わずか6時間で衆議院を通過させるなど、その拙速ぶりが話題となったカジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法も修正の上、可決されました。そのほか、環太平洋連携協定(TPP)承認案、年金制度改革法案などが大きな話題となりました。
ただ、可決された法案は他にもあります。一般にはほとんど報道されず、まったく話題にも上りませんでしたが、今国会では、「自転車活用推進法案」が可決成立しています。これは、超党派の「自転車活用推進議員連盟」(会長・谷垣禎一氏)が議員立法として提出していたものです。
超党派で議員立法、来年施行へ 「自転車活用推進法案」が成立 参議院本会議で可決
「自転車活用推進法案」が12月9日午後、参議院本会議で可決され成立した。自動車への過度な依存を軽減し、自転車の利用を促す内容で、超党派の「自転車活用推進議員連盟」(会長・谷垣禎一自民党幹事長)が議員立法として提出していた。今後さまざまな自転車のための施策を行う際の法的根拠となり、来年中に施行される。
法案を当初から推進してきたNPO「自転車活用推進研究会」の小林成基理事長は、「すばらしい。自転車は公共の利益に資することが証明され、ようやく自転車が市民権を得る準備ができた」と語り、「法案成立はゴールでなくスタート」と、今後の活動がより重要であるという見方を示した。
法案の内容は衆議院のウェブサイトで閲覧できるほか、自転車活用推進研究会が、法案の最終稿とその概要をウェブサイトで公開している。(2016/12/09 サンスポ)
参議院会館で集会 「自転車活用推進法」成立を報告 谷垣禎一会長が「課題が達成できた」とメッセージ
参議院本会議で可決された「自転車活用推進法」をめぐり、超党派の「自転車活用推進議員連盟」が12月16日、東京・永田町の参議院会館で成立報告会を開催した。議連のメンバーらが出席し、サイクリング中のけがで療養中の谷垣禎一・議員連盟会長は「3年がかりの課題が一つ達成できた」とメッセージを寄せた。
谷垣氏は、自転車活用推進本部が設置されるにあたり「関係府省庁には準備および法律施行、本部発足後の運用への協力をしていただくよう、強く要望する」と呼びかけた。また谷垣氏の近況として、毎日リハビリに励んでいることも明かされた。
議連幹事長の河村建夫氏は、国土交通省に推進本部が置かれることから「国土交通大臣に推進役をしっかりとお願いしたい」と述べ、国民の健康増進や環境への負荷軽減に向け「自転車活用推進法が大きく役に立ってくれる。推進法の行方を見つめながらサポートしたい」と語った。(2016/12/16 サンスポ)
社会的な交通手段としての自転車の役割拡大に向け、国に計画作成を義務づけるもので、今後さまざまな自転車のための施策を行う際の法的根拠となります。基本理念として、自転車の活用が「公共の利益の増進に資する」と初めて法で定義しており、来年中に施行されることになっています。
これまで、このブログでは多数の海外の事例を取り上げ、世界中の都市で自転車の活用が進められ、それがトレンドとなっていること、それに比べて日本は全く取り残されていることを指摘してきました。遅ればせながら、これでようやく日本も、国として自転車の活用を推進する姿勢を示したことになります。
自転車好きで知られる、谷垣禎一衆議院議員が会長を務める議員連盟をはじめ、関係者の尽力の成果であり、その努力には敬意を表します。これにより、国に新たに設けられる自転車活用推進本部を司令塔に、国や自治体が自転車活用推進計画をまとめ、実行するしくみになっています。
法案を読んでみると、「自転車の活用による環境への負荷の低減」「国民の健康の増進等を図ることが重要な課題」「交通におけるクルマへの依存の程度を低減する」「交通体系における自転車による交通の役割を拡大する」「自転車の活用を総合的かつ計画的に推進する必要」といった理念が明示されています。
根拠法、基本法として、高く評価されると思います。この法案の成立は、今後、日本の貧弱な自転車環境の改善に向けた、大きな一歩であることは間違いないでしょう。しかし、これまでにも基本法が成立したからと言って、具体的な施策が進むとは限らないことを示す例は少なくありません。
仕組みは決まりましたが、その具体策を実施していく省庁や自治体が動くかどうかは別の問題です。今後、日本の自転車環境が改善し、欧米諸国のように自転車の活用が進んでいくかどうかは予断を許しません。現在のところ、具体的な道筋が見えているわけではありません。
せっかく法律が成立したのに、ネガティブなことを言いたいわけではありません。現時点で、今後のことを占うのは時期尚早かも知れません。しかし、これで欧米のように、都市での自転車の活用が進み、自転車走行空間の整備が進んでいくと考えるのは、少々楽観的すぎるような気がします。
一番の問題は、市民の間にそのコンセンサスが出来ているとは言えないことです。カジノ法案などに隠れたとは言え、この法律の成立は全く話題に上らず、国民の関心は全くもって高くありません。自転車の活用と聞いて、ピンとくる国民がどれだけいるでしょうか。
