December 27, 2016

自転車は地下鉄やバスと同じ

世界で自転車シェアリングが広がっています。


すでに、世界の数百都市以上で自転車のライドシェアが導入され、その数は増えています。ただ、都市によって、そのサービスには違いもあります。当然ながら国によって、また都市によって、自転車自体の利用され具合も違えば、自転車シェアリングに対する見方、考え方も違うでしょう。

地形や気候、歴史的な経緯、社会的な認知度、インフラの充実度、人々の利用実態、他の交通との兼ね合いなど、さまざまな条件も違います。その都市での利便性や人々の評価、あるいはニーズも違ってくるはずです。必ずしも好調に推移するサービスばかりとは限りません。

北欧フィンランドの首都・ヘルシンキを中心に展開するライドシェア、“City Bikes”は、2000年に始まりましたが、2010年で一旦終了しています。さまざまな問題点が表面化し、そのまま継続させるのではなく、見直されることになりました。

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City Bikes
終了したサービスの自転車(左)と新しく始まるサービスの自転車(右)

当然ながらサービスの維持にはランニングコストがかかります。メンテナンスが行き届いて、快適に利用できなければ利用者からは敬遠されます。そのため、一台一台を良い状態に保たなければなりません。もちろん、古くなったり破損したりすれば、新品と入れ替える必要もあります。

また、どうしてもステーションごとの利用度が違うので、拠点ごとの自転車の配置が偏ってしまいます。たくさん集まる箇所から出払ってしまっている箇所へ輸送し、その偏在を是正しなければなりません。トラックなどを使って輸送すれば人件費などがかかります。

そもそも自転車シェアリングは、あまり少ない拠点数、台数では便利ではありませんから、ある程度の規模が必要になります。必要な輸送やメンテナンスも相応の規模にならざるを得ません。その規模での採算に見合う利用者数がなければ、ランニングコストをまかなえず、赤字ということになってしまいます。

中には不届き者もいて、自転車が盗まれたり、投棄やいたずらなども起きるでしょう。費用はかさみますが、かと言って利用料を上げれば利用は進みません。ヘルシンキの場合は相対的な人口密度の低さや、気候的に冬場は利用者が少なく、営業を続けるのが難しいこともあります。

City BikesCity Bikes

ある程度、公的な資金が投入されるとしても、限度があります。自転車本体やステーションに広告ボードなどを取り付け、スポンサーを募集して広告収入を見込む手もありますが、ヘルシンキでは、広告の場所などについて合意が成立しなかったという経緯もあったと言います。

環境に対する意識の高い北欧・フィンランドであっても、自転車シェアリングを継続的に稼働させていくのは簡単ではないことがわかります。ただ、10年間サービスが続けられて、その間にいろいろなノウハウも得られ、問題点とその対策も明らかになったようです。

ちなみに、よく日本の自治体が、撤去した放置自転車で、引き取られなかったものを利用して、自転車シェアリングと称して無料でサービスを始めることがあります。しかし、元々格安粗悪なママチャリが多く、しかも放置されて取りに来なかったような自転車では、乗り心地も悪く快適に利用できないのは明らかです。

多くは、専門の業者がメンテナンスをすることもありません。これでは、利用者にそっぽを向かれるのは当然です。鳴り物入りで始めたものの、結局は利用されず、また程度の良くない放置自転車はぞんざいに扱われ、さらに状態を悪くし、台数を減らし、どんどん利用者離れを起こし、密かに終了することになるのも道理です。

City BikesCity Bikes

ヘルシンキの自転車シェアリングは、そのような根本的な間違いをしていたわけではありませんが、残念ながらいったん終了ということになりました。しかし、諦めたわけではありません。今年5月、満を持して、第2世代の“City Bikes”サービスが始まりました。

今度の“City Bikes”は、ヘルシンキ市の交通局が主体となり、民間企業との共同事業の形になっています。メインスポンサーに食料品チェーンの会社も決まりました。広告の入った新しい自転車が、今年500台、来年さらに1000台投入されます。

自転車の貸し出し・返却の拠点となるステーションは今年50か所、来年にはさらに100か所増えることになっています。この新生“City Bikes”、最大の特徴は、市の交通局が主体となって、自転車シェアリングを既存の都市交通システムの一部として組み込んだことです。

地下鉄やバス、路面電車、フェリーなど、従来からある都市交通の駅などには必ず自転車のステーションが設置され、ライドシェアの自転車との乗り継ぎが便利になっています。他の都市交通と接続する交通網の一部として、一体的に利用できるようになっています。

City BikesCity BikesCity BikesCity Bikes

City Bikes

利用者が、自転車と地下鉄などを組み合わせて、ドアツードアで利用しやすくなりました。ステーションも、地下鉄の駅などだけではなく、基本的に300メートル程度の間隔で設置されています。最寄りの場所で乗り捨て、ピックアップしやすくなっています。

それだけではありません。他の交通と接続することで、その補完的役割も果たします。例えば、バスに乗ってターミナル駅に向かい、乗り換えて違うバス路線で目的地に向かうとします。これを自転車を使うことで、ターミナル駅まで行かずに途中駅で降りて、自転車でもう一方のバス路線のバス停に向かったり出来ます。

つまり、ショートカットすることで、時間の短縮になったりするわけです。実際に、交通局が提供するアプリで、ルート検索が出来るのですが、その中に自転車の利用が組み込まれています。自転車を利用すれば早く行けるルートを教えてくれるわけです。新しいルート、選択肢がたくさん増えた形です。

日本にも、電車での行き方や乗り換えを案内してくれるアプリがあります。いくつか候補を示してくれ、早いルートや安いルート、所要時間などがわかります。これに、ライドシェアの自転車も組み込まれており、途中を自転車で行くとベターな場合、それを教えてくれるイメージでしょうか。



どこに自転車シェアリングのステーションがあるかわかるのはもちろんですが、それを交通網の一部として完全に組み込んでいるわけです。これによって、これまでにない行き方も出来るでしょう。移動の選択肢が増えて、市民の利便性が向上することになります。

自転車の場合、接続するバスの時間を待つような必要もありません。無駄な待ち時間を減らし、所要時間の短縮になる場合もあるでしょう。いずれにせよ、自転車を交通網に組み込むことで、これまで利用していなかった市民が、その利便性に気づき、ライドシェアの利用者が増える効果が期待できそうです。

料金の支払いやステーションでの自転車の開錠も、交通局のカードで出来ます。日本であれば、スイカやパスモ、イコカなどのカード・定期券がそのまま使える感覚でしょうか。なるほど、これは便利そうです。もちろん一日利用や、一週間利用、一シーズン利用などから選べます。

City BikesCity Bikes

稼働するのは5月から10月の半年間です。冬場は営業していても、あまり使われず、気候的に敬遠されるので、これは仕方がないのでしょう。ただ、シーズン中には通勤経路にこの“City Bikes”を組み込む人も出てくるに違いありません。

利用者が増え、自転車の稼働率が上がれば、サービスとして採算がとれる可能性も高まります。広告スポンサーもつきましたし、民間との共同事業ですから、サービスやオペレーションの効率の向上も期待できるでしょう。新しい“City Bikes”はなかなか好評のうちにスタートしているようです。

この“City Bikes”、他の都市にも十分に参考になる事例だと思います。世界中に広がりつつある自転車シェアリングですが、個々のサービスの状況・事情はさまざまです。ただ、それぞれのサービスは、その地域の環境や事情に応じて進化していると言えそうです。





国交省の調査で、昨年度は外出する人の割合が過去最低を記録したそうです。皆出かけなくなってるんですね。

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