その冒頭に取り上げたのは自転車地雷、“
BIKE MINE”でした。泥棒が自転車を盗もうとすると、仕掛けてあった「地雷」が爆発します。単なる警報音が鳴るよりも犯人を驚かせるでしょうから、その意味では従来のアラームより、大きな効果を見込める可能性があります。
もちろん実用のためのアイテムとして、クラウドファンディングサイトで資金調達を目指しています。ただ、この自転車地雷、“BIKE MINE”というネーミングといい、150デシベルという爆発音で泥棒を撃退するという方法といい、奇抜な印象があるのは否めません。
この装置を考案した、
Yannick Read さん、イギリス・ロンドンで、自転車保険を含む各種保険を扱う会社を経営しています。一方で、オリジナルの自転車関連のアイテムを開発するデザイナーでもあります。その考案するアイテムは、自転車地雷のように過激で、ちょっと癖のあるものが少なくありません。
自転車用の警笛装置、“
The Hornster”もその一つです。圧縮空気で鳴らす自転車用のホーンです。普通はベルを使うのが一般的だと思います。他の自転車や周囲の人に危険を知らせるのには十分ですが、クルマへの注意喚起には十分とは言えません。普通のベルの音量では、窓を閉め切っていたら聞こえないでしょう。
差し迫った危険を知らせるために警笛を鳴らすわけですが、伝達したい相手がクルマということも少なくないはずです。本当に危険が差し迫っている時に、相手に聞こえないのでは意味がありません。そこで、ベルではなく、ホーンが必要だと考えるわけです。
このホーン、実はクルマ用のものではなく、電車用の部品を使っています。その音は、なんと178デシベルです。窓を閉めたクルマに届かせるために、大きな音量が必要なのはわかります。しかし、一般的に電車のガード下が100デシベルと言われていますから、これは音が大きすぎでしょう。
実際、世界で最も音の大きな自転車用の警笛として、ギネス記録を持っています。このホーンを鳴らされたクルマのドライバーが、驚いて飛び上がるような音量です。明らかにオーバースペックであり、どう考えても実用的とは言えないレベルでしょう。(動画では音の大きさは正確にわかりません。)
自転車に取り付けるにしてはホーン自体も大きすぎます。あまりに音がうるさいのでしょう、ヘッドフォンのようなもので両耳を塞いで乗っています(笑)。値段も5千ポンド、およそ80万円です。コンセプトは面白いですが、これを買って取り付けて使おうという人は、まずいないでしょう。
だいぶ前に取り上げたことがあるのですが、“
BOND Bicycle”も、Yannick Read さんが考案しています。この、“BOND bicycle”の“BOND”は、“Built of Notorious Deterrents”の略です。直訳すると、悪名高い抑止力で構成された自転車ということになります。
ただ、実際は映画の007のボンドカーを意識したネーミングであることは容易に想像がつきます。ボンドカーの向こうを張って、後輪にはキャタピラー式になっています。これは道路のくぼみなど、路面の舗装の悪い部分も含め、どんな悪路でも走破するためです。
サドルにはイジェクトシート機構が備わっています。イジェクトシートとは、戦闘機からパイロットが脱出する時、コックピットの座席ごと空中に飛び出してパラシュートが開く、あのシートのことです。射出座席ともいいます。それを自転車のサドルに採用することで、自転車泥棒をノックアウトしようという装備です。
そして、ハンドルのグリップ部分には、なんと火炎放射器が装着されています。道路を走行中に幅寄せしてくるクルマに対して、炎で威嚇し、間隔をあけさせることが出来ます。イギリスは日本と同じ左側通行ですので、右側のグリップに取り付けられています。
キャタピラー、イジェクトサドル、火炎放射器、いずれも面白いですが実用的ではありません。実は、これはサイクリストの不満を象徴した自転車として設計されました。すぐ脇を猛スピードで追い抜くクルマや、自転車の通る部分の舗装の悪さ、そして減らない自転車盗難に対する不満を象徴しているのです。
こんな自転車も考案しています。これは、
自転車の“POPE MOBILE”(イタリア語では、“Papamobile”)です。“POPE MOBILE”とは、ローマ教皇が一般の拝謁時に使う、御輿玉座のついたクルマです。もちろん専用に設計された特別なクルマです。
クルマのない時代からある、伝統的な玉座を担ぐ御輿は、“sedia gestatoria”と言いますが、古めかしいものの、実用的ではないため、この“POPE MOBILE”が使われる場合も少なくないようです。沿道の教徒が,教皇の姿を拝謁できるようになっており、今使われているのはメルセデスベンツ製で何千万円もします。
その自転車版を考案したわけです。もちろん、ナンセンスであり、警備上の問題など諸事情もあるでしょうから、実際に採用されたわけではありません。言ってみればジョークのようなものですが、本物の“POPE MOBILE”がエコでもサスティナブルでもないことに対する、強烈な当てつけというわけです。
ヨハネ・パウロ2世は「神の被造物である環境を破壊してはならない」と述べていますし、当時のベネディクト16世も環境問題に対し積極的な行動をとっています。しかし、実際に自分が使っているのは何なのかという痛烈な批判となっています。(もちろんバチカンの教皇庁は一切無視しています。)
こうして見てくると、Yannick Read さんの考案した自転車関連のアイテムは、どれも独創的です。しかし、一方で、どれも必ずしも実用的とは言えません。実際に自転車用のアイテムとして使ってもらうより、話題性を狙い、世間にアピールすることの方にウェイトを置いているように見えます。
もちろん、サイクリストの利便性を向上させるグッズを開発することも有意義です。しかし、それだけでは解決しない問題もあります。クルマのドライバー、自転車盗、ローマ教皇だけでなく、世間一般に広く訴え、認識して、考えてもらわなければ解決しない問題もあるでしょう。
犯罪の抑止、交通安全、環境保護などを訴える人は少なくありません。しかし、それが世間一般にどれだけ訴求力があるかと言えば、必ずしも高くない場合も多いでしょう。世界中のメディアが注目するような自転車向けのアイテムを考案するというのも、少ない費用で大きな効果を上げる方法なのかも知れません。
意見は分かれるにせよ、現役アメリカ大統領の広島訪問は歴史的です。ぜひ核廃絶につなげてほしいものです。