January 05, 2016

今後のインフラ整備のあり方

2016年が始まりました。


今年はリオデジャネイロ・オリンピックがあります。と、いうことは、東京オリンピック・パラリンピックまで、もうあと4年あまりということになります。昨年は、エンブレムの問題や、新国立競技場建設計画の白紙撤回など、さまざまなニュースが話題となりました。

新国立競技場は、新たなプランとなりましたが、それでも1千5百億円です。当初の案の2千5百億円から1千億の削減にはなったものの、近年のオリンピックのメインスタジアムは、高くても5〜6百億円程度と、依然として1千億円も高い、突出した金額です。

いろいろ事情はあるにせよ、他の大会の3倍もの金額のスタジアムを作って運営していけるのでしょうか。五輪後に、税金を大幅に投入して維持していく必要が出てくることが懸念されます。いわゆる負の遺産となって、国民負担が重くのしかかる心配がぬぐえません。

負の遺産と言えば、首都高速も負の遺産としての面があります。前回の東京五輪の時に急遽計画されたため、用地買収に時間がかけられず、川の上などを通る形になりました。日本の道路の基点である日本橋の上空に高架道路としてかかっているため、景観が著しく損なわれていると、かねてより指摘されてきました。


東京・日本橋の首都高高架、特区使い地下化 国交省や都

東京・日本橋の真上を走る首都高速道路を地下に移す構想が動き出す。国土交通省や東京都は国家戦略特区の事業と位置づけ、3月にも周辺の再開発と一体で都市計画決定の手続きに入る。事業費は5000億円規模とみられ、2020年の東京五輪閉幕後の着工を目指し、財源を調整する。(2016/1/5 日本経済新聞)


その首都高の高架部分について、今日の日経新聞が速報として伝えています。すでに官民で構成する連絡会などで協議が進んでいると言います。当初は、老朽化に対応する補修工事を現状のまま1千4百億円で改築する予定だったのを、地下に移設することにして、わずか2.9キロに追加で3千億円を投入する計画です。

確かに、景観を損ねているのは間違いないでしょう。しかし、今さらわざわざ景観のために地下化することに、どれだけの意味があるのでしょうか。着工は五輪の後としても、五輪に向けた、「どさくさ」に紛れて、既成事実化しようとしていると見るのは穿った見方でしょうか。

この議論、ちょうど10年前にも話題となりました。当時の小泉首相の一声によって急浮上しましたが、結局立ち消えになりました。また亡霊のように浮かび上がってきたところに、「官民」の勢力の執念のようなものを感じずにはいられません。

5千億規模の費用をかけて、景観をよくする意味があるでしょうか。10年前にも指摘されたとおり、景観の問題だけであれば、日本橋のほうを移設すれば済む話です。どこか近くの川にかかる橋を多少改修して、新しく日本橋として命名すれば、ずっと安上がりです。

元は、今の場所より数百メートル離れた場所が日本橋でしたと、脇の銘板に書いておけばいいだけです。実際に、旧所名跡などの中には、近くに移されたものが無数にあるはずです。費用対効果を考えず、利権を巡って蠢く官僚やゼネコンの姿が見える気がするのは私だけでしょうか。

bicycle highways

同じ道路整備の計画でも、最近ヨーロッパで報じられている話は違います。ドイツでは、自転車用アウトバーンと言うべき、自転車専用ハイウェイの整備構想が浮上しています。すでに一部は着工済みで、ドイツの主要な10の都市や4つの大学を結ぶ計画です。サイクリストにとっては夢のような話です。

自転車専用道であるばかりか、既存のクルマの道路とは立体交差させるので、基本的に信号はありません。幅13フィート、4メーター以上で、追い越し用の車線も完備された高規格な自転車ハイウェイです。照明も完備し、冬は除雪もされます。まさにハイウェイと呼ぶに相応しいインフラです。

フランスのパリでも、同様の自転車専用ハイウェイを新設する構想があります。シャンゼリゼ通りをはじめとするパリのメインストリートに並行して、クルマとは隔絶された自転車専用の道路を通すものです。予算は1億6千万ドル規模となる予定です。

bicycle highways

何度か取り上げましたが、イギリスのロンドンでは、自転車ハイウェイが実際に建設されていますし、オランダやデンマークでも、既に相当の距離の専用道が整備されています。ヨーロッパでは、道路は道路でも自転車専用の道路の整備が進められているのです。

