前々回、前回と、イギリス・ロンドンの自転車インフラについて取り上げました。ロンドンは、ボリス・ジョンソン市長の「自転車革命」によって、急速に自転車レーンや自転車シェアリングなどの整備が進み、ロンドンオリンピックの成功ともあいまって、一躍自転車先進都市として注目されるようになりました。
さらに、その自転車インフラを高規格化した自転車スーパーハイウェイの整備計画が進んでいることも書きました。いまや自転車はロンドン市民の大量輸送手段であり、都心の高架のクルマ専用の道路の一部を自転車用にしてしまうという、日本ではちょっと考えられないような大胆な計画も進んでいます。
ロンドンでは、自転車レーンの設置が進められ、オリンピック期間中の渋滞や公共交通の混雑回避のため、多くの市民が自転車を活用しました。2005年のバスや地下鉄を狙った同時多発テロの発生で、公共交通が敬遠された影響もあり、その後も多くの市民が自転車から元の手段に戻りませんでした。
このことによって、あらためて自転車の利便性や速度、合理性などが広く市民に実感されたのは間違いないでしょう。反対する人たちもいますが、自転車スーパーハイウェイ構想にサイクリスト以外に企業などからも支持が寄せられている背景には、こうした市民の実感があってこそと思われます。
最初から高規格の自転車インフラだったら、市民のコンセンサス、支持が得られたかどうかは定かではありません。しかし、いまやロンドンにおいて、自転車インフラの充実は、市民の願いでもあります。このことが、さらに大胆な自転車インフラ構想を引き出しています。
イギリスの大手新聞、“
The Guardian ”は、使われなくなった地下鉄のトンネルを利用した、いわば地下自転車道、“
The London Underline ”という構想が、建築事務所“
Gensler ”によって提案され、ロンドンの開発の優れたアイディアを募集する“
London Planning Awards ”で表彰されたと報じています。
ちょうど、その内容をサンスポが報じているので引用しておきます。
人口過密都市の救いになるか?
電力を自活する自転車道「ロンドン・アンダーライン」 旧地下鉄トンネルを再生する新インフラ案
ロンドンで、現在は使用されていない市内の地下鉄のトンネルを再生して自転車道を作る構想が浮上し、話題を呼んでいる。イギリスの新聞「ガーディアン」のウェブサイトは、「棄てられた“チューブ”トンネルに自転車道 『ロンドン・アンダーライン』はホンキ?」と報じた。
「最も革新的なプロジェクト」として表彰
ロンドン・アンダーライン(The London Underline)構想は、ロンドン市に貢献するアイディアを広く募集する「London Planning Awards」(2015年)に対し、建築デザイン事務所「ゲンスラー」が提出したプロジェクトだ。応募された企画の中で「最も革新的なプロジェクト」として表彰を受けたとして、同社が2月3日にニュースリリースで公表した。
構想では、「チューブ」の愛称で親しまれるロンドンの地下鉄のうち、使用されていないトンネルを活用し、サイクリスト用と歩行者用のトンネル2本を並行して設ける。さらにカフェや、オンラインショッピングで購入した製品の受取りスポットなども内部に併設するという。
また、路面には、通行者が歩いたり走行したりした際に発電する「Pavegen」(ペイヴジェン)社のタイルを採用。“世界で初めて電力を自活する交通網”が実現するとしている。
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交通輸送能力の不足などさまざまな問題を解消
ゲンスラーが作成した動画は、今後数十年のうちに、ロンドン市内では移動手段のキャパシティが不足すると指摘。ロンドン名物のタクシーや2階建てバスでは輸送能力が足りず、市内在住者だけでなく旅行者にとっても課題になるという。また、二酸化炭素を排出する交通手段への依存は、温暖化対策など環境面でも不安が残る。
さらに、ロンドンで急増しているサイクリストにとっては、過密な交通環境を走る危険性や、雨天時の不快感といったサイクリング時の難題も見落とせないポイントだ。ゲンスラーは、ロンドン・アンダーラインが実現すれば、そういった問題をすべて解消できるとアピールしている。
ゲンスラー・ロンドンの共同ディレクターを務めるイアン・マルカーイー氏(Ian Mulcahey)はプレスリリースの中で、「ロンドンの人口は歴史上最も多い水準に達し、既存のインフラを最大限活用する方策を創造的に考えなければならない。現在使われていないチューブや列車のトンネルを活用することができれば、短期間で無駄のないインフラネットワークの増加を望める」と述べ、構想の実現に期待を寄せている。(2015/02/06 サンスポ)
