成長する中国に抜かれたとは言え、世界2位の市場でもありますし、アメリカでの多くの移動にクルマは欠かせないでしょう。全体としては、依然としてクルマ大国なのは間違いありません。しかし、そんなアメリカでも、特に都市部などでは変わりつつあると言います。
例えば、若い世代を中心にクルマ離れと言うべき傾向が見られるようになってきました。クルマよりコンピュータやモバイル機器、SNSなどに関心が高く、郊外の広い家より都心の交通の便利なアパートに住みたいと考え、主にIT関連などの職場に勤め、自転車で通勤するような世代です。
若者に人気がある都市の条件の一つとして、自転車インフラの充実がカギとなる傾向が明らかになっています。若者は、自転車にフレンドリーで移動しやすい都市を好み、そうでない都市で働くことを敬遠する傾向があります。多くのIT企業や新興企業は、才能を求めて、若者の集まる都市へと進出し、拠点を設けます。
都市から見れば、自転車インフラの充実が若者の流入を増やし、進出する企業が増えて、税収も増える好循環をもたらします。そのため、各地の自治体では、競うように自転車インフラの充実に力を入れ始めています。その結果、従来のクルマ優先の道路整備が見直されている面があります。
若い世代に限らず、健康に関心の高いアメリカ人は、自転車を使うことにメリットを感じています。環境に対する意識も高まっており、自転車は、より環境負荷の小さい選択肢でもあります。全て自転車とはいかないまでも、都市部での移動は自転車でも十分であり、むしろ速くて便利と考える人も増えています。
一般の市民の間にも、クルマ優先の意識に変化が見られます。これまで、クルマでの移動が当たり前だったため、目的の場所の前の道路に駐車するのは当たり前でした。ドア・ツー・ドアがクルマの利点です。街の通りには、パーキングスペースやパーキングメーターが設けられているのが普通です。
しかし、そのスペースをクルマ用ではなく、歩行者のためにこそ使おうという動きが出てきました。その一つが“Parklet”です。パーキングスペースに置いて使うユニットです。このパークレットには、いろいろなバリエーションがありますが、どれも歩行者や自転車のためのもので、クルマ用ではありません。
人々が休むベンチであったり、何かを食べたり出来るテーブルがあったり、植え込みがついていたり、自転車用の駐輪スポットだったりします。どれも、クルマのパーキングスペースを、クルマ以外のために使おうという設備です。これが、全米の都市で、少しずつ増えていると言います。
パークレットが設置されれば駐車スペースが減るわけで、そのぶん駐車したくても駐車できないドライバーが出てくる可能性があります。なかには、いまいましく思っている人もいるでしょう。しかし、総じて反対する声は聞こえてきません。このあたりも市民の意識の変化が感じられる部分でしょう。
もちろん、クルマのドライバーだって、クルマを降りれば歩行者です。ベンチやテーブルなどがあれば便利ですし、地域のコミュニティーの交流や憩いの場所にもなります。街に、にぎわいがもたらされ、沿道の商店の売上げにも貢献するに違いありません。駐車スペースより好ましいと考える人も少なくないでしょう。
さて、アメリカで流行ると、いずれ日本にも上陸するものが多いですが、この“Parklet”が日本でお目見えする気配は、今のところありません。道路を占有しますから、勝手に置くわけにはいきません。自治体や関係部局の協力が必要になりますが、そのような動きも聞きません。
そもそもパークレットを置こうという話になるのは、住民の要望や意思、そしてコンセンサスがあってのことになるでしょう。その意味で、まだまだ日本では市民の意識が低いということになるのかも知れません。ただでさえ、狭いと言われる日本の道路を、もっと狭くしてどうすると考える人が多いものと思われます。
車道はクルマのためのもので、歩行者には歩道があるとの固定観念があるため、既存の車道と歩道の割合を変えるというような発想には至らないようです。唯一変えるのが歩行者天国ですが、それは休日など、交通量の少ない一部の時間だけであり、常設ではありません。
パークレットが増えつつあるアメリカと違い、日本国民には、いまだクルマ優先の固定観念が色濃くあって、それを覆すような柔軟な発想には、なかなかならないということなのでしょう。ある意味、クルマ大国のアメリカ以上に、クルマ大国と言えるのかも知れません。
