March 08, 2015

渋滞のない東京は実現するか

首都高の中央環状線が全線開通しました。


構想から半世紀たっての完成です。


中央環状線が全線開通=新宿−羽田20分に−首都高

東京都心を取り巻くように計画された首都高中央環状線(約47キロ)が7日、計画から約50年を経て全線開通した。中央環状線の外側にある東京外かく環状道路(外環道)、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)を加えた首都圏の3環状道路のうち、最初の全線開通。羽田空港へのアクセス向上や都心の渋滞緩和につながることが期待されている。

全線開通中央環状線は7日午後、大橋ジャンクション(東京都目黒区)〜大井ジャンクション(同品川区)までの約9.4キロが開通した。これに先立ち午前には舛添要一都知事や太田昭宏国土交通相が参加して同区間のトンネル内(品川区)で開通式が行われ、舛添知事は「中央環状線が全線つながることでさまざまな波及効果が期待できる。2020年の東京五輪・パラリンピックを目指し、(東京を)世界一の街にしたい」と語った。

国交省によると、全線開通により現在約40分かかる新宿−羽田空港間は約20分に短縮される。車両通行量が分散し、中央環状線内側の首都高の渋滞を約4割緩和する効果も見込まれる。さらに、東京港や横浜港など湾岸エリアに陸揚げされる大量のコンテナ貨物の輸送では、環状7号線など一般道を通らずに済むようになる。物流の大幅なスピードアップにより、首都圏の国際競争力の強化が期待される。

首都圏の骨格的な道路として、3環状道路が計画されたのは1963年。中央環状線は最も内側にあり、新宿や渋谷などの副都心エリアを環状につなぎ、東名高速や中央道など東京から放射状に伸びる各高速道路に接続する。総事業費は約2兆円に上る。(2015/03/07 時事通信)


都心から放射状に伸びる高速道路に対し、環状道路が決定的に不足していることは誰もが認めるところです。ようやくその一つである中央環状線が全線開通しました。これによって、都心環状まで行かずに都心を迂回出来るようになるので、大きく利便性が向上することになります。

計画されている3環状のうち、外環や圏央道は、まだ未完成ですが、まず一つだけでも完成したことで、都心を通過するだけの車輌が減り、渋滞の緩和にも大きな効果が見込めるでしょう。さまざまな方面への波及効果も期待されます。

舛添東京都知事ただ、個人的に、少しひっかかったのが舛添都知事の発言です。上の記事では単に東京を世界一の街にというだけですが、他の報道を見ると、もっと踏み込んだ発言をしています。それは、「2020年との絡みでいうと、東京は、世界で一番初めに、都心の混雑は一切ない街になり得る」というものです。

世界の大都市の中で東京は渋滞のない都市になることを目指している」とも発言してします。ようやく念願の中央環状の残り9キロちょっとが開通したのは、おめでたいことですが、はたして東京の都心部が、本当に渋滞の無い状態になるのでしょうか。

迂回できるようになって、渋滞する都心を迂回するクルマは確実に増えるでしょう。しかし、それによって都心の渋滞が減るぶん、これまで渋滞を敬遠していた人が、クルマで都心に向かうようになるかも知れません。物理的に抑制しない限り、新たに流入する交通量が増えるということは十分考えられます。

今回の完成で、クルマの流れは変わるでしょう。浜崎橋とか箱崎、三宅坂などの交通量は減ると思います。でも例えば小菅や堀切などの通行には、何ら変わることがないので、相変わらず渋滞すると思います。また、これまでの経験で言えば、スムースになる場所がある一方で、新たにボトルネックになる部分が出てくるはずです。

酷い渋滞が起きていた場所が拡幅された途端、これまでその場所を敬遠していたクルマが流入したり、その場所がスムースになった分、交通量が増大して、別のところがボトルネックとなって渋滞がさらに酷くなるようになった例は、枚挙に暇がありません。

全線開通都心部の渋滞を解消するため、迂回させることは有効だと思います。それによって住環境も改善しますから、基本的には否定するものではありません。ただ、一方で、必ずしも環状線が完成すれば、渋滞がなくなるというものでもないのではないでしょうか。

