2014年には過去最高の年間1千3百万人を超す旅行者が日本を訪れ、消費額も2兆円を超えました。政府も、その経済波及効果の大きさに注目し、従来のような輸出などの産業振興だけでなく、ビザの発給要件の緩和や免税制度の拡充など、観光振興に力を入れるようになってきています。

増えてきている訪日外国人ですが、首位のフランスの8千3百万人に比べれば、まだまだ少ないと言わざるを得ません。2013年時点での観光客数は世界で27位、アジアでも8位と、周辺の各国に比べても大きく遅れをとっている状態です。
つい先日も、春節の休暇で日本を訪れた中国などの観光客の、いわゆる爆買いが大きく報じられていましたが、ここのところの円安や原油安による航空料金の値下げが、観光客の増加の背景にあるのは間違いないでしょう。この傾向が一過性のものとならないよう、日本にもっと興味をもってもらう必要があります。
買い物目的の訪日も歓迎ですが、それだけでは為替の変化もありますし、飽きられてしまう可能性があります。日本の家電製品や化粧品、医薬品などの魅力を否定するわけではありませんが、買い物以外の魅力をアピールしていく必要もあるでしょう。
買い物以外、日本製品以外にも日本の魅力はたくさんあります。政府がクールジャパンとして力を入れるアニメやファッションなどの日本文化や和食も魅力でしょう。京都や奈良などに代表される歴史や文化遺産なども見所です。街がキレイで人々が親切というホスピタリティーもその一つには違いないでしょう。

ただ、それ以外に、日本人には当たり前すぎて気がつかない魅力も日本にはあります。例えば自然の魅力です。自然と言われても、それほどアピールするものがあるだろうかと思ってしまいますが、外国人にとっては、四季折々の日本の美しい自然も大きな魅力となっています。
日本は降水量が多く、地形も変化に富んでおり、四季折々の自然が見られます。世界には四季の変化の乏しい国も少なくないですし、中国や東南アジアの人にしてみれば、雪というだけで珍しかったりします。日本人だと紅葉くらいしか意識しませんが、四季折々の魅力があるはずです。
日本は、実は世界的に見ても珍しい、生物多様性の高い地域とされています。生物地理学上は、生物多様性ホットスポットなのです。生物多様性と言えば、熱帯雨林のジャングルなどを思い浮かべますが、実は私たちも、動植物が世界的に見ても多様な場所に住んでいるのです。

例えば、日本人には見慣れたニホンザルも、欧米人から見ると、とても珍しい動物です。なにしろ、欧米諸国で国内にサルが住んでいる国はありません。さらに熱帯の動物であるはずのサルが雪の中にいるという珍しさです。ニホンザルはスノーモンキーと呼ばれ、他にない特別な存在なのです。
雪の中で温泉につかるサルは、世界にも稀な珍しい光景として、わざわざそれを見に来る人も少なくないと言います。そのほかにも、日本の動植物の多様さや、緑が深く、変化に富んだ地形と季節の移り変わりとがあいまって、外国人からすると珍しい光景と自然に恵まれた場所と言えるのです。
山がちで細長い国土のため、都市と山や海とが近いことも利点かも知れません。東京で言えば高尾山がミシュランの三ツ星の観光スポットとされるのも、都心から近いのに、豊かな自然の中で登山を楽しめるという立地のよさが大きな要素だと思われます。
そうした日本人自身にはわからない、日本の自然の魅力をアピールしたり、受け入れ態勢を整えていくことも、為替や流行に左右されない観光振興として重要でしょう。さらに、取り立てて自然の魅力のないように見える地域でも、観光客を誘致できる可能性があります。
日本人から見ると、山の中で何も無いように見える場所が、実は豊かな自然を味わえる場所として高く評価される可能性があります。山の中で、人も住んでいない、木々が鬱蒼と生えているだけの場所が、都市部から、そう遠くなくアクセス出来たりします。

参考になる例があります。南米はエクアドル、首都キトの近郊にある“
Mashpi Lodge”です。自然に囲まれた、緑の深い中に立っています。極端に言えば森があるだけですが、ここの自然の中での体験が観光客の大きな魅力となっているのです。
その中で面白いのは、空中を行く自転車、スカイサイクルが設置されていることです。森の中にワイヤーを張り、観光客はそのワイヤーに吊り下げられたスカイサイクルに乗り、森の中をペダルをこいで移動します。いつもの視線とは違って、上から森を眺められる、ちょっとした冒険です。


しかし、よく考えると、この方法はリーズナブルです。森の中に遊歩道を作ってしまうと、生態系を破壊する恐れがあります。観光客が踏み荒らして植物が枯れたりすると、景観が変わってしまう可能性もあります。このスカイサイクル方式ならば、自然へのダメージを最小限に森の中を移動できます。

また、谷のような地形では、谷を超えるだけでも時間がかかります。山歩きをする人ならわかると思いますが、つづら折りに谷へ下り、また上るだけで、直線ではわずかな距離を行くのに大きな時間がかかってしまいます。平坦な場所と違って、それだけで大きく体力も消耗してしまいます。

もちろん、そのような森の中を歩く体験も素晴らしいですが、地形によっては移動ばかりに時間をかけることなく、森の中の散歩を楽しめる方法でもあるわけです。足元ばかりを気にしてしまい、周囲の自然や動植物の観察が疎かになってしまうこともありません。
かと言って、エンジンのついた乗り物では雰囲気ぶち壊しですし、ケーブルカーのようなものだと大掛かりで、コストも高く、自然への負荷も大きくなります。ワイヤーによるスカイサイクルくらいが、ちょうどいい、自然とフィットする手段と言えそうです。
日本にも、山奥で何も無いけれど自然は豊富にあるという地域は少なくありません。温泉でも出れば別ですが、そうでないと見向きもされません。しかし、やりようによっては自然観察や、自然の中で過ごす体験を演出し、観光客を呼び込むことが出来る可能性がありそうです。
日本に住んでいると、買い物や食事、一般的な観光地以外の日本の魅力に気づかない場合があります。温帯モンスーンで降水量が多い四季折々の気候と、南北に長く多様な地形が作り出した景色や、生物多様性ホットスポットでもある、恵まれた自然もそうです。そんな貴重な自然もアピールし、観光に生かさない手はないと思います。
WHOが、大音量の音楽視聴で世界の若者10億人超に難聴リスクがあると警告しています。日本でも、もっと注意喚起すべきな気がします。