ママチャリはママ向きでない
日本の自転車の所有台数は世界有数です。
参照する統計によって多少違いますが、およそ8千万台程度が所有されていると見て間違いないでしょう。一人当たり約0・67台は世界6位程度にランクされます。ヨーロッパ以外では唯一ベスト10圏内に入っており、一人当たりの所有台数では、世界有数の自転車大国と言えます。
ただ、その種類は偏っており、出荷台数の65%以上が、いわゆるママチャリと言われています。所有台数ではさらに圧倒的多数をママチャリが占める構図です。日本の交通事情、すなわち自転車が歩道走行しているなどの特殊な要因が背景にあるのは間違いありません。
ママチャリは必ずしも母親向けに限らず、汎用性があり、歩道走行の多い日本で使いやすいのは事実でしょう。そして、大量に供給されるため、非常に格安なモデルが出回っています。近年は、大型のスーパーやホームセンターなどでも売られ、価格競争になっている面は否定できません。
いきおい中国製の格安な製品が市場にあふれ、安いので、少し錆びたりパンクすると、修理せずに放置して捨ててしまう人もいます。悪貨が良貨を駆逐するような状況が見られるのも確かでしょう。ひと口に自転車と言っても、たくさんの種類があることを考えれば、単一車種がこれほどの割合を占めるのは独特だと思います。
日本の消費者が安さを求め、品質や乗りやすさ、速さ、安全性などを重視していないと言えば、その通りなのでしょう。しかし、あまりに格安ママチャリが大多数を占めるようになってしまったため、多様性が失われ、欲しいタイプの自転車が手に入らない、あるいは知られてすらいないという弊害があると思います。
市場を格安ママチャリが席捲することによって、隠れた弊害があるのではと思えるのが、子供を乗せる自転車ではないでしょうか。日本では、普通のママチャリに幼児用座席を取り付けて乗せるのが一般的です。前後に取り付けて、2人の子供を乗せている母親も普通に見かけます。
しかし、その安全性には問題があり、実際に落下事故が多発しています。スタンドを立てて停めている際にバランスを崩して転倒し、幼児が落下して頭などを打って怪我をする事故です。ハンドルの前や荷台に取り付けた幼児用シートでは重心が高く、不安定なのが問題です。
子供を乗せて、低速走行する際にフラついてしまい、足をついてもその重さを支えきれず、転倒してしまうケースもあるようです。ママチャリと言いながら、子供を乗せたママにとって、決して安定して使いやすい自転車とは言えません。幼児にヘルメットを着用させるようになったのも、これが原因です。
1人ならまだしも、2人乗せるとなるとさらに大変です。子どもは自転車に乗せられていても、じっとしていません。左右に身体を振られたりすると、男性でもフラつくのではないでしょうか。足をついて、そのまま踏ん張るには相当の腕力も必要になるはずです。ママチャリは決してママに優しくありません。
その点、海外で販売される自転車にはいろいろな種類があり、カーゴバイクやキッズトレイラー、子供を乗せる専用自転車もあります。そのうちの一つ、
“Taga”社の子供乗せ用自転車、“Taga stroller-bike”はとても工夫された専用自転車です。
子供を前に乗せるトライクです。トライクなので安定しており、重心も低く停車時の転倒の心配もありません。中でも秀逸なのは簡単にストローラー(バギー、もしくはベビーカー)になることです。サドルを縮め、後輪を前方へひっくり返すと、全長が短くなり、子供を乗せて押して歩ける形に変化します。面白いシステムです。
自転車に子供を乗せて出かけ、スーパーやショッピングセンターに着いたら、バギーに変形させて押して歩けるわけです。そのままショップで買い物が出来ます。ほかにも混雑した場所を通り抜ける時など、何かと重宝しそうです。子供乗せ用自転車とバギーと両方買わなくて済むのも大きなメリットでしょう。
子供を乗せる部分をオプションと交換すれば、荷物運搬用のカーゴバイクとしても使えます。子供が大きくなっても使えるのは重要です。また、小径車なので、いざという時クルマのトランクにも入ります。ちなみに、三輪でも幅60センチ以内など要件を満たせば、歩道走行することが可能です。
さて、このブログでも以前一度取り上げた、“Taga”ですが、新しく2・0が登場しました。こちらは子供を2人乗せることが可能です。シートのアレンジも豊富で、寝かせて乗せたり、雨避けのフードを取り付けることも出来ます。荷物を運ぶカーゴバイクとしても使え、e−バイクキットを使えば電動自転車にもなります。
