May 29, 2017

原因を絶たなければならない

ふだん、存在を意識していないものがあります。



その代表的なものは空気でしょう。地上にいる限り、あって当たり前です。常に吸ったり吐いたりしているわけですが、目に見えるわけでもなく、特に意識もしていません。もし無くなったら即、死んでしまうほど大切なもの、欠かせないものですが、そのありがたみなど、ふだん考えもしません。

誰でも等しく利用できますし、なんと言ってもタダです。ふだん意識しないのも当然でしょう。しかし、場合によっては、その大切さが痛感されることもあります。例えば、深刻な大気汚染にさらされている中国の北京のような都市にいたら、意識せずにいられません。





ことあるこどに、大気汚染の酷い状況が報じられています。スモッグによって、昼間なのに空が暗く、少し先も見えないほど霞んでいます。市民は、マスクをして行き来し、中には防毒マスクのような大がかりなマスクをしている人もいます。市民の健康に深刻な影響を及ぼしていることも明らかになっています。

そんな中、“Smog Free Project”なる構想のコンセプトが発表されています。スモッグで汚れた空気をきれいにする計画です。都市に、通気塔をたて、空気を浄化したりすることなどを提案しています。室内で使う空気清浄機の大型のものを街に置き、直接空気をクリーンにするイメージでしょうか。

Smog Free ProjectSmog Free Project

さらにユニークなのは、自転車にエアフィルターを取り付けるという構想です。前方から取り込んだ空気がフィルターによって浄化され、乗り手の顔をめがけて排出されます。自転車に乗っている人は、きれいな空気を吸えて、多くの人が走れば走るほど、街の空気がきれいになっていくという寸法です。

Daan Roosegaarde さんと言うオランダのデザイナー・アーティストによるものです。都市の環境工学と先端技術、それにアートを融合させたプロジェクトで、スモッグのない都市への一つのステップとして、クリエィティブなアプローチを提供しようというものだそうです。

Smog Free Project

空気清浄塔はともかく、自転車を使って空気をきれいにしようという発想はユニークです。ここのところ、北京や上海などの都市では、シェアリングサービスの自転車が爆発的に広がっていることが伝えられています。それを思えば、いわば人海戦術で空気をキレイにするのも可能に思えてきます。

酷い渋滞でクルマを諦める人が増えれば、そのふん排気ガスが減ります。そしてフィルター付き自転車に乗り換えれば、そのぶん空気がきれいになるわけで、スモッグフリーに二重に貢献できることになります。なるほど、ユニークなアプローチと言えるでしょう。

Smog Free Project

ただ、果たして本当に機能するのか、個人的には疑問に思います。動力ではなく、自転車が進む力によって空気を取り込む仕組みですが、どれほどの清浄力が期待できるのでしょうか。乗っている人に向けて空気が出るといっても、フィルターを通らない汚い空気も混ざるでしょうし、完全に排除できるわけではないでしょう。

都市を覆う膨大な空気の量を考えれば、いくら台数が多くしても、人力の空気清浄自転車による処理量など、たかが知れています。そもそも、空気が悪いため、自転車が敬遠される面もあります。クルマに乗り、窓を閉めて渋滞を我慢する人が大勢いるわけで、なかなか解決に向かうとも思えません。

もちろん、現状に手をこまねいているのではなく、少しでも打開しようという考え方、努力を否定するものではありません。大気汚染の改善が遅々として進まない中、何か手を打とうとする意志は尊重します。ただ一方で、対処療法に過ぎないのも事実であり、これが大気汚染を解決するものではないでしょう。



もっと抜本的、根源的な対策が必要なのは明らかです。大気汚染の原因は、爆発的に増えたクルマだけではありません。工場や発電所などの排煙も大きな問題です。経済成長を優先し、がむしゃらに工業化を進めてきたため、工場などの排煙の規制が緩すぎる、あるいは無きに等しいのが問題でしょう。

中国政府も、少しずつ対策を講じはじめているようですが、なかなか改善の兆しは見えていません。大気汚染による有害物質や、PM2・5と呼ばれる粒子状物質は、風向きによっては日本へも流れてきています。国境を超えた問題でもあり、早急な対処が望まれます。

ただ、日本も高度経済成長期には多くの公害を発生させ、公害病で多くの人を苦しめたことを思えば、あまり偉そうなことは言えないでしょう。日本も大いに空気を汚してきたのを棚に上げて、新興国の公害の発生を批難するわけにもいきません。むしろ、日本が克服してきた経験や技術を使って支援することが必要でしょう。

Smog Free ProjectSmog Free Project

呼吸器系の疾患が急増し、現地の人人の健康に多大な被害をもたらしている状況も報じられています。しかし、それが明らかであっても、なかなか対策が進まず、遅々として改善しないのは、日本の過去の例と同じです。根源的な対策が必要なことはわかっているのに、それが政治的に簡単ではないのも同じでしょう。

話は違いますが、いま日本で話題になっている、タバコの煙の受動喫煙の問題、東京五輪に向けて検討されている禁煙法案にも、似た面があると思います。厚生労働省の案に自民党が反対し、いろいろ例外を設けて、飲食店などの原則禁煙が骨抜きにされようとしています。

疫学的に、受動喫煙によって年間多くの人命が失われていることが明らかになっているのですから、きっぱりと建物内全面禁煙にするべきでしょう。これは世界的な傾向であり、タバコのない五輪を進めてきた経緯もあります。日本は、この面で相当遅れているのですから、下手な小手先の懐柔策でお茶を濁すべきではありません。

smog小規模な飲食店にとっては死活問題だというならば、大規模店も含めて分煙を認めず、全て店内禁煙にしてしまえばいいでしょう。分煙設備が設置出来ない小規模店も不利はなくなります。すでに喫煙率から言って大多数の人が全面禁煙に賛成なはずです。なぜ少数の喫煙者の有害行為を甘受させる必要があるのでしょうか。

ここでも根源的な対策をとるべきです。受動喫煙で亡くなる人が相当な数に上り、医療費の増加につながっています。いま関心のない人も、将来自分や家族が受動喫煙が原因と疑われる病気で亡くなったら後悔するに違いありません。少なくとも受動喫煙は無くすべきで、中途半端な対策でごまかすべきではありません。

北京のような大気汚染を考えれば、空気も決してタダでないことがわかります。マスクや空気清浄機などの費用だけでなく、医療費の形でコストを払わされることになります。幸いにして病気にならなかったとしても、全体で医療費が増加するのは間違いなく、税金や保険料の増加という形で費用負担することになります。

タバコの問題も同じです。受動喫煙の被害で医療費の負担だけでなく、命さえ失う可能性に晒されています。ふだん、気にもしていない空気ですが、きれいな空気を吸うため、そしてその費用や保険料負担を減らすため、汚染の対象を除去する根源的な対策をとるべきだと思います。




そう言えば、先週金曜日はプレミアムフライデーでしたが、全く聞かれませんでした。もう終わった感じでしょうか。

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