日本よりはるかに環状線の整備されている都市、例えば北京とかソウルなどを見ても酷い渋滞が起きています。渋滞が減って走りやすくなれば、新たな流入が発生して交通量が増える、いたちごっこです。ただ道路の整備をどこまでも進めればいいという単純なものではないような気がします。

元々、環状線が開通していない以外にも、多くの設計上の不備、あるいは構造的な欠陥と言わざるを得ないようなものが首都高にはたくさんあります。2車線と2車線が合流するのに、合流後も2車線というような、構造的に渋滞を誘発するような構造が、あちこちにあります。

そういう不備をいちいち改善するには、都市部だけあって莫大な費用がかかります。この中央環状線の全通も半世紀がかりです。他の2環状には、まだ計画すら出来ていない部分も残っています。そんな状態で、果たして「東京は、世界で一番初めに、都心の混雑は一切ない街になり得る」のでしょうか。

今後、長期的には交通量の減少が見込まれる中、財政的な問題もあります。道路も含めたインフラの老朽化が進み、その修繕や更新も必要になってくるでしょう。渋滞を減らすこと、迂回させるという理念は否定しませんが、だからと言って、がむしゃらに道路の開通や拡幅を強力に押し進めるのが正解なのでしょうか。

示唆を含むと思う例があります。クルマメーカーのフォードが、新しいコンセプトを発表しています。フォードのロゴの入った電動アシスト自転車を開発し、自社のクルマと組み合わせ、折りたたみ自転車を載せたクルマという形を提案しています。

Ford Smart Mobility PlanFord Smart Mobility Plan

考え方としては目新しいものではありません。クルマで出かけて、渋滞する都市部を避けたり、都心で駐車場の空きを探すのが困難な場所を避けて周辺部で駐車し、そこから自転車の機動力をいかして移動するという考え方です。クルマと自転車を組み合わせて移動するというスタイルを提案しています。

Ford Smart Mobility Plan

折りたたみ自転車なので、途中でたたんで電車で移動することも出来ます。渋滞や駐車場の混雑はあるものと割り切り、すべてクルマで移動するという考えを放棄しています。渋滞や混雑はなくならないから、それと共存し、うまく回避しようという考え方です。現実的てかつ有効なスタイルでしょう。

アマゾンの例も報告されています。アマゾンと言えば、いかに素早く、効率的に配送するかを考え、無人ヘリ、ドローンで配達する構想を打ち出して話題になりました。他社との競争を勝ち抜くため、即日配達や、例えばニューヨークのマンハッタンでは1〜2時間で届けるサービスなども計画しています。

速さや効率を追求するためなら、新たなテクノロジーを投入し、リスクやコストの増加も厭わないのかと思っていたら、そうでもないようです。やはり渋滞が多い都心では、自転車が有利と、シンプルにメッセンジャーを使う構想を打ち出しています。

amazonspeedy delivery

コストはかかっても、最新のテクノロジーを使ってイノベーションを起こそうというのではなく、オーソドックスに自転車を使おうというのです。やはり、都心部では自転車が一番速いし、合理的との判断なのでしょう。これを“Amazon Prime Now”と呼ばれるサービスに使おうとしています。

このサービス、ニューヨーク・マンハッタン内のユーザーを対象に、在庫があれば1〜2時間で届けるというものです。ミッドタウンにメッセンジャーたちの休憩所兼基地をつくり、そこに商品倉庫を併設して集積所とすることも検討しており、現在テスト中だと言います。

もちろん、将来ドローンの利用が解禁されれば違ってくるかも知れませんが、きわめて妥当な判断だと思います。渋滞があることを前提にすれば、やはり一番速いのは自転車であり、合理的で現実的な方法と言えます。これも、渋滞と共存していく知恵と言えます。

開通式東京都知事も、オリンピックに向け、なんとか3環状の整備を間に合わせ、渋滞のない都市の実現をと力が入るのでしょう。その必要性は認めますが、ただでさえクルマ優先の道路整備において、さらに巨費を投じて、クルマの通行のスムースさだけを重視する姿勢には、若干の違和感を感じずにいられません。

