サイクリストは、常に盗難防止を念頭におくことを迫られています。実際に被害にあった方もあるでしょう。特にスポーツバイクは、被害にあった場合の金額も大きくなりますし、愛着のある自分の相棒が盗まれると精神的なショックも小さくありません。
高級車狙い?自宅にずらり73台…自転車盗逮捕
福岡県警早良署は12日、福岡市早良区、アルバイト(52)を窃盗容疑で逮捕したと発表した。

容疑者の自宅から押収された自転車(12日午後、福岡市の早良署で)
自宅からスポーツタイプを主とした自転車73台が押収されており、同署は高級自転車を狙って盗みを繰り返していた可能性があるとみて調べている。
発表によると、容疑者は8日から9日にかけ、同区の駐輪場で、会社員男性(27)の自転車1台(5万円相当)を盗んだ疑い。「間違いない」と容疑を認めているという。
押収された73台の大半はロードバイクなどのスポーツタイプで、うち19台は盗難届が出ていた。自宅内と玄関先に多くの自転車が置かれ、近所から不審に思う声が出ていたという。(2015年11月13日 読売新聞)
無施錠か、簡単に解錠できるママチャリなどを、勝手に拝借してアシとして使って乗り捨てるような、いわば行き当たりばったりの自転車盗だけではありません。最近は、金額の高い自転車を、最初から換金目的で盗む自転車盗の発生も増えているようです。
このような犯行は、高価なスポーツバイクばかりを盗むわけですから、狙い撃ちにされる確率が高まります。サイクリストにとっては厄介であり、憎むべき存在です。きちんと施錠していても、プロが使うような電動や油圧の工具などを使われれば、どんなロックでも簡単に破壊・切断されてしまうと言います。

ほとんどの場合、1分もかからずに破壊もしくは切断されるそうです。なるべく頑丈なロックで複数施錠するなど、相対的に盗むのに手間がかかるようにすれば、被害を免れる確率は上がるでしょうが絶対ではありません。自転車盗を確実に防ぐのは困難と言わざるを得ません。
中には警察が検挙するケースもありますが、多くは未解決です。いかんせん件数が多いため、個々の捜査に多くの人手をかけるのは難しいでしょう。自転車盗は、青少年の非行の入り口となることが多く、地域の治安悪化のきっかけにもなることから、防止のための啓発活動などにも力が入れられいます。
しかし、犯行を助長する、無施錠の自転車を減らすことは、将来の窃盗犯を減らすという意味では効果があるかも知れませんが、いわばプロの窃盗犯の犯行を防ぐには効果が薄いと思われます。たまに検挙されたことがニュースになるくらいでは、抑止効果もあまり期待できません。
考えてみれば、自転車というのは、窃盗犯の絶好の獲物かも知れません。街に出れば、盗んで下さいと言わんばかりに自転車が並んでいます。私有財産が、公共の場所に置かれているのは、他にクルマくらいでしょうか。でも、クルマに比べて圧倒的に盗みやすく、運びやすく、隠しやすいのは間違いありません。

ふつう金品を盗むためには、金融機関や商店、民家やコンビニなどに押し入る必要があります。留守宅を狙って空き巣に入るとしても、侵入することのハードルは高いですし、証拠が残ったり、検挙される確率が高まるであろうことは容易に想像がつきます。
自転車の場合は、道路脇や、商業施設、駅前の駐輪場など、物色し放題です。多少の知識があれば、どれが高く売れる自転車かもすぐわかります。分解してパーツとして売りさばくことも出来て換金しやすく、窃盗の対象になりやすいということなのでしょう。
確信犯にとって、昼間のひと気のない駐輪場から自転車を盗むくらい、赤子の手をひねるようなものに違いありません。監視の目が行き届かないような駐輪場はいくらでもあります。自分の自転車を出すフリをして、周囲の目がない隙を見計らって、ロックを破るくらい朝飯前なのでしょう。
固定物につなげてロックしてなければ、施錠されたまま持ち上げ、トラックなどに載せて、後でゆっくり解錠することも可能でしょう。放置自転車の撤去作業者か何かのフリをすれば、怪しまれることもありません。中には、個人宅などの軒先、玄関先から盗むような大胆な犯行もあると聞きます。

このような自転車盗を防ぐため、防犯グッズなどもいろいろ工夫されているわけですが、完全に盗難を防げないのが実際のところでしょう。盗難防止だけのために、特殊な自転車に買い換えるのも難しいですし、手間のかかる防止法を、常にとれるとも限りません。
以前から書いていますが、自転車盗を減らすのに効果的なのは、出口、すなわち換金するのを困難にしていくしかないと思います。自分が乗るために盗むのを除いて、換金が出来なければ、盗む理由がなくなります。盗んでも飾っておくしかないなら、被害は激減するに違いありません。
最近は、街のリサイクルショップだけではなく、ネットオークションや個人で売買できるようなサイトがたくさんあります。対面で売却しなくても、ネットで簡単に売ることが出来るわけです。アシも付きにくく、換金に手間がかからないのですから、犯人にとっては笑いがとまらないでしょう。
もちろん、中古の車体やパーツを手に入れたいサイクリストも多いわけですから、その利便性をそぐわけにはいきません。でも、盗難品は出品出来ないようにするなど、換金手段とならないようにするべきではないでしょうか。残念ながら、今はそのような対策はとられていません。

