May 11, 2017

全ての人に恩恵がおよぶ政策

自転車の活用は世界的な流れです。


環境負荷の軽減や、都市の渋滞の低減、居住環境の改善、市民の健康増進といった観点からも、自転車の活用を拡大している国、都市は多く、これは世界的なトレンドとなっています。中国のような新興国ですら、ここへ来て都市部の自転車シェアリングが急拡大するなど、自転車が見直されています。

ヨーロッパの自転車先進国とされる国以外でも、例えばイギリスでは、ロンドン五輪以降に自転車レーンの整備が急速に進んでおり、都市と郊外を結ぶ自転車用のスーパーハイウェイを整備する構想まで進められています。自転車の活用の拡大にあわせて、インフラ整備が進められています。

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ただ、こうした傾向に不満を表明する意見もないわけではありません。例えば、カナダのトロントで行われた調査によれば、自転車インフラの整備が進んだことで、自転車の平均速度は36%向上したものの、ドライバーの運転時間が、平均8分25秒増加し、それだけ利便性が悪化したと報告されています。

自転車利用者にとっては良くても、そのことがクルマのドライバーの負担を拡大させているというわけです。これは、ダウンタウンの労働者が、子供たちと一緒に夕食をとることを妨げることになり、不当であると主張するような人までいます。

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確かに、自転車インフラの整備によって、相対的にクルマのドライバーの不利益になるような面もあるでしょう。でも、それはこれまで都市の道路でクルマが優先されてきたことの裏返しでもあります。今まで優遇されてきたぶん、クルマのドライバーにとっては不満を感じやすい面がありそうです。

先進国と新興国ではタイムラグがあるものの、どの国でもモータリゼーションの波が押し寄せ、道路需給がひっ迫する中、クルマ優先の道路整備が進められてきました。このことは経済成長などに寄与する一方で、都市の慢性的な渋滞、深刻な大気汚染、交通事故といった負の側面を拡大させてきたのも事実です。

AARP, Photo by Smallbones,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.これまでクルマが優先され過ぎてきたという反省、クルマより人間を優先すべきとの考え方が増えたということもあるでしょう。少なくとも都市部においては、クルマの流入を抑制したり、車線を減少させるなど、その利便性を多少損なうような方向であったとしても、自転車インフラを充実させようという機運が広がっています。

誰もが認めるクルマ大国、アメリカでさえ、都市での自転車インフラの整備が進んでいます。ただ、自転車利用者以外にとっては、関心が薄いのも確かです。しかし、アメリカのAARP財団の研究機関である公共政策研究所は、自転車インフラは、自転車利用者だけのためではないと指摘しています。

当然ながら、ドライバーも歩行者になったり、自転車に乗ったり、あるいは家族が自転車を利用していたりするわけですから、特定の視点からだけで考えるべきではありません。しかし、それだけではなく、自転車に乗らない人にとっても、自転車にフレンドリーな道路は大きな恩恵があると指摘し、各方面で注目されています。

自転車レーンを整備することによって、クルマ用の車線が狭くなるなど制限されます。今まで広い車線でスピードを出せていたクルマも、相対的に慎重に運転せざるを得なくなります。よりスピードが落ちることになり、調査によれば、このことが歩行者や自転車を含めた全体の安全性の向上に貢献していると言います。

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自転車インフラの整備によって利便性が高まり、自転車に乗る人が増えます。そのことでクルマの渋滞が軽減される効果も見逃せません。車線が制限され、短期的には混雑が増すようでも、いずれ渋滞緩和に貢献します。このことは、いくつかの大学の研究機関の調査でも明らかになっているそうです。

自転車による移動の拡大は、都市をより魅力的にします。クルマに乗る機会を自転車で代替する人が増えることで、空気が良くなり、騒音が減り、安全になり、住みやすくなる、あるいは働きやすくなります。自身は自転車に乗らない人でも、長期的にはこうした恩恵にあずかることになります。

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自転車インフラの充実は、都市の経済的な活力をもアップさせます。IT企業などで顕著ですが、これからの成長産業では、若い人材、技術者の確保に躍起となっています。近年の若い世代は、アメリカでもクルマ離れの傾向があると指摘されています。

