趣味で乗るサイクリストなら、誰もが知っているような有名なスポーツバイクのブラントばかりではありません。別の製品のブランドとして有名なメーカーが、ブランドを貸したり、知名度を利用し、OEMで製造して売っているケースなどもあります。
専業の有名ブランドでも、実際の製造は台湾のメーカーが受託している例が少なくありません。シティサイクルやママチャリならば、中国産が圧倒的に多いはずです。いずれにせよ、自転車は委託生産している場合が多いので、自前で生産設備を持っていないメーカーでも容易に参入できるわけです。
もちろん、聞いたこともないようなブランドのものもありますし、流通業がプライベートブランドで製造・販売しているようなものもあります。私は詳しくありませんが、日本で言えば、イオンとか無印良品などの流通大手のブランドで売られている自転車もあるようです。
ただ、家具販売のチェーンが製造販売する自転車となると珍しいのではないでしょうか。世界で店舗を展開する家具チェーン、スウェーデンのイケアは、以前から自転車を販売しています。前に取り上げましたが、オリジナルの“FOLKVANLIG”という電動アシスト自転車を商品として売っています。
さらに今回、8月から新しく売り出す“
SLADDA”という自転車を発表しました。実用性を重視して作られたこの自転車、世界最大のザインコンペティション、“Red Dot Design Award”の“Best of the Best” 賞を受賞するなど、高く評価されています。
都市型のライフスタイル向けにデザインされた、男女共用型のシティサイクルで、チェーンではなくベルトドライブを採用し、ほとんどメンテナンスを必要としない、実用的な自転車です。ヨーロッパで重視される環境性能に配慮し、いわゆる持続可能な交通手段として、誰でも日常的に使いやすい自転車です。
前カゴなどのオプションが用意され、必要に応じて簡単に着脱可能なシステムになっています。面白いのは、このオプションの中に、専用のトレイラーが用意されていることです。このトレイラーもワンタッチで、必要な時だけ着脱して使うことが出来ます。
ご存知のとおり、世界最大の家具販売店、イケアは、基本的に組み立て家具を販売し、お客が自分で購入した製品を持ち帰って組み立てるという販売スタイルをとっています。普通クルマで来店しないと、なかなか持ち帰れませんが、トレイラーを使えば、多くは自転車でも持ち帰れるわけです。
これまでにもイケアは、店舗によって、自転車に連結するトレイラーを貸し出すサービスを行なっていましたが、さらにトレイラーを直接販売することで、自転車の活用を促しています。家具の売上増という相乗効果が見込めるわけで、家具店が自転車を売るという発想は、一石二鳥というわけです。
都市にもよりますが、ヨーロッパでは、トレイラーを牽引した自転車も普通に走っています。決して目新しいわけではありませんが、トレイラーを常用している人は一部に限られます。カーゴバイクという選択肢もありますし、誰でもトレイラーを使っているわけではありません。
特に珍しくないけれど、なかなか買ってまでトレイラーを使う機会はないという人も少なくないでしょう。しかし、イケアに立ち寄ったお客さんの中には、見つけた家具を運んで帰るために、ついでに自転車とトレイラーを購入してしまう人もいるかも知れません。
最近よく話題になる、中国人観光客の爆買いですが、あまりにも多くの商品を買うために、スーツケースも売れていると言います。ちょっと違うかも知れませんが、一緒の場所で売られていれば、これ幸いと購入する人、ちょうど自転車も買い換えてもいいと思っていたなんて人もいるのではないでしょうか。
特に使う予定もないのに、わざわざ出かけて行ってトレイラーは買わないかも知れませんが、イケアに行って、気に入った家具を見つけたら、それはトレイラーを購入する絶好の機会となる可能性があります。その意味でも、トレイラーと自転車を一緒に売るというのは、うまい商売かも知れません。
残念ながら日本のイケアでの販売予定は、今のところないようです。トレイラーも一般的ではないですし、歩道を通るという、日本の自転車走行環境を考えれば無理もありません。家具を運ぶために自転車とトレイラーというのは、日本では、まだまだ想定されないスタイルでしょう。
ただ、日本でも、例えば家電店で、テレビの売り場の近くにレコーダーを置いたり、メディアを並べたり、いわゆる「ついで買い」を促すような陳列はたくさんあると思います。場所によって、場合によっては、ついで買いでトレイラーというスタイルも考えられないことはないでしょう。
例えば、身近なところでは、スーパーマーケットです。ママチャリで買物に来る人には、重いもの、かさばるものは、なかなか売れません。しかし、自転車にプラスしてトレイラーが使えるならば、お米とか、ペットボトルの飲料もダンボールごと売れるはずです。
もちろん、トレイラーが使える環境でないと難しいですが、自宅と最寄のスーパーの間に限れば、トレイラーを十分に使えるという人も少なくないのではないでしょうか。周囲の商圏の状態によっては、汎用のトレイラーを売れる店もあるかも知れません。
ホームセンターであれば、クルマでないと持ち帰れない商品、トレイラーがあれば売れる可能性のある商品は、もっと多いはずです。もともと自転車を扱っているホームセンターも多いと思いますが、トレイラーも売ってみるという手もあるのではないかと思います。
そのほか、酒のディスカウントショップとか、家電量販店とか、同様の可能性のある商売はほかにもあるでしょう。もちろん、配達してくれるところもありますが、基本的にクルマで来ることを想定している形態の店の場合、あらたに自転車で訪れるお客が増える可能性があります。
最近は、高齢化で、都市の近郊でも買物難民が発生していると言います。クルマを運転しない高齢者、あるいは免許を返上した人でも、自転車とトレイラーがあれば、最寄のスーパーが撤退して多少遠くなっても、まとめ買いや、かさばるものも買ってこられます。
その意味でも、自転車とトレイラーの組み合わせは、日本のこれからに有効なスタイルとなる可能性があります。そして、自転車メーカーのブランドでなくても、流通業などの異業種が自転車やトレイラーを製造販売したり、元々の商品の販促に使うという手もあるのではないでしょうか。
今回のアイドル刺傷事件も、やはり最近多い「会いにいけるアイドル」が勘違い、妄想を生んでいるのでしょうね。