毎年のことですが、高速道路では大渋滞がおこります。大勢の人が同じ時期に大挙して移動しようというのですから、クルマが集中するのも仕方がありません。ただ、渋滞は時間のロスですし、イライラしてストレスがたまりますし、燃費も悪くなります。出来れば避けたいところです。
お盆やお正月の帰省ラッシュの交通量は、一時的にふだんの何倍にもなるわけで、ある程度やむを得ないと諦めるしかないのでしょう。ただ、ふだんから渋滞する都市部の道路は、なんとかならないだろうかと思うのは自然な感情です。行政も渋滞を解消するべく努力しています。
しかし、道路の新設や拡幅は土地の収用などもあって容易には進みません。計画から実現まで何十年とかかるのが普通です。しかも、渋滞解消のための道路拡幅工事が渋滞を呼ぶといった事態も起きます。慢性的な渋滞にイライラを通り越して諦めの心境の人も多いに違いありません。
何十年かの歳月と莫大な建設費をかけて、やっと新しい区間が開通したり、拡幅されたりします。ボトルネックが解消され、渋滞が緩和します。しかし、それも束の間、空いて通りやすくなったぶん交通量が増えたり、また新たな場所がボトルネックとなって渋滞するようになったりします。
地方から大都市圏への人口の移動は続く一方、新しい道路建設は遅々として進まないので、なかなか渋滞解消とはいきません。高度経済成長期から、何十年にも渡って渋滞解消に向けた努力が続けられてきていますが、一向に無くならないのも確かです。
もちろん、その間、多くの道路が開通してきました。しかし、その都度、交通量が増えてしまいます。道路が拡幅されてスムーズになり、便利になれば、今まで敬遠していた人も通るようになり、使わなかった人までクルマを使うようになって、結果として混雑は解消しません。
スムースに通過できるに越したことはないわけで、渋滞には誰もがハマりたくありません。イライラするだけでなく、渋滞は経済的な損失でもあります。人々に全体では膨大な時間を浪費させますし、物流コストなどにも跳ね返ります。燃料消費を増やし、大気汚染を招きます。
社会の効率や経済性の見地からも、渋滞は無くすべきであり、少しでも減らそうと、さまざまな対策が考えられています。道路の拡幅は簡単ではないので、少しでも通過できる交通量を増やすため歩道橋や地下道などを作って歩行者を迂回させたり、信号の間隔を制御するなどの方策もとられてきました。
信号がタイミングよく青になって、減速しないで走行出来れば、渋滞は減少するはずです。交通量の刻々の変化に対応して信号が切り替えられるよう、信号をハイテク化し、コンピュータで制御して、クルマの流れを良くしようと考えるのは当然のことでしょう。
さて、それが世界の趨勢、当然の流れかと思えば、そんな常識を真っ向から否定しようとしている人がいます。ご存知、イギリス・ロンドンのボリス・ジョンソン市長です。今ロンドンでテストされているのは、
クルマではなく自転車の流れをスムースにする信号制御です。
自転車の交通量を感知し、信号のタイミングを制御して、より自転車の青信号が長くなるようにします。クルマではなく自転車の流れをスムースにする信号制御は、世界初の試みです。これによって、自転車は止まらずにスムースに通行できることが多くなります。
この実験によって得られた結果をシステム化し、今後ロンドンのより広範な信号に採用していく計画です。自転車だけでなく、歩行者の流れを優先して信号を制御するシステムの導入も行なわれており、これらは、今までと逆、これまでの常識を覆す考え方です。
これまでもボリス・ジョンソン市長は、従来とは違った考え方を取り入れてきました。自転車が高速に移動できるサイクルスーパーウェイは、いわば自転車の高速道路です。交差点によっては自転車に優先権があり、クルマのほうが一時停止するという、これまでの常識とは逆の考え方です。
日本では、ちょっと考えられない方向性と言えるでしょう。しかし、ロンドンだけでなく、ニューヨークでもパリでも、世界の都市で自転車の活用を推進しようとしています。都市の中心部へは、むしろクルマの流入を抑制し、歩行者や自転車など、人間を優先しようという考え方が広がっているのです。
クルマより自転車を優先する信号なんて採用したら、もっと渋滞は激しくなり、経済的な損失も増える一方ではないかと訝る人もあるに違いありません。しかし、モータリゼーションが進んで以来、ずっと常識だった考え方も、考えようによっては、180度変わる可能性があります。
渋滞を減らそうとクルマの通行を優先しても、結局さらにクルマの交通量を増やすだけ、いたちごっことするならば、少なくとも都市部ではクルマ優先をやめるという考え方もあります。そのぶん自転車優先にして、自転車の活用を進めるべきではないか、という考え方も成り立つでしょう。
都市の中心部では、乗車人員のわりに大きなスペースを占有しているクルマより、自転車のほうが、スペース的にも効率的であり、速くて便利です。もちろん依然としてクルマも必要ですが、自転車で済む部分は自転車にして、使い分けたほうが効率がいいと考えるのは合理的でしょう。
