November 09, 2016

すぐに人が集まるという圧力

あるアプリによる新しい試みが始まっています。


現在はアメリカ・ニューヨーク限定ですが、“Vigilante”というアプリのオペレーションが開始されました。自警団員という意味ですが、文字通り自分たちで自分たちの安全を守ることを目指したアプリです。これは、日本でいう110番、市民が警察に通報する、911システムをオープンにする試みでもあります。

スマホに、この“Vigilante”をインストールしておくと、自分の居場所の近くで犯罪が発生し、911への通報があると、プッシュ型でアラートが届くのです。このアラートは地図情報と連動しており、どこで犯罪が発生し、被害者が救援を求めているかわかるようになっています。

VigilanteVigilanteVigilante

このアラートを見て、犯罪発生場所が近ければ、そこへ駆けつけることが出来ます。まさしく自警団員のように、です。もちろん、一般市民ですから、犯人を制圧する必要はありません。手を出さず、安全な距離をとるよう促されます。ただ、犯罪を目撃し、必要ならばスマホでの撮影も出来る可能性があります。

市民に現場を目撃されれば、犯人が犯行を諦めることもありえます。犯罪は未遂となり、場合によっては人命が救われるかも知れません。犯人がその場から逃走したとしても、目撃情報は犯人逮捕の有力な手掛かりとなるでしょうし、動画などが撮れれば、犯人特定や有力な証拠になるに違いありません。

VigilanteVigilante

アメリカですから、犯人が拳銃などを持っている可能性があります。一般市民が犯行現場に飛び込んで行かなければならないわけではありません。少し離れた所から隠れて撮影したり、犯人の背格好を記憶したり、逃走方向を確認しておくだけでも、犯罪の解決に結びつく可能性があります。

もちろん、自警団員というアプリだからと言って、犯行現場に駆け付ける義務があるわけでもありません。身近で犯罪が発生したことを早い段階で知ることが出来れば、自分の身の安全の確保のため、その場所を迂回して退避し、危険を回避することも出来るでしょう。

VigilanteVigilante

このアプリをインストールする人が増えなくては仕方がありませんが、もし文字通り、自警団のようなコミュニティが形成されれば、地域の安全、治安の向上に貢献するに違いありません。現実問題として、警察が市民の安全を守ると言っても、その数は限られているのが実情です。

ニューヨークで言えば、市民800万人に対し、警察官は3万4千5百人に過ぎません。232人に1人です。911へ通報してから、パトカーで駆け付けるまでには、当然ながら時間がかかっています。そして、警察官が到着する頃には、しばしば犯罪は完遂され、犯人は逃亡したあとです。

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一方、市民はすぐ近くにいます。近くにいる人だけにアラートが届きます。近くにいるぶん、駆けつけて犯人を目撃するならば、犯行の抑止につながる可能性が十分にあります。この“Vigilante”システムが機能するようになれば、犯行がしづらくなり、犯罪の抑止、治安の改善も期待できます。

ふだんから、このアプリで犯罪の多発地点や傾向などを把握することで、危険な場所を避けることも出来るでしょう。犯罪に巻き込まれることを防ぐための情報も与えてくれます。いずれにしろ、自分たちの危険を自分たちで守る、犯罪を防ぐという意識が広がり、市民生活がより安全になることが期待できます。

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それだけではありません。アメリカでは、一部で警察への不信が広がています。警察が黒人の容疑者を、その場で射殺するような事件が繰り返し起きています。単なる職務質問なのに、あるいは丸腰なのに、少年なのに、その場で銃殺されるような事件が後を絶ちません。そうした公権力の暴力から自衛する手段でもあります。

もちろん、警察官にしても、自分の身を守る必要があります。拳銃の所持率も高いですし、やむを得ない場合もあるでしょう。しかし、警察官に射殺されるのは決まって黒人であり、人種差別が背景にあることは疑いようがありません。全米各地で市民の怒りのデモが広がるのももっともです。

