何らかの目的があって道具がつくられるわけですから、当たり前と言えば当たり前です。ただ、私たちの生活に身近な道具の中には、本来の用途以外の使い方をされ、それが意外に重宝するということもあります。もはや、その目的外の用途が当たり前、一般的になっている道具もあるでしょう。
例えば、洗濯バサミは洗濯物を干すために使います。しかし、これを食べかけのお菓子の袋の口をとめるために使っている人は少なくないはずです。少し大きめの洗濯バサミを使って、スマホを後ろからはさみ、スマホを立てておくためのスタンドとして重宝しているという人もいます。
フリーザーバッグ、(商品名で言うとジップロックなど)は本来、食品の保存や調理、冷凍などに使われますが、これを食品以外の小分け用の袋として使う人も多いでしょう。中に、スマホやタブレットを入れてお風呂に持ち込み、入浴中に使う人も珍しくないと思います。
ガムテープに至っては、本来の粘着テープとして以外にも使うのは、もはや普通のことでしょう。細かいゴミを貼り付けて掃除に使ったり、カーペットについた髪の毛をとったり、虫を貼り付けてそのまま捨てるなど、いろいろな用途に使われているはずです。
では、ラバーカップはどうでしょう。私も正式な呼び方を知らなかったのですが、トイレが詰まった時に使われる、あの道具です。トイレの隅などに置いているお宅もあるのではないでしょうか。このラバーカップ、本来の用途が用途ですし、あまり他の使い道は思い浮かびません。使うという話も聞きません。
この日本でラバーカップと呼ばれる道具、アメリカではプランジャー(plunger)と呼ばれるのですが、最近ある使い方をされて話題になっています。本来とは全く違う使い道、なんと道路上で自転車レーンをセパレートするためのポール、もしくはカラーコーンのように使われているのです。
今年のはじめ、アメリカ・カンザス州最大の都市、ウィチタという街で使われたのが、今回の流行のきっかけだったようです。地元の活動家が、トイレ用のプランジャーを道路上の自転車レーンのプロテクションとする目的で、ゲリラ的に設置したのです。
同市の道路の一部には自転車レーンがあるものの、ラインがひかれているだけで、物理的にプロテクトされたものではありませんでした。場合によってはレーンが順守されておらず、サイクリストの安全を脅かす場合もありました。自転車レーンがあっても機能していないケースが見られたのです。
路上にラインがひかれ、自転車のマークが描かれていても、あまり注意しないドライバーは少なくありません。知ってか知らずか、平気で自転車レーンにはみ出して通行するドライバーもいます。例えば、前方に左折車(日本の場合は右折車)がいた場合、自転車レーンにはみ出して追い抜きます。
駐停車する場合は、当たり前のように自転車レーンの中に停めます。レーンをふさがれたサイクリストは、そのクルマを中央側に避けて通行せざるを得ません。ウィチタに限ったことではないですが、せっかくの自転車レーンが安全の為に役立っていないどころか、かえって危険な状態を作り出します。
これが、もしポールを立てるなどしてセパレートされていれば、まず侵入するクルマはないでしょう。はみ出して通行するドライバーもいなくなります。残念ながら、ウィチタの自転車レーンには、このようなポールが立てられていなかったため、事故が起きたり、危険な状態が一部で常態化していました。
せっかくの自転車レーンが機能していない状態を憂慮し、改善を求める声は当然ありましたが、なかなか実現しなかったようです。そこで、トイレ用のプランジャーをゲリラ的に配置し、プロテクションのポールと同等の効果をあげたことがSNSなどで話題になったわけです。
これを見て、他の地域でも追随する動きが出ました。ロードアイランド州の州都、プロビデンスや、ネブラスカ州のオマハといった街です。もちろん、レーンの全てには設置出来ませんが、特に問題が多いと思われる場所へ重点的に、百個とか二百個という単位で設置したようです。