日本橋付近の首都高を地下に潜らせても、良くなるのは景観の一部と官民の利権集団の懐だけです。一方、自転車ハイウェイは、都市部の渋滞緩和や大気汚染の改善、温暖化ガスの削減、市民の健康増進など、さまざまなメリットが期待されています。どちらが、より有益で好ましいか、言うまでもないでしょう。

日本では、いまだに道路インフラと言えば、クルマ用が中心です。おそらく、首都高地下化を進める「官民」にしてみれば、自転車用の道路なんて不要、役に立たない、経済効果を生まない、工事としても旨みがない、といったところでしょうか。自転車インフラなんて論外と思っているのでしょう。

bicycle highways

しかし、首都高でも、未完成の環状線ならいざ知らず、既存の部分を地下化しても、将来の国民負担が増えるだけで、まさに負の遺産となるだけではないでしょうか。景観については、他の方法のほうが、よっぽど安くつきます。新しくしたからと言って、クルマを運転する人が増えるわけでもありません。

一方、日本でも、例えば首都圏に自転車ハイウェイを建設したら、そのメリットは少なくないはずです。渋滞緩和や、大気汚染や温暖化ガスの削減にとどまらず、市民の健康増進によって、医療や介護などの社会福祉予算が減ることも期待されます。

満員電車の苦痛も軽減されるかも知れませんし、健康寿命が延びる可能性もあります。新たな交通の動線が出来ることで、災害対策や観光資源としての集客効果なども期待できるでしょう。自転車に乗る人が増え、新たな需要が生まれることによる経済効果も考えられます。

bicycle highways

自転車乗車中の交通事故が減って、死亡者数の減少も期待されます。死亡者が減るということは、人口減少社会において、貴重な働き手を減らさないということだけではありません。人の生死を経済で測るのは不謹慎ですが、社会にとっての逸失利益が減り、将来に渡って納税されるはずの税金も失われなくてすむのです。

日本の都市部に、これ以上、新たな道路整備をする余地はないとの見方もあるでしょう。しかし、クルマ用でなく、自転車用であれば、まだまだ使える場所はあると思います。河川や海岸沿い、鉄道や高速道路の高架下、あるいは有料道路沿いなど、うまく利用すれば整備は可能なはずです。

既存の道路に自転車レーンを整備し、より安全に自転車を利用できるようにすることも大切ですが、自転車ハイウェイのような道路整備は、新たに自転車を活用しようという人を増やします。つまり、新たなニーズを発生させることになります。一方で、それがクルマの販売を減らすとは限りません。

Paris

雨も降りますし、使う用途も限られます。クルマの利用の全ての代替することは出来ません。もちろん、なかにはクルマをやめて、自転車オンリーにする人もあるでしょうが、多くは使い分けることになると思います。クルマの利用は減るかも知れませんが、依然としてクルマの所有は続ける人も多いはずです。

自転車の分だけ新たな需要が発生すると考えれば、それなりの経済波及効果も期待出来ます。クルマ用の道路でなく、自転車用の道路をつくることに、さまざまなメリットが見込めるのは、ドイツやフランスをはじめヨーロッパ各国が整備を計画していることでもわかります。

今後、五輪に向けて、あるいは五輪後に向けて、インフラ整備についての話題も増えていくでしょう。しかし、五輪にかこつけて、後に負の遺産として、大きな国民負担となるインフラを作るべきではありません。道路だって、旧態依然としてクルマ用の道路ばかり作り続けるだけが能ではないでしょう。

人口減少が進んでいく中で、インフラの整備のあり方についても考え直す必要があるのは論を待ちません。従来型のクルマ中心の固定観念を捨て、ヨーロッパを見習い、もっと柔軟な発想で、インフラ整備について考えていくことも必要なのではないでしょうか。




新年早々サウジアラビアとイランが断交ですか。シリアやイラク含め今年も予断を許さない状況になりそうです。

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