子供が退屈しないよう、ウォーターガン(水鉄砲)が取り付けられるオプションまで用意されています。前回の“Taga1・0”から3年を経て、満を持して発表されました。現在は
クラウドファンディングサイトで先行購入も出来るようになっています。
こうしたトライク型の子供乗せ専用自転車なら、走行時も安定しますし、停止時に落下事故が起きることもありません。また、日本で最近報告されている、子供の足が回転するスポークに巻き込まれて怪我をする事故の心配もありません。本来は、日本にもこのような子供乗せ自転車が必要なのではないでしょうか。
おそらく、多くの一般的な日本人、特に自転車に興味のない人は、このような自転車の存在を知らないと思います。ママチャリに子供用シートを取り付けるしか方法がないと思っている人も多いはずです。しかし、このような自転車が輸入されたり、開発されれば、日本でもニーズは確実にあるのではないかと思います。
日本は、量の面、すなわち所有台数では世界有数の自転車大国です。しかし、質の面、つまり選べる自転車の種類という点では、かなり欧米より遅れている気がします。歩道走行というネックはありますが、その中であっても、もう少し用途に合った自転車が買えるよう、メーカーや輸入・販売元は考えてほしいと思います。
またトランプ大統領が女性キャスターの容姿を揶揄するなど顰蹙を買っています。呆れるのを通り越してますね。
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Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(12)
ママチャリしか歩道を走れないのでは・・・
みんな歩道を走りたいから、輸入しても売れないし、こういうのがあるよと教えても買わない。
歩道を走れるのは「普通自転車」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%AE%E9%80%9A%E8%87%AA%E8%BB%A2%E8%BB%8A
こういう自転車を勧めるなら、法律の改正が必要ですね。
歩道を走れなければ、誰も買わないでしょう。
トンサン、こんにちは。コメントありがとうございます。
ママチャリでなくても、普通自転車ならば歩道を走れますよ。
ご自身で書かれているのだから、リンク先を読んだらいかがですか。
普通自転車は、車体の大きさ及び構造が内閣府令で定める基準に適合する二輪又は三輪の自転車で、他の車両を牽引していないもの。
一 車体の大きさは、次に掲げる長さ及び幅を超えないこと。
イ 長さ 百九十センチメートル
ロ 幅 六十センチメートル
二 車体の構造は、次に掲げるものであること。
イ 側車を付していないこと。
ロ 一の運転者席以外の乗車装置(幼児用座席を除く。)を備えていないこと。
ハ 制動装置が走行中容易に操作できる位置にあること。
ニ 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。
幅が60センチ以内など要件を満たせばトライクでも走れますよね。普通自転車はママチャリだけではありません。
管理人さんも文脈を読もうとなさってはいかがですか。トンサンさんは「海外製の三輪自転車をいろいろ勧めてはいるけど結局どれも幅60cm以上あるじゃないか」と言いたいのだと思いますけど。Taga 2.0も幅78cmありますよね。
すこし前にこちらでも取り上げていただいた、後輪が二輪の「ふたごじてんしゃ」の開発経緯で、どのメーカーも作りたがらなかったという話でしたが、やはり幅60cm制限というのは技術的にかなり高いハードルなのではないでしょうか。ふつうの自転車ですと子供の足は車輪の両側に垂らせばいいのですが、この幅で二輪ですと間に足を入れられず重心がすごく高くなります。それではと車輪を小さくすると走破性が悪くなりますし、そもそも60cm程度では十分な安定性が得られないのかもしれません。
国内ですとバンビーナという商品が孤軍奮闘しているようですが、価格面の不利をくつがえすほどの評判は得られていないようですね。これがマーケティング上の失敗なのか、それともやはり幅の制限からくる不安定性を技術で克服できなかったからなのか、それはわかりかねますが、「ニーズはあるはずだから作ろう」だけでは「言うのは簡単だよね…」という反応につながるのは当然かと思います。なのでそこをあえて挑戦したOGKさんとふたごじてんしゃさんは個人的には心から応援しています。
