国道や高速道路以外の、私たちの生活に密着した道路の整備は、各自治体に委ねられています。他のインフラ整備や住民サービスと並んで大切な仕事です。最近、ようやく一部で関心が向けられるようになってきた、自転車レーンの整備もその中に含まれます。
日本では8千万台もの自転車が所有され、多くの人が日常的に利用している実態があり、それだけ自転車インフラのニーズがあります。これまで、自転車を歩道走行させるという間違った道路行政が行なわれてきた結果、自転車インフラは決定的に不足しており、歩道で歩行者との事故が懸念されるなど喫緊の課題でもあります。
自転車は車両であり、車道を走行するのが世界の常識、大前提です。にもかかわらず、日本では40年以上も歩道走行できてしまった結果、インフラの欠如に切迫感のない自治体も少なくありません。中には市民に対して、なるべく自転車を使わないようにしましょうと呼びかける、認識違いの甚だしい自治体もあります。
住民のさまざまなニーズに応え、サービスを提供するのが自治体の仕事です。すべての人ではないにしろ、これだけ多くの人が自転車を利用している以上、自転車インフラを整備するのが当然です。住民が必要としているのに、その自転車の利用を抑制しようとするのは本末転倒でしょう。
それは先進国を中心に、諸外国でも同じことです。クルマ大国のアメリカでさえ、最近は環境意識の高まりや、肥満など健康面、渋滞の回避といった背景もあって、自転車の活用が進んでいます。特に都市部では自転車の利用者が急拡大しており、自転車インフラの整備が各地で進められています。
近年、アメリカでも若者世代の一部にクルマ離れの傾向があり、クルマよりスマホやSNSなどに関心が高くなっていると言います。そのような若者世代は、郊外からクルマで通うより、都市部に住んで、自転車で通うほうを選びます。そのため、自転車にフレンドリーな都市を選ぶ傾向があるのです。
IT企業をはじめ才能ある若者を確保したい会社の間では、人材獲得競争が激しくなっており、そうした若い世代が集まる都市に進出します。税収アップのため、勢いのある企業を誘致したい自治体としては、若者を引きつけ、それを追いかける企業を呼び込むためにも、自転車インフラが重視されるようになってきていると言います。
自転車インフラの整備が進む一方で、最近のアメリカでは、その内容を問う声も増えてきました。一応、自転車レーンにはなっていても使い勝手の悪いものや、何もわかっていない担当者が作ったとしか思えないような、「使えない」レーンもあります。このへんは万国共通なのでしょう。
おざなりにラインが引かれているだけで、危険なレーンもあります。迷惑駐車する車両に占拠され、通行が危険な場所も少なくありません。もっと高規格で、クルマとセパレートされた、クルマからプロテクトされたレーンを望む声も大きくなっています。
予算と道路幅に余裕があれば容易かもしれません。ただ、道路の幅や形状、交通量などは場所によっても違いますし、全部一律に同じような形状に出来るわけではありません。そこで、自治体はどのようなインフラ整備をするべきなのか、どのようなインフラが必要なのか、市民の間でも議論が高まっています。
このような動きを支援する動きもあります。“
Code for America”は、地方行政をもっと効率的で、より良いものとするための活動をしている団体です。その目的のために役立つようなサイトやネットワークをオープンソース技術を使って構築しています。
その中の一つに、“
Streetmixology”というサイトがあります。これは、地域の道路を断面図で考え、より良い形、より使いやすい形、より安全で地域のためになる形を考えるためのツールです。下のパーツをドラッグすると道路の形状やレイアウトが簡単に変わり、いろいろ試してみることが出来ます。
車道や歩道、自転車レーン、駐輪スペース、バス停その他の構築物などの配置を変えたり、幅を変えるのも簡単です。いろいろなレイアウトや配分を考えるためのツールとして提供されています。これが、住民が自分たちの地元の道路を考えるきっかけとなったり、議論の土台となることを狙っているのです。
住民だけではありません。実際のアメリカの自治体が、このフォームを使ってレーンの計画を立てたり、交通の流れを検証するのに使ったりしています。住民への説明や、道路のレイアウトを変更する際の事例案を提示するのに使っている都市もあると言います。
道路を実際の寸法で図面にしてみると、いろいろ見えてくることがあります。どの程度の幅がとれるとか、どの程度の幅が無駄になっているといったことも、一目瞭然です。操作も簡単ですし、なるほど、これは議論の呼び水として、あるいは議論の土台として使えそうです。
これは一例に過ぎませんが、その根底には、インフラはもっと進化させられる、進化するべきとの考え方があるのでしょう。もちろん、道路としての規格や制約もあると思いますが、一度決まったら、それを変えてはいけないとか、変えるべきではないとは考えないわけです。
インフラのあるべき姿や、もっといいスタイル、もっと安全な形を探ってもいいはずです。特に自転車レーンの場合は、まだまだ不満も多く、アメリカ国内だけでもいろいろなスタイルのものが混在しています。不具合や不都合があったら、柔軟に変えていこうとのスタンスがあります。
実際に、例えばユタ州のソルトレイクシティーでは、交差点の自転車レーンの新しい形が導入されました。自転車の事故が起きるのは圧倒的に交差点が多くなっています。より安全に、左折巻き込み事故(アメリカでは右折巻き込み)などが起きにくい形状にしようという試みです。
なんと、この新しい交差点をデザインしたのは、テレビゲームのデザイナーです。道路工学の専門家の考えることが正しいとは限りません。大胆な意見や、新しい発想でも、より良いものが出来るならば排除すべきではありません。新しいものへの挑戦を厭わないソルトレイクシティーの姿勢は評価されるでしょう。
日本でも、ようやく一部で自転車レーンが整備されはじめています。しかし、まだこれと言うスタイルが確立していないこともありますし、中には、およそナンセンスなもの、使えないもの、危険なものも見受けられます。すでに出来てしまったものでも問題があるならば、作り直すのをためらうべきではありません。
行政のやることでも、おかしなこと、間違ったことが幾らでもあるのは誰もが認めるところでしょう。しかし、行政が間違うことはないという、いわやる無謬性に囚われて、一度決めたもの、出来上がったものを変えようとしない自治体は枚挙に暇がありません。
地方自治体は、住民の自治に基づいて、業務を委嘱されているわけであり、住民の総意に基づいて、その業務が行なわれるべきなのは当然です。しかし、時々、「お上」が決めて実行するのが当然であるかのように誤解している役人がいないわけではありません。
そのような本末転倒は是正していく必要があります。某自治体のように、国も車道に整備していく方針を明確に示しているのに、今後も歩道上に自転車通行帯を整備していくと公言してはばからないようなところもあります。言語道断と言わざるをえません。
住民も、もっと積極的に道路のあり方を考えていくべきです。もちろん、立場による利害や好き嫌いなどを主張すれば、対立は避けられないでしょう。しかし、現状での利用実態を考慮し、より安全でスムースな交通という道路本来の機能の実現を前提に考えるならば、おのずと見えてくるものがあるはずです。
自治体は、地方自治の理念に基づき、極力住民の意思を反映していくべきです。従来の方針や既にあるものに囚われず、住民の安全や利便性が向上するなら、方針転換や改良・改革もためらうべきではありません。そして、そのためにも私たち住民は、自らも考え、声をあげていく必要があると思います。
フォルクスワーゲンの不正は、ポルシェやアウディ、ガソリン車にまで広がる恐れが出ています。一部の技術者のせいにしていますし、本当ならどこまで悪質な会社なのか呆れますね。