November 18, 2016

その整備は誰のためのものか

最近、東京都政への関心が高まっています。


言うまでもなく、一連の舛添問題から選挙戦、小池新都知事の誕生といった過程で注目が集まったわけですが、その後に明らかになった築地市場の豊洲移転の問題や、五輪競技施設の建設費の問題等が明らかになったことで、マスコミもこぞって取り上げ、大きな注目を集めることになりました。

その過程で明らかになった東京都庁という巨大組織の無責任体質、黒塗りの資料が象徴する情報を秘匿する傾向、意思決定の不透明さ、ブラックボックスと呼ばれた都議会自民党との関係や利権の構造など、闇の部分が垣間見られていることも大きな理由でしょう。

豊洲の、いわゆる盛り土や土壌汚染も問題ですが、建物の設計についても多くの疑問が指摘されています。間口が狭くてマグロも解体できないとか、水槽の深さが僅か70センチに制限され使い勝手が悪いとか、ターレーの通路が狭くて急カーブで危険、魚市場として必須の海水が使えないなど、多くの問題があるようです。

小池都知事は、「都民ファースト」ということを盛んに言っています。しかし、従来の都庁の幹部には、都民のためとか、市場を実際に使う人たちが使いやすいように、といった視点が決定的に欠けているとしか思えません。都が新しい市場を作ってやるから、都の考えに従い、黙ってありがたく使えと言わんばかりの設計です。

以前から書いてきましたが、東京都のこれまでの姿勢は、自転車行政に関しても同じでした。国、すなわち国土交通省や警察庁が40年来の方針を大転換し、車道走行の原則に立ち返ったにも関わらず、東京都は当初、反対の立場でした。最近でこそ変わってきましたが、当初は一貫して歩道整備の立場を明言していました。

専門家などから批判されても、全く動じず、東京都の方針はこうです、と言い切っていました。以前、テレビのニュースで、歩道設置の方針を貫くことを、完全に上から目線で答えているのを見たことがあります。呆れてしまいますが、絶対に間違いではないという態度が徹底していました。

歩道上の自転車マークが勘違いされ、駐輪スペースのようになって無意味になっていようと、結局歩道上で入り乱れて走行し、歩行者との事故が多発しようと、全く関係なしです。従来の方針を頑なに守るだけで、歩道上への自転車通行帯の設置にこだわり、その方針を変えようとしませんでした。

いわゆる行政の無謬性があるからです。つまり行政は過ちを犯さないということです。たとえ間違ったとしてもそれを認めません。屁理屈をつけてでも言い訳して正当化する態度に終始します。東京都の都合だけで決め、利用者や専門家の意見を聞く、柔軟に対応するという姿勢ではありませんでした。

さすがに最近は、車道にナビマークを設置したり、車道にレーンの設置をしたりするようになりました。国との整合性の問題や他府県の動向もあり、車道設置が一般的になる中、少しずつ方針を修正しているのでしょう。ただ従来の計画通り、いまだに歩道への設置が進んでいるところもあるようです。

「都民ファースト」で変えたのではありません。問題を指摘され、使う人、自転車に乗る人のことを考えて改善する、考え直す、努力するといった姿勢は見えません。変えるにしても完全に「お上」の意識であり、上から目線、作って整備するから、ありがたく使えと言わんばかりの態度は変わっていないようです。

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行政というものは、古今東西そういうものかと言えば、そうとは限りません。もっと柔軟に、利用者のことを考え、市民の苦情や世論に応えようとしているところもあります。例えば、アメリカ・ニューヨーク市です。これまでにも何度も取り上げてきましたが、積極的に自転車レーンを整備してきた都市です。

自転車の歩道通行が当たり前になっているのは日本だけですから、車道に整備するのは当たり前ですが、クルマ社会で、数ブロック先に行くのにもタクシーを拾うようなイメージのあるニューヨークで、自転車レーンを積極的に整備・拡充してきたのは高く評価されています。

ニューヨークも以前は、自転車に乗るのが恐ろしいと言われていたこともあるのに、アメリカでも有数の自転車都市に変貌したのは誰もが認めるところでしょう。自転車はニューヨークにおいて、一部の愛好者だけでなく、一般の人が利用する日常の移動手段の一つになりました。

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自転車レーンによって、自転車利用者や歩行者の負傷率は大幅に減少しました。自転車を利用する人の数は大幅に増えたにもかかわらず、負傷する率が減ったために負傷者数は増えず、ほとんど横ばいに推移しているのは、自転車レーンの安全性、有効性を示しています。

大都市の酷い渋滞、環境負荷に対する意識、健康面での効果などを背景に、自転車の活用の推進は、世界の多くの都市に見られるトレンドとなっています。なかでも、ニューヨークがこの7〜8年ほどで自転車環境を大きく充実させたのは、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長のおかげと言えるでしょう。

ただ、自転車レーンが充実するにつれ、自転車レーン上に違法駐車するクルマが増え、サイクリストの怒りを買っています。市民が違法駐車のクルマの写真を撮ってネットにアップしたり、動画を作ってアピールするなど、いろいろな形で抗議の声が上がっている状況も、これまでに取り上げてきました。