しかし、考えてみれば、このパークレットが置かれるような都市の道路の外側車線は、必ずしもクルマのために有効に活用されていません。たいてい違法駐車のクルマがあり、一台でも駐車車輌があると、通行するクルマは2番目以降の車線を走らざるを得ないという状況が多いのではないでしょうか。
片側一車線に駐車すると、他のドライバーに迷惑になりますが、片側2車線以上あると、多くは駐車されてしまい、通行のためには使われない状態になります。都市部の道路のほとんどは駐車禁止ですから、違法駐車のドライバーのためだけにしかなっていないことになります。
それならば、いっそ1車線をふさいで、パークレットを置くのも一案ではないでしょうか。どうせ違法駐車に占有されるのだとすれば、同じことです。違法駐車をする一部の人間だけの利益になるような使い方より、パークレットを置いたほうが、より多くの人のためになります。経済的な効果も全く違うはずです。
なかなか、このようなクルマ優先の固定観念を覆すような考え方が広まらないのが残念ですが、まず私たち市民が考え方を変え、車道だってクルマのために使わなくたっていいことに気づかなければなりません。違法駐車する人のためにしかなっていない場所はたくさんあるはずです。
日本の都市は、アメリカと比べて公共交通も発達していますし、もっとクルマの流入を抑制し、通れる車線を減らしてもいいのではないでしょうか。もちろん、渋滞しても都心にクルマで行きたい人、行く必要のある人もあるでしょうが、そうした人たちには、駐車場を使ってもらえばいいだけです。
都市部の貴重な公共財産であり、使い方によっては非常に大きな経済効果を生む車道が、結果として違法駐車に占有されいることのほうが問題と考えるべきではないでしょうか。日本でも、パークレットを普及させようというコンセンサスを醸成していく必要があると思います。
そして、2020年の東京オリンピックに向けて、パークレットを置くことを考えたらどうでしょう。パークレットのいいところは、「置く」だけということです。不要になったら撤去できます。また、工場などで作って持ってきて「置く」だけなので、設置も簡単です。半日もかからないでしょう。
オリンピック期間中は、外国からの訪問客も増えます。狭い歩道に人があふれる状況を緩和するのにも有効です。旅行先でショッピングや観光で街を歩きまわれば、ちょっと座って休めるような場所が欲しくなります。日本としての『お・も・て・な・し』にもなるはずです。
東京でも街角で自転車が借りられるサービスが広がりつつあります。観光客・訪問客が借りて街を巡れば、どうしても駐輪することになります。駐輪ラックのパークレットを置けば、駐輪した自転車で歩道を狭めることもなくなります。放置自転車の撤去では、いたちごっこであり、駐輪ラックの設置が正しい対策だと思います。
パークレットがあれば、歩道が広く使え、沿道で買った名物を食べたり、おしゃべりをしたり、オープンエアでくつろげます。少なくとも都心の車道は、クルマ優先でなく、もっと人間のために使うべきと気づく人も増えるのではないでしょうか。オリンピックが、その絶好のチャンスになると思います。
この期間に実験的に置いてみれば、パークレットの効果やメリットが実感できるでしょう。訪日客が減って不要になったら撤去すればいいだけです。評判がよければ、さらに延長なり、常設も考えられます。違法駐車のドライバーのためにしかなっていなかった、見過ごされてきた貴重な都市の公共資産を活かすチャンスです。
オリンピックを機に、東京でパークレットが普及し、評判がいいとなれば、他の都市にも波及していくでしょう。オリンピックに向けて、バリアフリーだとか、案内表示の充実だとか、いろいろ必要とされる整備の一つとして設置するのに、なんの違和感もないと思います。
パークレットを設置し、道路をもっと歩行者や自転車のために使えるようにするには、まず私たち市民の意識が変わる必要があります。ぜひ多くの人に、都心部の車道まで、『クルマ優先』である必要があるのか、クルマ優先の固定観念に囚われていないか、考えてみてほしいと思います。
新国立競技場のキールアーチ、費用はかかるし、耐震性にも問題があるし、景観的にも神宮の森に合わないし、意味がありません。将来へ負の遺産を残します。某元首相、ホントに厄災ばかりもたらしますね。