サイトとしては、売買を規制する形になるわけで、売上げを減らす方向に作用します。盗品を排除するような仕組みを整えることは余計なコストにもなります。もちろん盗品と判明すれば対応はするでしょうが、積極的に盗品売買を排除しようとしているとは言えない状態です。簡単ではないのも確かでしょう。
ところが、最近新しくスタートした自転車専用の売買サイト、“
Perfecto”は違います。盗品の売買を排除することを明確にうたっています。盗品売買について一切許容しない姿勢です。他のサイトと違って、自転車泥棒を許さないことを明確なコンセプトとして掲げているのです。
アメリカだけでも年間150万台以上の自転車が盗まれています。金額にして3億5千万ドル以上という膨大な被害額です。確かに、アメリカを旅すると、日本人の感覚だと、大げさすぎと思えるような太い鎖を使って施錠するなど、盗難被害に苦慮している様子が見受けられます。それにしても、すごい台数です。
その相当の割合がネットで売買され、換金されているのは間違いないでしょう。“Perfecto”は、これを根絶したいと考えています。わざわざ、他の自転車が売買出来る有名なサイト、“ebay”や、“craigslist ”などとは違うと実名を挙げて宣言しています。
そのために、いろいろな方法が導入されています。まず、自転車やパーツを売買しようとするサイクリストに対し、“Strava”のアカウントを公開するよう提案しています。これは、
前回取り上げた、サイクリストの走行履歴を記録し、トレーニングや健康管理などに利用できるサイトです。
ここで、個々の履歴をチェックすれば、本当にサイクリストかどうか一目瞭然です。前回は取り上げませんでしたが、この“Strava”では愛車の履歴も管理できるようになっています。このデータを参照すれば、売りに出されている自転車が、実際に売り手が乗っていたものだと確認できるわけです。
買ったばかりの自転車を手放すケースも皆無ではないと思いますが、稀でしょう。“Strava”の履歴を見れば、突然手に入れて、売りに出されたような不審な品物の売買を回避できるはずです。一方で、どのくらいの累積距離を走った自転車なのかもわかるので、買い手としては妥当な金額かどうかの判断にも使えます。

“Strava”を使っていない人には、“Facebook”などのSNSのアカウントを明らかにすることを提案します。つまり、ネット上であっても、売り手や買い手が特定できるような関係、信用のおける形で取引が出来るようにすることで、盗品の換金を排除しようとしているのです。
もちろん、売買の際には、自転車の車体番号などを登録させます。この番号を盗品の被害届などのデータと照合します。盗まれた自転車の番号全てがデータベース化されているわけではないと思いますが、一定程度排除されると共に、抑止効果も期待できます。
オークションや個人売買サイトにあるような、売り手と買い手が双方を評価する仕組みもあります。この評価が低いと警戒されることになります。例えば、車体番号が削られているなど、怪しい部分があれば、当然評価は低くなるわけで、常習的に換金することは困難になるはずです。
売り手と買い手がチャットでやり取りすることも出来ます。品物に不審な点があれば、質問することが出来ます。買い手としても盗品を買ってしまって、あとで没収されて損をするような事態は避けたいわけで、納得して上で買うことが可能になります。
これは単に取引高が増えればいいという商業サイトとは一線を画し、サイクリストの立場にたった自転車専用の取引サイトと言えるでしょう。売買を通してサイクリスト同士をつなぐ、ある種のSNSでもあり、同時に自転車盗撲滅という、サイクリストの願いを実現しようというサイトなのです。

これは素晴らしいコンセプトのサイトが出来たものです。企業の社会的責任を果たそうという点でも高く評価できます。この“Perfecto”が自転車売買市場で高いシェアを獲得し、事実上、他のサイトでの売買が困難になるならば、自転車盗の換金が相当難しくなるに違いありません。
それが無理でも、このサイトが台頭していくならば、他の大手の売買サイトも同様の方策を取り入れざるを得なくなることが期待できます。サイクリストとしては、愛車が盗まれる可能性が減り、安心して乗れる社会の実現が期待できることになります。
そのために、サイクリストとしては、“Perfecto”のような理念を持ったサイトを支持し、売買の際にはなるべく利用するようにしていく必要があるでしょう。今後、“Perfecto”が日本や世界で、どのくらい広がっていくかはわかりません。でも、是非、自転車売買のデファクトスタンダードになってほしいものです。
新型ノロウィルスに大流行の恐れがあり、予防ワクチンや有効な治療薬はないそうです。手洗いなんでしょうね。