イザという時に、サイクリストの頭部を保護するのがヘルメットに求められる一番の役割です。その一番の役割を果たすために求められる要素もあります。まず、ヘルメットがかぶりやすいものであって、実際にかぶってもらわなければ役割も果たせません。
軽くて首への負担が少ないもの、風の抵抗の小さいもの、蒸れて汗をかかないよう通気性がいいこと、といった機能も求められます。もちろん、購入する際には、かぶりやすさやデザイン面、自分に似合うかどうかを気にする人も多いに違いありません。
そのような要素を満たすべくデザインされたヘルメットが市場に出回っているわけですが、細かいデザインの違いは別として、それほど他と違いが際立つ要素は少なく、進化を続けているような製品ではありません。どちらかと言えば、成熟した定番の商品と言えると思います。
ただ、最近は、素材や加工技術、IT技術やモバイル通信環境の進化などもあって、ヘルメットにも新しい変化の波が訪れています。これまでにも、そのような製品を取り上げてきましたが、最近見かけた中から、またいくつか、新しいヘルメットを取り上げてみたいと思います。

こちら、“
DCA Optic Bike Helmet”は最近、「ポケモンGO」のヒットなどでも注目を集めている、AR(拡張現実)技術を使った製品です。ヘルメットにサングラスのようなバイザー型のディスプレーが収納されています。必要に応じて、この部分を出して使います。
この透明なディスプレー越しに前方を見ると共に、実際の風景にプラスされる形で情報を投影させることが出来ます。また、ヘルメットの後頭部に取り付けられたカメラを通して、後方の景色がバックミラーのように投影され、視線の動きは最低限のまま、後方の状況を確認できるようになっています。

ほかにも、GPSナビの案内や走行情報などを表示させることも可能です。スマホを見ながら走行するのは危険ですし、禁止されていますが、前方を見たまま、スマホに表示されるような情報が確認できるわけです。その点でもサイクリストの安全性を向上させる仕組みです。
ライブの映像を記録として保存することも出来ます。このヘルメット、国際的に知られたプロダクツデザイン賞である、“Red Dot Design Awards 2016”のベストオブベストを受賞した作品です。シンプルですっきりした外見になっており、デザイン的にも優れています。


こちらは、うって変わって、電子部品を使った製品ではありません。構造的な工夫を施し、たためるようにしたヘルメットです。日常生活の中で自転車を使っていると、降りた後にヘルメットを持って歩かなければならないケースも多いと思います。

一般的なヘルメットだと、どうしてもかさばりますし、携行するのに邪魔になることも多いでしょう。ヘルメットが小さくなって、バッグなどの中に入れられたら持ち運びに便利だろうとは誰もが考えますが、強度の面などもあって、折りたたむのは、そう簡単なことではありません。
この“
FEND”は、ヘルメットの構造を工夫し、3分の1の大きさにたためるようにしました。バッグなどにも入れられます。それでいて、安全性や耐久性、通気性などを犠牲にしていません。米国CPSCと欧州のEN 1078の安全基準も満たしています。

子供がヘルメットをかぶるのを嫌がって困っているという親も少なくないかも知れません。子供が好きなキャラクターがプリントされたものなど、子供用のヘルメットも売られていますが、必ずしも気に入ってくれるとは限らず、自分からかぶりたくなるようなものが少ないという親の悩みがあります。
そこで、ヘルメットをかぶると、子供自身が
キャラクターのようになれるヘルメットは出来ないだろうかと考えた人たちがいます。広告会社、DDB社の社員のアイディアを、デザイン会社、MOEF社が制作しました。彼らが目を付けたのが、子供の好きなおもちゃ、プレイモービルです。

プレイモービルの人形の髪型を、人間用に拡大し、忠実に再現しています。製作には3Dプリンターを使用しました。もちろん、プレイモービルの人形が大好きな子供ばかりではないですから、万人向けというわけにはいきませんが、ユニークなヘルメットです。
子供向けのキャラクターが、ヘルメットにプリントされているたげの、言わば子供だましのヘルメットに反応しなくなった年代の子供には効果があるかも知れません。プレイモービルに限らず、子供の変身願望をくすぐるというのは、いいアイディアでしょう。現在は、商品化に向け協力会社をさがしています。

もう一つおまけ。こちらは、自転車用のヘルメットではありませんが、子供の喜ぶヘルメットという点では、共通しています。しかし、子供がかぶるのではなく、親がかぶるヘルメットです。親に肩車をして欲しくて仕方がない年代の子供には人気が出るかも知れません。
親に肩車をしてもらったら、通常おでこくらいしか、つかまるところがありません。しかし、このヘルメットにはハンドルがついており、つかまりやすくなっています。ハンドルは左右に切ることも出来ますし、クルマのように左右のウィンカーも光ります。

つまり、親を乗り物として操縦できるヘルメットなのです。ハンドルを動かすと、LEDのターンシグナルが点滅するだけでなく、ヘルメットの内部が振動し、親がどちらに曲がればいいかわかるようになっています。いちいち首をひねられなくて済むよう、ハンドルの軸は動くようになっています。
さらに、ウィンカーだけではなく、ホーンのボタンや、加速ボタンまでついています。これは、乗り物に興味を持ち始めた子供には嬉しいおもちゃでしょう。この“
Piggyback Driver”、頭部を守るためではないという点でも、ユニークな発想と言えるかも知れません。
最後のものは別として、自転車用のヘルメットにも、これまでにない視点で新しい性能や利便性、魅力を持たせようという試みがいろいろ出てきています。どちらかと言えば、成熟した商品だったヘルメットも、また新たに変革の時代に入っていくのかも知れません。
ボブ・ディランの曲はいいと思いますが、ミュージシャンがノーベル文学賞というのは、少し違うような気がします。