何かを個人で所有するのではなく、シェアしようとする人が増え、共有型経済、シェアリングエコノミーが急速に拡大しています。インターネットに加え、SNSやスマートフォンの利用の広がりによって、これまでにないサービスが可能になってきたことが背景にあります。
例えば、“Airbnb”(エアビーアンドビー)です。個人宅の空き部屋をインターネットで仲介するサービスで、世界192カ国、80万以上の宿を提供し、その利用額は年間1兆円を超えるほどになっています。日本では旅館業法の問題なども指摘されますが、2020年東京五輪の宿泊施設不足を補う可能性があります。
旅行者のための宿泊サービスとしては、ホテルなどもあるわけですが、空いていて使っていない自宅の部屋があるなら、それを貸し出して、世界中の人と共有しようという考え方です。自宅の使っていない部屋を活かすわけですから、埋もれた資源の有効活用になります。
“Uber”もそうでしょう。日本ではタクシーの配車サービスとして知られていますが、それだけでなく、個人のクルマの空いた座席を、移動したい人と共有するサービスでもあります。移動したい人を乗せれば、移動中の空いている座席を有効に活用できますし、環境負荷や渋滞なども減らせることになります。
日本では白タクにあたるので、個人が自分のクルマを使ってお金を稼ぐことは出来ませんが、世界54カ国、250都市以上に広がり、その中には個人の所有するクルマでサービスを提供している人も相当な数に上っています。問題もありますが、利便性が評価され、自家用車と空いた時間のシェアは相当な規模になっています。
さて、そうしたシェアリングサービスの自転車版というべきなのが、“
AirDonkey”です。個人の自転車を、使っていない間、ネットを通して提供することで、広く共有しようというサービスです。スマホとアプリを使うことで、直接会ったりする必要もなく貸し出すことが出来ます。
“AirDonkey”で自分の自転車を活用しようという人は、まず専用のキットを申し込みます。自分の自転車に専用のロックとパネルを取り付け、自転車の写真を撮ってアップし、登録などを行ない、料金を選びます。あとは、どこかわかりやすく、利便性のよさそうな最寄の場所にとめておくだけです。
使いたい人は、スマホのアプリから、使いたい場所の使いたい自転車を選んで使うことが出来ます。スマホのアプリからロックが解除され、支払いも出来ます。出先で、ちょっと自転車が使いたくなった場合などでも、手元のスマホですぐ探すことができ、ユーザーの利便性は高いと言えるでしょう。
実際の自転車写真を見て選べるところも特徴です。例えば、幼児用のシートが装着してあるものとか、カーゴバイクとか電動アシスト自転車など、自分の必要とする自転車を選んで使うことも出来ます。自分の自転車があっても、臨時に何かの装備が必要になった時にも重宝するでしょう。
欧米などでは、都市型の自転車シェアリングサービスも広がっています。自治体などが特定の業者に委託するなどしてサービスを提供しています。そうしたサービスの場合、貸し出し・返却のステーションを多数広範囲に設置し、専用の自転車を配置し、それが偏らないように移動・調整しなくてはなりません。
個人の自転車を使う、“AirDonkey”ならば、そのようなインフラは必要ありません。貸し出し、返却、料金の収受も含めてスマホのアプリで行なうため、インフラや大掛かりなシステムの構築も必要ありません。そのあたりは料金面も含めアドバンテージとなるでしょう。
さらに、すでにある個人の自転車を使うので、新たに専用の自転車を大量購入する必要はありません。これは、街にある自転車を増やさないということでもあります。そのぶん、街に自転車があふれなくてすみますし、今ある自転車の有効活用ということになるでしょう。
ロックは日本のママチャリの馬蹄錠に似ていて、頼りなげに見えます。基本構造としてはタイヤをロックするだけなのも、海外のものらしくありません。自分の自転車にロックやパネルを取り付けたり、目印となるステッカーを貼ったりすることも、サイクリストには抵抗がありそうです。
ただ、欧米では、盗難対策などの理由もあって、ふだん使う自転車と、休日に乗る趣味のスポーツバイクを使い分けている人が少なくないと言います。あくまでシェアするために提供するのは、ふだん使う、言ってみれば欧米版のママチャリということなのでしょう。
お気づきの方も多いと思いますが、この“AirDonkey”のようなサービス、特に新しいものではありません。以前取り上げた、“Spinlister”などの先行するサービスもあります。スマホを使って解錠し、特定のグループなどで自転車を共有できるアプリやロックなども、すでにいろいろ出ています。
この“AirDonkey”を注目したのは、これがコペンハーゲンでスタートするという点です。デンマークは知る人ぞ知る自転車先進国であり、コペンハーゲンは世界の自転車首都とも言うべき先進都市です。そのコペンハーゲンから発信される新しいサービスなのです。
コペンハーゲンでは、すでに多くの市民が日常的に自転車を使っています。所有率も高く、街には観光客などが利用できる、従来型の自転車シェアリングサービスもあります。既にこれだけの環境があって、果たして、どのくらいのニースがあって、どのような展開を見せるのかが注目されます。
まだサイトに載る前ですが、これからクラウドファンディングサイトで資金調達を行なう予定になっています。誰もが自転車を持っていて、便利なシェアリングサービスがあるのに、このようなサービスを始めるからには、それなりの成算があるのでしょう。
パリやロンドン、ニューヨークをはじめ、いまや世界中の多くの都市に広がっている都市型の自転車シェアリングシステムは、従来の貸し自転車とは全く違うものであることは、何度か書きました。日本では、その点が必ずしも理解されていないことも何度か指摘しました。
日本でも自転車シェアリングと銘打っているところがありますが、エリアが非常に狭く、ステーションの数もわずか、自転車の台数も少ないため、自転車シェアリングが本来持つ特性、利便性、都市交通としての役割を全く果たしていません。貸し自転車に毛の生えたものと言わざるを得ません。
一部の人は便利に使うかもしれませんが、それ以上のものではありません。結果として、いつの間にか縮小、消滅してしまったものも多く、日本で本当の意味での自転車シェアリングシステムと呼べるものは未だにありません。日本の自転車の走行事情などもあるのですが、諸外国のものとは似て非なるものなのです。
パリやロンドン、ニューヨークなどで展開している都市型自転車シェアリングシステムは、文字通り自転車を共有するサービスです。ただ、専用の自転車が使われています。宿泊で言えば、ホテルや旅館のような専用の宿泊施設によるサービスということになります。
“AirDonkey”は、宿泊で言えば、自宅の部屋を提供することになります。つまり、本当の意味でのシェアリングということになるでしょう。この、言わばホテル型のシェアリングが、個人宅の部屋型のシェアリングサービスへと、もう一段、進化していくのかが興味深いところです。
まだ始まる前であり、今後とうなるかはわかりません。先行した“Spinlister”も、まだそれほどブレイクしているとは言えない状況ですが、本場コペンハーゲン生まれの“AirDonkey”が、自転車シェアリングの新たなスタイルを切り開いていくのでしょうか。
日本では、まだ勘違いの「自転車シェアリングもどき」しかない中で、世界では2歩も3歩も先へ行っているのは間違いないでしょう。“Airbnb”や“Uber”もそうですが、好むと好まざるとに関わらず、世界で進むシェアリングエコノミーの中で、日本の後進性が気になるところです。
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