
自転車に乗っていると、誰もが考えることがあります。
いろいろあると思いますが、雨でも濡れないように屋根があったら、というのもその一つではないでしょうか。趣味やスポーツで乗るだけなら、雨天時に乗らなければいいだけですが、例えば通勤などに使っている場合、雨の日に乗れないと不便です。急な雨に降られることもあります。
実際に、着脱式のカウルやフェアリング、キャビンのある自転車など、さまざまなアイディアが提案されてきました。もちろん、その中には商品化されているものもあります。ただ、いまだに標準として認知されたり、広く普及したと言えるものはありません。
古今東西、自転車にもクルマのようなキャビンがあったら、と考える人は後を絶ちません。似たようなコンセプト、仕様の製品が時々、思い出したように登場し、屋根のある自転車というスタイルが、繰り返し提案されることになります。今、
クラウドファンディングサイトにも登場しています。


“
Virtue Cycles”という自転車メーカーが提案するのは、その名も“
Pedalist”という屋根のある自転車です。 Kickstarterで資金調達をして量産したいと考えています。マイクロカー、ミニカーのようにも見えますが、ペダルを持つ、れっきとした自転車、正確に言えば電動アシスト自転車です。
小さいながらもキャビンがあるため、雨でも濡れずに済みます。現状で左右の「窓」は開いたままですが、そこに取り付けるための、ロールアップするカバーを開発しており、追加装備として提供される予定と言います。雨に濡れずに走行できるわけです。
前が2輪の3輪車、トライクがベースとなっており、停車しても倒れることなく安定します。雨に濡れないだけでなく、後部座席に人を乗せたり、荷物を載せるスペースもあります。この“Pedalist”、都市で使う乗り物として、さまざまなメリットがあると主張しています。

クルマと違って免許は不要、燃料も必要ありません。本体価格もクルマと比べれば桁違いに安いので、初期費用も少なくてすみます。さらに車検やナンバーを登録する費用なども不要、メンテナンスフリーとなっており、駐車場代、保険料などの維持費も含めて、大幅に安く所有できます。
自転車とほぼ同じくらいの投影面積のため、基本的に渋滞に並ぶ必要はありません。これに乗り換える人が増えれば、都市の渋滞軽減にも威力を発揮するでしょう。排気ガスによる汚染物質はゼロで、温暖化ガスも含め、都市の環境負荷の軽減に貢献するのは言うまでもありません。
なにしろ小さいので、駐車面積も少なくてすむわけで、都市の土地を有効に使うことにもつながるでしょう。さらに、乗る人の運動不足を解消することで、その健康増進にも大きく貢献します。都市の乗り物、通勤手段としてたくさんのメリットがあるというわけです。
3つのモードがあり、電動アシスト以外に、純粋にペダルだけで走ることもできます。逆に全くの電動だけで走行することも可能となっています。その場合は時速20マイル、約32キロに制限されます。電動アシストモードでの航続距離は、約80キロとなっています。
使い方によっては、大汗をかくことなく移動できて、坂道などの登坂能力もあります。ライトとテールランプも備えており、キャビンがあるぶん自転車よりも安全だと言います。8速のギヤを持ち、マグネシウム合金のホイールやディスクブレーキも備えています。
たしかに、都市部での移動手段、通勤用の乗り物としては、これで十分とも考えられます。もちろん郊外への長距離の移動には向きませんが、都市部での移動がこれに置き換われば、渋滞や排ガスなどの環境面でも社会的に大きなメリットが得られるはずです。今のクルマ社会に対するアンチテーゼと言えるでしょう。

