東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場の建設計画は、一旦白紙に戻されましたが、仕切りなおしの新しいプランの候補が発表されました。紆余曲折のあった新エンブレム案にも、多くの応募があり、より透明性の高い方法で選考されることがアナウンスされています。
各種目の競技会場の見直しも進んでいるようです。当初のコンパクトな地域にまとまった開催にはならないとしても、無駄な施設を建設せずに、なるべく既存の施設を有効利用することが考えられているようです。五輪後に重い財政負担を残さないためにも重要なことでしょう。
五輪開催時の渋滞対策については、まだあまり聞こえてきませんが、今後会場計画と共に詰められて行くのでしょう。世界中から多くの観客が訪れる一大イベントですから、その成功のためには、観客や関係者のスムースな移動が大事になることは、ロンドンの例などを挙げるまでもありません。
未完成の都市計画道路などの完成が急がれるのは、当然考えられるところです。しかし、それだけでは渋滞対策としては不十分でしょう。かと言って、これから既存道路を拡幅したり、新しい道路を計画するのは、土地の取得が困難で、これまでの例から考えても、到底間に合いそうにありません。
一部に新しい道路や橋などを新設し、そこだけスムースに流れるようになっても、結局別のところがボトルネックとなってしまいます。期間中は、バス専用路線などを設置することは考えられますが、普段から慢性的に渋滞している都市部の道路の場合、道路整備だけによる渋滞対策は難しそうです。
道路交通以外の方法による、人々の移動手段の拡充が期待されるわけですが、ロンドンの時は、ジョンソン市長による自転車革命と呼ばれた、大々的な自転車レーンの整備が効果をあげ、世界中から高い評価を受けました。似たような成熟した都市である東京も大いに参考になるはずです。
この点については、多くの関係者からも指摘されていますし、桝添都知事は、ジョンソン市長本人からも直接提言を受け、現地の視察も行なっています。まだ具体的なプランやスケジュールなどは明らかになっていませんが、今後の展開が気になるところです。
ロンドンの時の渋滞対策と言えば、テムズ川を横断するゴンドラも建設されました。都会の街並みを眼下にしながら空中散歩も楽しめるところが話題になりました。東京でも、こうした新しい交通システムは導入されるのでしょうか。これも今後、気になる点です。
ただ、東京のような都市で、大々的な新交通システムを建設するのは、用地などの点で、そう簡単なことではないと思います。国家的イベントですから、規制緩和や都市計画の変更は可能としても、空間的な制約があります。地下鉄や共同溝などが張り巡らされた地下も難しいでしょう。
新交通システムとは違いますが、世界の都市では、これまでにないような斬新な方法による、人々の移動経路、新しい動線をつくる計画が練られています。新たな用地の取得や、必要な空間の確保が難しいところは、どの都市も共通しています。単に道路や橋の新設では解決にならないのも同じです。
オリンピックとは直接関係ありませんが、ニューヨークでは、マンハッタンとニュージャージーを結んで、川の上空を横断する歩道橋の計画があります。マンハッタンと、ジャージーシティは直線距離では近いのに、既存の橋を使ってクルマで移動すると大回りすることになり、時間もかかります。
現在、ハドソン川を渡って移動するには、大きく迂回せざるを得ません。このリバティブリッジと名づけられた橋は、歩道橋と言っても、これまでのものとは見かけも概念も大きく違います。ビルの隙間を縫って、ジャージーシティとバッテリーパークを直接結んでしまおうという大胆な計画です。
この歩道橋は、歩くだけでなく、自転車を使うことが出来ます。ハドソン川を渡る前後の区間も含め、相当の距離があるので、歩くだけでは時間がかかってしまいます。もちろん、散歩がてら、ゆっくり歩くことも出来ますが、自転車で移動すれば、実用的な移動時間となります。
ビルから対岸のビルへと直接の経路をつくるだけではありません。マーケットスペースがあったり、アートの展示などを楽しむ文化的スペースも提供します。そして、もちろんハドソン川上空の開けた空間からの、見事な眺望を提供するものでもあります。
この橋は、昔の鉄道跡地の空間などを利用して建設されます。高さは60メートル以上、橋の両端の間の距離は1.5キロ以上になります。視界の開けた川の上空60メートルのサイクリングは、観光スポットとしても話題になるに違いありません。
デンマークのコペンハーゲンでも、これまでの橋の概念を覆すサイクルブリッジの計画があります。港の埠頭と埠頭をショートカットする高架橋です。こちらも地上65メートル、大きな客船などを通すために高くする必要があります。自転車と歩行者は、橋の両端のビル内のエレベーターを使って昇降します。
両側のビルから伸びた通路が、斜めに交差するデザインがユニークです。港にあるいろいろな施設へ行くためには、メトロの駅からも遠く、また港の反対側にある施設を利用するためには、大きく迂回しなければなりません。この場所を結んで自転車が使えれば非常に便利になります。
自転車が有力な公共交通手段として活用されているコペンハーゲンならではの、自転車ブリッジと言えるでしょう。もちろん、この場所にクルマを通す橋、しかも60メートルの高さの橋を架けるのは困難ということもありますが、港周辺の施設利用者にとって、歩行者と自転車用の橋のほうが便利です。
ロンドンでは、テムズ川を横断する、歩行者と自転車用の橋に、下の動画のような跳ね上げ橋も計画されています。大型の船舶が行き来する川の場合は、このような跳ね上げ橋も有効でしょう。オシャレなデザインで、建設されれば、こちらも人気が出そうです。
前にも少し取り上げましたが、テムズ川に浮かぶ自転車道路のプランもあります。川を使うので、用地買収は必要ありません。水上に浮かべるので、川の環境への負荷も小さくて済みます。川沿いでなく、川の中を通るサイクリング道路として、ユニークな体験が出来るコースとなるでしょう。
どれも、歩行者用、自転車用というのがポイントです。場所によってはクルマ用にすることも可能だと思いますが、また一つ、クルマ用の通路が増えたところで、結局どこかにボトルネックが移るだけで、効果は薄いと思われます。歩行や自転車の便利なルートが出来れば、新たな動線になることが期待できます。
渋滞を敬遠する人が、クルマから分散すれば、渋滞の軽減、移動に伴う所要時間の短縮につながるはずです。どれも斬新なコンセプト、デザインであり、観光スポットとしても期待できます。オリンピック以後も活用できる、貴重なインフラとなるでしょう。
東京都が、オリンピック・パラリンピック開催に向けて、どのような渋滞対策を計画するのか、まだ具体的なところは見えていません。ここに挙げたような、既成概念にとらわれない、大胆な発想をすることも、渋滞の緩和や都市インフラとして、また観光資源としても、有効な投資になるのではないでしょうか。
今年の漢字、安保や不安の「安」だそうです。公募なのでいいんですが、漢字のイメージとは少し合わない気が..。