そのミネソタ州のミネアポリスは、自転車道がよく整備され、駐輪場などのインフラも充実し、全米の中でもエコで、クリーンで、自転車にフレンドリーな都市の一つとして知られています。当局も自転車の活用を促すため、さまざまな施策に力を入れており、多くの市民が自転車を楽しむ街です。
そのミネアポリスには、アメリカのアッパー・ミッドウェスト最大の美術館もあります。
ミネアポリス美術館(Minneapolis Institute of Arts)です。世界の美術を扱う総合美術館ですが、常設された展示品は写真撮影も可能で、入場料をとらないなど、開かれた美術館として知られています。
そのミネアポリス美術館が今年で100周年になります。100歳を祝う、さまざまなイベントや企画展などが行なわれている中に、なんと
自転車のアート・イベントがあります。美術館自らが企画した、自転車と芸術の融合をテーマにした作品の展示です。
地元の自転車ビルダーである、“
Handsome Cycles”に依頼してオリジナル自転車を製作しました。その作品は、ミネアポリス美術館が所蔵する、常設展示のコレクションの中から選ばれた、3つの作品にそれぞれインスパイアされて作られた自転車です。
一つ目は、印象派を代表するフランス人画家、クロード・モネが描いた“
Grainstack, Sun in the Mist”(1891年)です。『積みわら』として、収穫後の畑に積まれた干し草や穀物の山を描いた、有名な一連の作品のうちの一つです。どこかで見たことがあるという人も多いでしょう。
まさにモネを思わせるタッチでフレームがペイントされています。美術作品、特にモネなどの印象派が好きで、自転車好きの人なら、思わず手を打つ作品になっているのではないでしょうか。自転車と芸術、それもモネと自転車を持ってくるとは、大胆な発想と言えるでしょう。
二つ目は、戦後アメリカの抽象絵画を代表する画家フランク・ステラの作品、“
Tahkt-I-Sulayman Variation II”(1969年)です。初期の、シンプルな形と色を使って表現する絵画、いわゆるミニマル・アートの作品で、こちらはまたモダンで、モネとは対照的です。
自転車だけを見たら、ポップな色使いの派手な自転車くらいの感想になってしまうかも知れませんが、これもフランク・ステラの作品の雰囲気をよく表現していると言えるでしょう。このまま売り出しても、ファッショナブルな自転車として人気が出そうです。
三つ目は、“
Tatra T87 four-door sedan”(1948年)というクラシックカーです。チェコスロバキアの自動車会社、タトラ社が製造した当時の最高級のクルマです。1936年に設計された、その歴史的な背景なども興味深いクルマで、マニアにはたまらない魅力のある一台のようです。
単なる工業デザインと片付けるわけにはいかない、今見ても魅力的な流線型のフォルムをモチーフに、よく表現されているのではないでしょうか。なかなか今の自転車で、クラシックな雰囲気を出すのは難しいと思いますが、タトラというクルマの持つ印象が良く出ています。
どれも、アート作品にインスパイアされた自転車、なるほど芸術と自転車の融合になっています。自転車にフレンドリーなミネアポリスならではの企画なのかも知れませんが、なかなか面白い試みと言えるのではないでしょうか。さすがミネアポリス美術館、普通の美術館だったらやらないでしょう。
ミネアポリス美術館では、サイクリストを対象に“
Bike Night”というイベントが開かれており、さまざまな催しも行なわれているようです。市民が自転車で美術館に入っていきます。なるほど、開かれた美術館と言われるだけあります。その7月の回で、今回の作品は発表されました。
一般に美術館と言うと、少しお堅いイメージがありますが、こういう美術館なら、市民も通いたくなるのではないでしょうか。自転車に色を塗ったり、廃パーツを使ってアート作品を作る人もいますが、美術館自らが制作を委嘱して、自転車とアートの融合を世に問うというのは聞いたことがありません。
日本で走っている自転車は、その大半がママチャリであり、並んでいても見分けのつかない規格大量生産品ばかりです。スポーツバイクは少し違いますが、それにしてもメーカーのロゴが入った、いわゆるノーマルな状態のものが多く、まず本当の意味で個性的な自転車に出会うのは稀でしょう。
もちろん、自転車にアートは求めておらず、スペックやブランドや価格だと言われれば、その通りです。わざわざ自転車でアートをする必要はありません。ただ、この3台をじっくり見ていると、個人だって、このように自転車をアートとして楽しむということがあってもいい気がしてきます。
機能や用途など実用面は別として、外観に少しこだわってみるというのも面白いでしょう。自分だけのこだわりや、自分なりの美意識を反映させた一台があってもいいと思います。愛着も沸くでしょうし、さりげなく個性を主張してみるもの悪くありません。
もしかしたらミネアポリス美術館、最近の自転車があまりに既製品すぎて面白くないと思ったのでしょうか。もちろん自転車は乗るのが目的で鑑賞するものではありませんが、少しは何か自分だけのこだわりを持ち、外観にアートを楽しむような余裕や遊び心があってもいいのかも知れません。
天津の大爆発、一向に詳細が明らかになりません。衝突脱線事故の列車を、急いでその場に埋める国ですからねぇ。
Posted by cycleroad at 23:30│
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