先日、博多で大規模な道路陥没が起き、駅前の通りに突然30メートル四方くらいの大きな穴があいた映像を見て驚いた人は多かったと思います。早朝だったため、人的な被害がなく幸いでしたが、昼間だったら、さらに大きな被害が避けられなかったかも知れません。
原因は地下鉄の延伸工事だったようですが、都会の真ん中で、まさかの出来事でした。その後の復旧の早さも話題になりましたが、地下鉄工事だけでなく、下水道管の老朽化などで、道路の陥没は各地でしばしば起きており、他の都市でも決して他人事ではないと指摘されています。
東京の地下などは、地下鉄が縦横に張り巡らされているだけでなく、地下街、高速や一般道の地下トンネル、地下駐車場などに加え、共同溝をはじめとする各種のライフラインが複雑に広がっています。さらに最近の地下鉄やリニア新幹線などは、大深度と呼ばれる深い地下にまで及びつつあります。
都心の地下は過密化しているわけですが、日本は諸外国に比べて、市街地の無電柱化も遅れています。景観の問題だけでなく、大地震が起きた際に電柱が倒れ、緊急車両や救援物資の輸送車などの通行を阻害することが懸念されます。まだまだ地下は利用する必要があります。
先日は、地下の送電線の火災による都心の大規模な停電もありました。老朽インフラの更新の必要も含め、無電柱化、共同溝の整備なども、計画的に進めていく必要があります。過密化する地下空間を考えると、今後の地下空間の利用の難易度が上がっていくのは間違いなさそうです。
もちろん都心では、地上も過密です。新たな道路拡幅などは容易ではありません。最近、ようやく自転車レーンの整備の必要性についても話題に上るようになりましたが、欧米のように、クルマの車線をつぶして自転車レーンにするという考え方は広がっていません。
都市の渋滞は慢性化しており、都心へのクルマの乗り入れは合理的な判断ではありません。都心部へのクルマの流入は制限し、車線を減らし、自転車レーンの整備を打ち出す都市も出てきていますが、日本には波及していません。まだまだ日本では、クルマ優先の考え方が大多数を占めています。
自転車レーンの整備自体は十分に可能です。国交省などの調査によれば、現状で路肩などを利用して自転車レーンを整備できる十分なスペースがある幹線道路は、相当な割合に上ることが明らかになっています。ただ、高規格の専用レーン、専用道を都心に整備するのが困難なのは否めないでしょう。
さて、そんな中、アメリカ・シカゴで、
注目される構想が遡上に上がっています。都市部の河川や運河、水路などの水面の上に、自転車専用道を通そうという構想です。浮体式になっており、水面に浮かせる構造です。照明は太陽光パネルでまかなうことが出来ます。
自転車専用の道路として、都市の新しい交通ルートになることが期待されます。河川の上を通るので基本的に交差点はなく、クルマや歩行者とクロスすることはありません。重大事故が交差点で多いことを考えれば、事故が減少するのは間違いなく、死傷者が減らせるのもメリットです。
基本的に信号はなく、歩行者も歩いていない専用道なので、相応のスピードが出せます。自転車通勤などにも便利でしょう。自転車の通行空間を、河川に沿った道路から河川に移せることになります。そのぶん、地上の道路や空間の有効利用にもつながることが期待されます。
透過性の高いパネルが屋根に用いられています。多少の雨でも濡れずに通行できます。路面にはヒーターが埋め込まれ、積雪や凍結を防ぐことが可能です。全体はチューブ状ではなく、側面が解放されているので、夏は水面の涼しい風が心地よさそうです。
路面は鋼材と鉄筋コンクリートで作られていますが、ちょうど浮桟橋のように、単体で浮きます。河川や運河の中に基礎工事をしたりする必要はありません。工場で生産して、運んできて設置し、接続するだけなので工事期間も短くて済みます。もちろん陥没事故とは無縁です。
以前、イギリス・ロンドンのテムズ川でも似た構想があることを取り上げましたが、都市の河川や運河、水路などの水上空間を有効活用しようという考え方は、もはや珍しいものではなくなってきているということでしょう。しかも、このシカゴの構想、決して机上の空論ではありません。
“
Second Shore”という建築事務所が提案していますが、小規模で歩道用のものは、実際に設置されている実績もあります。技術的な問題はないと言います。シカゴ市当局との協議に入っており、もし事業計画が決定されれば、早くて2019年にも実現する可能性があります。
承認されれば、来年の夏にも試験区間が設置される可能性があるとも報じられています。現状では、コストなどの問題などもあって、実現するかは予断を許しませんが、もし事業化されれば、世界から注目されるユニークな自転車専用道路となるでしょう。サイクリストにとっては、是非実現してほしい構想です。
これは日本でも、十分検討の余地のある構想ではないでしょうか。ふだん地上を移動しているぶんには、あまり意識していませんが、東京や大阪などの都市には、たくさんの河川や運河や水路があります。もちろん、船などの水上交通もありますが、水面はまだまだ利用する余地があるはずです。
特に東京は、2020年の五輪があります。平時では、なかなか機運も盛り上がらないでしょうが、五輪に向けて整備する意義は小さくありません。ロンドンでもリオでも五輪開催時の渋滞対策が課題となりましたが、特にロンドンでは自転車レーンの整備が渋滞の緩和に大きく役立ち、高く評価されました。
五輪の渋滞対策だけでなく、その後も長く使えます。これまで未利用だった空間を使うことで、都市の地上部分の過密も緩和されます。事故も減り、自転車専用道は、新たな都市交通としても大きな利用価値があります。東京観光の新しい目玉として、訪日客にもアピールするでしょう。
当然ながら、大雨による増水や台風の時には使えないでしょう。しかし、その時は通行止めにすればいいだけです。入り口と出口をふさぐだけなので、比較的運用も簡単だと思います。橋と交差する部分は、増水時に備えて屋根は取り付けられないかも知れませんが、浮体式なので増水も基本的には問題ないはずです。
もちろん課題は少なくないでしょう。河川法をはじめ、さまざまな規制があると思われます。管轄が縦割りなことによる難しさもありそうです。現行の水上交通など、関係者との調整も必要になるかも知れません。ただ、シカゴに出来て、東京に出来ない理屈はないでしょう。
今ある水上交通用の船着き場を改造する必要があるかも知れませんが、技術的には問題ないと思われます。空港の滑走路に使うようなメガフロートだって作れるのですから、日本企業に出来ないはずはありません。浮桟橋などが各地にあることを考えれば、簡単な話かも知れません。
コストの問題も当然あると思います。ただ、融雪用のヒーターを省くとか、場合によっては、ソーラーシステムを省いて沿岸の照明の兼用で済ます手も考えられます。ここに書いたことは、私の素人考えに過ぎませんが、当たらずとも遠からずといったところではないでしょうか。
五輪の施設問題で話題になっている、ボートやカヌーの競技団体の人には悪いですが、海の森のボート場より、よっぽどレガシーとして都民や観光客の役に立つのは間違いないでしょう。海の森のボート場の見積もりが500億から300億に突然値下げされましたが、そのぶんだけでも、相当の距離が整備できそうです。
都市の限られた地下のスペースを、いかに有効利用するか、安全に工事するかという問題も重要ですが、都市には、まだまだ隠れた未利用スペースがあると言えると思います。いきなり聞くと突飛な話にも聞こえますが、水上空間の利用は、十分に検討する価値があるのではないでしょうか。
まあ、いろいろとあるようですが、とりあえずサウジ戦に勝ててよかったですね。負けたらどうなっていたことか。