このブログをお読みいただくような方は別ですが、残念ながら国民全体から見れば、わずかな割合に過ぎないでしょう。自転車の活用を推進すると言っても、あまり関心を示さない人が多いのではないでしょうか。そのあたりに欧米との差を感じます。
今でも自転車を買い物や駅までのアシとして使ってる人は多いわけで、今さら活用と言われてもピンと来ないでしょう。たしかに道路の危ない箇所が改善されるのは悪いことではありませんし、駐輪場などが出来て便利になれば、それに越したことはありません。しかし、その程度の認識でしょう。
海外の都市では、世界の都市のベスト3の常連である、ロンドンやニューヨーク、パリをはじめ、世界各地で自転車の活用拡大が進められています。首長がリーダーシップを発揮し、数年の間に自転車レーンなどを充実させ、大きな成果を上げた事例もあります。
それらの例は、自転車政策の必要性や有効性をよく理解した、政治指導者のリーダーシップのおかげという面もありますが、それだけが環境整備の進んだ理由ではありません。まず市民の間に、もっと自転車を活用するべき、そのために環境整備をするべきというコンセンサスがあったのも理由でしょう。
いくら優れた指導者がいたとしても、市民がその必要性を感じておらず、世論の後押しや、市民の要望が声として上がるようでなければ、環境の整備はなかなか進みません。これは、例えば自転車先進国として有名なオランダなどの、これまでの歴史的経緯や変遷をみてもわかります。
税金が使われることですし、どこも予算が豊富なわけではありません。市民が特に希望もしていなかったのに、いつの間にか整備され、使ってみたら便利だから、まあいいか、という話にはならないでしょう。その意味で、市民の間に、もっと自転車の活用を進めるべきだというコンセンサスが必要です。
欧米と違って、日本に、そのコンセンサスが醸成されないのにはワケがあります。何度も指摘しているように、それは自転車の歩道走行という、世界的に見ても特異な道路行政が進められてきたという事情です。日本の圧倒的多数の人はママチャリで歩道走行しています。
自転車で歩道を通り、歩行者と混在している状態では、自転車本来のスピードが出せません。時間がかかるので、遠くまで行くのは現実的ではありません。実際に、自転車で、最寄り駅までではなく、目的地に直接行こうとは考えませんし、隣の駅までも行ったことのない人がほとんどでしょう。
日本の自転車の圧倒的多数を占める、電動アシストを含めたママチャリは、低速で走るように出来ています。タイヤは太いですし、車体は重く、ギヤも少なく、スピードが出ません。その一方で、足つき性がよいため、歩道で歩行者と混在して低速で走行するには向いています。その点で日本特有の自転車なのです。
これが、本来の自転車で車道走行をすれば違います。猛スピードを出せと言うのではありません。普通に走っても、自転車本来のポテンシャルを活かす程度のスピードは誰でも出せます。隣駅どころか、目的地まで直接、遠くても早く着くことに驚く人が多いに違いありません。
特に都市部では、渋滞しているクルマより、よっぽど速いケースも少なくありません。都市の移動手段として速くて便利、おまけに運動不足解消にもなります。ママチャリが便利なのは限られた用途ですが、本来の自転車は、バスやタクシー、地下鉄等と同じ、都市交通に十分なりうる移動手段なのです。
近所への買い物や、最寄り駅まででなく、都市交通の手段として使うことこそ、自転車の「活用」です。都市の渋滞軽減にも貢献しますし、平均して一人か二人しか乗っていないクルマと違い、道路という貴重な都市空間を効率的に使うことにもなります。
これは、欧米ではごく一般的な認識です。日本では国際的に見ても特異な環境と過去の経緯から、知らない人が大多数ですが、欧米で自転車に乗る人なら常識です。そして、モータリゼーションが進んだ、現代の世界の都市では、渋滞が慢性化し、クルマを使うのが合理的とは言えない状態があります。
それならば、都市では自転車で十分、むしろベターではないかと思うのは自然でしょう。クルマが必要な場合はあるとしても、自転車で済む移動は、自転車で十分ではないか、むしろ自転車を活用したほうがいい、となるのも、自然な流れだと思います。このような認識が欧米の都市の市民に出来つつあります。
現在でも、ヨーロッパではクルマの排気ガスによる健康問題が懸案となっている都市があります。パリでは排気ガスによる大気汚染への抗議デモが起きています。地球環境への意識も高まっており、自転車ならイニシャルコストもランニングコストも安く、運動不足も同時に解消できます。これで活用するなというほうが無理があります。
都市の中心部では、むしろクルマの流入を制限してでも自転車レーンなどを充実させ、もっと自転車の活用を進めようと考えるのは、自然な成り行きと言えるでしょう。こうした市民の認識、コンセンサス、要望があって、自転車の活用の推進、自転車環境の整備が進められているわけです。
