します。(下線は私がひきました。)


酒酔い、信号無視、携帯使用運転… 悪質自転車にブレーキ

悪質な自転車運転者に対し、安全講習の義務化を盛り込んだ改正道交法の施行令が二十日、閣議決定された。六月一日施行。施行令は、酒酔い運転や信号無視など計十四項目の違反を「危険行為」と定めた。所管する警察庁によると、三年以内に二回以上、摘発された違反者が講習を受ける。全国での対象者は年間数百人になる見通し。

悪質自転車にブレーキ事故を起こした際、携帯電話を使用していたケースも摘発の対象となり得る。事故を誘発する運転を危険行為として明文化、運転者が「加害者」になる深刻な事故を抑止するのが狙いだ。

危険行為はほかに、一時停止や歩行者専用道での徐行運転義務の各違反、ブレーキのない自転車の運転、歩道での歩行者妨害など。

警察庁によると、危険行為をした運転者はまず、警察官から指導・警告を受け、従わない場合には、交通違反切符を交付される。二回以上の交付で講習の対象となり、受講しないと五万円以下の罰金が科せられる。講習は三時間。内容や方法は施行までに決める。

自転車と歩行者や、自転車単独、自転車同士の事故は二〇〇三年、全国で一万四百四十三件発生し、うち死亡事故は六十一件だった。だが一三年には八千百四十一件で死亡事故は九十三件となり、死亡事故が割合、件数とも増えている。

◆相次ぐ事故 高額賠償の例も

悪質自転車にブレーキ日本損害保険協会によると、自転車に乗っている人が加害者となる事故で、高額の賠償を命じる判決が相次いでいる。

神戸地裁は二〇一三年七月、自転車に乗って坂道を下っていた男児=当時(11)=が、歩いていた女性=同(62)=と衝突し、女性がけがをして寝たきりとなった事故で、男児の保護者に九千五百万円の損害賠償を命じた。

こうした動きに、兵庫県は全国で初めて、自転車の所有者に保険加入を義務付ける方針を打ち出した。早ければ今年二月議会に条例案を提出する。東京都も自転車利用に関する条例を制定し、保険加入を努力義務としている。

自転車の場合、自動車と違い強制保険はないが、火災保険や自動車保険に「個人賠償責任補償」の特約がついていることが多い。(2015年1月20日 東京新聞)



自転車、摘発2回で講習 信号無視など危険行為対象に

悪質な自転車運転者に対し、安全講習の義務化を盛り込んだ改正道交法の施行令が20日、閣議決定された。6月1日施行。施行令は、酒酔い運転や信号無視など計14項目の違反を「危険行為」と定めた。所管する警察庁によると、3年以内に2回以上、摘発された違反者が講習を受ける。全国での対象者は年間数百人になる見通し。

摘発2回で講習事故を起こした際、携帯電話を使用していたケースも摘発の対象となり得る。事故を誘発する運転を危険行為として明文化し、運転者が「加害者」になる深刻な事故を抑止するのが狙いだ。危険行為はほかに、一時停止や歩道での徐行運転義務の各違反、ブレーキのない自転車の運転など。

警察庁によると、危険行為をした運転者はまず、警察官から指導・警告を受け、従わない場合には、交通違反切符を交付される。2回以上の交付で講習の対象となり、受講しないと5万円以下の罰金が科せられる。講習は3時間。内容や方法は施行までに決める。

自転車と歩行者や、自転車単独、自転車同士の事故は2003年、全国で1万443件発生し、うち死亡事故は61件だった。だが13年には8141件で死亡事故は93件となり、死亡事故が割合、件数とも増えている。(2015/1/20 日本経済新聞)


すでに、この施行令の内容については、以前から報じられていました。それが今回、閣議決定されたことで、この施行令は6月1日に施行されることになります。自転車に対する取り締まりを強化する方向へ、また一歩踏み出した形です。

ところで、これまで報道されていたのは、『悪質な運転を繰り返した自転車運転者への安全講習義務付け』というものでした。おそらく多くの人が思ったのは、厳重注意や指導を複数回受けると講習というイメージだったのではないでしょうか。私もそう理解していました。

