日本国内だけの話ではありません。世界でも電動アシスト自転車の開発、販売が広がっています。電動だけでも走行可能な電動自転車も含め、海外でも、もはや自転車に電動モーターを採用することは、特に珍しいことではなくなってきています。新しく開発されるモデルも増えています。
Grant Sinclair社、クルマのような電動自転車を予約販売中
英Grant Sinclair Design社は2017年2月、電動アシスト自転車「IRIS eTrike」を発表した。20インチの前輪2輪と26インチの後輪1輪の3輪車で、最高速度が40km/hまでのEcoモデルと、48km/hまでのExtremeモデルの2種類がある。
IRIS eTrikeは、自転車競技やスキー競技に使うヘルメットのような形状の発泡ポリプロピレン(EPP)製ボディを持ち、後ろヒンジの耐摩耗性アクリル(航空機用クリアプレキシガラス)製キャノピーを採用した。Ecoモデル、Extremeモデルとも、車体寸法は全長260cm、全幅94cm、高さが128cmである。フレームはクロームモリブデン鋼で、車体重量は55kg。
従来にないカテゴリーの乗り物
LEDヘッドライト、ウインカー、ブレーキライト、通気口から空気を取り込んで活性炭フィルターを通して室内を冷やす空調装置もある。全天候型で施錠可能な50Lの後部荷室を備えているので、商品配送や救急医療などさまざまな用途での利用が考えられる。企業ユーザー向けに車体デザインのカスタマイズにも対応するという。
室内には、スマートフォン用ドックを備えており、ナビゲーションや音楽再生、カロリー消費量の表示などが可能。リアビューカメラも搭載しており、ドックで接続したスマートフォンに映像を映す。人間工学に基づいて設計されたバケットシートは、ボディと一体で成型されている。
Ecoモデルは、車輪と一体化した出力250Wのハブモーターと8速のレース用ギアを組み合わせた。ハブモーターは、ペダルを漕ぐと自動で起動する。走行中にブレーキをかけると回生電力でバッテリーを充電する。
もはや自転車とは言えない
Extremeモデルは、出力750W、トルク150N・mの駆動モーターをミッドシップに搭載した。運転者のペダル操作をアシストするだけでなく、ペダル操作がなくてもハンドルのグリップを回して運転する電動バイクにもなる。
どちらも48V・20Ahの取り外し可能なLiイオン2次電池パックを備える。1時間の充電で最大50マイル(80km)まで走行できる。
価格はEcoモデルが2999ポンド(約42万円、1ポンド=141円換算)、Extremeモデルが3499ポンド(約49万円)。現在、どちらも99ポンド(約1万4000円)の手付金で予約を受け付けている。2017年第4四半期に納入を開始する見込み。(2017/02/23 日経テクノロジー)
この記事には、「クルマのような電動自転車」と書かれていますが、これは一般的にベロモービルと呼ばれている自転車です。日本では馴染みがうすく、走っているのを見ることもほとんどありません。しかし、ベロモービルは昔からある乗り物であり、決して「従来にないカテゴリーの乗り物」ではありません。
欧米でもメジャーとは言えませんが、それなりに認知されており、これまでにも多くのタイプのベロモービルが製造・販売されています。一部のマニアの人が乗っていますし、通勤などに利用している人もいます。誰もが乗るような自転車ではありませんが、新発明というわけではありません。
私は、海外のメディアの記事で、この“
IRIS eTrike”の発表を知りましたが、海外のメディアでベロモービルに関する記事を見るのは、特に珍しいことではありません。しかし、日本ではベロモービルがほとんど認知されていないこともあって、日本のメディアで記事として扱われるのは珍しいと言えるでしょう。
「クルマのような電動自転車」、「従来にないカテゴリーの乗り物」、「もはや自転車とは言えない」といった見出しをつけたところをみると、この記者は初めて目にしたのでしょう。かなりインパクトがあったので、記事として取り上げたということなのかも知れません。
実際には、ベロモービル自体は昔からありますし、海外では、近年新しいモデルが開発されることも増えています。このブログでもいくつか取り上げました。そのような流れは、日本の一般の(非自転車の)メディアにも取り上げられるくらい、広がってきていると言えるのかも知れません。
その背景には、近年の技術の進化や工業製品のトレンドも関係しているのでしょう。例えば、スマートフォンが世界で爆発的に普及したおかげで、センサーや半導体などの技術が進み、量産化で安くなり、他の製品にもその恩恵が波及しました。ドローンとか、VR端末、ロボット関連などの進化を促したと言います。
同じように、充電池のニーズが高まったことで、高性能化、小型軽量化、大容量化が進み、その用途が広がったり、安くなったということもあるでしょう。充電池の高性能化・低廉化が、電動アシスト自転車の性能のアップや、多くのモデルへの搭載につながっていると見ることも出来ます。
ベロモービルは、普通の自転車と比べて重量があるため、これまでも電動アシスト機構が搭載されてきましたが、より性能がアップし、重量が軽減し、航続距離が伸びています。商品力が上がって実用性が増しているため、新規参入する業者も出てきているのでしょう。