実際に渋滞が無くなればいいですが、環状道路が増えても、相変わらずどこかがネックとなって渋滞するような気がしてなりません。一般道も含め、今までひたすら道路の整備や拡幅が行なわれてきましたが、渋滞は相変わらず無くなることはありません。

環状道路が決定的に不足している欠陥を是正するわけで、東京の悲願とも言えるものですから、整備を進めるのは否定されないと思います。しかし、本当に渋滞を減らすには、クルマの利用を減らしたり、代替したり、クルマより便利だったり速い方法を普及させ、シフトさせたり、分散させるほうが賢い 気がします。

ロンドンでそうだったように、オリンピック期間のある程度の渋滞は仕方がないと割り切り、自転車を活用するフレキシブルな方法、柔軟な対応をとることも、少なくとも一つの手だと思います。道路整備は否定しませんが、少しクルマ優先へ偏り過ぎていないか、考えたほうがいいのではないでしょうか。




JAXAの宇宙太陽光発電、楽しみですが、まだまだ時間がかかりそうなのが残念なところですね。

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この記事へのコメント
私がまだ地方に住んでいた時、自動車で大阪に行き周辺の少し料金の安い駐車場に車を置いて、自転車で周るという事をしておりました。
梅田、心斎橋、難波あたりを動く程度なら電車でも良かったのですが、ある程度の範囲を歩く事が多く、電車を使うまでも無いけど歩くと遠い、そんな感じだったので8万円程度の少し高い小径ホイルの折り畳みが出来る自転車を使っていました。
(趣味にされている方にとっては高い内に入らないでしょうが・・・)
全て車で移動、は無駄に時間と手間とお金が掛かってしまう半端な範囲だったので早々に止めました。

自動車のメーカーはそんな人が居る事、そんな用途が丁度良いであろう人が居る事を知っているのでしょうね。

先日から墨田区6号線の自転車レーンを走るようになりましたが、言問橋東から少し行った所から東向島の少し手前まで若干切れる部分もありますが、自転車道になっておりました。
現在も工事しているので綺麗に繋がるのだろうと思います。
自動車でも自転車でも走りにくかったのが、ずいぶん快適になって少し感動しました。
アスファルトの小石が散ってますので拾ってぱちぱちなっていますが。
難はやはりと言いますか、路上駐車ですね。
Posted by h at March 09, 2015 02:45
 フォードの自転車搭載自動車(名前がくどいな)を見て、2011年のGM騒動を思い出しました。GMが自転車乗りを馬鹿にする(自転車に乗っていては女性にもてないよ、といった感じでしょうか)ような広告を出した一件です。

Ref. "GM Anti-Bike Ads Get an F on College Campuses"

ひょっとして、その騒ぎのせいでフォードが今回の企画を打ち出したのか、と思ったくらいです。
Posted by hyrax at March 09, 2015 14:22
迂回できるようになって、渋滞する都心を迂回するクルマは確実に増えるでしょう。しかし、それによって都心の渋滞が減るぶん、これまで渋滞を敬遠していた人が、クルマで都心に向かうようになるかも知れません。物理的に抑制しない限り、新たに流入する交通量が増えるということは十分考えられます。


サイクルロードさん、これぞ、まさに、とったところだと私も思います。渋滞解消のために自動車のための道路を作っても、自動車でそこを通る台数が増えて渋滞が起きて、結局、キリがないんですよね。道路を作れば環境は破壊されますし、排ガス騒音は地域負荷も高い。
結局、自動車利用、特に自家用自動車を抑制することが根本的な解決になり、住み良いコンパクトシティの実現にもつながるのですから。
Posted by GreenTopTube at March 10, 2015 07:46
自動車乱用による渋滞は、救急車や消防車なので緊急車両の到着遅延による人命損失もありますしね。