そうした世代は、クルマの所有より、パソコンやインターネット、スマホやモバイル端末、そしてゲームやSNSなどに興味があります。クルマにお金を使うのではなく、郊外より都市部に住んで自転車で通う方を選択します。つまり、自転車で走りやすい街が人気となる傾向がみられるのです。

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若者を集めるために企業は、自転車にフレンドリーな都市に進出します。このため、各都市、各自治体は自転車インフラの充実に競って取り組むようになっているのです。つまり、自転車インフラが人口を流入させ、企業の進出を促し、税収を増やし、都市を活性化させるのです。このことは住民にも経済的な恩恵をもたらします。

自転車インフラの充実は、職を得る機会を増やし、自立を助けることにもなります。日本のように都市の公共交通が発達しているとは限らないアメリカの都市では、多くの移動にクルマが使われます。しかし、誰もがクルマを所有し、維持するだけのコストを負担できるとは限りません。

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このことは、職を得るためのハードルになります。しかし、自転車インフラが充実し、自転車で通勤できれば、その壁はなくなります。低収入にあえぐ世帯にとって、クルマを所有せずに済むのは大きなメリットであり、失業率低下につながります。人種や移民問題も含め、格差の大きなアメリカ社会では重要なポイントです。

自転車インフラの整備は、他の公共交通、例えば地下鉄の建設に比べて、「激安」だとも指摘しています。公営のバスを走らせて赤字を垂れ流すこともありません。納税者の立場にたってみても、リーズナブルで有効な都市交通の整備であるわけです。

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人々が自転車に乗ることによる健康効果は、ほとんど奇跡のように見えると、公共政策研究所は指摘しています。通勤などで1日30分、自転車に乗るだけで、糖尿病、認知症、うつ、大腸がん、心血管疾患、不安神経症、高血圧などの罹患を40%以上減らすという結果が出ています。

市民一人ひとりにとって、病気の予防になり、健康増進になります。そして、このことが市全体では大きな金額の医療費の削減につながります。結果として保険料の伸びを抑え、介護費用も含めた社会保障費の圧縮につながるならば、税金や保険料を納める市民にとっても大きな利益となるわけです。

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自転車インフラが整備されることで、クルマ、自転車、歩行者が分離され、より安全に歩くことが出来ます。高齢者が安心して歩けること、あるいは自転車に乗れることは、高齢者福祉、そして障碍者福祉の観点からしても、大いにメリットがあります。

もちろん、自転車に乗る人にとっての直接の恩恵は大です。加えて、自転車インフラの整備が進んだことで、赤信号を無視する自転車乗りが大きく減ったという調査もあります。自転車での走行に一定の秩序を促す効果があり、マナーがアップし、乗りやすくなります。このことがまたサイクリスト自身のメリットとなります。

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そして、温暖化ガスを減らし、環境負荷を減らすことになるのも間違いありません。アメリカ環境保護局によれば、移動や輸送部門の温室効果ガスの排出は、2番目に大きな要因です。毎日の4マイルの通勤を自転車に変えれば、平均的なアメリカ人のカーボンフットプリントの5%の削減になります。

このように、さまざまな観点から自転車の活用は有効であり、そのためのインフラ整備が推奨されます。そして、それは決して自転車に乗る人のためだけではないのです。このことの周知が必要と、公共政策研究所は指摘しています。ふだん自転車に乗らない人でも、大きな恩恵のある政策であり、無関心でいるべきではないのです。

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これはアメリカの公共政策研究所の報告ですから、全ては当てはまらないでしょう。ただ、多くは日本でも共通するはずです。例えば、自転車環境の充実する都市への企業の進出はないかも知れませんが、一方でインバウンドも含めた観光客の誘致効果、地域振興効果も考えられます。

日本でも、ようやく近年、自転車レーンの整備などが話題に上るようになりました。しかし、諸外国と比べて、大きく後れをとっています。自転車インフラの整備の議論は、単にドライバーと自転車乗りの構図で考えるのではなく、多くの人にも恩恵が及ぶ政策であることを、広く周知していくことが必要なのではないでしょうか。




韓国で9年ぶりの革新政権となる文在寅大統領が誕生、北朝鮮の問題や日韓関係など今後が注目されますね。

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