法律違反がない限り、クルマが車道を通行できるのと同じように、自転車も車道を通行することが出来ます。もちろん、通行が許可された歩道を通ることも認められていますが、車道走行が原則であり、道路交通法で定められている以上、車道走行は権利というより、順守すべきルールです。
ところが、長い間、自転車に歩道走行させる道路行政を行なってきた結果、多くの人に誤解があります。いまだに自転車は歩道走行すべきと思っているドライバーもいますし、車道を通行する自転車を苦々しく思っている人もいるでしょう。クラクションを鳴らしたり、嫌がらせをする人もいます。
クルマのドライバーにしてみれば、逆走や並走、信号無視など、ルールを守らない自転車が多い中、車道走行の権利だなんて腹立たしく思う人もいるに違いありません。私もクルマを運転しますし、ルールを無視した上に、我が物顔で危険な自転車利用者に腹が立つ気持ちはよくわかります。
しかし、自転車利用者にも法令を順守して走行している人は大勢います。一方、クルマのドライバーの中にだって、ルールを守らずに身勝手で危険な運転をして、歩行者や自転車、他のドライバーを死傷させるような人もいるわけで、自転車なら何でも目の敵にするのは違うと思います。
警察や国交省も車道走行に舵を切ったわけですが、いままでママチャリで歩道通行をしてきた人まで、いきなり車道走行せよと言っても無理な部分があるのは事実でしょう。長年、自転車を歩道通行させるため、歩道を拡張してきた一方で、車道が自転車の通行に向いていなかったり、危険だったりすることもあります。
そこで、近年少しずつですが、各地で自転車レーンが整備されるようになってきました。青色などに着色され、自転車専用などと書かれている、高規格の自転車レーンも出てきました。自転車利用者にとっては、安全に車道走行するため、ありがたいインフラです。
ただ、まだ一部にしかなく、認知度も低いためか、せっかくの自転車レーンが必ずしも安全になっていない場合があります。オートバイが走っていたり、クルマがはみ出して、自転車レーンを走行していたりすることもあります。これらは、道路交通法違反です。
自転車レーンと言っても、まだその整備は地域によってまちまちであり、正式な「普通自転車専用通行帯」でない場所もあります。しかし、標識などに自転車のマークと専用という文字が書かれた普通自転車専用通行帯の場合、クルマやオートバイ、原付バイクは通行してはいけないと決められています。
もっと一般的で迷惑なのは、自転車レーンに駐車する車両でしょう。青などに塗られて、ひと目で自転車レーンとわかるのに、平気で駐車している車両を見るのは、日常茶飯事です。都市部であれば、ほぼ駐車禁止のはずですから、これは駐車違反です。
この違法駐車車両のおかげで、中央方向に迂回してやり過ごさなければならず、自転車にとっては厄介です。自転車を危険にさらすものでもあります。こうした自転車レーンに平気で駐車する車両が、世界中のサイクリストから目の敵にされていることは、これまで何度も取り上げてきました。
ただ、このブログをご覧になるようなサイクリストの人でも、なかには誤解している人もあるようです。私が違法駐車車両を批判するような記事を書いても、「日本では、トラック等が道端に停まって荷卸しをするのは許されているのだから、仕方がないだろう。」などとツイートしていたりします。
たしかに、停車も禁止されている場所でなければ、荷卸しは出来ます。しかし、それは5分以内に限られており、ドライバーが車両を離れて直ちに運転することができない状態にある場合は、駐車違反です。つまり、荷物を持って、建物内に届けに行くような行為は放置駐車であり、駐車違反なのです。
逆に、運転席に座って、すぐ出発できる状態であっても、客待ちや人待ち、荷待ちなどをしているのは駐車違反です。当然ながら、昼寝や弁当を食べたりしているのも違反です。この駐車違反の定義からすると、自転車レーンに駐車している多くの車両は、違反ということになるのではないでしょうか。
クルマから離れず、その場で5分以内の荷卸しをしているトラックもあるでしょう。ただ、調べたわけではありませんが、それはごく一部で、ドライバーがいない場合も少なくありません。時間調整や荷待ち、連絡待ちで停まっているようなケースも多いでしょう。おそらく厳密には、ほとんどが駐車違反になると思います。
