AARP財団の研究機関、公共政策研究所によれば、自転車インフラの整備は、単に自転車に乗る人だけでなく、
全ての人に恩恵が及ぶ政策であるというものでした。自転車インフラに関する研究は、他にも各機関で行われていますが、その一つに、“
American Journal of Public Health Research”によるものがあります。
このAJPH、
歩行者や自転車の安全についての調査を行っています。それによれば、先進国においては、ほとんどの国で自転車事故による致死率は低下しているものの、重篤な怪我を負う例を含めて考えると、必ずしも低下していない部分もあるとしています。
興味深い部分も多いので、詳しい内容に興味のある方は、
実際のレポートを見ていただくとして、アメリカは他の先進国と比べて致死率が高く、改善の度合いも相対的に遅いと指摘しています。特にドイツなどと比べると、アメリカの状況は問題があると言うのです。
歩行者や自転車の交通安全状況の改善は、世界中の国の公衆衛生政策の重要な目標であり、すべての国が、特に高齢者や子供の安全性を向上させるべきだと指摘しています。その上で、調査結果から、アメリカは歩行者と自転車の安全環境を大きく改善しなければならないと結論づけています。
レポートには、いろいろなことが書かれているのですが、ざっくり言ってしまえば、アメリカはインフラの質をもっと向上させる必要があることを指摘しています。クルマと物理的に分離された自転車レーンなど、質の高いインフラ整備が必要だというわけです。
まとめてしまうと、自転車に乗る人なら誰でも感じていること、わかりきった結論になってしまうわけですが、このことを広範な調査を分析して検証しています。目新しいことを言っているわけではありませんが、歩行者や自転車の安全性向上のために、物理的に分離された自転車レーンの整備を求めているわけです。
道路環境が違うので、単純には比較できないにせよ、日本と比べてアメリカは、はるかに自転車レーンの整備が進んでいます。しかし、単なる整備を進めるだけでは安全性の向上において劣ること、つまり量だけでなく質を高めなければならないと、さらなる政策の対応を求めています。
ヨーロッパ諸国だけではなく、アメリカも含めた先進国では、自転車インフラは質が問われる時代に入っていると言っても過言ではないでしょう。もはや、単なる自転車レーンでは不足であり、物理的に分離されたような高規格の自転車レーンの整備が求められているのです。
自転車インフラの整備という点では、圧倒的に遅れており、いわば周回遅れの日本とすれば、彼我の差を嘆かざるを得ません。日本では、自転車レーンどころか、歩道を自転車が走っているような、野蛮で非常識な状態です。ようやく自転車レーンの整備という話も出てくるようになりましたが、先進国は更に先を行っています。
日本の自治体の担当者に言わせれば、自転車レーンの整備を進めてきていると主張するかも知れません。しかし、その多くは『歩道上』に設置されたものです。こんなものは自転車レーンとは言いません。安全性を向上させるために役に立っていないからです。
歩道上に設置された通行帯が守られている場所なんて見たことがありません。ラインがひいてあって、色分けされていても誰も見ておらず、歩行者と自転車が混在して通行しています。なまじ自転車のマークが描かれているため、駐輪スペースと思われ、放置自転車が並んでいるような場所も少なくありません。
自転車が歩道を走行していると、車道にいるドライバーからは、構造物や歩行者に紛れてよく見えません。そのため、交差点で左折しようとした際、いわゆる左折巻き込みが起きてしまうのです。歩道上の自転車は、前方の信号が青だから、そのまま直進します。
左折しようとしたドライバーは、突然自転車が飛び出してくるように感じるわけです。これが、車道に設置された自転車レーンならば、ドライバーから見えます。つまり、歩道を走行させる自転車通行帯は、かえって事故を誘発しかねない危険なものと言えるわけです。
歩道を走らせておけば、少なくともクルマからは安全だと思うのでしょう。しかし、直線部分では事故はほとんど起きておらず、その多くは交差点です。すなわち、安全のためになっていないのです。そして、もちろん歩行者と自転車の事故も増加しています。歩道上の自転車レーンはナンセンスです。
ちなみに、歩行者と自転車が混在して、自転車レーンの意味をなしていないような場所は、アメリカにもあります。ラインとマークが描いてあっても、歩行者が見てないというのは万国共通のようです。そのことを示す動画がありましたので載せておきます。
