改革開放政策以降、工業化が進み、中国は急激な経済成長を遂げました。近年は減速してきているとは言え、それでもまだ6%以上を保っています。工業化に伴い都市部の人口は増加し、ビルやインフラなども急激に整備が進み、特に沿海部の都市は大きな変貌を遂げました。
すでにGDPは日本を超え、今や世界第2位の経済大国です。生活や交通などのインフラ整備も進み、特に沿海部には、もはや欧米に遜色ないような近代都市が出現しています。急速なモータリゼーションによって、今や世界一のクルマ市場でもあります。
しかし、都市が近代化した一方で世界の工場となった中国では、経済発展と共に公害が深刻化し、北京などの空は太陽の光も遮るほどのスモッグで覆われています。PM2.5の数値は、日本では危険レベルとされるような高い値となっており、市民の健康に深刻な懸念が及んでいます。
爆発的に増えたクルマによって、都市部はひどい渋滞が慢性化しています。道路は大量のクルマで埋め尽くされています。曜日によって走行できるナンバーを指定するなどの規制も行われていますが、全く間に合っていません。空はスモッグで暗く、これも大気汚染に拍車をかけています。
政府は、工場や発電所などの排煙と共にクルマの排ガス規制の強化を打ち出していますが、大気汚染は依然として深刻なレベルです。こうした状況は、深刻な公害や環境破壊など負の側面も含めて、日本の高度経済成長の時代と重なる部分があります。
改革開放前、首都北京の天安門広場の前の大通りは、自転車であふれていました。黒っぽい実用車に乗った、人民服を着た市民が大量に走行する様は、黒い濁流の流れる大河のようでした。以前は、日本から20年か30年遅れたような光景が広がっていたわけです。
それが、モータリゼーションの時代を迎えて、もはや自転車の時代には戻れないという風潮になりました。しかし、急速にクルマが増えた結果、都市部の渋滞は深刻です。実用的には自転車で移動したほうが、はるかに速いため、最近の大都市では、自転車シェアリングが大人気となっています。
自転車からクルマ、そしてシェア自転車へと変貌するスピードにも驚きます。これまでにも取り上げましたが、上海などの都市では、大規模な自転車シェアリングが急速に普及しています。ベンチャーが、我先にと参入している状態です。すでに参入企業がひしめき、激しい競争状態になっている都市もあります。
中国では、この自転車シェアリングも、次世代のシェアリングエコノミーの一つとして有望と目されています。ウーバーやエアビーアンドビーなど、シェアリングエコノミーを展開する企業は世界から注目されていますが、自転車シェアリングもその流れで捉えられているわけです。
大規模なサービスが爆発的に広がっていますが、投棄したり、私物化したりなどマナーも悪く、ビジネスとしては問題も多いと指摘されています。しかし、大都市で自転車シェアリングを展開する企業には、大きな投資資金が集まり、先行者利益を得るためにも、まずは先行投資と割り切り競いあっている状況です。
少しでも早く欧米流のシェアリングビジネスにキャッチアップしようという姿勢だけではありません。自転車シェアリングが市民に広く浸透すれば、そこからビッグデータが得られたり、行動を分析して広告を流したり、商業施設に誘導するなど、大きなビジネスが埋まっていると考えられているのです。
すでに、自転車シェアリングに関しては、あっという間に日本を抜き去ってしまったと言っていいでしょう。日本でも、実験的に導入する事例が増えてきていますが、規模もスピードも圧倒的に違います。ついこの前までは、自転車なんてと言っていたのに、今やシェア自転車に乗る人であふれている状況です。
都市にもよりますが、もともと国土が広いこともあって、自転車インフラに関しても日本より充実しています。さらに、沿海部の厦門(アモイ)の街に、欧米の自転車先進都市をも抜き去るような、次世代の自転車インフラとも言うべき道路が登場しています。
7.6キロに及ぶ、高架の自転車専用道路、空中を通る自転車ハイウェイです。設計したのは、自転車先進国デンマークの設計事務所で、コペンハーゲンの自転車専用高架橋などを設計した実績があります。この高架橋については以前に取り上げましたが、このアモイの7.6キロの自転車専用高架道路は世界最長となっています。