ところが、報道にある文章を読むと、そうではないようです。報道の通りならば、指導・警告を受けても従わない場合に違反キップが交付されるとあります。自転車には青キップはありませんから、当然赤キップです。この赤キップを3年に2度以上交付された者が講習ということのようです。

上の記事、下線をひいたのは私ですが、『交通違反切符を交付』とはっきりと書かれています。他の報道は、読売や毎日、産経も『3年間に2回以上摘発された運転者』です。朝日新聞は、『危険行為を3年に2回繰り返した』と多少曖昧な表現ですが、ほかの社を見ても、だいたい摘発2回などとなっています。

罰則強化摘発2回で講習が義務付けられ、それ受けないと、さらに赤キップということで、罰則を重くすることには間違いありません。ただ現状で、自転車に対して赤キップが交付されるケースが極めて少ないことを思えば、実際に講習を受ける人が出てくるのでしょうか。

自転車に対して赤キップが交付されれば多くはニュースになりますが、年間何件も聞きません。ニュースにならずに検挙されているのかも知れませんが、それにしても、これまでは少なかったはずです。クルマに青キップがあるのと比べて、著しく不公平になるという見方から、積極的には切られてきませんでした。

最近は検挙数が増えたのかも知れませんが、それでも3年間で2回赤キップを切られた人が、全国で数百人になるほど増えているという実感はありません。あるいは、その程度の数になるくらい、取り締まりを強化し、赤キップの交付数を増やしていくということなのでしょうか。

赤キップの交付数が増えたのに、繰り返し赤キップになる人が多いと言うなら、赤キップ2枚で講習義務付けという、次の段階の罰則強化を図るのも頷けます。赤キップ交付を増やす意向を固めた上で、その先の罰則も設定しておくということなのでしょうか。何か釈然としないのは私だけでしょうか。

私の解釈では、なるべく赤キップの交付は避ける一方で、クルマにおける青キップのような役割として、安全講習の義務付けをするのかと思っていました。おそらく多くの人が、そう思ったのではないでしょうか。報道の通りなら、そうではないことになります。

罰則強化だとすると、私の先入観ということになりますから、素直に読めば、今回の施行令は14の悪質運転危険行為を定め、取り締まりを厳しくするのが主旨なのでしょう。それに伴い、赤キップの交付数が増えることになるのは必至と思われますが、さらに、それでも違反を繰り返す人に講習の義務付けということなのでしょう。

だとしても、問題は実際の運用がどのようなものになるかという点です。私は自転車の違反で警官に止められたことがないので、よくわかりませんが、違反者を摘発しようとする時、身元の確認はどうするのでしょうか。自転車には免許もなければ携行の義務もありません。

実際問題として、身元を証明するようなものを持っていないケースは、いくらでもあると思います。とりあえず交番などに同行してもらい、身元引受人を呼ぶのでしょうか。もちろん、一般の軽犯罪などでも、そのように対処するのでしょうから、十分可能だとは思いますが、時間がかかります。

いちいち自転車の違反者の身元確認に、そのような手間をかけて取り締まっていたら、違反者の多さに到底追いつかないでしょう。かと言って、口頭で名前や住所を言わせるのも、本当のことを言うとは限りませんし、確認する手立てもないのではないでしょうか。

また、仮に赤キップを3年間で2枚以上受けた人が、年間、全国で数百人程度になるくらい検挙されたとしても、全国で自転車に乗る人の数から考えたら、ごく一部に過ぎないことになります。クルマのドライバーの数と、その中で違反して検挙される数を考えれば、その少なさは明らかです。

摘発2回で講習義務化そして、全国で1年に数百人が講習を受けさせられたとしても、果たして、そのことでどのくらいの違反の抑止効果が見込めるでしょうか。焼け石に水のような気がしないでもありません。赤キップを切るというスタイルが基本的に変わらないとするならば、どれほど実効性のある取締りが出来るのでしょうか。

もちろん取り締まりは強化すべきです。一時停止どころか、徐行すらせずに飛び出してきたり、後方を確認もせず進路変更するような、信じられないような危険な人もいます。歩道でスピードを出し、歩行者をぬうように走行する人も、相変わらず少なくありません。他の自転車や歩行者に対して大きな危険を生じさせています。

