正確に言うとフレームの素材ということになりますが、多いのはスチールやアルミということになるでしょう。ひとくちにスチールと言っても、メジャーなクロモリやハイテン鋼以外にも、ニッケルやマンガンなどの添加される金属の違いによって、いろいろな合金があります。
アルミフレームも、銅やマグネシウム、亜鉛、ケイ素といった複数の金属との、いわゆるアルミ合金が使われており、6000系、7000系などと分類される、さまざまな種類があります。軽くて硬く、錆びにくくて安価ということもあって、一番ポピュラーな素材と言えるでしょう。
最近増えているのが、カーボンフレームです。カーボンファイバー、炭素繊維強化プラスチックです。金属のように溶接するのではなく、一体成形のものが多くなっています。一般的に高価ですが、軽くて剛性が高いのに振動吸収性が高いなど、優れた素材です。
そのほか、最近はチタンやマグネシウムなども素材として使われています。変わったところでは、木製や竹製などのフレームもあります。木や竹とは意外ですが、振動を吸収して疲れにくいため、一部では一般向けにも販売され、少数ながらマニアやファンが存在しています。
昨今の素材技術、加工技術の進歩によって、昔は加工が難しかった素材なども、どんどん使えるようになってきました。自転車は、構造的には、ほとんど変わっていませんが、その素材は大きく進化しているわけです。さらに将来に向けて、これまでにない新しい素材の研究も進められています。
今年の“
Eurobike 2015”で金賞を受賞したモデルは、なんと植物由来のプラスチックで出来ています。少し前に、ノートパソコンの筐体として使われるなどして話題になりました。プラスチックでありながら石油由来ではなく、土に返る素材として注目されています。
石油から作られるプラスチックは、安価で広く普及していますが、埋められても土に還らず、環境を汚染するという欠点があります。しかし、トウモロコシやサトウキビといった植物素材から出来たプラスチックは、直接廃棄されても土に還るため、環境を汚染しないというのが大きな利点です。
木や竹でもフレームになるのですから、植物でもよさそうなものです。しかし、パソコンの筐体ならともかく、人が乗る自転車のフレームの場合、相応の強度が必要となります。これまで難しかったものが、技術開発によって、強度や剛性、耐久性などが上がり、フレームにも使えるようになったようです。
このフレーム、イタリアのデザイン事務所、“
Eurocompositi”によるプロジェクト、“
Bhulk”です。植物由来のバイオポリマーで出来た材料を熱によって固める3Dプリンターで製造しています。3Dプリンターも近年話題になる技術ですが、これなら少数の試作品を作るのにもってこいです。
そもそも自転車は、環境負荷が低くエコな乗り物ですが、さらに素材まで植物由来、廃棄されても土に還るとなれば、大いにアピールするものとなるでしょう。これまで、フレームの材料は金属という常識、あるいはイメージが、今後は変わっていくのかも知れません。
この植物由来のプラスチック、PLA樹脂は、ポリ乳酸とも呼ばれ、開発されたのは20年ほど前ですが、石油由来のプラスチックを置き換えるためには、耐久性や耐熱性などに問題がありました。それが近年、成形方法の工夫などにより克服され、最近多くの工業製品や部品などへの採用が期待されている素材なのだそうです。
ただ、自転車のフレーム素材として、今後一般的になっていくかと言えば、現時点では疑問です。土に還るというのが最大の特徴ですが、自転車のフレームに求められる要素として、優先順位が高いとは言えません。エコな素材というのはアピールポイントですが、それだけでは弱いと思います。
自転車が山や川などに不法に投棄されることがないとは言いません。しかし、自転車の場合フレーム以外にも多数の素材からなるパーツが組まれています。多くは回収され、リユースされたり、リサイクルされていることもあって、土に還る素材を使うメリットが大きいとは言えないでしょう。
環境を汚染しないというコンセプトは評価できます。ただ、製品としての自転車のフレームに求められるのは、軽量や剛性、耐久性、振動吸収性などです。その点に優れた素材、金属やカーボンのほうが人気が高いでしょうし、今のところ、わざわざPLA樹脂にする動機は大きくないでしょう。
むしろ、PLA樹脂が、これまで活用が難しかった部材へも使えるということに、象徴的な意味があるように思います。自転車のフレームよりも、環境への汚染が危惧される製品はたくさんあるわけで、そのような製品、部材に広く使われるようになっていくことの社会的な意義は大きいはずです。
ときどき、海岸に打ち上げられる浮遊ゴミの問題を耳にします。プラスチックや漁具、一般家庭から出るようなゴミも含め、場所によっては大量に打ち上げられます。しかし、海岸に打ちあがるのは、ほんの一部に過ぎず、実は海洋に大量に浮遊、循環しており、未だ全貌が把握できていない海洋汚染として問題になっています。
魚や海鳥、海洋生物などが飲み込んだり、引っ掛かって死ぬだけではありません。プラスチックなどが波で細かく破砕され、魚の中に蓄積される成分が、食物連鎖の頂点に位置する人間の口に入っているとの指摘があります。知らないうちに人間への健康被害が広がっている可能性が高いと言われています。
この植物由来のプラスチック、PLA樹脂を、パソコンの筐体や自転車のフレームに使うのもいいですが、より意味があるのは、食品トレイや包装用フィルム、レジ袋などの、すぐにゴミとなるものでしょう。ポイ捨てや風や雨で流されるなどして、川を経由して海に放出され、実際にゴミとなって浮遊しています。
自転車のフレーム素材としては、現状、それほどニーズがあるとは言えないでしょう。サイクリストが諸手を挙げて歓迎する機能やスペック的な魅力があるとは言えません。しかし、こうした植物由来のプラスチックの素材技術が進歩し、活用範囲が広がることの意味は小さくありません。
自転車のフレームは一例に過ぎず、もっと広い視点から、環境汚染を防ぎ、いわゆる持続可能な社会をつくっていく意味で、その役割は大きいはずです。これまで、植物由来のプラスチックを使おうとは思わなかった用途へも、環境を汚染しない素材が広がっていくことを期待したいものです。
大雨で大変な災害になっています。線上降水帯に入ってしまったら、どこでも起きうる災害ということなのでしょう。