まあでも自転車関連政策のもろもろがうまくいって、15年後ぐらいにあちこちで自転車レーンが作られるようになれば、三輪自転車のニーズも自然と増えるようになるかもしれません。そんな未来のためにみんなでがんばりましょう。はい。
kamenoiさん、こんにちは。
文脈も何も、『ママチャリしか歩道を走れないのでは・・・』とハッキリ書いてあるじゃないですか。ママチャリ以外でも普通自転車の要件を満たせば、歩道走行は出来ると言っているだけです。最近は見ることが少なくなりましたが、実際に後ろ2輪の自転車なども走っています。
このTagaをそのまま持ってくると歩道は走行出来ませんが、歩道はママチャリでなければ走行出来ないことはありません。法改正しなくても、3輪の自転車などでも歩道走行は可能です。
今回は、たまたま、Tagaが新しいタイプを出したことを知ったタイミングだったので、それと併せて話題にしたので誤解された部分もあると思いますが、海外でも、より幅が狭いトライクは存在します。日本で見習ってもいいのではと思うものも含め、たくさんの子供乗せ自転車が流通しています。
幅60cm制限が技術的にかなり高いハードルということはないでしょう。実際にいくつも存在していますし、技術的に難しいということはないと思います。むしろ、先日の例では、素人が開発して流通に乗せるという起業や販売面での困難が多かったのではないでしょうか。
おっしゃるように、バンビーナという3輪も存在しています。ただ、あまり3輪のメリットを生かしているとは言えないようです。
私が思うのは、あまりに安い中国製ママチャリが市場を席捲したため、利用者のニーズを汲めない状況になっていた面があるとのこれまでの状況の認識です。
しかし、最近はスポーツバイクや電動アシスト自転車の売れ行きが伸びているように、多様な、あるいは比較的高価な自転車も受け入れられる素地が出来つつあるのではないかと考えて意見を述べているのです。
(続く)
(続き)
私はメーカーでも何でもなく、趣味のブログを書いているだけですから、『言うのは簡単だよね…』と言われても困ります。そもそも言う以上のものではありません(笑)。
単に問題提起の意味で、一消費者としての視点を書いたまでです。それ以上のものではありません。
実際に、一般的な消費者の先入観を崩すのは容易なことではないと思いますが、より安全で乗りやすい子供乗せ自転車が出来れば、市場は大きいだけに、ヒットの可能性もあると思います。
『もっと安定して乗りやすいママチャリがあったら売れるかも』と意見を述べているだけです。『ニーズはあるはずだから作ろう』などとは言っていません。考えてみてほしいと希望を述べているだけです。
『「言うのは簡単だよね…」という反応につながるのは当然かと思います。』というのはkamenoiさんの感想なのでしょうが、誰が反応したのでしょうか。
『ママチャリしか歩道を走れないことはない』という事実と共に、私は、そもそも個人的な希望を言っているに過ぎないという点を確認していただきたいと思います。
kamenoi さん、心情を理解していただきありがとうございます。
実は僕も3輪自転車に乗りたいなと思っているのです。
楽器のキーボードをクロスバイクの横に取り付けて運んでいるのですが、片側に重さが偏るので、歳をとってきて少し不安に感じています。
輸入されない理由や、国内メーカーが生産したがらない理由は「普通自転車」の規格にあると思っています。
さらに、お母さんたちは、あのママチャリで食料を買いに行きます。
3輪自転車ではスーパーの駐輪場に止められません。
だからお母さんたちは買わない。
この駐輪場問題をなんとかしないと。
いつも楽しく拝見しております。
サイクルロードさんのブログは自分では知りえない国内外の事例を詳しく解説されてて、色々と気づかされたりひらめきを促されたりで勉強になります。
ですが何かしらの問題提起をしたり、希望を発信することは他者に行動することを促そうとする意図もあるわけですから「ニーズがあるから作ろう」という風に受け取られるのもわかる気がします。
私も一時期ロングテールバイクを購入したいと自転車屋さんに相談したことがあるのですが、普通自転車の範疇にはいらないということで、お勧めはできないといわれました。やはりああいう取り回しの難しい自転車は(危険回避のため)歩道を走行することができないという時点で、現状の日本の公道上で使うには不便の方が大きいかと思われます。三輪自転車についても幅60cmの枠内では歩くようなスピードでしか安全な運用はできないのではないでしょうか。