この設計事務所によれば、ロンドンでも同様の高架道路を提案しているそうです。しかし、設置場所や予算面などから、少なくとも現在は実現していません。それらの制約もさることながら、なぜ自転車が高架道路を走らなければいけないのかという疑問が呈されたと言います。
地上面はクルマ優先にし、自転車や歩行者は上空や地下などに迂回させようという考え方に、根本的な疑問、異論が出されるわけです。ロンドンでは、中心部へのクルマの流入を有料にする、ロードプライシング政策が進められています。クルマ優先という考え方そのものが否定されつつあるわけです。
これは欧米の都市で主流になりつつある考え方であり、都市中心部へのクルマの流入は渋滞を招くだけで、これを制限することにより、自転車や歩行者のための空間を確保するほうが合理的、人間的だというわけです。交通事故や公害を減らし、人間を優先するのが本来あるべきではないかと考える人が増えているのです。
この点、アモイでは、少し違うようです。クルマが急速に増え、渋滞の激しさが増す中で、クルマより自転車を迂回させたほうが合理的ではないかという考え方です。クルマも自転車と混在せずに済みます。まだまだ経済優先ですし、そのほうが自転車利用者にとっても好都合だろうというわけです。
中国では、リーマンショック後の世界的な景気後退に際し、4兆元もの経済対策を打ち出しました。大規模なインフラ整備は経済対策でもあり、インフラとしての採算性とか経済性を度外視するような傾向もあるのでしょう。地方政府は、競うように経済振興に力を入れ、開発に力を入れています。
近代的な都市を建設し、まだ欧米にもないようなインフラを整備することに、国家としてのプライド、虚栄心を満足させるような傾向があることを指摘する人もいます。いずれにせよ、アモイでは、先進的な自転車高架道路、ハイウェイが建設され、さらに拡張されていく計画もあります。
日本でも、高度経済成長期には、経済成長を阻害しないようにとクルマが優先されました。自転車は歩道を走らされ、車道はクルマ優先という世界的にも異質な交通政策が行われました。それに比べれば、アモイの自転車専用ハイウェイは、同じクルマ優先でも、はるかにいいと言えるかも知れません。
都市によっても事情が違うので、他の都市にも広がっていくかは別として、中国の自転車インフラは、さらに充実して行きそうです。もうすでに、日本は抜き去られています。日本では、遅々として自転車インフラの整備が進まないことを思えば、羨ましい部分もあります。
自転車シェアリングや自転車インフラに関して、すでに日本は中国の後塵を拝す形になっているわけですが、そのことを嘆いても仕方ないでしょう。日本はもはや、6.5%成長など望むべくもありませんし、GDPも抜かれて久しいわけで、無いものをねだっても仕方がありません。
ただ、自転車シェアリングやインフラについて、欧米スタイルと同時に、中国の新興国スタイルを先行モデルとして観察できるようになったとも言えます。いつまでもクルマ優先は疑問ですが、一方で中国の合理的な割り切り方も、場合によっては有効でしょう。今後の日本の自転車インフラ整備の参考にしてほしいと思います。
稲田防衛大臣が苦しい立場になっているようです。今回に限らず、この人は稚拙な答弁や藪ヘビばかりですね。
発展途上、後進的な地域、国ほど自動車の幻想を信じ、自動車公害性(排ガスによる大気汚染、光化学スモッグ等蔓延、重大事故激増、渋滞慢性化による救急車到着遅延等)を軽視したまま自動車を増やしてしまい、結果、公害と渋滞と重大事故の激増で苦しみもだえる。
やがて、先進諸外国のように脱クルマ、自転車活用推進へと転換する。
中国も、まさにその途上にあると言えましょう。
むしろ、シェアサイクルの盛り上ありを見るに、日本よりも中国のほうが、自転車という排ガスも騒音も出さず重大事故低減(自動車からの乗り換えにより)、渋滞減少効果等の凄まじいメリットをきちんと評価しているとさえ思えてきます。
日本も負けていられませんね。各国で「自転車は素晴らしい!」という正しい評価が広まり、自転車インフラ整備での競い合いのような状況になってほしいと切に願うものです。
自動車から自転車への乗り換えが、地域を良くする!
この事実に気付けるかどうかが、その地域の未来を大きく変える。
私達は今後も自転車活用の拡大推進が、いかに個人も地域も社会も良くしていくかを広く人々に訴え続けたいものですね。