もちろん、現段階で実現するかどうかはわかりませんが、サイクリストにとって興味深い構想です。実は、既にスペインに、使われなくなった鉄道用の
トンネルを使った自転車専用道 はありますが、元地下鉄の線路を利用した自転車専用道というのは初めてではないでしょうか。
以前取り上げましたが、ロンドンには、テムズ川の上に浮かぶ自転車道を作ってしまおうという構想もあります。また、高架の線路跡などを使った自転車ハイウェイを整備しようという構想や、鉄道の線路の上空の空間を利用しようという構想などもあります。今度は地下というわけです。
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費用や安全面など、さまざまな課題もあるでしょうから、実際問題として、実現可能かどうかはわかりません。ただ、日本人の常識からすれば突飛とも思えるこのような構想が真面目に披露されるのも、自転車の都市交通としての可能性に、理解が深まっているからと言えるでしょう。
日本では、今はまだ夢物語だとしても、ロンドンでも昔は想像もつかなかったことを思えば、決して可能性がないわけではないと思います。多くの人が、自転車での移動が合理的だと認識すれば、日本でもこのような構想が語られる日が来るかも知れません。
もちろん、地下自転車道の場合、まず何と言っても、地下鉄で廃線になったところがあるのかという問題があります。私は聞いたことがありませんし、無さそうに思えます。でも、それは知らないだけで、鉄道マニア、それも廃線マニアの中には、昔の資料を調べるなどして、その存在を指摘している人もあるようです。
東京で言えば、都営浅草線の西馬込から引き込み線とか、銀座線の旧万世橋駅付近や新橋付近、表参道付近、京成線の旧寛永寺坂駅近辺、京王電鉄の初台付近、新宿駅の地下など、使われなくなった部分、あるいは掘ったけど計画が変更になった部分、知られざる連絡線などが多数存在するようです。
国会議事堂の地下に極秘の路線があったとか、地下鉄の工事の時に使ったトンネルがあるとか、私たちの知らない、あるいは忘れ去られた地下の遺構が存在するという話もあります。どこまで本当で、どこから都市伝説なのかは知りませんが、実際に存在が確認されているものもあるようです。
中には、羽田空港の拡張により移転になった、旧羽田空港のターミナル駅などにつながるトンネルのように、埋め戻されてしまったものもあるそうです。仮に地下に遺構として残っていたとしても、今から再利用できるか、安全面などで無理があるものも少なくないに違いありません。
ただ、使えそうな地下の廃線がなかったとしても、探せば使える場所は、ほかにもありそうです。地下ではないですが、例えば高架の線路の下や、高架の高速道路の下などです。現在は、分断されて駐車場や駐輪場、資材置き場などに使われているものの、あまり有効利用されているように見えない場所もあります。
整備しなおせば、自転車専用道として有用なところもあるに違いありません。実際に可能かどうかは別として、地下を通る洪水時に雨を逃がす放水路とか、大規模共同項の点検用通路とか、一般に知られていない地下の施設で、利用もしくは共用可能なものもあるかも知れません。
コストの問題はありそうですが、鉄道の上空の空間などを利用する手は日本でも考えられるでしょう。川や運河を利用することも考えられないわけではありません。素人考えで、専門家から見たらナンセンスかも知れませんが、意表をつくような自転車道を通す場所はないかと考えると、なかなか面白いものがあります。
現状、日本では、広く賛同が得られるとは思えず、現実的とは言えません。ただ、ロンドンもそうだったことを考えれば、将来、驚くようなプランが俎上に乗らないとも限りません。特に、連続した細長い空間である高速道路や鉄道の高架下は、十分可能性があると思います。
自転車レーンを設置すべきは、歩道か車道かなどと議論している状態では、夢のまた夢と言わざるを得ません。しかし、いつの日か、出来ればそう遠くない将来、次世代の自転車インフラについて、現実的な構想として話せる日が来ることを期待したいものです。
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サッカーの代表監督の後任選びが混迷しているようです。問題のある監督を選んでしまった責任は問わなくていいんでしょうか。
3回にわたるロンドンの記事、興味深く読ませていただきました。そのうえで質問があります。2014/8/31「東京の自転車インフラの未来」などで、対面通行について批判的な意見を書かれていますが、ロンドンの計画イラストには各所に対面通行が描かれています。ロンドンの計画についてはおおむね肯定的な意見と受け取りましたが、対面通行についてはどういうお考えでしょうか。