いちいち、「自転車レーンの歌」を歌いながら通らなければならないのでは大変です(笑)。これはニューヨークのブルックリンブリッジです。私も自転車で通ったことがありますが、ここは橋の上であり、特殊な事例です。古い橋ですし、自転車レーンが歩行者と混在する形になってしまうのは、致し方ないのでしょう。
日本では、まず道交法にも定められているように、自転車の車道走行の原則に戻るのが第一です。そのためにも、車道に自転車レーンを設置するなど、走行空間を確保しなければなりません。警察庁や国交省も方針転換し、車道上への整備というコンセンサスがようやく、少しずつ出来始めている状態です。
自転車の車道走行さえ、まだまだの状態ですが、自転車レーンが整備されたとしても、違法駐車の車両が占拠するであろうことは目に見えています。実際、数少ない車道上の自転車レーンでは、既にそのような光景が出現しています。これでは安全に走行出来ません。
クルマのドライバーは、駐停車する際、あれば必ず自転車レーンの中に停めようとするでしょう。自転車の通行の迷惑などということは考えず、他のクルマの迷惑にならないようにと考えます。ですから、少しでも左によって、自転車レーンを完全にふさぐような形でとめます。
都市部では、ほとんどの場所が駐車禁止です。停車する場合でも、車道部分で停車するならいいですが、自転車レーンをあけて、車道に停車しているクルマなんて見たことがありません。やはり、その意味でも物理的に分離された自転車レーンが必要となるでしょう。
本当に交通安全を実現させるためには、日本でも物理的に分離された自転車レーンが望ましいのは間違いありません。そう考えると、周回遅れの日本では、思い切って物理的に分離された自転車レーンを整備してしまうというのも一つの手ではないでしょうか。
よく、新興国の通信環境の整備は、先進国と違い、固定電話網の整備はせずに、一気に携帯電話網の整備に向かいます。固定電話網の整備を省けてリーズナブルです。これと同じように、日本の自転車インフラの後進性を逆手にとって、一足飛びに分離レーンを整備すべきではないでしょうか。
研究では、物理的に分離された、高規格の自転車レーンが整備されると、急激に自転車の交通量が増えることが明らかになっています。安全性が向上し、致死率、怪我をする率も劇的に改善します。それだけでなく、利用者が増え、利用頻度が上がるので、市民の健康などの副次的効果も大きく現れるのです。
つまり、高規格の自転車インフラを整備すれば、前回の研究で指摘されたような、広範に及ぶ効果が、より早く、より大きくなることを意味しています。普通の自転車レーンを整備するより、その効果が劇的に表れ、費用対効果も高くなるに違いありません。これから整備する上で、高規格にする意義は大きいと言えるでしょう。
前回も書いた通り、自転車インフラの整備は、
全ての人に恩恵が及ぶ政策です。交通安全だけでなく、市民の健康を増進し、病気の予防になって医療費など社会保障費の抑制にも寄与するでしょう。子どもの送り迎えなど、子育てをする母親の主要な移動手段にもなっており、子育て支援の側面もあります。
もちろん、観光客を呼び込み、地域振興にも貢献する可能性があります。住みやすい街と評判になれば人口の流入も見込めるかも知れません。地下鉄の整備や、赤字の路線バスを走らせることを思えば、安上がりです。いろいろ考えても、十分に優先して取り組む価値はある政策だと思います。
おそらく多くの自治体の担当者は、道路に余地がないと言うでしょう。しかし、それはクルマ優先の固定観念に囚われています。クルマの車線を削ってでも整備すべきと、前回の研究は指摘しています。そうすれば、クルマのスピードも下がり、全体として都市の安全性が向上し、より公共の福祉に資するはずです。
実際に、例えば片側2車線あっても、違法駐車に占拠され、結局無駄になっていないでしょうか。これまで、自転車を歩道走行させたきたため、無駄に広い歩道はないでしょうか。中央分離帯とかゼブラゾーンを削ったりすれば、案外余地は隠れているのではないでしょうか。
考えてみれば、順番にまず普通の自転車レーンから整備していく必要などありません。自転車利用者だけでなく、多くの人に恩恵が及ぶことを説明すれば、住民も理解するはずです。どこか、思い切って高規格の自転車インフラの整備に取り組む自治体が出てくることを期待したいものです。
また北朝鮮がミサイル発射です。韓国の政権交代や米国との対話機運もある中、何を考えているのでしょうか。