日本のように鉄道網が発達していないため、移動手段がクルマしかない地域は多く、クルマがないと生活できません。国土は日本の25倍もの広さがある一方で、人口密度は10分の1しかないので、鉄道網が限られるのは仕方ないでしょう。クルマ頼りになるのも当然と言えば当然です。
州によりますが、運転免許は14〜5歳から取得できます。都市や近郊に住んでいてもクルマで通勤するのが普通であり、日常のアシとしてクルマを使う生活が当たり前になっています。アメリカがクルマ大国と言われる所以であり、1・2人に1台の割合でクルマを所有しています。
そんなアメリカでも近年、一部の若者にクルマ離れと呼ばれる傾向があります。若い世代は、コンピュータやスマホ、SNSやゲームなどに関心が向かい、それらにお金を使います。そのため、クルマを所有して郊外に住むより、都市部に住んでクルマを所有せずに自転車を使う人が増えてきていると言います。
そんな若い世代は、これからの時代を担う重要な人材です。若い技術者を集めるため、著名なIT企業は、自転車で通勤できる環境を整え、競って自転車通勤用の社内設備を充実させています。そのことは自治体にも波及し、有力IT企業の拠点を誘致するため、都市の自転車インフラ整備を推進するところが増えています。
若い世代に限らず、環境負荷軽減の観点や、自身の健康増進のため、少しずつ自転車を活用しようと考える人が増えています。ただ、一部でそのような傾向があると言っても、依然としてアメリカがクルマ大国であるのは間違いありません。大多数の人はクルマで移動しています。
自転車に関心を持つ一部の人を除く、日常クルマを使っている人にとって、クルマに乗ることは呼吸するのと同じくらい当たり前のことでしょう。多くは自転車に変えようなどと考えたこともなく、自転車で通勤するなどという発想すら浮かばないに違いありません。
そんな人たちに、自転車の魅力、有用性を気づかせたいと考えている自転車ショップがあります。クルマが空気のように当たり前になっている多くのアメリカ人に対し、新しい車輪、すなわち新しい移動手段として電動アシスト自転車、eバイクを提案する自転車ショッフ、その名も“
The New Wheel ”です。
電動アシスト自転車がクルマに代わる手段となりうること、そしてそのメリットが十分あることを訴えています。その大きな理由は、渋滞です。通勤時間帯に常態化している都市部での酷い渋滞が回避でき、自転車のほうがよっぽど速いという事実があります。
それでも、ペダルをこぐのは疲れる、辛いと考える人もあるでしょう。しかし、同店が勧めるように、電動アシスト自転車なら、ラクに移動できることを知ってもらいたいと考えています。特筆すべきは、同店の立地です。なんと、サンフランシスコを中心とする自転車店なのです。
ご存じのとおり坂が多く、ケーブルカーが街を上下するサンフランシスコは、自転車に乗るのに向いていません。自転車であの坂を上るなんて考えられない人が多いはずです。しかし、電動アシスト自転車、eバイクなら、坂であってもラクに上れます。サンフランシスコでも充分に選べる選択肢であることをアピールしています。
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クルマに代わる新しい移動手段を勧める理由は、渋滞が回避できて速く実用的なだけでなく、ガソリン代などのランニングコストの安さもあります。車両購入費も桁が違います。そして、乗ってみれば、運動不足の解消になって健康増進の効果も実感するはずです。
そのために、同店がとった方法が、下取り制度です。なんと、電動アシスト自転車を購入する際に、手持ちのクルマを下取りに出すことが出来るのです。クルマの販売店なら当たり前の売り方ですが、自転車を買うのにクルマを下取りに出すなんて話は聞いたことがありません。(もちろん逆もないですが..。)
アメリカは、中古車市場も日本と比べてはるかに大きく、個人間も含めて、クルマの売買は身近に行われています。さまざまな理由でクルマを買い替えよう、あるいは売って換金しようという人が日常的にいます。売却先やその方法はいろいろありますが、その一つとして、“The New Wheel”を考えてもらおうというわけです。
