気温も上がって野外での活動時間が増え、帰宅が遅くなる機会も増えるのではないでしょうか。寒い時期は敬遠していたものの、暑くなってくると、むしろ夜間の涼しさが快適になります。あえて自転車で夜間走行する機会が増える人も多いかも知れません。
そんなこれからの季節に気をつけたいのが夜間、周囲からの見えやすさ、すなわち視認性です。しかし、無灯火は論外として、最低限のライトはつけているから、最初からついているリフレクターがあるからなど、この問題に無頓着な人も多いのではないでしょうか。
法令で定められた最低限のリフレクターは装着していれば、それ以上の夜間の視認性に気を使う人は、残念ながら多くないのが実際のところでしょう。その理由は、夜間の視認性の向上による効用が、いまいち実感できないというところにありそうです。
確かに、リフレクターをたくさん取り付けていたから助かったとか、夜間の視認性が高いので事故に遭わないと実感することは少ないかも知れません。しかし、視認性の高さが安全に貢献するのは紛れのない事実であり、その重要性は、強調してもし過ぎることはありません。
事故の直接の原因が、視認性の不足ということは少ないかも知れません。事故原因の調査でも、そのことが指摘されるとは限りません。しかし、事故が多いのは夜間や薄暮の時間帯であり、視認性が高くなかった結果、気づくのが遅れるなど、間接的な要因となっているケースは多いはずです。
結果として、ドライバーの不注意や出会い頭とされるような事故でも、視認性が高ければ起きなかった、あるいは被害が軽減された可能性は否定できません。その効果は、なかなか見えにくいですが、決して軽視すべきではないのは明らかであり、多くの機関や専門家が指摘するところでもあります。
なるべく夜間の視認性を高めようと心がけている人もあると思います。リフレクターや光を反射するような素材の使われたウェアや携行品を使っている人も少なくないでしょう。ただ、ごく一部が光るだけのものも多く、必ずしも、視認性が高いとは言えません。
市販されている用品は、一定程度視認性に配慮はしているものの、その効果が大きいと評価できるものばかりではありません。また、突然帰りが遅くなるような場合もあるでしょうし、いつも視認性の高い状態でいられるとも限りません。そこで、簡単に夜間の視認性が高められるような製品が開発されました。
こちらの、“
LifePaint”というスプレー、クルマのヘッドライトに反射して光る塗料が入っています。これをスプレーすると、自転車本体でも、ヘルメットでも、その場で反射材が塗られているのと同等の効果を持たせることが出来ます。夜間の視認性を大きくアップさせることができ、安全に貢献します。
夜になって、ライトを浴びると反射しますが、日の光の下では透明で、何かが吹き付けられているようには見えません。ちょうど、虫除けスプレーや撥水スプレーを使うような感じで、その場では効果が見えなくても、夜間、光を反射するようになります。
スプレーの効果は、およそ10日間、水性なので、洗えば簡単に落ちます。そのため雨の日には使えませんが、自転車本体やヘルメット以外に、その時着ている衣服などにもスプレーできます。光を反射しないもの、バックパックであろうが、シューズであろうが、必要なら鹿の角であろうが、あらゆるものが反射材となります。
自転車以外にも、子供を乗せるバギーや子供の背負うリュック、ペットの首輪とかリードにスプレーするなど、いろいろな使い方が考えられるでしょう。徒歩であっても、例えば高齢者の身につけるものにスプレーすれば、夜間でも目立ちやすくなり、交通安全につながります。
最初から反射材の使われている製品もありますが、いつもそれを身に着けているとは限りません。ふだん夜間走行はしないけれど、たまたま遅くなった時とか、夜間走行を想定していない服装で来てしまった時なども含め、いつでも簡単に視認性の高い仕様に変えられるところが便利です。
この“LifePaint”、クルマメーカーのボルボが、スウェーデンのベンチャー企業、Albedo 社と共同で開発・販売しています。現在はイギリスの一部の地域で試験販売している段階ですが、好評であれば販売を拡大し、海外にも広げることを考えていると言います。
なかなか画期的な製品だと思います。ただ、これをクルマのメーカーであるボルボが売っているというところに、ひっかかりを感じる人があるかも知れません。本来、クルマのメーカーならば、交通安全のため、クルマやドライバーの側が、ある種の負担や犠牲を負わせるような方策をとるべきでしょう。
それを交通事故の被害を受ける立場の人々に対し、こうした商品を購入させ、自衛させる、負担を強いるのはどうかという感じもします。例えて言うなら、ばい煙とか有毒な大気汚染物質をパラ撒いている工場が、自らの行為は棚に上げて、市民にガスマスクを売り、それで自衛しろと示唆しているようなものです。
ただ、ボルボは、これまでも歩行者や自転車の被害を軽減させるような技術や装備を導入するなど、安全対策には積極的に取り組んでいます。本来、クルマメーカーがとるべき策ではなくても、交通安全につながるならばと取り組む姿勢は、評価されるのではないでしょうか。
もともと、反射する塗料を吹き付けるスプレーは売られています。その用途を考えるならば、なるべく剥げ落ちず、効果が長続きするほうがベターなのは当然です。それを逆転の発想で、水溶性にし、すぐ落ちるようにすることで、気軽にいろいろなものにスプレー出来るようにしたのが画期的と言えるでしょう。
光を反射する塗料は昔からあるわけで、特に新しい技術ではありません。技術革新というより、発想の転換、アイディアが光る製品です。しかし、これがどのように市場で評価されるかは未知数です。いつでもどこでも、気軽に視認性をアップ出来る製品ですが、多くの人が積極的に使うとは限りません。
虫除けスプレーのように、使わないと虫に刺されるとか、撥水スプレーのように、使わないと水が染み込んで不快な思いをするわけではありません。効果がわかりにくいところがあるのは事実でしょう。この製品の売れ行きは、人々の夜間の視認性に対する意識が大きく作用すると思われます。
クルマメーカーとしてのボルボが、メーカーとしての責任という観点から、あえてこのような製品を販売することは、一定の評価ができるでしょう。ただ、社会的な責任を自覚するのであれば、もう一歩踏み込んで、夜間の視認性の重要性を人々に広く啓発し、こうした製品の普及に努めてもらいたいものです。
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