渋滞で動けない救急車
https://www.youtube.com/watch?v=uC9IPDyFgs8

他にも、Youtubeなどの動画サイトで「救急車 渋滞」で検索すると、同様の動画がヒットします。
自動車乱用は、その重量と速度による地域の危険を高めるのみならず、こうした渋滞発生による救急車到着遅延も招き、市民の利益と安全を損ねる結果を生み出します。
都市のスペースは貴重なので、自動車のための道路はそうそう作れず、自動車流入を規制しなければ、道路を新たに作っても、自動車通行量が増えてしまい、結局は渋滞問題はそのまま。
ゆえに、自転車道や路上駐停車の皆無な安全自転車レーンを整備することが最善でしょうね。
Posted by GreenTopTube at March 10, 2015 07:58
車道を少なくしてでも自転車のための安全通行環境を整備すれば、一時的に自動車の渋滞は増えるでしょうが、渋滞を横目に自転車がスイスイ走って行く姿を自動車運転手らが見ることによって、自転車への乗り換えも推進されるでしょうから、これこそ渋滞の根本的解決につながります。
また、海外の都市部がしているように、ロードプライシングをかけるという手もありましょう。
となると郊外化、スプロール化によるインフラコストの増大を招きますが、郊外化を抑制するために居住エリアについての優遇や規制ルール作りがあれば、尚よいとおもいますね。

ちなみに私の周りの自転車好きは、メタボが改善されるうちに自分に自信がついてモテるようになった人がちょこちょこいらっしゃいます。男女ともに。生活に自転車を取り入れて適切な食事を取るだけで、ボディラインはずいぶん良くなっていくものです。
Posted by GreenTopTube at March 10, 2015 08:01
東京とは昔の東京オリンピックの成功例をなぞっているんでしょうか。
なんでもかんでもクルマを優先すればOKというやり方をみると、そう思ってしまいます。
Posted by ぶらいんどけーぶ at March 10, 2015 08:10
hさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
クルマを一切使うのをやめて自転車にする人という人もいるでしょうけれど、多くの人は使い分けているのだと思います。
その中で、クルマと自転車と連携させて使うというのは、有力な手段だと思います。
おっしゃるような使い方は、クルマの便利さを広げることにもなることに気づいたメーカーもあるということでしょう。

墨田区のレーンは報道されていましたね、快適ですか。今後、違法駐車の問題はクローズアップされるようになるかも知れませんね。
Posted by cycleroad at March 10, 2015 23:22
hyraxさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そんな騒動があったんですか、知りませんでした。最近は特に自転車というと、アメリカでもいいイメージでとらえる人が増えているようです。
必ずしもクルマ派と自転車派が分かれているわけではなく、自転車派を敵に回すような戦略は間違いだと気がついたのかも知れませんね。
Posted by cycleroad at March 10, 2015 23:31
GreenTopTubeさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
都市計画の専門家など、おっしゃるようなことをわかっている人も少なくないと思いますが、やはり旧態依然としたクルマ優先の考え方が抜けない人が多いのでしょうね。
首都高が便利になるとするならば、そのぶん周辺域から多くのクルマを呼び込んで、都心の一般道の混雑がひどくなることも十分考えられます。緊急車輌の問題も悪化するかも知れませんね。
環状道路が出来ても交通量は一定とは限らないわけですし、ストロー効果のようなこともあると思います。
ロードプライシングや、他の流入抑制策を講じている海外の都市も増えているようですが、日本ではなかなかそのような議論が盛り上がらないのは、やはり多くの人にクルマ優先が当たり前という固定観念が出来てしまっているからのような気がします。
自転車の歩道走行を続けさせてきてしまった結果、圧倒的多数の自転車がママチャリで、自転車のポテンシャルが理解されていないという不幸が背景にあるのだろうと思います。
Posted by cycleroad at March 10, 2015 23:49
ぶらいんどけーぶさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
前回の東京オリンピックの成功体験というのはあるのでしょう。しかし、前回のように発展途上段階のオリンピックと、成熟した都市としてのオリンピックは、当然のことながら違います。
そこを間違えたがために、五輪後の財政悪化に苦しんでいる例もたくさん報じられていることには留意すべきだと思いますね。
Posted by cycleroad at March 10, 2015 23:56
 
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