発泡ポリプロピレン、航空機用クリアプレキシガラスなどと書かれていますが、素材技術の進化により、ボディの軽量化が進んでいることも、航続距離を伸ばし、実用性能のアップに貢献しています。価格的にも以前よりリーズナブルになってきています。
もちろん、環境負荷を減らし、温暖化ガスを削減しようという社会のトレンドにも合致します。ヨーロッパでは、特に環境に配慮しようという意識が高く、自転車の活用も進んでいます。普通の自転車より荷物が載せられ、雨に強いため、さらに活用シーンが広がる期待もあるでしょう。
欧米では、3輪の自転車・トライクや、荷物を運ぶ自転車・カーゴバイクが日本と比べて一般的です。それに屋根を取り付けたと考えれば、ベロモービルにそれほど違和感はありません。自転車インフラの整備も進み、ベロモービルの利用環境が整っていることも好条件です。
いずれにせよ、電動アシスト機構を備えたベロモービルという製品は、特に目新しいものではありませんが、より実用性がアップする中で、今後の普及拡大の可能性が高まっています。すぐにブレイクするとは言いませんが、徐々に利用が拡大していく可能性があると言えるでしょう。
では、日本ではどうでしょう。欧米と比べると、日本でのベロモービルの認知度は低く、一般には珍しい乗り物です。しかし、考えてみると、実は日本でこそベロモービルの恩恵は大きいかも知れません。なんと言っても、平均して3日に1日は雨が降るという降水量の多さがあります。
身近な移動に自転車を使う人の割合は高いですが、雨がネックです。もちろん雨の中、傘をさして乗る人もいますが、危険ですし、どうしても濡れますから乗らない人も多いはずです。雨が降った時のことを考えると、移動を自転車だけに頼るわけにはいかないのが実情でしょう。
でもベロモービルなら雨にも濡れず、普通の自転車より荷物も積めます。車体は相対的に重くなりますが、電動アシストですから、ペダルが重いこともありません。航続距離が80キロあれば、日常での利用には十分でしょう。価格は張りますが、クルマの所有コストを考えれば、決して高くありません。
高齢化の点でも注目されます。最近は高齢者によるクルマの事故が増えています。免許を返上すると日常のアシがなくなり、買い物難民などになって困ります。でも、ベロモービルがあれば、日常のアシは確保できます。3輪ですので、止まっていても転倒せず安定していることも利点です。
ペダルが前方にあって、乗車姿勢はイスに座ったような態勢です。トレーニングジムなどにある、レッグプレスを考えるとわかりますが、サドルにまたがってペダルを回すより、シートに座って背もたれを背にして足を延ばすほうが力が入ります。実際に、普通のロードバイクよりもリカンベントのほうがスピードが出ます。
多くのベロモービルが、リカンベント型になっていることも、パワーの面で有利に働きます。流線形のキャビンがあることで、人がむき出しである普通の自転車と比べて、空気力学的にも圧倒的に有利です。風の抵抗が小さいため、スピードも出ます。決して鈍重で遅い乗り物ではないのです。

気候や人口動態、生活圏の移動実態などの点から考えると、日本でのベロモービルの利用は、大きなメリットとポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。今は全く認知されておらず、ピンと来ない人も多いと思いますが、自転車に乗る人がこれだけ多いのですから、潜在的な可能性は否定できません。
当然、課題もあります。一般道でクルマと混在した場合、渋滞を懸念する声もあります。ただ、普通の自転車より多少幅はありますが、自転車が車道走行しているのと、それほど変わりません。現状で、自転車の車道走行空間が乏しいことはネックですが、ベロモービルになって、それほど大きく違ってくるわけではないでしょう。
もちろん、道幅の狭い幹線道路でベロモービルが走行していれば、後続車が追い越せず、渋滞をひきおこす可能性はあります。これについては、自転車の走行空間の充実を図っていくしかありません。ただ、それはベロモービルに限った話ではなく、必ずしも共存が無理ということではないでしょう。
クルマの通りが少ない、生活道路のような場所で利用するぶんには、現状でもベロモービルが走ることに問題はないと思います。トライクであるため、転倒やふらつくことも少ないですし、高齢者が乗るなら、かえって安全性が高い面もあります。

クルマが売れなくなって、日本経済に悪影響を及ぼすという考え方もあるかも知れません。しかし、航続距離は80キロ程度ですし、日常での近距離利用に限られます。今、自転車を使っている移動がベロモービルになると考えれば、クルマと競合するより、むしろ他の自転車と競合する対象です。
クルマに関して言えば、今後はカーシェアリングや、ライドシェアなどの拡大が予想されています。いずれにせよ、クルマを所有する人が減っていくとするならば、ベロモービルが理由とはならないでしょう。むしろベロモービルの普及が歓迎されるものとなるかも知れません。
もちろん、まだまだ一般の認知度は低いですし、社会的なコンセンサスの面でも、ベロモービルの普及が見込める状況ではありません。ただ、今後の身近な移動手段の一つの選択肢として、日本でも潜在的なポテンシャルを秘めるという点で、長期的には、注目される自転車と言えるかも知れません。
昨日は初のプレミアムフライデーでした。早帰りはいいとして、月末の一番忙しい時です。定着するのでしょうか。