Vigilante

アメリカ人にとっては、そうした警察の不正、腐敗を監視する意味も大きいでしょう。警察が犯人を制圧する様子、逮捕の瞬間を市民が撮影することで、本当にやむを得ない発砲だったか、警察官の行動が公正な職務の執行だったかが客観的に記録されます。警察官の職務を透明化、市民の手で可視化することにもなるわけです。

実際に、警察が黒人の犯人を射殺する様子などが撮影された動画がSNSなどでネット上にアップされ、大きな波紋を呼び、全米に反響が広がっています。今は、誰でもスマホなどですぐ撮影出来る時代です。市民の監視、動画の撮影の機会が広がれば、警察による不当な行為の抑止にもつながるでしょう。



この“Vigilante”、自転車とは直接関係ありませんが、自警団員が現場に駆け付ける時に、自転車が活躍するシーンも少なくないはずです。クルマでは渋滞に妨げられたりしますし、小回りも効きません。距離にもよりますが、徒歩だと移動に時間がかかってしまいます。このアプリと自転車の相性は良さそうです。

警察に対する不信は別としても、この仕組み、日本でも役に立つのではないでしょうか。日本でも、地域での子供の見守りというようなことが言われます。ママチャリのカゴに「PTAによるパトロール中」などと書いた札を張って、地域で警戒していることを犯罪者にアピールしている地域もあります。

子供がランドセルに取り付けるアラームや、見守り用の携帯電話から警察への通報が、即座に近くにいる大人に届けば、犯罪が未然に防げる可能性も高まるでしょう。もちろん、子供だけでなく、大人が犯罪に巻き込まれそうになった場合にも、同じように作用する可能性が期待できます。

Vigilante

ふだんから、「パトロール中」との札がつけられた自転車で街を走り回るのも抑止につながるかも知れませんが、この時代、ITという武器を使わない手はありません。自警団員という言い方はともかく、地域のコミュニティや市民の連帯によって自分たちの安全を高めるという考え方は悪くないと思います。

職場とか、どこか出先であっても、アラートを受けたら、周囲にいる大勢の人が駆けつけようになれば、いわゆる衆人環視の環境が強化され、犯罪の抑止に大きな威力を発揮するでしょう。犯罪の抑止に加え、犯人の検挙という警察の機能を補完する役割も含め、その意義は大きいのではないでしょうか。




ないとは思ってませんでしたが、本当にトランプ大統領が誕生するとは。世界への影響はどうなるのでしょうか。

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この記事へのコメント
ヴィジランティズムが根付いている米国ならではの新発想ですね。生活空間に近くて機動力もある自転車は良い「偵察衛星」かもしれません。「社会の安全は市民が守る」が時として行き過ぎてしまう(チンピラ集団に金品を強請られた人が丸腰で命乞いする犯人までまとめて射殺してしまった事件とか)弊害への一つの処方箋になるといいんですが。

日本でも…と思いかけましたがどうかなあ…秋葉原通り魔事件で被害者救助に駆け付けたのは米国人観光客、新宿ガス爆発事故で炎上する建物に飛び込んで被災者を救出したのは在日イラン人。ツイッターや写メの「ネタ」を撮る人は群れていたそうですが。一方で、横並びで歩いていた子供達に「右側を一列で歩きなさい」と声を掛けた人が「不審者情報」に掲載される訳の分からなさ。「銃弾の裁き」に「村八分」、どこの国にも固有の社会的病理ってやつがあるんでしょうか。
Posted by Tom at December 25, 2016 12:21
Tomさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
日本人には行き過ぎに見える部分もありますが、アメリカ人にとっは、それこそ建国の精神にも関わる部分ですからね。銃規制の問題と同じで、単純には論じられないところもありそうです。
おっしゃるように、日本にそのまま当てはめるわけにもいかないでしょう。
ただ、野次馬的に写真や動画を撮ってアップする人が増えていますし、それを犯人逮捕や犯罪の抑止に結びつける方策は考えられるかも知れません。
Posted by cycleroad at December 26, 2016 23:54
 
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