同時に、クルマを買い替える際、自転車に乗り換えるという選択肢を提案するものでもあります。そんな人を増やしたいと考えているのです。そのために電動アシスト自転車の試乗会を催したり、ワークショップ等を開いて、初心者から熟練度に応じたさまざまなノウハウの伝授や、コーチングなども行っています。
自転車ショップの潜在的な顧客が普通、自転車に乗っている人、関心のある人になるのは当然です。しかし、これまで自転車に興味もなく、考えたこともなかった人、つまりクルマに乗っている人をターゲットにしようとしているのです。自転車ショップとしては意欲的なマーケティング手法と言えるでしょう。
もちろん、自転車から自転車への乗り換え、下取りもオーケーです。下取りに出せる自転車には条件がありますが、自転車の買い替え需要にも対応しています。何らかの理由で、違うタイプの自転車に乗りたい、違うタイプが必要になったという需要も取り込むことが出来ます。
自転車に乗る人、好きな人、関心がある人は、アメリカ人全体から見れば限られています。しかし、クルマを日常的に使っている人ならば、大多数の人ということになります。クルマから乗り換えようと考える人は少ないかも知れませんが、自転車に乗る人だけを相手にするより、パイは圧倒的に広がります。
クルマの買い取りについては、専業のチェーンと提携しています。もちろん差額は返金しますし、クルマを売るだけで、自転車を買わなくても構いません。ネットで展開する中古車買い取り業者にとっては、クルマを持ち込んでもらう拠点にもなるので、お互いにメリットがあります。
クルマを売った人の中には、帰りの交通手段に困る人があるかも知れません。また別のクルマを買うとしても、当面のアシとして自転車を買う人もあるでしょう。不要になった自転車は、また買い取ってもいいですし、その間に自転車の良さに気づいてもらえるかも知れません。
このショップでは、クルマから乗り換えて、まだ自転車を使うことに慣れていない顧客がパンクなどで困った時、現場まで迎えに行くサービスなども展開しています。年間の回数や距離の制限はありますが、一部は無料です。店はサンフランシスコ市内とカリフォルニア州のマリン郡にあります。
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お店の顧客を集めて、ライドイベントや交流会なども開催しています。自転車に乗る人のコミュニティに加わってもらったり、単に通勤などの手段としてだけでなく、自転車に乗ることの楽しさを感じてもらえるような取り組みも展開しています。
このショップのオーナーは、最近のサンフランシスコでの通勤や日常の移動手段として、必ずしもクルマが便利とは言えなくなってきていると感じています。渋滞で移動時間は長く、駐車場所は見つからず、かかるコストも上がっています。その中に、乗り換えてみようという人は必ずいるはずです。
クルマを下取りに出して自転車を買うという提案は、そのような人にアピールするでしょう。自転車をメインの移動手段にするという、多くの人にとって考えもしなかったアイディアに気づいてもらいたいのです。クルマ業界の顧客を、クルマ業界の仕組みを流用して奪う形ですが、それはそのお客のためになると考えています。
自転車のことは知っているつもりでも、実はその良さ、便利さ、楽しさを知らない人が大勢います。自転車の有用性、本当のポテンシャルを知らない人、気づいていない人も多いはずです。そんなサンフランシスコやカリフォルニアの人々に、新しい考え方、生活、あるいはそのアイディアをもたらすことになるからです。
店のオーナーは、電動アシスト自転車に情熱を傾けており、坂の多いサンフランシスコでも、電動アシスト自転車ならラクに移動できることを実感してもらいたいと考えているのです。自身もサンフランシスコで生まれ育ちましたが、この丘の多い街でも、自転車は大きな可能性を秘めていると感じています。
なかなか意欲的なショップです。自転車をメインの移動手段にするかどうかはともかく、通勤で渋滞を避ける選択肢として選ぶ人は増える可能性があります。少なくとも、都市や近郊において、自転車の可能性を考えもしなかったアメリカ人は、まだまだ多いのではないでしょうか。
今週は米空母が到着する中、北朝鮮の軍創建記念日があるなど、緊迫の度合いが高まるのか気になりますね。