片側一車線の道路だと、他の車両の邪魔になるので停めにくいという心理が働きますが、少し幅に余裕があって、自転車レーンが設置されていたら、これ幸いとばかり駐車している車両が多いのが実際のところではないでしょうか。これは自転車にとって迷惑なだけでなく、立派な法律違反なのです。
もちろん、私だって物流インフラとしてのトラックの必要性を否定するわけではありません。彼らは荷物をおろさなければ仕事にならないのだから、という擁護もわかります。しかし、もし荷卸しに5分以上、あるいは車両から離れて荷物を届ける必要があるのなら、本来は駐車場や荷捌き用のスペースを使わなければなりません。
それでは困る、不合理だと言うなら、政治や行政に不服を申し立てるべきです。でも、現状で法律で禁止されている以上、仕方がない、駐車出来ないのがおかしいという理屈は通らないのです。そういう理屈で、自転車利用者が危険にさらされるのは、おかしいのです。
都市部の駐車違反の取締りが厳格化されたおりには、宅配便業者の中に、荷卸しの拠点を整備して、そこから自転車で配送したり、駐車場に停めて台車で運ぶなどの対策をとったところがあります。本来はそうすべきです。いくら物流インフラを支えるトラック業者であっても法律で決められている以上、仕方がありません。
そう考えれば、違法に自転車レーンに駐車している車両は、迷惑であり法律違反なのだから、駐車するべきではないというのは、身勝手な理屈ではありません。本来、違法で迷惑な車両のために、命の危険にさらされるのは、自転車利用者にとって、はなはだ不当なことなのではないでしょうか。
世界中で、サイクリストが自転車レーンに駐車する迷惑車両に怒るのは当たり前であり、自転車レーンを安全に通行する権利を主張するのは当然です。これまでにも、さまざまな形で抗議したり、告発したり、排除しようとする人たちを取り上げてきました。
ニューヨークでは、また新たな試みが繰り広げられています。クルマと物理的にセパレートされた高規格の自転車レーンも出来てきていますが、事実上クルマに不法に占拠されているような自転車レーンも、まだまだ少なくありません。そんな一部の通りの自転車レーンに沿って、
カラーコーンを置いたのです。
Chrystie ストリートに置かれたカラーコーンは25個、4人で置くのに20分もかかっていません。コーンの先に花がさしてあったりするのはご愛嬌ですが、費用はわずか516ドルです。これだけで、違法な駐車車両や、違法に通行する車両を排除し、安全を確保しようという試みなのです。
匿名の市民グループが勝手に置いているわけですが、わざわざクルマを止めて、コーンをどかす人もいないでしょう。これだけのことで、大いに効果が上がっているようです。一般の市民からも支持する声が寄せられ、コーンを買うための寄付も集まっていると言います。
これまでにも何度か取り上げてきましたが、ニューヨークでは、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長のイニシアチで近年、自転車レーンなどのインフラが充実し、通勤などで自転車を使う人が大幅に増えています。でも、まだ不十分です。
もっと自転車レーンが効果を上げ、利用者の安全に寄与するよう、改善を求める要望が市民からも多く寄せられ、市議会でも、改善計画が全会一致で承認されています。しかし、実際には遅々として改善が進んでいない状況であり、これを見かねた市民の一部が行動を起こしているのです。
勝手にコーンを置くわけですが、他の交通を妨害しているわけでもなく、効果も明らかです。背景に、整備が進んでいないことがあるわけで、市民の不満を考えれば、市当局もコーンを撤去したり、その行為を罰するようなわけにもいかないでしょう。
単にコーンを置くだけですが、実に有効に機能し、自転車レーンがより安全で快適に利用できる状態になっています。これは、大きな予算がなくても、行動しさえすれば、十分に有効な対策がとれるということを雄弁に物語っています。行政としても、反省するとともに、整備のあり方を考える材料になるはずです。
日本でも勝手にコーンを置こうとは言いませんが、これは行政にとっても参考になる事例ではないでしょうか。せっかくの自転車レーンも、クルマに進入されたり、駐車されたりして、必ずしも安全に貢献していません。私たちも、自転車利用者の権利について、もう少し考えてみてもいいのではないでしょうか。
グライダーや軽飛行機墜落のニュースが続いています。住宅地に、ある日突然落ちてくるというのも怖い話です。