似たような仕様、コンセプトの乗り物は、これまでにも繰り返し提案されてきました。その中には、日本の会社のものもあり、私も展示会で試乗したことがあります。しかし、広く支持され、定番として普及したと言えるものはありません。この“Pedalist”の資金調達も上手く進んでいないようです。
クルマの利用者がこれに乗り換えない理由は、わざわざペダルなんてこぎたくない、ボディが華奢で頼りない、衝突安全性が低く心配、パワーが不足でスピードが出ない、といったところででしょうか。わざわざスケールダウンする魅力、理由に乏しいということかも知れません。
自転車利用者からしても、いかにも鈍重に見えます。雨に濡れないのはメリットですが、大きな利点はそれだけで、ほとんどの時間でキャビンは邪魔と感じる人も多いのではないでしょうか。これより普通の自転車のほうがいいという人も多いに違いありません。
渋滞回避や健康上のメリットを考え、クルマから自転車に乗り換える人も、普通の自転車を選択するということでしょう。持って階段を上ることもできませんし、電車に載せて移動することも出来ません。自転車より保管に場所をとりますし、何より軽快に走れません。デメリットも多いということでしょうか。
渋滞を回避する能力も普通の自転車より劣ります。キャビンがあるぶん安全という見方がある一方で、クルマと混在して走行することに不安感感を感じるのかも知れません。言い方は悪いですが、クルマと自転車の間で中途半端という印象も否めないような気がします。
これまでにも多数、同じような提案がなされてきたにも関わらず、一向にブレイクする様子がないのは、やはりメリットや魅力に乏しいということなのでしょう。何か画期的なブレークスルーが起きない限り、今後も広く普及しそうにはありません。

日本では自転車のメリットさえ、欧米と比べて理解されていない部分がありますから、なおさら普及は見込めないでしょう。ただ、日本のように雨の多い地域では、そのメリットは相対的に大きいわけで、必ずしも可能性がないわけではないと思います。
個人的に思うのは、普通の人が、東京のような都会で通勤用に乗るという使い道を想定するより、高齢化の進展に伴って可能性が広がるような気がします。高齢者でも乗れる乗り物として、例えば特区をつくって実験したら面白いのではないでしょうか。
3輪ですから安定していて、高齢者でも安心です。免許が必要ないので、いわゆる買い物難民として困っている人の足としても使えるでしょう。ペダルをこぐことは健康増進になり、認知症予防、寝たきり予防にも効果があるとされています。

人によっては電動アシストでなく、フル電動にすれば、バッテリーカーのようにも使えます。地域を限って、普通のクルマと混在させなければ、安全面でもリスクは少ないでしょう。スピードも出ませんから、歩行者に対する危険性も相対的に小さくなるはずです。
今後、高齢化や過疎化に伴って、インフラを維持していくためには、コンパクトシティのような考え方、取り組みが必要とされています。そのコンパクトシティの中で、高齢者でも使える移動手段として考えるならば、その可能性も広がるのではないでしょうか。

市街地の中心部へのクルマの乗り入れは制限し、人々が安心して歩いたり移動できることを重視する考え方も世界的に広がりつつあります。その場合、自転車の機動力は歩行者とも相対的に親和性の高い移動手段として有効になるでしょう。そうした中では、雨でも濡れないクルマの代替として、一定のニーズがあると思います。
この“Pedalist”のようなキャビンのある自転車、なかなかブレイクする気配がありませんが、全く見るべきところが無いということではないと思います。案外、雨が多く、高齢化が急速に進む日本にこそ、その普及する素地が隠れているのかも知れません。
錦織選手は残念でした。しかし、こんなにも頻繁に国際大会が行なわれているとは、これまで知りませんでした。
考えてみれば、自転車を歩道に追いやっている元凶は、車道において路上駐停車で安全な進路を塞いだり、速度超過やスレスレ追い抜き、幅寄せ(暴行罪で立件できます)、煽り運転、クラクション等で自転車に対して危険な運転をする自動車なんですよね。自転車の安全を確保するインフラ整備要請を行政に、自動車規制取り締まりの徹底強化を遠慮なく警察に要請しましょう。
もしサイクルロード氏がこのたび紹介してくださった自転車で走るのなら、積極的に車道を走って、安全な速度の流れを生み出す、ペースメーカー車的な存在を目指すというのも手ですね。
そうすると、警察のほうも、道路の安全のために道路の制限速度を引き下げたり、移動式自動速度取締り機(移動式オービス)で自転車と自動車の速度差を縮めようと努力する動きが出てくることでしょう。
それができないうちは、車道が自動車により"危険化"してしまっているので、歩道に避難するしかありません。自転車警官もそうしているように。横幅も、そう極端にあるわけでもありませんしね。歩道に駐車している自動車と比べれば、まだスマートなほうですし。
考えてみれば、歩行者と自転車は、本来、肩を組んで車道における自動車危険運転撲滅のために頑張るのが、真の問題解決に向けた建設的な姿なんですよね。