構造的な歪みを是正するべき
自転車インフラに対する人々の意識も変わってきました。
以前は、『自転車は歩道を通るのが当たり前。』と信じて疑わない人が大多数でした。その昔は日本でも車道走行でしたが、高度経済成長期に交通事故が多発し、あくまで緊急避難的に自転車を歩道走行させたのが、その後40年以上にわたって、そのまま続けられてきたからです。
その間、インフラも自転車の歩道走行を前提に整備されてきました。生まれてからずっと、当たり前のように歩道走行してきた人も多いはずです。近年、ようやく国土交通省や警察庁が本来の車道走行へと方針を転換しましたが、一朝一夕には変わらないのも仕方のないところです。
明日から車道走行せよ、と言われても怖くて出来ない気持ちもわかります。現状では自転車の車道走行を前提に整備されていないため、車道走行が著しく危険な場所もあります。あまり歩行者が通らない場所で、無駄に広い歩道があるのに、自転車で走りにくい車道を通るのは合理的でないということもあるでしょう。
車道が危ないから歩道を通るのは当然と言う人も多いと思います。しかし、それによって歩行者が危険にさらされています。歩行者を危険にしておいて、危険だから歩道を通りたいというのは身勝手な論理です。自転車に乗っていると気づきませんが、歩道を縫うように走る自転車は歩行者にとって脅威以外の何物でもありません。
歩道は歩行者が優先で、徐行したり、降りて押さなければなりません。しかし、それでは自転車本来の機動力が活かせないので、スピードを出して乗っている人が大多数です。歩いてみれば、いかに危ないか、すぐ実感できます。結果として、自転車と歩行者の衝突や接触が増加しています。
本来、自転車は車両であり、歩道走行すること自体、ナンセンスです。排気量50ccの原付バイクが歩道上を歩行者を縫うように走行している状態を想像すれば明らかでしょう。自転車もそれほどスピードは変わりませんし、衝突した時のダメージも近いものがあります。
車道に自転車の走行空間が乏しいことや、ドライバーの多くが自転車は歩道走行と思っていたため、車道は走りにくい、怖いと感じる人があるのは確かでしょう。一方、歩道では暴走する自転車として白眼視され、肩身の狭い思いもあると思います。
それもこれも、自転車レーンなどのインフラの決定的不足が原因です。そのことがだんだん認識されるようになってきました。以前は、自転車専用の走行空間を確保しろとか、自転車インフラをもっと整備しろなんて声は、あまり聞かれませんでしたが、それが少しずつ変わってきているように感じます。
このブログでも多くの事例を取り上げてきましたが、欧米諸国では、当たり前のように自転車レーン等が整備されています。特に昨今は、排気ガスで公害を撒き散らし、渋滞で速度も上がらず、環境負荷の高いクルマより、もっと積的に自転車を使おうという機運が世界的に広がっているのも後押ししています。
自転車を何よりも優先しろなんて言うつもりはありません。しかし、日本では、あまりにも自転車インフラが不足しています。他の先進国と比べても、著しく欠如している状態です。このために、事故で多くの人命が失われているわけで、自転車インフラの充実が求められるのは自然な流れなのではないでしょうか。
例えとして適当かわかりませんが、諸外国と比べ、下水道があまりにも足りなかったら、当然のようにその整備を求める声が上がるでしょう。自転車インフラについては、40年以上異例な環境にあって、あまり欠乏感がなかったため、これまで、そのような声が上がらない状態でした。
でも最近は、各方面で、その必要性が指摘されるようになってきました。各地の自治体の中にも、自転車インフラの充実を考えるところが出てきています。ネット上で、我々の生活にかかわる問題の解決のため、署名活動を行っている民間のサイトにも、自転車レーンの設置問題が取り上げられています。
「
ACTIONなう!」というサイトでは、『自転車だけを悪者にしても解決しない!自転車専用レーンを設置して安全で快適な道路に!』と呼びかけています。『最もインフラが整っていない自転車だけが悪者に扱われている風潮』があることを指摘しています。
『自転車レーンが整備されていないうちに、やれ車道を通れ!やれ歩道を通れ!というのは無理があり』、『日本には、オランダやデンマークと違い、完全に独立した自転車専用レーンの設置は先進国とは思えぬほどに遅れています』と書かれているのは、そのとおりだと思います。
『私たちは歩行者・自転車・車のそれぞれが独立して安全に通行できるよう、歩道でもない車道でもない独立した安全な自転車専用レーンが世界標準クラスのインフラとして整備されることを希望します。』と提案し、賛同する人に署名を通じて協力を求めています。
