ブリヂストンとブリヂストンサイクルによるもので、空気を入れる必要がなく、パンクの心配がない次世代の自転車用タイヤを開発したとの発表です。特殊形状スポークで荷重を支えることで、タイヤへの空気充填が不要になる技術「エアフリーコンセプト」を採用したタイヤです。
もともと、この
エアフリーコンセプトは、クルマ用のタイヤの技術として2011年に発表されたもので、モーターショーなどでも披露されていました。当初のものは、電動カートサイズのものでしたが、2013年に発表された第2世代のものは、より大型になり、小型モビリティーに対応したものでした。
今回は、このエアフリーコンセプトの実用化に向けた取り組みの一つと説明されています。クルマの前に、まず自転車用として製品化し、実用性を確かめたり、市場の反応を見たり、エアフリーコンセプトの改良や商品性を高めていこうということのようです。
最大のメリットは、パンクの心配がないことです。タイヤへ空気を充填する必要がないため、メンテナンス性の向上、つまりラクになります。それに加えて、樹脂ならではの加工のしやすさによって自転車のデザインの自由度が高まる点も挙げられています。
今後、4月30日に福岡県久留米市、6月4日に横浜市でそれぞれ開催される五輪関係のイベントなどで、このタイヤを装着した自転車の試乗会を行なう予定だそうです。ユーザーの意見を取り入れ、さまざまな検討を行なった上で、2019年の実用化を目指すとアナウンスされています。
これまでにも、パンクしないタイヤ、空気を入れないタイヤは開発されてきました。ベンチャー企業や、素材関連などの異業種、部品などの自転車関連の中小企業、あるいは販売業者など、さまざまな事業者が取り組んできたテーマと言うことが出来るでしょう。
私の記憶でも、かなり以前からありましたし、展示会などで見たり試乗したこともあります。災害時の移動用に備蓄しておく自転車に装着するといったニュースを読んだ記憶もあります。実際に、一部の販売店の店頭で売られているものもあると思います。
空気の代わりに、ウレタンや樹脂などを注入するタイプが多いでしょうか。ただ、これだとタイヤの重量が増えます。ころがり抵抗も増えて遅くなったり、乗り心地がよくなかったりといったデメリットがありました。緊急時の災害用ならともかく、日常的に使いたいとは思わないものもありました。
もちろん、試行錯誤を経て、改良されたりしているでしょう。ウレタンなどの充填ではなく、タイヤの素材を変え、中空の状態で走行出来るようなものもありました。世界的にも、さまざまな人たちが挑戦していますが、これまでのところ、広く普及したもの、メジャーになったものはありません。
今回は、それらと違い、タイヤ業界で世界シェアNO.1の会社、ブリヂストンが取り組む製品です。最終的な狙いはクルマ用だとしても、まず自転車タイヤに採用して製品化し、再来年の実用化を目指しています。タイヤ世界最大手が乗り出したというインパクトがあるのは事実でしょう。
今週はじめに発表された後、さまざまなメディアが報じています。これが実用的と認められ、コスト面などがクリアされれば、大手メーカーですから、大量に供給される体制がとられて、急速に普及する可能性もあります。つまり、パンクフリータイヤの普及が現実のものとなる可能性が出てきたわけです。
自転車に乗らない人、敬遠する人の理由はいろいろあると思いますが、パンクも大きな要素の一つでしょう。自分でパンク修理が出来ない人が圧倒的多数ですし、突然パンクすると困るのは間違いありません。最近は街の自転車屋さんが少なくなり、身近に修理を頼める環境も減っています。
もし、パンクの心配がなくなり、その一方で今までと同じ使い勝手、乗り心地ということになれば、自転車に乗る環境は大きく改善することになるでしょう。朝の急いでいる時に突然パンクして、勤務先や学校などに遅刻してしまうといった懸念がなくなるだけでも、使いやすくなると思います。
ママチャリはタイヤの脱着が困難で、構造的にタイヤを交換するように出来ていません。タイヤを交換しようと思うと工賃が高く、交換する部材と合わせると新しく買うのと変わらなかったりします。そのため、格安で売られているママチャリを使い捨てするような人も少なくなく、放置自転車が増える一因となっています。
基本的にパンクしなくなれば、このあたりの事情も大きく変わって来るでしょう。タイヤチューブの寿命がママチャリの寿命でなくなれば、使い捨てのようにして放置される自転車も減る可能性があります。撤去・移送に多額の予算を計上している自治体も少なくないわけで、社会的なインパクトも小さくないと思われます。
タイヤの空気圧が不足している状態で走行していると、ペダルが重くなって遅くなり、乗り心地も悪くなります。空気圧低下に気づかない人も多いわけですが、知らぬ間に快適でなくなり、楽しくなくなります。結果として自転車に乗らなくなってしまう人も少なくないのではないかと思います。
空気圧管理の必要がなくなり、快適度の低下がなくなるのであれば、そのような面でも環境が変わり、自転車に乗らなくなってしまう人が減るかも知れません。日常的に自転車を使っている人にとっても、うっかり空気圧が減っているような事態がなくなるのは大いに歓迎されるでしょう。
果たして、これが実際に広く普及していくかどうかはわかりません。自転車のパンクが過去のものとなればいいですが、現時点では不明です。乗り心地や価格、安全性、重量、メンテナンス性、そのほかさまざまな観点から、広く普及するためには多くのハードルがありそうです。
自転車が誕生したのは19世紀初頭と言われています。その後70年間ほどは、「ボーン・シェーカー」(骨ゆすり)と呼ばれるほど乗り心地の悪いものでした。今のようなタイヤではなく、空気の入っていない車輪だったためです。始めて空気入りのタイヤが発明されたのは1888年です。
それ以来130年にわたり、空気を入れるタイヤが使われてきました。もちろん品質は向上してきましたが、基本的な仕組みは変わっていません。そう考えると、やはり長年使われてきたタイヤが一朝一夕に変わるとは考えにくいのも確かです。このタイヤも、あまり普及しない可能性は当然あるでしょう。
特に、スポーツバイク用のタイヤは、そう簡単に従来のものと入れ替わらない気がします。もしエアフリータイヤが、スポーツバイク用としても採用されるほど優れた性能と認められれば別ですが、相変わらず空気を入れるタイヤが使われていく可能性は高そうです。
一方で、シティサイクルやママチャリ用のタイヤならば、ある程度の乗り心地が確保され、コスト面の条件がクリアされれば、パンクしないというメリットは大きな魅力です。多少のコスト差は残ったとしても、意外に広く、そして急速に普及していく可能性もありそうです。
もし、パンクフリータイヤが標準となり、自転車乗りの長年の敵、パンクがなくなれば自転車の歴史上、大きな進化です。自転車の利用環境に及ぼす影響も大きなものになるでしょう。130年来の壁がいよいよ破られることになるか、その可能性も含め、このエアフリータイヤの今後の動向を興味深く見守りたいと思います。
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