こうした悪質な利用者に対する取締りの強化は、多くの人に異論のないところでしょう。同じ自転車乗りにしても、危険で迷惑と感じている人は多いはずです。こうした違反を繰り返す人が一部にいることで、サイクリスト全体のイメージ低下にもつながっているわけで、その点でも甚だ迷惑な話です。

悪質な違反に対して、取締りを厳しくし、罰則を重くすることに異論はありませんが、今回の施行令が、どれほどの効果をあげられるのかについては、未知数な部分があるのは否めません。おいおい明らかになってくるでしょうから、今後の推移について、引き続き注目していきたいと思います。




期限の時刻が迫る中、交渉の進捗は聞こえてきませんが、何か有効な手立ては打てているのでしょうか。

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この記事へのコメント
行政で自転車対策に携わる者です。
交通課の警察官が言っていたことと、実際に取り締まられた知人の話を紹介します。
警察官:「自転車の道交法違反の摘発は、青切符の対応がないので、即赤切符を切ることになり、簡易裁判所から出頭命令がきます。ただし、初犯で悪質でなければ、だいたい不起訴でお説教を受けて返されます。」という趣旨の話を講習会の中でしていました。
知人:ロードバイクで国道の車道を走行中、脇道との交差点の赤信号で脇道からの車が無かったので、進行したところ警察官に止められ、信号無視で赤切符を切られた。出頭命令に従って簡易裁判所にいったところ、不起訴で始末書を徴取された。

これらの話から、今後は「指導、警告を受けても従わない場合は赤切符」というこれまでの対応ではなく、赤切符が頻出されるのでないか、いや、されているのではないかと推測されます。したがって、刑を受けたものが講習会を受けるというよりも、赤切符の交付で講習会の対象を特定し、受講させるのが狙いではないかと考えます。
「免許制⇒青切符による行政処分」ができない自転車に対する指導強化の手法なのでしょう。的確な取締りにより、効果的に運用されることを期待します。
Posted by mochy at January 26, 2015 10:27
mochyさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
なるほど、不起訴ということですか。青キップの制度がないので、起訴にいたる運用で、事実上の青キップのような効用を実現させるという考え方なのでしょうね。
赤キップがきられて、不起訴になったとしても、不起訴2回で講習、講習を拒否すれば赤切符ということなら、辻褄があいます。
段階的に罰則を設けて、取締りの実効性をあげることにもなります。
とても参考になりました。貴重な情報をありがとうございました。

Posted by cycleroad at January 26, 2015 23:09
お久しぶりです。こんばんは。

僕自身は、最近は赤切符の交付が増えているのを感じていました(具体的な数字はあまり出てないのですが、「赤切符による検挙数が過去最高になった等の報道を聞いていたので」)。なのでこの講習対象となるのは「赤切符をもらってもなお反省しない悪質な利用者」と理解していました。ただmochyさんのコメントによれば実際は赤切符を受けてもほとんどが不起訴処分ということで、これが実質の青切符がわりになっていたんですね。

不起訴処分2回の先の講習義務。これの拒否で本当の赤切符ということであれば以前よりも警察の取り締まり姿勢が強化されたといえます。いきなり赤切符で前科はさすがに重すぎましたが、このように段階を与えれば自動車の青切符に対する不公平感も少しは和らぎますね。特に悪質な利用者だけでなく、社会一般に自転車のルールを周知するきっかけともなりそうで、かなり期待できそうです。
Posted by さすらいのクラ吹き at February 02, 2015 19:44
さすらいのクラ吹きさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も、赤キップが増えたとの報道は見ていましたが、自分の周囲では聞きませんし、いまいち実感としては感じられていませんでした。
おっしゃるように、最初2回の赤キップが不起訴で、その後に講習、拒否で赤キップということであれば、罰則の強化と言えるでしょう。
ただ、このことが、あまり広くひろまってしまうと、抑止効果をそぐことになってしまいそうですね。
Posted by cycleroad at February 02, 2015 23:37
 
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