August 15, 2017

一等地こそ駐輪場を配置する

オランダにユトレヒトという街があります。


オランダの首都アムステルダムの南、30キロほどのところにあるユトレヒト州の州都で、オランダ第4の都市です。同国最大のユトレヒト大学があり、古くから宗教の中心都市でもありました。オランダのほぼ中央に位置するため、道路や鉄道など、交通の要衝ともなっている都市です。

もちろん、自転車王国オランダ有数の自転車先進都市でもあります。隣接自治体とを結んでいるトラムはありますが、市内には地下鉄がないこともあって、多くの市民が当然のように自転車に乗っています。街の中心となるのがユトレヒト中央駅ですが、ここに新しい駐輪場が出来ました。

UtrechtUtrecht

ただの駐輪場ではありません。世界最大の駐輪場です。当初は6千台、さらに来年末までに6千5百台、あわせて1万2千5百台もの自転車を収容する予定です。しかも、この駐輪場はユトレヒト中央駅の地下という、この上なく理想的な場所に設置されているのです。

スロープで、地上の道路から地下の駐輪場へ直接アプローチ出来ます。そのまま地下構内を走行して、駐輪ラックにとめることが可能です。駅に直結しているので、鉄道を利用するにしても、駅前の商店街などを利用するにも便利なことは言うまでもありません。

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さらに、最初の24時間は無料です。普通は24時間以上駐輪し続ける人はいないでしょうから、実質的に無料で使えるわけです。何かの都合で、長期に駐輪したままにする場合でも、駐輪料金は、わずか1.25ユーロと格安です。日本の公共の駅前駐輪場には出来ない料金体系でしょう。

日本の自転車乗りからすると、うらやましい環境です。駅直下の一番便利な駐輪場が世界最大規模であり、しかも無料とくれば、ここに駐輪しないほうが、どうかしています。自転車で来て、鉄道を利用する人はもちろん、駅前の商店街を利用する人も、何かよほどの理由がない限りここに駐輪するのは間違いないでしょう。

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もちろん、これまでも駅周辺に駐輪場はありました。以前、ユトレヒト中央駅付近に、どれだけの迷惑駐輪、放置自転車があったのかといった事情は知りませんが、この世界最大の駐輪場が出来たおかげで、もしあったとしても激減するのではないでしょうか。

日本では、街によって、駅によっても事情は違いますが、これほど恵まれた駐輪環境は稀れでしょう。駅に一番近い駐輪場は料金が高いとか、すぐに満車になってしまうので、Uターンして、より遠い、駅から離れた駐輪場を探さざるを得ないといった状況が普通ではないかと思います。

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当然のように、街角に迷惑駐輪する人も出てきます。駅前に放置自転車があふれ、自治体はその撤去・移送に追われることになります。しかし、いくら撤去・移送しても、また放置されるだけです。どこまでいっても、いたちごっこが延々と繰り返されることになります。

迷惑駐輪を正当化するつもりはありません。しかし、駅前の好立地の駐輪場の料金は高額で、少しの用事のために、いちいち支払いたくないと考えるのも無理はありません。自治体としても、多額の予算を使って設置した駐輪場ですから、少しでも料金をとって回収しようとしますから、これも悪循環です。



日本でも、このユトレヒトのような駐輪場が出来たら、こうした悪循環は一気に解消です。一番便利な駐輪場が無料で大容量であれば、誰もが使うでしょう。放置自転車は黙っていても激減し、撤去・移送に多額の予算を使う必要もなくなるでしょう。利用者にとっても、大きく利便性が向上します。

日本の自治体は、放置自転車の撤去・移送に多額の税金を投入しています。一例をあげると、今年度の予算で、東京の板橋区は8億8千万円、豊島区は6億3千万円、杉並区は9億3千万円といった具合です。しかも、これは駐輪場整備の予算とは別です。あくまで撤去・移送に使われる経費です。

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人件費や輸送費、保管費用といった経費で、自治体は消費的経費と呼んでいますが、文字通り消費してなくなってしまう費用なのです。この三区では、駐輪場整備にも予算を投じていますが、撤去・移送に経費をとられるため、それより少なくなっています。

もちろん、喫緊の課題として放置自転車を撤去・移送せざるを得ないのはわかります。しかし、経費として消えてしまう費用に多額の税金を投入し、いたちごっこを続けるだけというのも、納税する市民としては、釈然としない部分があるのではないでしょうか。

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たしかに、都市部の地価は高く、駐輪場設置が容易ではないのは理解できます。自治体の財政も余裕があるわけではないでしょう。しかし、多額の撤去・移送費を使わなくて済むようにするためにも、思い切って、無料で利便性の高い駐輪場の整備は出来ないものでしょうか。

ユトレヒトだって、昔から自転車先進都市だったわけではありません。これまでも、そしてこれからも、駐輪場の設置に努力が必要です。簡単にこのような大規模駐輪場が建設できたわけでもありません。今までは分散する駅周辺の駐輪場の使い勝手がいいとは言えず、空き表示を出すなどの工夫も重ねてきました。

駅の地下ですから、多額の建設費がかかっていると思いますが、そのぶん将来への投資とならない経費は大幅に削減できるでしょう。もちろん、日本とは諸々の点で条件が違い、単純には比較出来ないかも知れません。しかし、ユトレヒトのような考え方は、お手本に値するのではないでしょうか。

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日本では、駐輪場を設置するにしても、その優先度は高くなく、他の施設より後回しです。どこか余ったスペースに少しずつ、分散して設置することになりがちです。駅から遠い場所になる場合も少なくないでしょう。しかし、それが、いろいろな経費を発生させているのも確かです。

ユトレヒト中央駅のように、地下の一番いい場所に大規模駐輪場を持ってくるという発想はなかなか出てきません。そんなスペースがあるならば、クルマ用に駐車場を設置するのが先ということになるに違いありません。少なくとも、これまではそうだったはずです。

しかし、都市部の中心の鉄道駅に駐車場を設けても、それは都市中心部へのクルマの集中を誘発するだけです。都市中心部へ向かうクルマを増やし、渋滞を悪化させます。都市の中心部という限られた空間、限られた道路面積にクルマを集中させるのは合理的とは言えません。

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ヨーロッパの多くの都市では、都市の中心部へのクルマの流入を制限し、そのぶん自転車の活用を進めるような方向にシフトしています。渋滞、大気汚染、環境負荷、交通事故、省エネ、ヒートアイランド、居住環境、住民の福祉など、あらゆる面からみて、モータリゼーションの時代とは変わってきています。

放置自転車をなくすだけでなく、市民の利便性の向上、健康の増進にもつながります。渋滞による膨大な経済損失を減らし、さまざまな経済活動の効率、生産性を上げることにもなります。あらゆる面で都市の中心部へのクルマの集中は、良い結果を生みません。

世界的に大都市では渋滞に悩んでいる場合が多く、クルマの集中を避けるために、その流入を抑制し、そのぶん自転車を活用しようという機運になっています。なんでもヨーロッパを見習えばいいものでもないでしょうが、将来を見据えた大きな視野と枠組みの中で、都市部の再開発と合わせ、考えてみるべきではないでしょうか。




雨が続いて、夏とは思えない気温です。海水浴など行楽客らには気の毒ですが、過ごしやすいのはいいですね。

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