さらに言わせてもらうと、これだけソーシャルメディアが発達した現在の状況では問題提起よりも実体験の紹介の方が説得力があると思われますし、そういう活動をしている方たちが影響力を持ってきているような気がします(youtuberの方たちとか)。実際に3輪自転車、カーゴバイクを日本の道路で日常的に使ってみて、役に立つのか立たないのか?そういう生の声を読者の側としては期待しております(勝手な意見ですが)。
bluecycleさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
個人のブログとして、興味のあることを共有したいと考えたり、問題を投げかけたりもしますが、必ずしも、『他者に行動することを促そうとする意図』 はありません。
そんな偉そうな意図はなく、おこがましいことを言うつもりはありません。そんな影響力があるとは思っていません。
どう感じられるかは、その人次第ですが、あくまで個人のブログであり、個人の意見を述べているに過ぎません。私は、単なる一自転車乗りであり、業界関係者ですらないので、意見を勝手に書いている以上のものではないというのが正直なところです。
歩道走行が不合理であることは言うまでもありませんが、おなじ歩道を走る自転車なら、もう少し子供の安全に配慮したものがあってもと思うだけです。
あくまで個人のブログなので、いわゆるメディアとは違います。個人が好きに書いているだけで、それ以外のものを求められてもお応え出来ません。するつもりもありません。
生の声を求めるのであれば、それこそyoutuberの方たちなどへ求めていただきたいと思います。
サイクルロード様
こちらこそコメントありがとうございます。
おっしゃる通り、ブログとは本来そういうものですね。
申し訳ありません。
こちらのブログの内容が質、量いずれも既存の自転車メディアと比べて真っ当なので過剰な期待を読者としてはしてしまいました(私の知り合いに自転車ジャーナリストがいるのですが、書く内容といえば、レース、レース機材、たまにツーリングというもので、グラント・ピーターセンの「JUST RIDE」を彼に貸しても記事にもしてくれないばかりか読んですらいないようで...)。
ただ、紹介されていた製品についてはできる範囲で実際に使ってみてどうだったか、という感想など書いていただけたらありがたいなと思った次第です。
サイクルロード氏のこの記事は素晴らしいと思いますよ。
まずはこういう素晴らしい子供乗せ自転車が世界にはあるのだ!という気付きから日本の自転車文化が転換することだって十分にあり得るのですし、これはあらゆる文化にも言えることです。 サイクルロード氏のブログは間違いなくなく日本の自転車文化の前進、発展、熟成に貢献していると私は確信します。
これからの活躍にも期待しております。
bluecycleさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
いえ、謝っていただくようなことではありません。期待していただけるのはありがたいことですが、お応え出来かねる点もあるというだけです。
自分で実際に使える製品は限られますし、その感想を述べたとしても、あまり読んでもらえる記事になるとは考えていません。私も日常的に自転車に乗っており、そういうネタがないわけではありません。
しかし、そのような製品インプレッション、使ってみたツーリング日記といったジャンルのブログは多数存在します。
私も、たくさんのブログと似たような記事を書くのは、あまり意味がないと思っており、出来れば他のブログと違う話題を扱いたいと考えています。そのため、何か製品を使ってみての感想などは、原則として書く気はありません。あしからず、ご容赦ください。
佐藤さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃるように、海外には日本で普及していないものも多々あります。諸外国とは文化や環境の違いなどがあるにせよ、もっと見習ったり、導入してみたり、試してみてもいいのでは、と素朴に思うこともあるのは確かです。
自転車文化への貢献なんてとんでもない、そんな影響力はありません。過分なお褒めの言葉であり、恐縮です。
ただ、私が知らなかったこと、知って面白いと思ったことを、同じ方面に興味を持つ方と共有できればいいなと思っています。
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