日本の場合、大多数の市民が自転車本来のポテンシャルを知らないという大きな違いがあります。ママチャリしか知らないので、自転車は子供やお年寄りの使うものといった偏見や、見下すような風潮も一部にあります。格安粗悪なママチャリが市場を席捲しており、世界と比べて特殊な環境であることにも気づいていないのです。
多くの人のとって、自転車は、近所のスーパーや最寄り駅までのアシでしかありません。その用途には、今でも十分活用していますが、これ以上、自転車の活用と言われても、ピンと来ないのも致し方ありません。まず、この部分が変わらないと、市民の声、世論として、自転車の活用推進を求める声が大きくならないでしょう。
市民の認識が不足しているため、政治や行政に対する声も高まらず、具体策は遅々として進まなかったのが、これまでです。基本法が出来たのは大きな一歩ですが、この状態が目に見えて変わることは、正直言ってあまり期待できそうにありません。まずこの状況を打破する必要があります。
活用推進法の成立は、一つのきっかけにはなりえます。しかし、市民の声を背景にしなければ、なかなか環境整備は進まないでしょう。環境整備が進まないと、活用は進まず、その本来のポテンシャルを実感することも出来ません。すると、市民の声も広がらないというスパイラルから抜け出せません。
ニワトリと卵のような関係ですが、このスパイラルを破る方法がないわけではありません。それは、自転車の歩道走行をやめることです。元々は日本でも自転車は車道走行だったわけですし、今だって道路交通法にはそう書かれています。例外規定として認めて来た歩道走行を今こそ、やめるべきでしょう。
ただ、40年以上も続けられてきた自転車の歩道走行を今すぐやめろというのも無理があります。今まで歩道しか通ったことのない人が、車道走行を怖がるのも理解できます。長年、歩道走行を前提に整備されてきたため、車道を走行すると危険な箇所もあります。
そこで、いついつまでと年限を区切って、とりあえず歩道走行だけは禁止できるよう、車道への自転車走行空間の整備を進めるべきではないでしょうか。政治的な決断が必要ですが、とにかく自転車の歩道走行だけは解消すると決めることが、この日本だけの特異な状況を打破する突破口になると思います。
海外に、ある程度の期間滞在して日本に戻ってくると、私でさえ歩道を走る自転車を怖く感じます。欧米の都市では、基本的に安心して歩道を歩けます。それに慣れると、歩道を自転車が走り回っている日本の状況は野蛮で危険に感じます。日本人は気づきませんが、これは恥ずかしい状況です。
2020年には東京五輪もありますし、まず歩道走行禁止に力を入れるべきです。交通標識にSTOPなどの文字を入れたり、外国人にもわかる案内マークに変えるといった議論もありますが、それよりも、まず歩道走行禁止だと思います。個人的には、それなくして、「お・も・て・な・し」もへったくれもないと思うのです。
その意味では、いい機会でもあります。逆に、年限を決めて、何か思いきらないと、先ほども述べたように、この状況から抜け出すのは難しいと思います。歩道走行禁止の目標を決めれば、ある程度の環境整備につながり、それによって車道走行をするようになるでしょう。
車道走行すれば、自転車本来のポテンシャルを理解する人も増えてくるに違いありません。そのことで、自転車で済む移動は自転車で十分ではないか、というコンセンサスも生まれてくるでしょう。そのことが、都市交通としての自転車の活用の推進に結びついていくはずです。
今まで、あまりにクルマ優先できてしまったことにも気づくことになるでしょう。高度経済成長の時代は、効率優先で、それも必要だったのかも知れません。しかし、クルマ優先が当たり前のようになったため、歩行者や自転車が危険にさらされ、交通事故で多くの人命が失われているのも事実です。
欧米の都市では、クルマよりも人間を優先すべきとの意識に変わりつつあります。いくら道路を拡張しても、そのぶんクルマが増え、渋滞はなくなりません。住宅街の細い道路にまでクルマが入り込み、猛スピードで走り抜けるような状態は異常であり、すぐにでも改善すべきです。
とりあえず歩道走行禁止を徹底できるようにします。そして本来の自転車に乗り、自転車で十分だし、リーズナブルだと理解できれば、クルマの車線を減らし流入を制限しよう、もっと自転車を活用できるようにしよう、クルマ優先をやめて、都市を人間中心にしようという考え方が普通になっていくに違いありません。
自転車活用推進法の理念には賛同しますが、この法律がどれほどの推進力を生むかには疑問もあります。これを元に、計画を立て、自治体も含めて推進しましょう、などと抽象的なことを言っていても進むとは思えません。土台は出来たわけですから、次は歩道走行禁止の実現といった具体的な計画を掲げるべきではないでしょうか。
南シナ海で中国軍が、米軍の無人潜水機を奪ったと報道されています。米中関係は緊迫化していくのでしょうか。