これはバスやトラックなども含めた数字ですが、膨大な数のクルマが走っていることになります。移動や物流から、救急や消防、ゴミ収集に至るまで、我々の生活に欠くべからざる存在です。しかし、一方で事故を発生させ、多くの死傷者を出すという負の面があるのも事実です。
私は自転車だけでなく、クルマも所有しており日常的に運転しています。サイクリストとしてだけでなく、ドライバーの立場としてもクルマを見ているわけですが、なるべく客観的に見ても、クルマのメーカーの姿勢に疑問を感じることがあります。
メーカーは企業として、一台でも多くのクルマを売ろうとするのは当然です。そのために、ドライバーにとって良いクルマをつくろうと努力しています。しかしながら、必ずしも安全性やドライバーの利益を優先するのではなく、売ることが優先されている面はないでしょうか。
例えば、最近はデザインを優先して、窓ガラスの大きさが小さくなる傾向にあると聞きます。流行もあるのでしょうが、窓を小さくして流れるようなデザインのほうが売れるのでしょう。しかし、それはドライバーの死角を増やし、安全面では逆行することになります。
多少、左後方や右後方、側方などが見えにくなっても、販売が優先との判断なのでしょう。目視ではなく、センサーやカメラを搭載する方向なのかも知れません。窓を大きくして周囲の見通しを良くしたほうが事故防止になると思いますが、安全性より販売面を優先したデザインのようです。
海外では、国や地域によって義務付ける動きもあるそうですが、日本では、酒気帯び運転防止装置を搭載するという話は聞きません。酒気帯び運転をさせないのは、ドライバーのため、社会のためになると思いますが、オプションであっても用意されません。技術的には可能なのに残念なことです。
GPSなどの技術を使えば、住宅地の抜け道や、通学時間帯の通学路、歩行者の多い狭い道路などで、出せるスピードを制限させるような仕組みも可能なはずです。そんな場所でスピードを出すのは、住民はもちろん、結局はドライバーのためにもなりません。しかし、そのような装置は開発されません。
最近は、センサーによって歩行者や自転車を感知する装置を装備しているメーカーもあります。ドライバーの能力を補助する意味で有効かも知れません。しかし、わざわざまだ誤認・誤作動の可能性もあるセンサーを搭載し、車両価格を上げる前に、もっと出来ることがあるのではないでしょうか。
例えば、周囲の状況に、ドライバー自身がもっと耳を傾けるという基本姿勢に戻ってもいいはずです。そのことを指摘している企業があります。世界的に展開している保険・金融会社、AXAです。“
Smart Bell”という装置を提案しています。これは、自転車のベルの音を、クルマのドライバーまで届けるための仕組みです。
“Radio Data System”というサービスを利用します。残念ながら日本では提供されていないのですが、、FMラジオを使って、選局中の放送局やその放送局で再生中の曲名をラジオに表示させたりすることが出来るサービスです。この仕組みを使った自転車のベルなのです。
自転車に乗っている人が鳴らしたベルの音が、クルマの室内のスピーカーから流れます。自転車に取り付けるベルから、サドルの後ろに取り付けた装置を通して信号が送られ、クルマの室内に届くのです。サドルに取り付ける装置は、後方へ注意を促すランプにもなっています。
近年のクルマは窓を閉めると密閉性が高く、特に中でラジオを聞いていたりすると、周囲の自転車のベルなどは聞こえません。そこで、ラジオを通してベルの音を聞かせることで、自転車の存在に気づかせたり、自転車からの警告や注意喚起に気づくようにするわけです。
自転車のベルは、危険が迫った時にそれを知らせるのが役目です。しかし、自転車同士ならともかく、クルマの車内にいるドライバーには届かないケースも多いでしょう。肝心の時に役割を果たせないことが多いわけで、この解消を狙っているわけです。
警笛や注意喚起だけでなく、サイクリストとドライバーのコミュニケーションにも貢献します。両者の安全で円滑な関係の構築を目指すのが目的と説明しています。簡単な仕組みで、すでにあるラジオのサービスを使うのでコストが低く済むのも利点で、社会的にも意義のある取り組みと言えるでしょう。
ただ、残念ながらこれはAXA保険と広告会社が展開するマーケティングキャンペーンであり、実際に製品化されてはいません。アンケートをとっていますが、今のところ販売の予定はありません。もちろん、ドライバーがラジオをつけていないと意味がないという弱点もあります。
このスマートベル、ドライバーはもっと周囲に耳を傾け、注意することが必要ではないかという問題を提起しています。クルマの中という快適な空間に閉じこもり、音楽を聴いて、安全のために周囲の状況に注意を払うという基本的な姿勢を忘れているドライバーへの問いかけです。
メーカーにとっては、クルマの外からの騒音をシャットアウトし、静粛性を上げ、快適にオーディオを楽しめることは、クルマという商品の魅力の一つ、セールスポイントでしょう。しかし、一方で周囲の必要な音を聞こえなくすることで、危険に気づくのを遅らせ、事故防止を難しくしています。
室内の静粛性を上げたことで、安全性が損なわれる面があるとするならば、それを補うことが必要だと思います。交通事故の防止というドライバーの利益は見えにくい面がありますが、安全面を軽視すべきではありません。技術的、コスト的に可能なことも、多々あるはずです。
スマートベルにしても、ラジオを使っていなくても室内に音が響くようにし、その発信機を無償で自転車メーカー、もしくは利用者に提供することだって可能でしょう。静粛性の向上の一方で、クルマが起こす死傷事故を減らすため、やるべきことがあると、“Smart Bell”はメーカーに暗に問いかけている面もありそうです。
もちろん、営利企業ですから利益も大切です。しかし、売ることを優先し、少しでも高く売るための装備ばかり追求し、死傷事故を減らすという基本的な安全への努力を怠っていると見なされるならば、それはクルマメーカー自らの首を絞めることになるに違いありません。
今後、クルマはエンジンから電動モーターへ、EVにシフトしていくと言います。EVになると、クルマ作りへの参入障壁が一気に下がり、新たに多くのライバルと争うことになると言われています。そして、クルマの自動運転ということになれば、IT企業などとの闘いにもなるとされています。
さらにシェアリングエコノミーが進展し、ライドシェアなどが当たり前になれば、クルマの販売台数は大幅に減ると目されています。いずれにせよ、クルマは大転換の時期に向かっており、メーカーは遠からず大きな転換局面を迎えることになるでしょう。
果たして、この先、クルマメーカーは、ドライバーだけでなく、歩行者やサイクリストも含め、広く社会全般から支持されていくでしょうか。社会的な責任を果たす企業として、その姿勢を認めてもらえるでしょうか。クルマメーカーは、もっと出来ることがあるような気がします。
自民党の歴史的惨敗、森友・加計、稲田発言だけでなく、共謀罪の強行採決など政権の驕りへの反発でしょう。
Posted by cycleroad at 13:00│
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