このプランジャーは、ゲリラ的にではあっても、設置後即、効力を発揮します。わざわざ侵入するドライバーは、まずいないでしょう。本来、自転車レーンとして区切られたライン上に設置するわけですから、通行の邪魔になるわけでもありません。夜間も目立つようにリフレクションテープを巻くなどの工夫もしています。
もちろん、ゲリラ的行為ですから合法とは言いません。しかし、すぐに効果を発揮するだけでなく、行政当局に対する痛烈なアピールにもなります。そして、こんな簡単なものでありながら、その安全効果が抜群であることは、一目瞭然です。トイレの道具ですが、実に有用な使い方と言えるでしょう。
万が一、このプランジャーにクルマが衝突してしまったとしても、土台となる部分がゴムですから、簡単に倒れるので問題ないはずです。柄の部分もプラスチックなどでしょうから、ほとんど実害はないと思われます。この点でも、プランジャーは理想的です。
しかし、オマハなどでは、設置後に市の職員がすぐに撤去するといった経緯もあったようです。行政への当てつけと見られ、気に入らなかったのかも知れません。あるいは、好意的に見たとしても、建前上、勝手に公道に構築物を設置するのを許すわけにはいかなかったのででしょう。
しかし、最近はSNSなどで、情報が即座に拡散します。下手な対応をすれば、いわゆる「炎上」が起きて、非難が殺到するようなケースも珍しくありません。行政としても、あまり無神経な対応はとれない面はあるのでしょう。そもそも、悪意があっての行動とは違います。
本来、あってしかるべきのポールですし、交通も妨害せず、実害は少ないと思われます。クルマのドライバーも車線に従って通行すればいいだけで、特に無理なことを強要されるわけではありません。これだけのことで効果は抜群ですし、確かにゲリラ的とは言え、心情的にも、設置した市民をあまり責められないでしょう。
あまりに杓子定規な対応をとれば、それこそ市民の反感を買い、むしろ行政の怠慢が責められることにもなりかねません。その後、プロビデンス市では、市長が『それらが路上の交通を妨げない限り、市はそれを撤去することはない。』という声明を発表するに至っています。
ウィチタでは、地元の活動家たちによる、このプランジャーのゲリラ配置作戦が功を奏しました。行政が正規のポールの導入を決め、一部の自転車レーンでは、設置に至っています。単なる陳情と違い、ポールを立てるだけと簡単であり、その効果も明らかなことが一目瞭然で、説得力があったのが大きいでしょう。
トイレのラバーカップのユニークな使い方です。日本では、残念ながら自転車レーンがまだ少なく、使う機会はないかも知れませんが、覚えておいても良さそうです(笑)。安ければ、1本数百円から売っているようなので、地元の有志で自腹を切っても、たいした金額にならないのも長所です。
もちろん、法治国家では、いくら目的が道義的だからと言って、勝手に工作物を設置するような行為が認められないのは確かでしょう。しかし、迅速にこれを追認し、少なくとも撤去しないという選択肢は考えられます。そして、市民の求めているものを虚心坦懐に受け入れるべきです。
行政が道路に工作物を設置する場合、いろいろな規格や決まりがあって、そう簡単には設置出来ないようです。それなりの強度とか安全性、耐久性などが求められ、いきおい費用も大きくなります。設置のためには予算を確保し、業者を決めて発注し、工事を計画して、など多くの手続きと長い期間が必要になるでしょう。
そう簡単ではないことは理解しています。1個数百円で設置しろとは言いません。しかし、トイレのラバーカップでも用が足りるほど、低予算でも実効性があるという点は注視すべきであり、規格にも工夫の余地があるはずです。少なくとも工事費がかかるから、予算がないから、といった理由で設置を忌避すべきではないでしょう。
行政は、自転車レーンの安全は簡単に実現できること、少ない予算でも可能なこと、せっかく自転車レーンをつくっても、効果的に機能させなければ意味がないこと、は真摯に受け止めるべきだと思います。アメリカの当局だけでなく、これから整備を進めていく日本の自治体にも考えてほしいところです。
大西英男衆議院議員の失言、この人は何度も暴言を吐いてますし議員失格でしょう。辞めてもらいたいですね。