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せっかく自転車レーンが整備されても、違法駐車の車両に占拠されていたら意味がないではないか、サイクリストを危険にさらしているではないか、という市民の怒りはもっともです。こうした抗議の声や世論に応え、ニューヨーク市は行動を起こしています。

ニューヨークには、“NYC311”と呼ばれる、市のホットラインがあります。火事や救急など、緊急の場合は全米共通の911ですが、緊急でない要件のための、ニューヨーク市とニューヨーカーを結ぶホットラインが311です。これも、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長によって13年前につくられました。

それまでは、苦情を言ったり、問い合わせをするのに、ニューヨーク市政府という巨大な組織の、どこに電話をすればいいか、よくわかりませんでした。 行政の仕事は多岐に渡り、組織も複雑です。ご多分に漏れず、たらい回しにされたりすることも多かったと言います。

NYC311そこで、ブルームバーグ前市長は、当初40以上あった市の各部局のコールセンターを一つに統合しました。市民が覚えやすいよう、市政府へのアクセス番号は、緊急用の911と非緊急用の311の2つだけにしたのです。ちなみに、市内局番の212を付ければ、世界のどこからでもつながります。

NYC311のサービス開始からの10年間で受けた電話の数は1億5千8百以上、電話に出るスピードは平均 で22秒、全体の85%に対して30秒以内に回答しています。平均の通話時間は218秒です。2009年からは311のオンラインサービスも開始され、2011年からはテキストメッセージによる相談も出来ます。

このNYC311は、ニューヨーカーと市政府とが対話する方法に革命をもたらし、継続的にニューヨーカーのニーズを満たすために進化していると高く評価されています。NYC311に対する満足度は、連邦政府のコールセンターの満足度の平均を15ポイントも上回っていると言います。

NYC311は、その卓越したサービスの提供が認められ、2012年に国連公共サービス賞を受賞しています。評価の中には、180言語への対応、オンラインサービスやメール配信サービスの導入による問題解決のセルフサービス化、さらにセルフサービス化の推進による費用の削減と利便性の向上なども含まれています。

さて、その311のサービスが、今月また一つ拡充されました。ニューヨーク市内の自転車レーン内に違法駐車している車両を、市の警察当局に通報出来るようにしたのです。スマホのアプリを使って、位置も含めて簡単に通報出来ます。ウェブサイトからも可能です。

NYC311

開始されて1週間の段階で、すでに202件の通報が届き、そのうち23件が検挙・起訴されています。もちろん、現場に駆けつけても、すでに移動した後という場合も多いので、この数字は警察が迅速に対応した結果と言えるのではないかと思います。

ニューヨーク市は、単に自転車レーンというハードの整備をしただけに終わることなく、市民の苦情に応え、レーン上の違法駐車車両の摘発という運用、いわばソフトの部分も充実させたわけです。まだ始まったばかりで、判断するのは時期尚早ですが、なかなか評価できる姿勢と言えるのではないでしょうか。

ニューヨーク市警にとっても、市民からの通報があれば、巡回して違法車両を探すより、違法駐車を効率的に摘発することが出来ます。市民の苦情に積極的に対応することにもなり、一石二鳥でしょう。このシステムが効果を上げれば、レーン上への違法駐車が減ることも期待できます。

NYC311

通報や、それに対する警察の対処の情報も、地図情報と共に公開しています。最近は、日本でも自治体が持つ情報を公開し、民間がそれを活かせるような取り組み、いわゆるオープンデータの推進が注目されていますが、この点についてもニューヨークは積極的に取り組んでいます。

これまで、違法駐車に悩まされてきたニューヨークのサイクリストにとっても、これは朗報でしょう。もちろん、まだ期待通りの効果があがるかは予断を許しません。ただ、これまで上げてきた不満の声が、ある程度報われたとも言えます。少なくとも、ニューヨーク市政府の姿勢は、一定の評価が出来ると思います。

ニューヨーク市政府は、ニューヨーク市民に対する行政サービスの充実は、市の最重要事項であるとしています。NYC311は、その手段の一つに過ぎませんが、市民と双方向のコミュニケーションをとり、効果的な情報提供と的確な要望対応を行う上での有力な手段と位置付けています。

NYC311自転車レーンの整備というハードの面で、東京はニューヨークに大きく後れをとっています。そればかりでなく、自転車レーンを有効に機能させるための運用、苦情対応といったソフト面でも、全く比べものになりません。さらには、行政の市民に対する姿勢、行政サービスを提供するという役割の自覚も大きく違うようです。

小池都知事の言う、「都民ファースト」は当たり前であり、納税者がいて、都庁が成り立っている面もあるはずです。施設やインフラを作ってやっていると言わんばかり、使う人のことを全く考えない姿勢、上から目線の態度などは言語道断、全く立場をはき違えているとしか言いようがありません。

現時点で、東京の今後の自転車行政がどうなるかはわかりませんが、現状の自転車インフラに関しては、ハードもソフトも姿勢も、彼我の差はあまりにも大きいと言わざるを得ません。自転車インフラの整備に限ったことではありませんが、小池都知事の「東京大改革」に期待したいと思います。




安倍首相とトランプ次期大統領の会談が行われました。果たして、現実的な路線に修正されていくのでしょうか。

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