ママチャリが圧倒的多数を占める日本では、それ以外の種類の自転車が占める割合は少なく、一部のスポーツバイクを除けば、あまり走っていません。本来、自転車は多種多様で、さまざまなタイプがあるのですが、日本では、そのうち限られたタイプしか見ることがないと言っても過言ではありません。
カーゴバイクもその一つでしょう。実はカーゴバイクを使えば、自転車でもかなりの重量物、大量の荷物、大きな荷物も運べるのですが、日本ではほとんど走っているのを見ることはありません。自転車と言えばママチャリと思っている人も多く、そもそも知られていません。
たしかに、日本の道路事情や住宅事情を考えれば、カーゴバイクは使いにくい面があるでしょう。当然、歩道は走行出来ませんし、大きくて取り回しづらいということもあります。常に荷物を運ぶならともかく、荷物を載せない場合は荷台が邪魔です。駐輪や保管がしにくいのもあります。
でも、こんなカーゴバイクだったらどうでしょう。この、“
TReGo”、普通の自転車の前輪を取り外し、入れ替えて装着することで、カーゴバイクになるというパーツです。これならば、必要な時だけカーゴバイクとして使うことができ、ふだんは普通の自転車として乗ることが出来ます。
トライクになるので、荷物を安定して運べるのも利点でしょう。ワンタッチで着脱できるので、駐輪して取り外したら、そのままキャリーカートのようにひいて移動できるのも便利です。そのままスーパーに入って買い物をし、帰りも積み替える必要なく、そのまま装着して走り出せるわけです。
タイヤは16インチですが、前輪部分にそのまま装着するわけではなく、独自の機構の部分をクイックリリースで装着します。カーゴ部分を取り外しても、スタンドとして残ります。ディスクブレーキがついており、ブレーキレバー部分も取り付ける形です。
乗ってみないことには使い勝手までわかりませんが、なかなか便利そうです。特に、日本でママチャリを買い物に使う主婦層などには持ってこいの仕様かも知れません。ママチャリのカゴよりも多くの荷物が積めますし、カゴだと重心が高くて、ハンドルがふらつきますが、これなら安定して運べるでしょう。
ママチャリは便利ですが、それほど多くの荷物は運べません。前後に荷物を満載している人も見ますが不安定です。段ボールの箱に入った飲料などを運ぶのも困難でしょう。でも、この“TReGo”ならば、ママチャリでは運びにくい荷物でも運べます。トライクで安定して走行できる点は、高齢者にも恩恵となりそうです。
最近、輸送量が急増しているのにドライバーの人手は不足しており、宅配便の苦戦が伝えられています。このようなカーゴバイクが普及すれば、自転車でダンボール箱も運べるようになります。取次店やコンビニまで、荷物を取りに行くのも容易になって、流通面でもメリットとなる可能性があります。
しかし、実際には日本でこの“TReGo”が普及することはないでしょう。なぜなら、日本で圧倒的大多数であるママチャリは、前輪が外れるようになっていないからです。これを使おうにも、装着できる自転車が普及しておらず、使う前提条件が整っていません。
割合としては少ないですが、スポーツバイクに乗る人なら使えます。中には面白いと感じる人もあるでしょう。でも、実際に使おうという人は少ないと思います。スポーツバイクで、スーパーへに買い物に行くような人がいないとは言いませんが、相対的に少ないはずです。
流行らないと思われるもう一つの理由は価格です。この“TReGo”は
クラウドファンディングサイトから購入することが出来ますが、700ドルです。日本への送料等を含めて900ドル、使えれば便利ですが、日本でママチャリに乗っている大多数の人たちにとって、この価格がリーズナブルとは思えないはずです。
日本は、ママチャリが大多数ですが、なかでも格安のママチャリが市場を席捲しています。その価格感覚が当たり前になっているため、その何倍もの金額を出しても使おうと思う人は少ないだろうと思います。結局のところ、この“TReGo”が普及することはなさそうです。
実は、この“TReGo”と似たような製品は珍しくありません。普通の自転車に取り付けることでカーゴバイクになるという製品、カーゴ部分だけ取り外してキャリーカートのように使える製品は、これまでにもありました。このブログでも過去に取り上げています。
例えば、下の画像の“Kiffy”とか、“The LIFT”などです。ほかにも、いくつかありました。日本の企業が開発した製品を、見本市で見たこともあります。アイディアとしては一般的なのです。しかし、いずれも日本では普及することはなく、日本企業の製品も市場に出回ることはありませんでした。
ママチャリは、40年以上にわたって自転車を歩道走行させてきた、日本独特の環境が生んだ自転車です。歩道で歩行者と混在してではスピードは出せません。そこで、低速でも安定して走行でき、タイヤが太く遅いけど、足つき性のいいママチャリが評価され、独特の進化をとげてきた経緯があります。
もちろん、便利で汎用性の高い面があり、ママチャリが悪いとは言いません。しかし、低速なので、車重も重くて構わないため、結果として価格競争でしか差別化できないような状況になり、中国製の格安で粗悪な製品が市場にあふれるようになりました。
この日本独特の状況が、自転車は重くてスピードが出ず、乗っていても楽しくないものにしてしまいました。格安なぶん、すぐ錆びたり壊れたりするため、使い捨てのようにする人もいます。それが駅前などの放置自転車を増やす一因となっているのも否めません。
日本人の考える自転車は、最寄り駅や近くのスーパーまでのアシでしかなくなり、仕方なく乗る、歩くよりラクだから乗る、歩くよりは速いから乗るだけの乗り物になってしまいました。諸外国と比べて、もっと自転車の活用を進めようという声も上がらず、その潜在能力が理解されず、インフラ整備が進まない原因ともなっています。
ママチャリの席捲、またその原因である歩道走行の弊害はいろいろあるわけですが、自転車の多様性が失われ、カーゴバイクなどが普及しないのも、その一つと言えるでしょう。結果として自転車が本来のポテンシャルを発揮できない、不幸な状況をもたらしていると思います。
車道走行に戻れば、すぐ自転車の多様性が進むものでもないでしょうが、格安ママチャリで歩道走行しているようでは、スピード、距離、運搬性など、さまざまな面で、自転車本来の潜在能力が理解されません。結果、自転車の活用が進まず、インフラ整備も進まず、車道走行できないという負のスパイラルになっている気がします。
ゴールデンウィークが終わって、7月の海の日まで連休がないのが残念です。何年も前から書いていますが、唯一祝日のない6月に、川の日を制定したらどうでしょう。海の日と山の日があるなら川の日があってもいいはず。