渋滞だけでなく、温暖化ガスの増加や環境負荷の増大、ヒートアイランド現象の抑止、駐車スペースなど都市の公共空間の有効活用、道路メンテナンスに加え、市民の健康増進に至るまで、クルマを優先するより、そのメリットは大きいとする考え方が広がっているのです。
歩行者も、歩行者優先信号が広がれば、クルマを気にせずにすみ、より快適になります。少しでもクルマを多く通そうとする方向が見直されれば、何より交通事故が減るでしょう。つまり人命が失われるという大きな損失が減ることになります。渋滞の解消より人間の命を優先しようという方向性です。
経済学的見地に立てば、交通事故で人命が失われるということは、社会的に大きな損失でもあります。その人が稼ぎ出すはずだった所得が失われ、将来にわたって納められるはずだった税金が失われることにもなります。残された家族に対する年金給付などが必要になるかも知れません。
家族に与える影響も含め、その経済的・社会的損失は大きなものとなります。人の命が失われることを金額で計算するのは不謹慎ですが、純粋に経済的な見地から、渋滞の増加と人命の喪失による社会的損失を考えても、必ずしもクルマ優先が正しいと言えないのではないでしょうか。
そう考えると、都市部での自転車の有効活用をさらに進めるため、クルマ優先から自転車優先、そして歩行者優先にシフトするのは、決しておかしい話ではないはずです。世界初の試みで、クルマ優先に疑問を投げかけるジョンソン市長の意気込みは評価できると思います。
日本では、なかなかすぐには受け入れられないかも知れません。とくに近年は、自転車利用者のマナーの悪さが批判の矢面に立たされることも多く、歩行者優先はともかく、自転車優先というのは感情的な部分も含めて理解されにくい面があるでしょう。
自転車が歩道走行していることもあって、その都市交通としての有用性も欧米のようには理解されていません。マナーの悪い、あるいはルールを守らない利用者を擁護するつもりはありませんが、自転車を歩道走行させるという、道路行政の決定的な間違いが不幸の遠因にあると思います。
その結果として、人々が歩行の延長のような感覚で自転車の乗り、車両としてのルールをわきまえずに走るため、きわめて無秩序な状態になってしまいました。このような状況で、自転車を優先するなんて、とんでもないと言われても仕方ありません。
ただ、クルマ優先が果たして正しいのかは、考えてみてもいいはずです。どのような都市交通の状態を目指すのが良いかという視点で考えるべきです。都市部ではクルマより自転車を活用することが、さまざまな面から有益であることは、世界中の事例を見れば明らかです。
現状では、多くの人が歩きの延長のような感覚で自転車に乗り、無秩序な状態になっています。しかし、そんな人でも原付バイクやクルマに乗れば、ルールに従って秩序を保つようになります。つまり、人を責めるのではなく、今の自転車通行の常識を改め、無秩序状況を改めるならば、日本でも大きく変わるはずです。
今の日本の状況から、すぐに自転車優先という方向へ踏み出すのは難しいでしょう。しかし、だからと言って、クルマ優先のままでいいのでしょうか。都市部でもクルマ優先にして、今のように自由に走らせるのがいいのでしょうか。歩行者の安全が犠牲にされていないでしょうか。
莫大な費用をかけて道路を拡幅しても、そのぶんまた不要不急のクルマの流入を招き、貴重な公共空間が占有されることになります。それならば、むしろ渋滞解消を諦め、クルマの都市部への流入を敬遠させ、そのぶん自転車を活用するという方法も成り立つのではないでしょうか。
渋滞は非効率で社会的損失なのは確かです。しかし、だからと言って、渋滞を解消するためにクルマ優先を強化するのが正しいとは限りません。すぐにはジョンソン市長のようには考えられないかも知れませんが、これまで当然と考えてきた固定観念を疑ってみることも必要なのではないでしょうか。
東京五輪エンブレムの佐野氏の他の仕事に盗用疑惑例が次々とネット上で話題となり、一部は取り下げになったようです。いろいろ都合もあるのでしょう。でも、申し開きは早くしたほうがいいと思うのですが..。
>莫大な費用をかけて道路を拡幅しても、そのぶんまた不要不急のクルマの流入を招き、貴重な公共空間が占有されることになります。それならば、むしろ渋滞解消を諦め、クルマの都市部への流入を敬遠させ、そのぶん自転車を活用するという方法も成り立つのではないでしょうか。
同感です。そして、サイクルロード氏も知っている通り、それを裏付ける研究結果もあるほどですしね。
渋滞解消しようと道路を広くすると渋滞はさらにひどくなる:研究結果 « WIRED.jp
http://wired.jp/2015/03/19/traffic-jam/
結局は、渋滞解消の根本策は、自動車そのものの抑制でしか実効力は持たないということが判明しています。
私はもっとどんどん自動車の税金を上げて、市街地流入を規制するために通行料を徴収してもいいぐらいだと思います。
そしてコンパクトシティという地域の持続可能性維持のために郊外開発規制もセットで。
更に自転車利用者への優遇政策を次々と実行すれば完璧でしょう。市民らはそういった考えをもっと遠慮なく行政に届けてよいと思いますし、その活動がより良い地域を作っていくのですから。