このようなところにも人々の意識の変化が表れているように感じます。肩身の狭い自転車利用者が、自転車インフラの整備なんて求めるような雰囲気でなかったのが、もっと積極的に求めるべきなのではないかと、少しずつ変化してきていると言えるでしょう。
日本には8千万台以上の自転車があり、利用する人の多さに関しては世界有数の自転車大国です。最寄り駅や買い物など短距離が多いですが、日常的に多くの人が自転車を使っています。これだけ利用されているのに、あまりにも自転車インフラが不足している状態であり、その結果が諸外国に比べ多い事故件数などに出ています。
戦後、日本の復興と高度経済成長に伴って、道路の整備も大幅に進みました。いまや主要な道路に未舗装はありませんし、立派な歩道が整備されていて当たり前です。しかし、諸外国と比べて自転車レーンだけは少なく、ある意味、いびつな状態となっています。
これだけ多くの人が日常的に使っているわけで、市民としては、当然のように、その整備を要求すべきであり、これまであまりにも要求してこなかったと言えるのではないでしょうか。無理に歩道を走らされてきたことに気づいた以上、求める声が増えてきて当然なのではないでしょうか。
中には、クルマは高い税金を払っているけれど、自転車は費用を負担していないと言う人がいます。受益者負担と言いたいのでしょう。しかし、税金を払っている自分はクルマに乗り、自転車を使わないから、自転車のために税金を使うなというのは、あまりに狭量で偏った考え方だと思います。
自分は街灯がなくても平気だから、税金で街灯を設置するなというのと同じです。一人ひとりが使う使わないとか、必要と思うか思わないかに関わらず、社会として必要なものを整備するのが当然です。歩道なら何も言わないのに、自転車レーンは不要というのは違うのではないでしょうか。
歩道が整備されれば、相対的に事故のリスクが減るので、クルマのドライバーにもメリットがあります。同じように、自転車レーンも自転車利用者だけでなく、クルマや歩行者にもメリットがあるはずです。これまで絶対的に不足してきたため、必要性が実感できないだけだと思います。
地方自治体の中にも、市民は自転車を使うな、なるべく歩けなどと呼びかける、勘違いしたところがあります。市民が選択し、これだけのニーズがある以上、そのニーズに応えて整備するのが、民主主義的にも、地方自治的にも当然のことではないでしょうか。
おそらく、自転車利用者にマナーの悪い人が多いため、目の敵にする人がいたり、イメージが悪いことも影響していると思います。しかし、一方で自転車インフラの不足が、マナーの悪さを助長している面もあると思います。インフラの整備が進めば、マナーの悪さが改善され、秩序の形成を促すということもあるでしょう。
今は、歩行者の延長のような感覚で、自転車でどこでも走ります。このことが、例えば逆走などを招きます。自転車レーンが出来て、そこを走るのがラクで速いとなれば、誰もが走るでしょう。わざわざ逆走するのは走りにくいので、だんだん秩序が出来ていくと思います。
迷惑駐輪を正当化するつもりはありません。ただ、駐輪場の不足も背景にあると思います。安くて使い勝手のよい駐輪場ができれば、放置自転車も減るはずです。やはり、マナーの悪さは、インフラの不足が背景となっている面があるのは否めないでしょう。
自転車インフラの充実は、自転車利用者だけでなく、歩行者の安全性の向上、事故や渋滞の減少など、多方面に恩恵をもたらす可能性があります。自転車に乗らない人でも、歩道を安心して歩けたり、クルマに乗ったとき車道上で事故が起きるリスクが減るなら、メリットは多いはずです。
少しずつ自転車インフラに対する意識が変わってきていると思います。自転車に乗らず、あまり自分と関係ないと思っていた人も多いと思いますが、当たり前の交通インフラの一部が欠如しているのです。その歪みを是正することによる、社会的なメリットに目を向けていくべきではないでしょうか。
一時の暖冬傾向がウソのような寒さになっています。まあ、冬ですからこれが普通といえば普通なんでしょうね。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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どんな方法もよいので、自転車に、
・歩道での無条件の徐行
・逆走しない
・交差点での安全確認
を守らせていただきたい。インフラよりも、こちらのほうが重要に思います。
義務教育課程を終えた全ての(自動車免許無しも含む)老若男女に自転車教習を行うプランのめどが立たないうちは改善の見込みは難しいでしょう。
自転車危険項目14項を2回違反→1回違反したら公安の講習会に出頭に厳格化して多くの国民に無理やり自転車教習させるとか
小学校から高校まで月1回レベルの自転車教習義務化を教育委員会に働きかけてみては?
ひでさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃる通りだと思いますが、それを守らせるための啓発活動や教育をしても、守られていないのが実情です。
実際問題として、実効性のある方法がない中、インフラを整備することにより、自然と秩序が形成される可能性もあるのではないかと思うのです。
名無しさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
潜在的に自転車を利用する人の多さを考えても、自転車教習を実施すること自体、莫大なコストがかかり、現実的でない部分があると思います。
そのような講習をしたからといって、ルールが守られるようになるとは限りません。
小学校から高校までの教習も同様でしょう。
そのような方法を否定するわけではありませんが、莫大なコストに比べ、実効性すら担保されない以上、現実的とは思えません。
それならば、その費用を使ってインフラを整備することにより、例えば、「自転車レーンが出来て、そこを走るのがラクで速いとなれば、誰もが走るようになり、わざわざ逆走するのは走りにくいので、だんだん秩序が出来ていく」というような効果も期待できるのではないでしょうか。
こんにちは
[自転車だけが悪者に扱われている]という言葉に強く共感してしまいます、本来は道路の利用者より管理者の方が責任が重いはずなのに、自転車が正しく走る事を想定していない道路を造り続けている行政はあまり非難されず、自転車のマナーの問題にされてしまう・・・
そして税金の問題についても、自動車は大規模な道路設備を必要とする為に税負担を強いられていますが、禁止された方法以外なら自動車以外の交通にも道路を利用する権利が有ります。
重量・専有面積・スピード等の自動車の特性によって他の交通の権利を侵しているのであれば、自動車所有者・利用者が支払った税金がそれらの対策に使われる事も自然な事だと思います。
道路拡張のほうが莫大なコストがかかると思われます。
特に電線地中化が施行された道路では巨大な変圧器が地上に露出し、一度設置された変圧器を移動させることが困難になります。
変圧器移動のためのバイパス地中溝の工事だけでも相当な工賃がかかるでしょう。
歩道のみの拡張であれば変圧器を動かさずに済むため地主との交渉だけで済みます。
歩道のみ拡張の場合、歩道側に自転車レーンを設置する形になりスポーツ自転車乗りが渇望する道路への自転車レーンは潰えることになるでしょう。
電柱を介して空中に電線を通す形式であれば非常にコストが安く道路と歩道のバランス調整がしやすいんですが…地震や強風で電柱が倒壊して道路封鎖が起きるという欠点があります。
道路に面する地主との交渉も莫大なコストがかかる案件です。
重要な道路に面する土地は安定したテナント料をせしめることができる金脈なのです。
金脈の利益が減る土地の明け渡しに応じる地主はまずいないでしょう。
建築規制を立てたら地主は建物が倒壊の危険が発生するか行政代執行が行われるまで土地建物を使うことでしょう。
また工事代金を行政に全額負担させるまでごね続けるのは明白です。
都市部で駐輪場が不足しているのにもかかわらず駐輪場がなかなか増えないのもテナント料に対して収益を上げられない事があります。
特に駅前では行政、地主、鉄道関係の三者の間でババ抜きのババを押し付けあうが如き争いが今も続いています。
もちろんババ=自転車駐輪場の事です。
特に都心部では深刻です。三者が結託して「自前の自転車で都心部に来るな。」となるのも時間の問題でしょう。
現実的ではないし考えたくもない事態だが・・・高所得者向けに一月6,000円以上の定額利用か一日利用400円以上の今の相場より高い体制で大規模駐輪場を各駅から数百メートル以内に設置した後で
駅周辺の路上駐輪は毎日即時撤去の体制を行政が中心となって都心部で行い撤去費用を懲罰と毎日撤去の意味を込めて20,000円以上にしたら自前の自転車で都心部に来る人は確実に減るでしょう。
撤去されて取りに来なかった自転車は行政が防犯登録を除去した後にオークションにかけて売却すれば良き財源となる事でしょう。
書いてて胸糞が悪くなるほど現実化してほしくないプランでした。
電線地中化についてはWikipediaの記事も参考になるかと。
ta_isoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね。自転車利用者のマナーの悪さ、交通ルール違反を正当化したり弁護するつもりはありませんが、自転車環境が整備されず、適切に扱われてないと感じる人は多いでしょう。
これまでは、あまり声を上げる人がいませんでしたが、「ACTIONなう!」のサイトのように、問題提起する人も増えてきたということなのだろうと思います。
自転車利用者でクルマを所有する人もいますし、ドライバーも同じでしょう。家族が自転車に乗るということもあると思います。クルマしか乗らないからと、クルマの立場だけを主張するような議論は不毛であり、道路の機能や安全性から総合的に考える必要があると思います。
名無しさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃることはその通りだと思いますが、必ずしも道路を拡張しろとは言っていません。用地の収用などに何十年とかかる例も多く、むしろ現実的でないと思います。
道路を拡幅せずとも、場合によっては、車道の車線を減らして自転車レーンを整備することも出来るはずです。
実際、そのような場所もありますし、幹線道路などならば、路側帯などのスペースを使えば自転車レーンを設置できる道路は、相当な割合に上るという調査もあります。
警察庁も、パーキングメーターなどを減らすなどを含め、そのような方向性を表明しています。
欧米諸国の例もほとんどそうだと思います。
駅前駐輪場の増設が難しいのもそのとおりだと思いますが、再開発に伴い、地下収納式などの整備例も出てきていますし、大型商業施設が新設される場合には、あらかじめ駐輪場を整備する例も増えています。
放置と撤去のいたちごっこでは抜本的解決にならないため、駐輪場の増設に積極的に取り組む自治体も増えています。料金も安くなくては利用されないため、料金を下げるところも出てきています。
民間用地は難しいですが、国も、自治体が歩道を含めた公共のスペースを利用して駐輪場がつくれるような法改正を行なっています。
自治体にも議会がありますし、住民自治の観点からも、高額な撤去保管費用をとるのは難しいでしょう。そのような事例も聞きません。
どちらも簡単だとは言いませんが、世界的に見てもいびつな道路インフラの構造的な問題を解決していく必要があると思います。
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